人手不足や働き方改革など、多くの課題を抱える建設業界。そんななか、若手の就職志望者が増加し、業績を伸ばす企業があります。それは、愛知県小牧市に本社を置く株式会社キョウエイ(以下キョウエイ)。同社は、建物の床の基礎をつくる「デッキ工事」をはじめ、各種専門工事を請け負う建設会社です。ジブリパークやレゴランドをはじめ、各地の代表的な建設工事を多数手掛けています。建設業界に限らず若手の採用が困難な時代だからこそ取り組むべき「社員ファースト」の施策とは。また、13期連続増収を達成し着実に成長し続ける理由はどこにあるのか。オリックス名古屋支店 第二チーム水谷 勝彦が、キョウエイの代表取締役である河野 誠二氏と活躍する社員の方々に話を伺いました。
特殊建材の施工を率先して引き受け、強みを育てる
――はじめに、キョウエイの事業概要について教えてください。
河野:当社は1993年、私が18歳のときに立ち上げた建設会社です。中でも、骨組み状態の鉄骨と鋼製床材(デッキプレート)で床をつくる「デッキ工事」を得意としており、売り上げの約7割を占めています。20年ほど前から、鉄筋と一体となった特殊な鋼鉄を取り扱い、その需要が全国に広まるにつれて業績を伸ばしてきました。鉄筋一体型の鋼製床材は、強度に優れる上に作業工程を短縮できるため、現在では大型工場や物流倉庫の建設で主流となっています。しかし、重量があるため作業員の負担が大きく、誕生した当初は工事の担当を敬遠する会社も少なくありませんでした。当社は、若い力で率先してその施工を引き受けてきたことでノウハウを蓄積でき、そこが強みとなりました。
しかし、デッキ工事だけに頼っていてはいずれ頭打ちになります。そこで近年は、コンクリートを流し込むための型枠をつくる「鋼製型枠工事」、床スラブと鉄骨梁を結合し断面性能を強化する「スタッド工事」、網目のように鉄筋棒を組んでコンクリートの強度を上げる「ワイヤーメッシュ敷き込み工事」など、「デッキ工事」の周辺領域に手を広げ、“あらゆる建物の様々な専門工事を手掛けるスーパーサブコン”を目指しています。複数の工事を一社で請け負うことは、施工工程全体の効率化につながりますし、現場監督者であるゼネコンの負担軽減にもなります。
いま日本の建設業従事者の半数が50歳以上と言われており、あと10数年もすれば、その方々が引退され、業界の人材不足はさらに深刻化すると予想されます。しかし、当社の平均年齢は32歳ですから、20年後、30年後まで第一線で活躍できる人材がそろっています。その“若さ”も魅力ではないかと思います。
――なぜ、若い社員を集めることができているのでしょうか。
河野:いま建設業界では人手不足が叫ばれていますが、それは仕事と待遇が見合っていないことが原因だと考えます。昔から建設現場は「3K(きつい、汚い、危険)」と言われますが、それは事実で変えようがない部分もあります。であれば、高い給与やよりよい福利厚生でカバーするしかありません。何ごとも「社員ファースト」で考え、社員の意見を聞きながら待遇向上に努めています。
経営の根幹は「社員ファースト」。経常利益の2割を社員に還元し、13期連続の増収を実現
――「社員ファースト」の考えは、創業された当初から信念としてあったのでしょうか?
河野:いえ、会社の成長に伴い、徐々に固まってきたものです。起業4年目、社員が新聞に載るような事件を起こし、その影響で一気に仕事を失い、15人いた社員の大半を解雇せざるをえなくなりました。自分を責め、残ってくれた数名の社員に「会社を解散して大分へ帰ろうと思う」と打ち明けると「僕らもついて行きます」と言ってくれて。僕が21歳で、社員は17~18歳。こんなに思ってくれる仲間がいるんだったら、もう一度ふんばろうと決意しました。
この出来事をきっかけに、経営者としてもっと成長しなければならないと思い、経営の勉強に力を入れていたところ、松下幸之助の教えに出会いました。「不況の時こそ首を切るのではなく、社員の生活を守ることが大切。皆で不況を乗り越えたあと、経営者の覚悟を粋に感じた社員たちは必ず奮起してくれる」といった趣旨が書かれていて。
当初はその教えに100%共感していたわけではありませんが、社員を大切にすることで、社員自身が成長し、それが会社の成長につながることを実際に経験していくうちに、心から「社員ファースト」が経営の根幹だと思えるようになりました。
――「社員ファースト」と収益を両立させるためにどのようなことに取り組んでいるのですか。
河野:先ほどのお話の通り順風満帆でここに至ったわけではなく、さまざまな失敗や危機を経てきました。特に2008年のリーマンショック時にはメインの取引先の売り上げが約8割も落ち込み、苦しい経営を迫られました。社員の給与はカットせずに自分の報酬を最後は8割減にし、さらに本業とは関係ない引っ越しの仕事などを請け負って、何とか売り上げ3割減に抑え社員の首を切らずに3年間を乗り切りました。
この時、一緒に頑張って危機を乗り越えてくれた社員に、きちんと利益を還元する仕組みを作るべきだと考えました。そこで、経常利益の5割を会社に残し、3割を税金の支払いに、2割を社員に還元することを決めました。以来、情報をオープンにするため、年1回、社内向けに経営計画発表会と決算説明会を行い、会社の貸借対照表と損益計算書を説明して、経常利益と還元できる金額を伝えています。そこで次年度の経常利益を一つの目標として、それに連動する賞与を伝え、一人ひとりに経営感覚を持ってもらっています。この方針を採用した2011年から13期連続で売り上げが伸び続けました。今期(2024年度)は2011年比で30倍となる70億円に達する見込みです。
また、仕事とプライベートどちらも充実してほしいという思いから、働き方改革にも取り組んでいます。具体的には、部署の垣根を越えた業務シェアリング体制を構築。繁忙期に総務部が工事部門の書類作成や工務の日程調整を行い、毎日19時までに全社員が帰宅することを目指しています。このように社員の待遇の向上を図り、満足度を上げることは顧客満足度の向上にもつながると考えています。
多くの女性が働く職場。若手の活躍を支える仕事にやりがいを感じる
では、キョウエイを支える社員の皆さんは、どのような思いで働いているのでしょうか。2人の社員にお話を聞きました。一人目は、5年前に入社した中村 真由子さん。現在は課長として総務を担当されています。
――初めに、キョウエイに入社したきっかけについて教えてください。
中村:以前は鉄工所で受発注業務を担当していたのですが、建物が出来上がる過程を見るのが好きで建設業に興味を持ち、入社しました。私の主な担当は、社会保険の手続きや健康診断の予約など、社員の皆さんが気持ちよく働くためのサポート。若い社員が活躍する支えになれることにやりがいを感じています。
――会社の雰囲気はどうですか?
中村:社長が社員一人ひとりとのコミュニケーションを大切にしていて、社員から出たアイデアの実現を応援してくれます。具体的には、「時差出勤制度」や「時間単位の有給取得制度」等を導入し、家庭をもつ女性にとっても働きやすい環境になったと感じています。これほど社員と社長がコミュニケーションをとれる会社は少ないのではないでしょうか。社員同士の仲も良く、会社としての一体感があると思います。これからも皆で支え合いながらキョウエイをもっといい会社にできるよう頑張ります。
職人としてキャリアを積み、現在は取締役に。現場での信頼関係が今に生きる
次にお話を伺ったのは、取締役の森 大祐さん。2001年に16歳で入社し、10年以上職人として働いたのち、営業責任者となりました。現在は取締役として人材育成にも力を入れています。
――初めに、入社のきっかけについて教えてください。
森:愛知県出身で地元の高校に進学したのですが学校になじめず、すぐ辞めてしまいました。このままでは人生ダメになると思い、求人情報で見つけた当社に入社しました。
当時はまだ社員8名。道具を詰め込んだハイエースに、社長も一緒に乗り込んで現場に行っていました。会社が大きくなり、社屋も新しくなって社員も増え、皆が楽しそうに仕事をしている姿を見ると、頑張ってきて良かったと思います。
――業績が伸長し続けている要因はなんでしょうか?
森:2次請けではなく、スーパーゼネコンから直接仕事を受けられるようになったことが大きいです。若い人材、資材の調達から自社の職人による施工、協力会社の増員力が評価され、信頼関係を築けたことで指名いただく機会が増えてきました。
――お仕事のやりがいは何ですか。
森:営業と人材育成が主なミッションですが、営業では新規案件を獲得できたときがやはりうれしいですね。近年は、ジブリパークやレゴランドなど中部地方でもシンボリックな案件の施工が増え、地図に残る建設業ならではのやりがいを感じています。
人材育成に関しては、若い社員に向けてキャリアアップの道を作りたいと考えています。僕自身、自慢できる学歴はありませんが、キョウエイで頑張ればちゃんと稼げるようになるというモデルケースになれればとこれまでやってきました。当社の役職員は、イントラサイトで日報を公開し、どこで誰と会っていたかなど1日の仕事をオープンにしています。若い社員が不安を感じることなく自分たちの姿を見て、やる気を高めてくれたらうれしいですね。
人材獲得のために創設した陸上競技部。建設業界の課題解決をけん引したい
最後に、河野社長に今後の目標を伺いました。
河野:社員は65名(2024年7月現在)ですが、弊社から独立して起業した社員も多く、そうしたパートナー企業の力を合わせると、200名以上の規模の施工体制を整備しています。グループ全体で売り上げ100億円を突破し、5億円の経常利益を上げて、1億円を社員に還元することが直近3年以内の目標です。
――これから取り組みたいことや実現したいことはありますか。
河野:人材獲得と社会貢献を目的に2023年9月から陸上選手の「アスリート枠」採用を始め、陸上競技部を創設しました。予想以上の反響で、短距離走選手を中心にすでに3名が入社しています。選手にとっては活動費や登録費用の支援を受けることで競技を続けられるメリットがありますし、大会に参加する選手を応援することで社内の一体感の醸成にもつながります。今後は大会の主催、室内練習場やトレーニングジムの開設など、新規事業としても検討したいと思っています。中小企業から世界で活躍するアスリートを輩出し、自分たちが施工した競技場で「キョウエイ」のユニフォームを着た選手が活躍する姿を見るのが夢ですね。
災害大国である日本において建設業はなくならない仕事であり、業界の目下の課題は職人の高齢化に伴う人手不足です。「アスリート枠」に限らず、若い人材に建設業で働きたいと思ってもらえるよう、日本一働きやすい建設会社を目指します。
――本日はありがとうございました。
<取材を終えて>
オリックス名古屋支店 第二チーム 水谷 勝彦
「社員の幸福度を上げることが、会社の成長につながる」―この信念を本気で貫くことができる会社は数少ないと思います。河野社長が本気であるからこそ、社員の方々にその思いが伝わり、皆が一体となってより良い会社にしようと動いていらっしゃることを感じました。私たちオリックスは、有するネットワークを生かし、キョウエイさまのさらなる成長や河野社長の目標の実現に向け、お手伝いしてまいります。