1949年創業の株式会社HEXEL Works(以下、HEXEL Works)は、創業以来、総合電気設備工事を手掛け、収益性確保が難しく同業大手が敬遠しがちな集合住宅や米軍関連施設向けの工事において業界トップシェアを確立している。900人近くの従業員を抱え、独自の技術とノウハウで盤石な体制を築いてきた同社だが、さらなる事業成長のためにM&Aを選択。2022年にオリックスの出資を受け、協業を進めている。HEXEL Worksがオリックスからの出資を受け入れる決め手となったのは、同社の企業理念「変わり続けるDNA。」を継続し、オリックスと共に成長を加速できるとの確信だった。
「新たな仲間が増えた」と語るHEXEL Worksの長江 洋一会長と坂本 孝行社長、同社担当として取締役を務める事業投資本部 長谷川 聡、藤津 朗洋に、なぜオリックスをパートナーとして選ぶ決断に至ったのか、そしてM&Aが事業成長にもたらす価値について語ってもらった。
独自の技術とノウハウで、集合住宅・米軍関連施設の電気工事でトップシェアを構築
――はじめに、HEXEL Worksの沿革と強みについて教えてください。
長江氏:当社は、1949年に私の父である長江 健太郎を中心とする6名の若者によって設立されました。6名で会社を興した(おこした)ことにちなんで、「六興電気株式会社」と命名。以降、高度経済成長の追い風もあり、電気設備を中心に幅広く設備工事を手がけてきました。現在の社名になったのは、創業70年を迎えた2019年で、六角形を表す「Hexagon」と電気を表す「Electronics」を掛け合わせています。
近年は特に1000戸を超えるような大型マンションの電気工事を得意としており、業界トップクラスのシェアを獲得するに至っています。マンション工事は階層によって仕様が変わらないので、単純作業の繰り返しで簡単に思われるかもしれませんが、実はその繰り返し作業には「品質を保ちながら短工期で効率的に施工を続ける技術」が必要です。工業製品に例えるなら、“量産”にスピードと高度かつ安定的な技術が求められるのと同じです。
マンション工事は利益の確保が難しいと言われており、競合他社が敬遠する傾向にありましたが、あえて積極的に受注してきたことで独自の技術や管理体制が培われました。現在、北海道から沖縄まで全国に18拠点設け、大型マンションに全国規模で対応できる数少ない電気工事会社の1社として、顧客である建設会社から高い評価を頂いております。
――米軍関連施設の電気工事においても高いシェアを獲得していますが、参入のきっかけは何だったのでしょうか?
長江氏:実は私は飛行機が大好きで、「いつかハリアーII(AV-8B Harrier II:アメリカ海兵隊が使用している機体)のそばでも仕事をしてみたい」とずっと思っていました(笑)。そんな中、2003年に嘉手納基地(沖縄)内の住宅・宿泊施設の電気工事に携わるチャンスがあったので、未知の領域でしたが、まずはチャレンジしよう、となったわけです。米軍関連の工事は、原則本国の資材を使わなければならず、現地の商社と直接やりとりして仕入れていましたが、2015年7月に米国現地法人「HEXEL TECH ENGINEERING Corp.」を設立し、米国製資材の納期遅延や納品ミスを防いで確実に調達できる体制をつくり、調達から施工まで一気通貫で行うノウハウを整えました。
振り返ると当社は創業以来、どこに収益のチャンスがあるか一人ひとりが追求し、「変わり続ける」ことで成長してきました。そのため会社全体として、あえて明確な将来のビジョンは設けていません。HEXEL Worksを支えてきたのは、自らの好奇心、発想、行動力によってワクワクしながら働いてきた社員で、当社の何よりの強みであると自負しています。
長谷川:電気工事会社は建設会社の下請けの立場なので、一般的には建設会社の要請に、受け身的に応えることが会社の基本姿勢になります。一方でHEXEL Worksは自分で得意領域を開拓し、業界におけるポジションを確立してきました。業界の中でも大変ユニークな経営方針を持った会社に違いないと、出資検討の初期段階から感じていました。
オリックスは、親会社ではなく共に成長する“パートナー”
――順調に成長をしてきた中、なぜオリックスへの株式譲渡を決断されたのでしょうか?
長江氏:会社として今後も成長を続けるためには、オーナー経営を脱却する必要があると考えたからです。私はオーナー一族の2代目として2000年から経営のかじを取りましたが、オーナー企業であると時には「個人」と「会社」の線引きが曖昧になり、会社の成長の可能性を狭めてしまうリスクがあります。業界でも重要な位置づけを占めるまでに成長したHEXEL Worksの経営権を一族内にとどめておくことは健全ではないし、企業価値を損なうことにつながると思い、数年前から第三者への譲渡を考えていました。
坂本氏:具体的には2021年初頭から譲渡先を探し始め、オリックスからお声がけいただきました。オリックスが建設業界への出資実績があり業界に精通していること、事業会社として多角的な事業成長を実現してきた知見があることから、協業することで成長スピードを大きく加速できると思いました。また、「企業のカラーや風土を保ちつつ、本来のポテンシャルを引き出す」M&Aの姿勢を聞き、当社の企業理念「変わり続けるDNA。」に表している通り変化をチャンスととらえて挑戦する社風を維持できると感じました。
――オリックスとしては、HEXEL Worksのどのようなところに魅力を感じたのでしょうか?
長谷川:建設業界の業況として、半導体工場や物流倉庫の新設、都市再開発、老朽インフラの整備などの需要増によって、市場規模は2050年頃までなだらかに成長します。その一方で働き手の数が長期にわたって減少することで、需給ギャップが拡大し続ける事も確実視されています。そのような環境下でも豊富な人材を獲得し、「集合住宅」と「米軍関連施設」という独自領域でポジションを確立しているHEXEL Worksに対する需要はさらに高まることが想定されましたし、ポテンシャルを引き出すことでさらに成長できる会社だと感じました。
坂本氏:M&Aの交渉を進めるなかで、長谷川さんから「全力でサポートしますが、オリックスに頼りすぎないでください」と言われたことが印象的でうれしかったですね。子会社の意思決定権を奪い、半ば強制的に仕事をさせる親会社もあると思うのですが、そういう関係はHEXEL Worksとして望んでいませんでした。交渉時から今に至るまで“親”ではなく、いつも後ろで見守り、共に成長する“パートナー”のような存在だと感じています。
オリックスの経営ノウハウ・アセットをエンジンに新体制をスタート
――では、出資からこれまで、どのようなことに取り組まれてきたのでしょうか。
藤津:さまざまあるのですが、まずは事業承継に着手しました。オーナー企業からの脱却にあたり、HEXEL Worksの長所である自律的な組織風土を引き継ぎながら、中長期的な事業成長を支える新体制が必要だと考えていました。長江さんと連携しながら、2024年1月、長年経営に携わってこられ、当時専務執行役員だった坂本さんに代表取締役社長執行役員に就任いただきました。
坂本氏:出資段階から私も携わっていたので、次の体制を考えるのは自分の仕事であると考えていました。やるべきことを明確にし、未来予想図を社内に浸透させて会社をまとめることが今の私の役目ですね。
藤津:また、副社長職を新たに設置しました。これまでは支店採算性をとっていたことで支店によって受注方針や利益率がバラバラでしたが、工事の収益率・品質の底上げのためには全国の支店や工事を統括できる役職が必要だと考えました。役職の設置に加え、オリックスの経営ノウハウを導入し、全社的な数値管理を行って工事収益を可視化したことで、昨今の資材コスト高騰の影響を受けながらも、全社一丸となって共通の目標を設定する事で、工事の利益率を大きく改善しつつあり、手応えを感じています。
坂本氏:プロジェクト単位で利益やコスト削減率などの数字をリアルタイムで見られる仕組みを整えてもらい、第三者視点で数字を細かく分析したアドバイスを受けたことで社員の意識が変わりました。手前みそですがもともと社員のレベルが高いので、現場の知見に加え収益への意識が高まったことで、各人のパフォーマンスが向上していると感じています。
藤津:経営体制の他にも、事業の強化や新規事業創出の支援にも取り組んでいます。オリックスの法人営業部門は全国に多様な業種の顧客基盤を持っています。また不動産事業部門は、開発、運営、施工まで手掛けているので、HEXEL Worksに対して顧客企業や下請け協力会社の紹介、オリックスが手掛ける開発プロジェクトへの参画支援など、幅広くサポートしています。
坂本氏:事業拡大や新規事業の検討にあたって、どうしても予算や人材リソースが限られていました。今は経営ノウハウのアドバイスを受けたり、オリックスの顧客ネットワークや施設などのアセットと連携をしたりと可能性が広がっています。これからがすごく楽しみですね。
――カルチャーや企業風土の面では、変化はありましたか?
坂本氏:それが、いい意味で驚くほど何もありません。正直、「オリックスに会社を変えられてしまうのではないか?」と心配していた社員もいたと思うのですが、一人ひとりが挑戦を楽しむ企業文化は、従来のままです。加えて、長谷川さんや藤津さんと日々コミュニケーションをとるなかで、オリックスの知見が自分にも会社にもインストールされている感覚があります。本当にいい信頼関係が築けていると思います。
長谷川:オリックスでは出資を手掛けた担当者が常駐し、現場で一緒に汗をかいて経営に深く関与することを方針としています。また、オリックスが出資する優良企業各社には、一見非効率とも思えるような独自のルール、企業文化が存在し、業界慣習とも相まって、絶妙な合理性を備えた企業経営がなされていることもあります。これらを十分理解した上で、オリックスなりの考え方や仕事の進め方を出資先に少しずつインストールしながら、共に成長していくことを目指しています。
経営課題を乗り越え、事業領域の拡大に挑む
――最後に、今後の展望についてお聞かせください。
坂本氏:2024年1月に新社長に就任してすぐに「Team HEXEL!」をスローガンとして掲げました。HEXEL Worksの仕事は全てがチームワークによって支えられています。全社員がプロ意識を持ち、チームの一員であることを自覚して、お客さまのために、もっと良い施工をする「最強・最大ではなく最優な企業」を目指す、という気持ちを込めています。チームとして自分のためだけでなく誰かのために働き、皆で考え皆で成長する最優な「Team HEXEL!」を目指します。また、2024年問題もあり、建設業界の働き手不足が深刻化するなかで、評価制度・教育制度の見直しも進めていきます。さらなる施工管理の効率化、人材採用の強化に取り組んでいきたいですね。
藤津:常駐している立場としてHEXEL Worksのことを誰よりも理解したうえで、オリックスグループの各セグメントと連携をとりながら、集合住宅、米軍関連施設に加え、第三の柱となるポートフォリオを拡大していきたいです。出資後2年間は、社内体制の強化や不採算事業の対応を優先していましたが、基盤は整いつつあります。今後は、事業の成長速度を上げることに役立っていきたいと思います。
長谷川:HEXEL Worksには自分の頭で考えて新しいアイデアを発想できる社員がたくさんいると感じています。「変わり続けるDNA。」を体現できる社員です。これらの社員の発想と、オリックスの事業開発のノウハウを掛け合わせて、HEXEL Worksの新たな成長の柱を生み出し続けるような会社にしていきたいと思います。
長江氏:オリックスの出資を受けたことは、HEXEL Works創業75年の歴史のなかでも大きなターニングポイントで、これからその波及効果がどんどん出てくるはずです。もう一回り大きな会社に成長できるよう頑張りますので、どうぞご期待ください。
※ 2024年9月20日付け訂正は以下の通りです。
新)ハリアーII(AV-8B Harrier II:アメリカ海兵隊が使用している機体)
旧)ハリアー(アメリカ製の戦闘機)