建設業界の2024年問題、何が課題?解決策や中小企業の事例を解説

[執筆] 弁護士法人 デイライト法律事務所 鈴木 啓太
本記事は2024年9月時点の情報を基に作成しています。

物流業界で話題になっている2024年問題ですが、実はほかの業界も例外ではありません。

2024年4月1日から、建設業においても時間外労働の上限規制が適用されています。

この上限規制に対応していくためには、正確な労働時間の把握、人材確保、業務効率化といった観点から対策を検討していく必要があります。

この記事では、建設業における2024年問題の内容や対策について解説していますので、参考にされてください。

2024年問題とは

2024年問題とは、2024年4月1日から適用された時間外労働の上限規制によって生じる問題の総称です。

例えば、労働時間が制限されることで、一人ひとりの労働時間が短くなり、企業全体の労働力が減少する可能性があります。このような状況では、これまでどおりの業務を遂行することが難しくなる懸念が発生します。

また、労働時間の短縮に伴い、労働者の収入が減ることで、離職者が増加するといった問題も発生しています。

2024年問題は、特に運送業界が話題となっていますが、同様に上限規制の対象となった建設業界や医療業界も例外ではありません。今回、この記事では、建設業界に焦点を当て、具体的な問題や企業が取り組むべき対応を解説していきます。

建設業における2024年問題とは

建設業は、業界全体で抱えている課題によって、問題がいっそう深刻化しているという背景があります。詳しく見ていきましょう。

建設業界が抱える課題

建設業界では、年々、就業者が減少しています。

1997年には約685万人の就業者がいましたが、2010年には498万人、2023年には約483万人に減少しています。

出典:総務省「労働力調査」

また、2023年時点では、就業者の内、55歳以上が36.6%、29歳以下が11.6%と、高齢化の進行が顕著に表れています。

出典:総務省「労働力調査」

課題から見える建設業の深刻化する問題とは

上記で述べたように、人手不足が進む建設業では、時間外労働の上限規制が適用されたことで、労働時間が短縮し、その結果、労働者の給料が減少され、建設業から離れる人が増えていくと考えられます。つまり、労働力不足に拍車がかかることは避けられないでしょう。

では、労働力がさらに不足することで、具体的にどのような問題が生じるのでしょうか。

例えば、これまでどおりの工期で仕事を完成することが難しくなるかもしれません。長時間労働を前提とした従来の工期設定が困難になるため、同じ規模のプロジェクトでも工期が長くなることが見込まれます。仮に工期が遅れ、プロジェクトの納期を守れなかった場合、顧客の信頼関係に影響する可能性も考えられます。

また、新しい技術やシステムの導入が遅れることで、技術の進化に追いつけず、競争力を失う可能性があります。特に、環境規制が厳しくなる近年、持続可能性を考慮したプロジェクトの推進が求められています。これには新しい技術やシステムの導入が必要です。しかし、通常業務をこなしながら新技術の導入に取り組むことは、人材不足の建設業にとって大きな負荷となります。その結果、技術の進化に適応できない企業となり、市場での競争力を失い、企業全体の収益性が損なわれることになるのです。

このように、2024年問題は、特に人手不足が深刻な建設業界に、大きな影響をもたらしたことは間違いありません。

2024年4月1日からの時間外労働規制でどう変わった?

建設業にも適用された時間外労働の上限規制ですが、これまで(2024年3月31日以前)とこれから(2024年4月1日以降)で具体的にどのような違いがあるのでしょうか?

「三六協定」締結は必須条件のまま

新たなルールが適用される以前も以降も、時間外労働において必須な以下の要件があります。

・三六協定を締結していること
・雇用契約、就業規則に時間外労働を指示する根拠があること

三六協定とは、労働基準法36条に基づく協定であり、「三六」を「サブロク」と読み「サブロク協定」と言われ、時間外労働をさせるのに必須の協定です。

上記の条件を満たさない場合には、そもそも法定労働時間を超えて時間外労働を指示することはできません。

2024年4月1日以降の時間外労働における変化

2024年4月1日以降、建設業では、原則として月45時間、年間360時間(1年単位の変形労働時間制の場合は、月42時間かつ320時間)までしか、時間外労働ができなくなりました。

法改正の前は、厚生労働省の告示という形で周知されているのみで、法律では規制がありませんでした。

ただ、三六協定に特別条項を付けた場合には、上記した上限規制を超えて労働者に働いてもらうことができます。

もっとも、無制限に働いてもらえるわけではなく、年間720時間以内、2〜6カ月の複数月平均80時間以内、月に100時間未満などの規制が適用されます。

下表は、建設業に2024年4月1日以降に適用されている上限規制をまとめたものです。

◯原則
・月に45時間、年間360時間

◯特別条項を利用した場合
・年間720時間以内
・複数月平均80時間以内
(2カ月平均、3カ月平均、4カ月平均、5カ月平均、6カ月平均)
・月に100時間未満

◯そのほか規制
・月45時間を超えることができるのは年6カ月まで

上記の時間外労働規制に違反した場合には、労働基準法32条違反となり、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰則が科される可能性があります。

例外として、災害の復旧・復興の事業に関しては、時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満の規制、および、2〜6カ月平均80時間以内の規制については、適用されません。

中小企業に求められる対応

2024年問題による労働力不足や離職者の増加は、特に中小企業において深刻な課題です。では、こうした状況において、どのような対応が求められるのでしょうか?

正確な労働時間を把握する

これまでは、特別条項付きの三六協定を締結している場合、長時間労働が発生しても罰則が科されることはありませんでした。

しかし、上記のような罰則付きの規制が設けられた以上、これまで以上に労働者の労働時間を正確に把握しなければなりません。

正確な労働時間を把握したうえで、上記の規制に抵触しないか適宜確認していく必要があります。

人材を確保する

時間外労働の上限規制により、これまで上限規制を超えて労働していた労働者の仕事は、別の労働者が負担する必要があるため、新たな人材が必要になります。

特に、会社の未来を長期的に支える若年層の人材確保は企業の成長において重要なポイントとなります。
若年層は、仕事とプライベートの両立を重視する傾向が強く、働きやすい環境を求めています。今回の時間外労働の上限規制によって労働時間が短縮され、ワークライフバランスを向上させやすい機会を生かし、自社の働き方を見直すことで、若年層にとって魅力的な労働環境となるでしょう。

また、優秀な人材を確保することができれば、業務はより効率化することが期待できます。そのためには、給与のベースアップや定期昇給の実施、さらに離職率を下げるための賞与の支給や増額といった取り組みを積極的に行うことが求められるでしょう。

ITツールを利用し業務効率化を図る

ITツールを利用してデジタル化を図り業務効率化することは、建設業においても必要なことです。

しかし、建設業では、デジタル化ができない作業が多いため、IT化が遅れています。

現場での作業のIT化は難しい部分はありますが、現場でも利用できるようなITツールも増えてきていますので、今後検討していくべきでしょう。

また、現場以外では、クラウドシステムを利用して勤怠管理をしたり、オンラインでの会議・打ち合わせをしたりすることで移動時間を削減するなど、ITツールを利用することで、業務効率を図れる作業もあります。

事務所内作業でのITツールの利用を図るとともに、できる限り、現場でもITツールを利用して業務効率化することが大切です。

企業が実際に取り組む対策事例

国土交通省は、建設業の働き方改革推進のための事例を公表しています。

以下、抜粋して紹介します。

建設現場の生産性向上に向けた取り組み事例

【取り組み内容】
施工管理アプリを導入、帳票の自動出力、情報のクラウド共有を実施

【効果】
・施工アプリを利用することで、各現場で多種の図面にメモや写真を残すことができるようになった。
・作業完了の確認をタブレット端末上で漏れなくできるようになり、整理作業の時間短縮となっている。
・元請け・協力業者間で工事情報をクラウド上で共有することにより、安全書類の授受が省力化を図っている。

施工管理のITツールを導入することで、業務効率化されている事例です。
紙媒体や手作業で行っていた業務をデータ化してクラウド上で処理することで業務効率化に成功されています。

長時間労働是正に向けた取り組み

【取り組み内容】
クラウド型勤怠管理システム、有給休暇の計画付与、週休2日制、時間制有給休暇などの実施

【効果】
・クラウド上の勤怠管理システムを利用することで人為的なカウントミスなどを防ぎ、法規制を守れている。
・有給取得率が向上、職員のワークライフバランスの向上、新卒採用にも良い効果がでている。

法規制への対応とともに、従業員満足度を上げる取り組み実施されている事例です。
ワークライフバランスを重視する若年層のトレンドを捉えた取り組みであり、優秀な人材確保が期待できます。

※参考 国土交通省不動産・建設経済局建設業課 「建設業における働き方改革推進のための事例集」
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001612258.pdf

まとめ

2024年4月1日から建設業に適用された時間外労働の上限規制は、就業者の高齢化、人手不足などの問題を抱える建設業界にとって大きな転換期となります。

こうした転換期をチャンスと捉え、労働環境の改善、ITツールによる業務効率化を実施することで、他社と差別化し、会社の発展を目指すことが大切です。

【この話をしてくれた人】

鈴木 啓太:広島大学法学部および広島大学法科大学院を卒業後、最高裁判所の司法修習を修了。現在、デイライト法律事務所に所属し、弁護士として幅広い分野で活躍している。さらに、KBC「アサデス」やRKB「今日感テレビ」など、多くのメディアにも出演し、法律に関する情報を発信している。

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