新たな経済システムとして注目が高まる「サーキュラーエコノミー(循環経済、CE)」。政府もその推進を成長戦略の柱の1つに掲げる。では、日本企業にはどのようなビジネスチャンスが開かれているのか。経済産業省 GXグループ 資源循環経済課長の田中 将吾氏と、オリックス 環境エネルギー本部 副本部長の山下 英峰とで意見を交わした。
サーキュラーエコノミーが注目されている理由
——「サーキュラーエコノミー」という言葉を聞く機会が増えています。どのような考え方なのでしょうか。
田中:CEは、一度取得した資源を最大限有効活用し、新規の資源投入量をできるだけ抑えながら付加価値を生み出そうとする経済システムです。
CEの概念は英国のエレン・マッカーサー氏が提唱したもので、2010年代の半ば、特に欧州を中心に政策として推進すべきという議論が広がりました。日本では2020年頃から政策として議論されるようになっています。
日本では、廃棄物の適正処理を目的とした「廃棄物処理法」、廃棄物の発生抑制、資源の循環的な利用等により、環境負荷が低減される社会を提示した「循環型社会形成推進基本法」、これらを具体化する各種のリサイクル法制など、主に環境制約に対するアプローチが進んできました。CEはこれらに加え、資源の枯渇や調達リスクの増大などの資源制約への対処の観点、また、制約への対処だけではなく、循環経済として経済システム自体の転換を図り、経済的な成長も目指す、という点で、より広範な概念となっています。
——民間の立場としてサーキュラーエコノミーの機運をどのように受け止められていますか。
山下:企業の関心は年々高まっていると感じます。当グループでは1998年より、廃棄物に関する処理支援業務を展開してきました。かつては廃棄物の適正処理に関するご相談が多かったのですが、2020年あたりから廃棄物の量自体を減らしたい、といった声を聞くようになりました。
また、地政学リスクが高まる中、素材や部品などを海外から調達するのではなく国内で循環的に再利用したいといった声も上がるようになっています。このような観点からも、CEは単に環境対策の延長線上ではなく、ゲームチェンジであり、ビジネスチャンスと捉えています。当グループでも2023年3月にCE推進・実現のための専門組織を設置し、具体的なCEビジネス※1が始まっています。
サーキュラーエコノミーは成長機会の1つ
——経済産業省は2023年3月に「成長志向型の資源自律経済戦略」を取りまとめて発表しました。どのような狙いがあるのでしょうか。
田中:環境対策自体が資本市場において重要になっていることが基本にありますが、それに加え、CEを今後大幅に拡大する経済市場として捉え、成長機会の1つとすることを、この戦略の狙いとしています。
枯渇性の資源は、世界中で需給が逼迫しています。資源を安定的に、かつ適正な価格の範囲内で調達できるかは、ものづくり立国である日本にとって重要な問題です。例えば、天然資源を買っているだけでは、大半は外貨として外に富が流出してしまいますが、国内のサプライチェーンを通じて循環・再生した資源を使うことができれば、国内の富とすることができます。
また、カーボンニュートラル分野は今後もビジネスとして成長機会があり、資源循環はその中の大きなソリューションになると考えています。脱炭素産業の成長をCEビジネスが支えるという形で、CEが日本の脱炭素政策においても意味を成します。
この戦略ではCEを通じて「新しい成長」を志向し、CEの確立に向け、政府としては規制・ルールの整備を進める他、今後10年間で約2兆円の政策支援、産官学連携のサーキュラーエコノミー・パートナーシップの立ち上げなど、総合パッケージでCEを推進していきます。
グローバルでは、資源をどうやって押さえにいくかという競争が始まっています。脱炭素ソリューションとしても、資源循環のツールを誰がどう提供していくかが鍵になります。日本企業が質の高いソリューションを先んじて提供できれば、大きなチャンスになります。逆に今取り組まないと、成長機会を失いかねません。
日本は、3Rの取り組みなどで消費資源の削減や資源再利用の種をまいてきました。だからこそ、その果実を積極的に取りに行ってほしいと願っています。
なぜ産官学の連携が進んでいるのか
——サーキュラーエコノミーの現場で、産官学連携は進んでいると感じますか。
山下:当グループとして、産官学連携ありきでビジネスを進めているわけではないのですが、CEも含め新しいビジネスをやろうと思ったとき、例えば既存のルールに影響を受けたり、逆にルールが明確でないことが課題となることがあります。
ルールは、官公庁だけでなく、学者の方や企業の有識者、業界団体など、いろいろな方々の声を踏まえて形成されていますので、今どのような議論がされていて、どのような方向に向かっているかという情報を取得することが重要で、そういった意味で産官学の垣根を越えてコミュニケーションを取る機会は増えてきています。
——サーキュラーエコノミーに関する産官学連携の組織も立ち上がりましたね。
田中:CEの実現に向け政府・自治体、産業界、学術界の連携を促進することを目的に「サーキュラーパートナーズ(Circular Partners:CPs)」が2023年9月に発足しました。
CPsでは日本のCEに関する方向性を定めるための目標、ロードマップを設定し、また、ロードマップを業界や製品のレベルにまで落とし込むための「領域別WG」、地域の経済圏の特徴に応じたCEを目指す「地域循環モデル構築WG」、資源循環に必要な製品・素材情報や循環実態の可視化を進める「CE情報流通プラットフォーム構築WG」等で議論を進めています。政府が主導するのではなく、ステークホルダーの皆さまに「こういう議論をしたい」と手を挙げていただきWGを進めています。
議論の中で、2030年、2040年にどうありたいか、そのために何をしなければならないのかといった解像度が上がってきています。政府の支援に対するニーズも出てきており、予算措置などもいくつか始めているところです。政府としては、ファーストムーバー(先行参入者)にメリットを感じてもらえるよう、CPsの運営を進めていくつもりです。例えば、あえてWGのリアルタイムでの議論は会員限定公開としています。またCPs会員であることを要件とした政府補助事業※2なども予定されています。
CPs加入にあたっては、CE関連の定量目標設定や取組状況の公表が必要ですが、会費は発生しません。多くの皆さまにご参画いただきたいと考えています。
——オリックスグループもCPsに参画されていますね。
山下:はい。当グループもCPsの活動方針に賛同しています。CEはサプライチェーン全体に関わるものですから、さまざまなステークホルダーと協力しながらでないと進まない部分があります。サプライチェーン構築には、ステークホルダーとの徹底的な対話が必要であり、CPsはCEへのモチベーションが高い方々と活発に議論を交わせる場として意義があります。また、CPsの活動を通じて最新のCE関連政策動向を把握できることも有用です。
また、CPs加入の要件にCEに関する定量目標の自主設定・公表がありますが、これもよい意味のプレッシャーで、目標を立て、公表すること自体に意味があったと思います。われわれも目標を達成する傍らで出てきた課題をまたCPsで議論させていただいて、「では、必要な制度とはどういうものだろう?」といったことを議論できると有意義ですね。
今後は、CPsの活動を通じてCEビジネスの実例が活発に出てくることを期待しています。実例が増えれば、CEに関心を持たれる方がさらに増えるでしょうし、同じ志を持った仲間づくりにもつながっていくと思います。
田中:ご自身がCEにおいて「何をやりたいか」をまず考え、それを実現するために「どんなソリューションが必要で、そのための仲間は誰なのか」を見いだす、まさに山下さんにおっしゃっていただいた、「個別の具体的なアクションをどう起こしていくか」を実践する場としてCPsをご活用いただければと思います。
サーキュラーエコノミーをビジネスにつなげるための動静脈連携
——政府は「動静脈連携」を加速させる方針とのことですが、その必要性についてご説明ください。
田中:設計・製造段階、販売・利用段階、回収・リサイクル段階をシームレスにつなぎ、動脈産業と静脈産業があたかも輪のように有機的に連携する「動静脈連携」が必要と考えています。
動脈側には、静脈側を自分たちの事業活動において欠かせない資源供給産業の一形態として捉えてほしいです。そうなるためには、動脈側のビジネス上の要件について、静脈側と対話を深めていただくことが重要です。静脈側にも、資源供給の源となる都市資源を生み出す動脈側が、どのような製品をどのような流通形態で市場に提供しているかという情報を、積極的につかみにいく姿勢が必要です。
——静脈と動脈をつなぐという意味で、オリックスは絶妙な位置にいらっしゃいますね。どんなポジションを確立できそうでしょうか。
山下:田中課長がおっしゃられた静脈産業が「資源供給会社」になる、という言葉は素敵だと思っています。廃棄物の適正処理が事業の中心であった静脈側の方々が、動脈側の事業活動に不可欠となる、これはものすごいビジネスだと思います。
ただ、それを一社で全部やるのはかなり難しく、いろいろな方々とサプライチェーンを組みながらやっていくことが重要だと思います。サプライチェーンの構築には、動脈側、静脈側、両方の人たちと話をしないと、偏った仕組みで終わってしまいます。当グループ自身、静脈産業にも進出していますし、また製品・設備の調達という観点で日々、動脈側と接点もあります。動静脈を全部つなぐような、ハブあるいは接着剤のような役割を担えるのではないかと考えています。
また、私どもの「環境エネルギー本部」は、再生可能エネルギーという観点でも、お客さまにサービスを提供しています。サービスメニューには例えば、太陽光発電や蓄電池などがありますが、これらの設備も今後、単なる廃棄でなく、国内循環が求められると思っています。将来を見据えて動静脈連携を広げ、「CEから脱炭素まで」お客さまにワンストップなサービスを提供していきたいと思います。
——最後にステークホルダーの皆さまへそれぞれメッセージをお願いいたします。
山下:当グループとしては、CEへの志が高い方との仲間づくりを進め、CEビジネスをいろいろと打ち出していきたいと考えています。ファーストムーバーにはリスクもつきものですが、チャレンジしないと情報もノウハウも手に入らないですし、課題も見つかりません。ぜひ、皆さまと共にCEの実現・推進に寄与していきたいと思います。
田中:この分野に携わってもうすぐ3年ほどになりますが、非常に幅広い業界からCEに関連する困り事や、なんとかしなければいけないという提案をお寄せいただいています。同じような問題で困っている方がたくさんいらっしゃいますし、逆に問題に対するソリューションを持っている方も多くいらっしゃいます。
単独では動きづらいことでも、例えばCPsのように、同じ志や課題を持つ方々と対話いただくということが、課題解決のチャンスにつながるのではないかと思っています。われわれも皆さまの声をなるべく拾い上げたいと思っていますので、ぜひとも一歩、アクションを踏み出していただけるとありがたいです。