「2024年問題」とは?中小企業の向き合い方をわかりやすく解説

[監修]汐留社会保険労務士法人 池田 優子
本記事は2023年10月時点の情報を元に作成しています。

2024年4月1日から開始される「自動車運転業務における時間外労働の上限規制」とトラックドライバー(以下、「ドライバー」)の「改善基準告示」の改正が、特に中小企業に大きな影響を及ぼすことが予想されます。

「物流の2024年問題」(以下、「2024年問題」)とも呼ばれるこの緊迫した状況は、物流業界だけの問題ではありません。日本の各企業は「2024年問題」にどのように対処するべきか、その概要と具体的な対策を解説します。

2024年問題の概要

2024年問題とは、一般的に2024年4月1日からドライバーの年間の時間外労働が上限960時間と規制され(特別条項付の三六協定を締結する場合)、また、ドライバーが順守しなければならない改善基準告示においても、ドライバーの拘束時間(労働時間+休憩時間)が3516時間から3400時間(労使協定を締結する場合)に短縮されることによる一連の問題を指す言葉であり、「物流の2024年問題」と言われることもあります。

この規制がもたらす影響は多岐にわたり、荷物が運べない、納品スケジュールの見直し、運送会社の売り上げ減少、配送運賃の上昇、さらには消費者への負担増加も懸念されており、運賃の上昇が商品価格の上昇に反映される可能性もあります。

また、ドライバーの労働時間の減少がそのまま給与の減少にもつながりかねず、すでに逼迫(ひっぱく)しているドライバー不足の問題がさらに深刻化すると見られています。

このように、2024年問題は運送・物流業界のみならず多面的なリスクをはらんでいると考えられています。

求められる中小企業の対応

2019年から順次施行されている働き方改革関連法の中で、時間外労働の上限規制は、2019年4月1日から大企業が対象となり、その1年後の2020年4月1日からは中小企業も対象となりました。また、中小企業は適用が猶予されていた月60時間を超える残業に対する割増賃金率の引き上げについては、2023年4月1日から中小企業も対象となりました。具体的には、月60時間を超える時間外労働に対して、中小企業も50%以上の割増賃金率で計算した割増賃金を支払う必要があります。

さらに、医師や建設事業、自動車運転の業務など長時間労働が常態化していて、業務の特性や取引慣行の課題がある事業・業務に対する時間外労働の上限規制の適用猶予期間も2024年3月末に終了するなど、2024年問題は、喫緊かつ具体的な対策が求められる課題となっています。

2024年問題の原因となる主な改正事項

2024年問題は、いくつかの主要な改正事項に起因します。

1.時間外労働の上限規制の適用開始
労働基準法の改正により、2024年4月1日以降、自動車運転業務にも時間外労働の上限規制が適用されます。時間外労働(休日労働は含まない)の上限は、原則として月45時間・年360時間で、臨時的な特別の事情があり労使が合意する場合でも、年間の時間外労働の上限は960時間までと規制されます。ただし、一般の労働者と異なり、「時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内とする規制」と「時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6カ月までとする規制」は適用されません。

2.時間外労働が月60時間を超える場合の割増賃金率の引き上げ
労働基準法の改正により、2023年4月1日から、中小企業において月60時間を超える時間外労働が発生した場合、割増賃金率が25%から50%に引き上げられました。これにより、人件費が増大し、企業の経営に影響を与える可能性があります。

3.1日の休息時間(勤務間インターバル)
改善基準告示の改正により、2024年4月1日から、ドライバーに対して、前日の仕事が終わってから次の日の仕事が始まるまでに「継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし、最低でも9時間を下回らない休息時間」を確保する必要があります。

これは特に、ドライバーなどの自動車運転職において、夜勤明けから短い仮眠で再出勤するようなケースが多く、それが事故の原因となっていた問題に対処するものです。今回の改正により、事故やトラブルを未然に防ぎ、ドライバーの健康を守るため、運送会社はより計画的な人員配置を行う必要が生じます。

このように、長時間労働などが常態化したドライバーの労働環境の改善を目的としている制度改正ですが、その反面で利益率の低下や人件費の上昇など企業に多大な影響を与える可能性があると見られています。

2024年問題は、運送業界だけの問題ではない

2024年問題は運送会社のみならず、物流業務を委託している荷主企業に対しても、以下のように多面的な影響を及ぼすとの懸念があります。

1.物流費の上昇
時間外労働の上限規制によってドライバーの稼働時間が減少し、全体の輸送力が落ち込むことが懸念されています。この需給との不均衡が配送コストの上昇を招き、さらにはドライバーの収入減や低賃金化を防ぐために給与がベースアップされる可能性もあります。また、荷待ち・荷役にかかる費用や燃料高騰分なども含めて、標準的な運賃の設定が必要となるため、結果として、運送会社からの運賃値上げなどの要請により、物流費が上昇する可能性が高くなります。

2.輸送距離の制限
労働時間に規制がかかることによって、これまで残業や休日出勤で対応してきた長距離輸送などの業務の受注が困難になり、一定の距離以上の輸送を物流会社から断られるケースが出てくるかもしれません。

3.商品の出荷スケジュールの見直し
時間外労働を避けるために、夕方以降に集荷をしないなど集荷時間が前倒しになる可能性があります。この影響で、荷主企業は商品の出荷スケジュールの見直しが必要となるかもしれません。

2024年問題がもたらす企業への影響

2024年問題が企業にもたらす影響は多岐にわたります。

法違反による罰則

労働基準法では、時間外労働の上限に違反すると、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金刑が定められています。これは企業にとって重大な法的リスクとなります。

売り上げ・利益の減少の可能性

物流・運送業は労働集約型の産業であり、売り上げはドライバーの労働量に直結しているといえます。そのため、時間外労働の上限規制が始まると、それによって売り上げが減少する可能性が高くなります。さらに、業界全体で人手不足が問題となっており、単純にドライバーを増やすことも簡単ではありません。また、月60時間を超える時間外労働の割増賃金が増えれば、人件費も上昇し、利益の減少につながることも考えられます。

企業イメージの低下

コストの圧迫によって不適当な運賃を設定すると、それが業績の悪化や高い離職率につながる可能性があります。労働時間が長く賃金水準の低い労働環境はドライバーに大きな負担をかけ、企業イメージの低下や深刻な労働力不足を引き起こす危険性があります。さらに、労働基準法違反によって企業名が公表されれば、社会的信頼を大きく失い、事業運営に影響がでる可能性も考えられます。

具体的な解決策と2024年問題を踏まえた経営のあり方

2024年問題は、特に中小企業において看過できない重大な問題です。多角的な視点で解決策が求められる中で、以下のような戦略が考えられています。

システム活用

IT技術を活用することが労働力不足や長時間労働などの問題解決につながると考えられており、物流業界全体でデジタルトランスフォーメーション(DX)、AIやIoTを用いた自動化技術の導入も始まっています。
例えば、予約受付システムや車両管理システムの導入によって「荷待ち時間」の短縮や「トラックの稼働率向上」が進んだり、クラウド型労務管理などのシステムによって点呼の手間が簡略されたりすることで、ドライバーの長時間労働の改善や、生産性向上が期待できます。

輸送方法の見直し

複数のドライバーがリレー形式で輸送を担当する「中継輸送」や、複数の企業が同一の輸送手段を共有する「共同配送」の導入も、2024年問題への対策として注目されています。

倉庫拠点の見直し

在庫拠点を地理的に分散することで、配送効率の向上やリスクヘッジにつながると考えられています。例えば、首都圏だけでなく地方にも拠点を持つことで、自然災害時のリスクも軽減できると考えられています。

今後の展望

前述のように、2024年問題はドライバーの労働時間の削減に起因する輸送量の大幅な減少が懸念されています。

この問題を解決するには、ドライバーの無駄な待ち時間やラベル貼りや検品といった本来はドライバーが行う必要のない付帯業務を削減するのと合わせて、荷物を送る側、受け取る側、そして運ぶ側それぞれの企業が共同で、さまざまな伝票や受け渡しデータ、パレットなどを標準化して効率化を図り、自動化・機械化や手続きの電子化などの効率的なシステムを運用する必要があります。

このプロセスには、既存の業務手順の最適化だけでなく、物流における標準化と新しいテクノロジーの導入などの物流DXの推進が欠かせません。

この2024年問題を乗り越えるために、運送会社や物流会社だけに負担を強いるのではなく、業種や業界の壁を越えて、産業界全体で負担を共有し、協力し合い、各企業が物流業界への影響を再評価して、持続可能な物流の実現に向けて適切な対策を講じることが求められているのです。

法人のお客さま向け事業・サービス

事業投資・コンセッション事業

法人金融事業・サービス

事業を通じた社会課題への貢献

ページの先頭へ

ページの先頭へ