1972年に創業、創業社長が一代で築き上げた船主(船舶保有・貸渡)および船舶管理会社である三徳船舶。社長交代にともない新たな経営体制の構築を模索していた中、熟慮の末、選択した手段はオリックスへの事業承継であった。なぜ同業他社ともファンドとも異なるオリックスであったのか。オリックスと融合することによるシナジーとは。
本記事では、三徳船舶がオリックスをパートナーに選んだ経緯や狙い、2社で描く事業成長の未来図について、三徳船舶の多賀 純一社長と、同社担当として専務を務めるオリックス船舶投融資グループの筒井 宏次、伊藤 良恭に語ってもらった。
目次
多様な事業ポートフォリオを持つ国内トップクラスの船主
──三徳船舶の事業内容、沿革をご紹介ください。
多賀氏:当社は、前社長・多賀 征志が1972年に創業した海運会社で、船舶管理業と社船事業で事業規模を拡大してきました。
現在の事業内容は大きく「社船事業」「船舶管理事業」「マンニング事業」の3つに分けられます。自社船で貨物輸送を行う「社船事業」は当社のメイン事業で、新造発注を含めると約70隻を保有しています。船種としては、バルカー(ばら積み船)が一番多く、外航船の自動車船、コンテナ船に加え、内航船の自動車船も保有しています。
当社の特色であり、強みにもなっているのが、船の管理を行う「船舶管理事業」です。自社船の管理に加え、日系船主さまから管理を受託している船が約30隻あり、自社船を含めると100隻規模の事業となっています。
船員の配乗を行う「マンニング事業」では、自社船へのマンニングに加え、日系船主さまの保有船へのマンニングを受託しています。フィリピンを中心に、中国、バングラデシュ、韓国、ミャンマーのマンニング会社と取引を行っており、各マンニング会社と強固な信頼関係を築いています。
──船主、船舶運航管理業界における三徳船舶の強みについてお聞かせください。
多賀氏:当社は新造船発注を含めると約70隻を保有しており、非上場企業では国内有数の規模と自負しています。バルカー船、コンテナ船、自動車船など多種多様な船種を保有し、幅広いお客さま向けに多様なサービスを提供することで事業ポートフォリオを拡充し、リスクを分散しています。
また、当社は社員の平均年齢が39歳と若いことに加え、外国人社員の比率が20%を超えるなど、外国人社員が非常に多くなっています。英語に堪能で海外の用船者や海外造船所などとの円滑なコミュニケーションが可能な点も、強みとして挙げられると考えています。
当社では早くから外国人の船員経験者の採用を積極的に進めており、船舶管理などの陸上業務に従事してもらうことで船員のキャリア形成をサポートするとともに、長く勤めたいと思ってもらえるような制度、風土づくりに取り組んでいます。社宅など福利厚生制度も整備しており、家族を連れて日本に移住する社員も少なくなく、勤務年数が長い外国人社員も多くいます。
創業社長より経営のバトンを継ぎ、新たな経営体制へ
──2023年に多賀さまが創業社長より経営を引き継がれました。どのような経緯があったのか、またどのような思いでバトンを受け取られたのか、お聞かせいただけますでしょうか。
多賀氏:2023年4月に前社長・多賀 征志が急逝し、私がバトンを引き継ぐことになりました。あまりに急な出来事で、準備期間がまったくない状態で引き継いだため、まずは従業員の動揺を抑え、従業員が安心して働ける環境を整えることを最優先しました。その上でお客さまに多賀 征志が築いてきたフィロソフィーを変わらず継承していく旨をお伝えし、変わらぬ取引をお願いしました。
私は当時、営業部課長を務めていましたが、それまで「次期社長を頼む」といった話をされたことはまったくなく、まさに青天の霹靂です。私自身はもちろんのこと、一代で会社を大きくしたリーダーを失った従業員も相当ショックだったと思います。私も長年彼らと机を並べてきましたので、社長就任後もしばらくは元の席のままで業務を行っていました。
そこで改めて感じたのは、前社長はこのような急な社長交代が起きても会社が回る仕組みを作り上げていたということです。先にお話ししたようなポートフォリオとリスク分散に加え、現場での若手社員への権限委譲なども進めていました。また課長職、部長職は30代、40代の社員が中心で、円滑なコミュニケーションができる状態になっていました。
──社長に就任され、どのような課題があると感じられましたか。
多賀氏:成長にともなって企業規模が大きくなる中、給与体系や人事制度見直しを含めた経営管理体制やガバナンス、資金調達の面で課題があるとバトンを受け継ぐ前から感じていました。
そこで、社長就任後は従業員の待遇改善が最優先課題と認識し、働き方や給与面などの待遇改善に取り組みました。待遇改善のためには、評価制度の見直しが必須です。それまでは体系立った評価制度が確立されていなかったため、新たな評価制度を構築しました。
私が社長に就任してから、社員の声を聞くアンケートや面談なども積極的に行いました。さまざまな要望をもらい、その数は200以上になりました。例えば、今取材いただいているこの部屋は、もともと宴会用ルームでしたが、「お客さまと商談する会議室が欲しい」という社員の声に応えて応接室にしたものです。また、社長室をコンパクトにし、社員がオープンに入れるようにしました。
安心してタッグを組めるパートナー
──一方で、就任の翌年に、オリックスによる事業承継を受け入れることを表明されました。どのようなお考えがあったのでしょうか。
多賀氏:社長に就任して新たな体制の構築を考えたとき、従業員が満足度高く業務にまい進できるようにするにはオリックスによる事業承継が最適と判断しました。
オリックスは2000年前半まで100隻規模で自社船を保有・運航し、管理も自社で実施していたと伺っています。当社の事業への理解が深く、また企業経営ノウハウが豊富にあり、財務基盤が強固で多様な資金調達手法があります。オリックスへの事業承継によって当社の拡大した事業・組織規模にマッチする経営管理体制、ガバナンス、資金調達手法などを再構築し、更なる成長を実現できると考えました。
事業承継というと、一部のファンドなどのように短期間で売却して利益を得るというイメージがあります。しかし、オリックスは現行の経営体制を維持しつつ、中長期的な視点で経営サポートを行ってくれます。実際に従業員のリストラなども行っておらず、むしろ人員は増えています。2024年2月の事業承継後、従業員の待遇改善が進んでおり、満足度も非常に高まっています。今後もオリックスのリソースを生かした収益拡大、体制整備を期待しています。
船舶事業に携わってきた会社同士のシナジー
──海運会社である三徳船舶の事業を承継しましたが、オリックスの船舶関連ビジネスの概要をお聞かせください。
筒井:オリックスが船舶事業を始めたのは、1971年です。海運不況で返船されたリース船を自社で運航・管理したことから本格的に海事産業へ参入しました。1977年には、メンテナンスや船員の確保などの管理業務も含めて船を貸し出す(定期用船契約)専門会社として、100%子会社のオリックス・マリタイム(以下、マリタイム)を設立し、1980年代からは、バルカー船などを自社で保有し、国内外の海運会社に用船する船舶投資事業へとビジネスを拡大しました。
伊藤:現在のオリックスの船舶関連ビジネスは、主に「社船事業」「匿名組合型の裸用船事業」「船舶ファイナンス事業」の3事業から成っています。中でも社船事業はコア事業の一つで、市況の動向を見極めつつ事業を拡大してきました。加えて2025年3月には、双日船舶(現 ソメック)の発行済み株式の70%を取得し、「船舶トレーディング事業」を展開しております。新たなオリックスグループメンバーとなる32名のプロフェッショナルとともに更なる事業展開も検討しております。
今回の事業承継により、今後は三徳船舶がオリックスグループにおける社船事業、船舶管理事業のコアとなる位置付けで、三徳船舶とともに事業規模の拡大を図っていきたいと考えています。
シナジーを生かすため、三徳船舶のリレーション先へ多様なファイナンスストラクチャーの提供を行っていき、三徳船舶の船舶管理ノウハウを基にしたアセットマネジメントサービスの展開も可能と考えています。すでに、両社が保有する船舶投資や船舶管理ノウハウの共有や取引先の相互活用を実施しています。
──三徳船舶としては、オリックスと組むことで具体的にどのようなシナジーを期待されましたか。
多賀氏:オリックスは長く船舶事業を手がけており、社船事業、船舶管理事業などに関してノウハウや経営資源を豊富に持っています。また、船舶購入のための船舶ファイナンス事業も展開されています。オリックスの多様なファイナンス手法を生かせば従来にない形の新造船発注ができると考えましたし、オリックスが組成する船舶を対象とした金融商品の船舶管理サービス(アセットマネジメント)や幅広い営業網による船舶管理・マンニング機能の拡大などにも期待しました。
また、オリックスの企業経営ノウハウによる組織力の強化にも期待を持ちました。実際、先ほどお話しした待遇改善のための評価制度にも、オリックスの知見を活用しています。
共に成長ステージを目指す
──オリックスの事業承継後の経営体制についてお聞かせください。
多賀氏:当社の体制としては、私が引き続き代表取締役社長を務め、代表取締役専務としてオリックスの筒井さんが船舶営業本部・船舶管理本部を、伊藤さんが経理・総務などの企画管理本部を管掌し、3代表制で会社運営をしています。
その他、オリックスから6名が各部へ駐在し、ガバナンス強化や営業拡大、当社とオリックスとの融合を進めています。日々、課題と向き合っていますが、総じて順調です。筒井さん、伊藤さん、駐在員の皆さんに常駐してもらっているので、迅速に意思決定ができます。とても心強いですね。
筒井:三徳船舶には船舶投融資グループの伊藤と私のほか、マリタイムからも現場の若手スタッフが出向し、文字通り三徳船舶の社員の皆さんと机を並べて仕事をしています。マリタイムの社員は船が好きで入社した社員ばかりですから、まさに水を得た魚のようにやりがいを感じ、生き生きと働いています。一緒に汗をかくというのが当社のスタイル。お互いのノウハウを共有し、アイデアを出し合いながら業務に取り組んでいます。
──事業承継後に始められた取り組みについてご紹介ください。
多賀氏:新たに、オリックスグループとして3カ年計画を作成中です。計画では、一定の隻数を保ちつつ、老齢船を売却し、次世代環境対応船などの新造船に順次入れ替える「キャピタルリサイクリング」を実施していく予定です。LNG燃料デュアルフューエル船、メタノール燃料デュアルフューエル船といった次世代燃料船に入れ替え、その管理ノウハウを自社船で蓄積し、他船主さまからの管理受託につなげていきたいと考えています。
従業員の働き方では、今年度中に人事制度や評価制度を新たに設け、公平で透明性のある制度として運用する予定です。また、改装でオフィス環境を改善したことに加え、連続有給休暇を取得した際に奨励金を支給するなど、これまでにない取り組みを実施しています。今後も従業員との対話を続けてより働きやすい環境となるようにしていきたいと考えていますが、この領域でもオリックスは知見が豊富ですので、アドバイスなどをもらえればと思っています。
──今後の成長に向けての計画や抱負、そのためのオリックスへの期待などをお聞かせください。
多賀氏:現在、保有船舶は外航のバルカー船と自動車船が中心になっていますが、船種の多様化やモーダルシフトで、モノの流れが変わる潮目を迎えている内航事業の拡大を視野に入れています。とはいえ、現在は船価が高く、慎重な投資判断が必要な時期です。オリックスと当社の船舶投資の考え方は似ており、船価が高騰する時期には新造船発注を控える傾向にあります。慎重に船価と発注時期を見極めつつ、事業拡大を図りたいと考えています。
また、自社での新造船発注以外に、ジョイントベンチャーでパートナーと共同投資するなど、さまざまな取り組みを検討中です。その点、ファイナンスに強く、盤石な財務基盤を持つオリックスグループの一員となったことは非常に心強く、事業拡大の後押しとなると期待しています。