広大な敷地に広がる、太陽光発電システム。実はここは物流施設の屋上だ。
気候変動への対策が世界的に求められる今、多くの企業が「脱炭素化」に向けて舵を切っている。その大きなカギとなりつつあるのが、「サプライチェーン(供給網)全体の脱炭素化」だ。自社からの直接排出のみならず、原材料調達・製造・物流・販売・廃棄など取引先も含めた一連の企業活動全体で、排出するCO2の削減を目指すものである。そのなかでも、物流分野に対する脱炭素化の期待は大きい。物流ネットワークの効率化や輸送車両のEV化などはもちろん、拠点となる物流施設の脱炭素化へのニーズも高まっている。
そうした社会の要請に応える物流施設として注目を集めるのが「環境配慮型物流施設」だ。今回は、オリックス不動産が手掛けた「箕面ロジスティクスセンター」と「松伏ロジスティクスセンター」の担当者から、環境配慮型物流施設が解決する課題や、テナント企業にもたらすメリットなどについて話を聞いた。
テナント企業の脱炭素化と就労環境ニーズに応える施設づくり
2022年3月に竣工した大阪府箕面市にある「箕面ロジスティクスセンター」は、新名神高速道路「箕面とどろみインターチェンジ」から約2.2kmの位置にあり、関西圏への配送はもちろん、広域への配送拠点としての利用に適した施設だ。
「箕面ロジスティクスセンターの最大の特長は、100%再生可能エネルギー由来の電力を供給できることです」。開発を担当したオリックス不動産株式会社 物流事業部第三課の森本広平はこう話す。
箕面ロジスティクスセンターは、第三者所有モデル(PPAモデル)によって屋根に約1800kWの太陽光発電システムを設置しており、発電した電力をテナント企業に直接供給。夜間や天候の影響によって発電量が不足する場合は、オリックス 電力事業部が展開する電力小売事業(PPS)を通じて、『非化石証書付き(トラッキング付き)』の電力を供給する。オリックスグループで提供するPPAとPPSを併用したこの仕組みにより、24時間365日、電源が特定できる“100%再生可能エネルギー由来の電力“が賄われるという。テナント企業には環境価値を譲渡することで、脱炭素化推進に貢献する。
また、施設内には電気自動車(EV)の充電スタンドも8基備えられており、営業車や通勤利用の車などを充電することも可能だ。こうした設備の導入により、テナント企業の脱炭素化をより後押しする。
森本は、物流業界の脱炭素化に対する取り組みが“待ったなし”の状況になっていると感じるという。
「お客さまとお話していて、『環境に配慮しない企業は淘汰(とうた)されていく』という危機感が強まっていることを感じます。箕面ロジスティクスセンターに対して『入居するだけでCO2排出量の削減を推進できることはありがたい』というお声をいただいたことがありました。自社倉庫の屋根に、独自で太陽光パネルを全面に敷くには相当なコストがかかります。箕面ロジスティクスセンターは、そうした負担なく100%再生可能エネルギー由来の電力をご利用いただけるので、その点を評価し、関心を持ってくださるお客さまが多いですね」(森本)
テナントスタッフの労働環境にも配慮されている点も、この施設の特長だ。1階の共用スペースには開放的なカフェラウンジや屋外テラスが備えられており、休憩や食事に利用できるようになっている。また、直射日光にさらされ庫内温度が上昇しやすい4階フロアには空調設備を設置。「快適な環境で働けるため、雇用にも良い影響がある」と、テナント企業から好評だという。
こうした環境価値創出や労働環境への配慮をはじめ、グループが持つさまざまなソリューションを一気通貫で提供できるのが、オリックスグループの特長だと森本は話す。
「他にも、例えば倉庫内のスペースをより有効に活用するために、オリックスの出資先で物流機器の販売・レンタルを行うワコーパレットの資材をご提案したり、オリックス・レンテックが有する自動化ロボットや装置をご提供したりなど、テナント企業の物流効率化をサポートしています。
新名神高速道路の延伸予定もあり、箕面ロジスティクスセンターは広域物流拠点としての期待が今後一層高まる立地で、まだ関西圏に拠点を構えていないお客さまにもおすすめしたい場所です。関西圏に物流ネットワークを広げたい、脱炭素化を推進したいなどのお悩みをお持ちのみなさまに、お気軽にご相談いただければと思います」(森本)
荷主企業・物流企業の環境価値を高める物流施設が求められている
埼玉県松伏町にある「松伏ロジスティクスセンター」は、箕面ロジスティクスセンターに先駆け、2019年から稼働を開始した物流施設だ。稼働から3年後の2022年3月に約1700kWの太陽光発電システムを屋上に設置し、施設内への供給をスタート。オリックス不動産が手掛ける環境配慮型物流施設の第一号である。
箕面ロジスティクスセンターと同様、太陽光発電による電力供給量が不足する場合は「非化石証書付き(トラッキング付き)」の再生可能エネルギー由来の電力を供給。テナント企業は電源の特定できる100%再生可能エネルギー由来の電力を利用することができる。
オリックス不動産株式会社 物流事業部 事業推進課でリーシングを担当する吉村唯は、この仕組みの導入経緯について次のように話す。
「松伏ロジスティクスセンター建設の計画が進んでいた2017年頃から、『サステナビリティ』に対する社会の機運が高まってきました。太陽光発電への期待も多く寄せられ、特に外資系や上場企業は早くから、荷主として自社の物流におけるCO2排出量を気にかけていらっしゃいました。
通常、賃貸物流施設に入居する場合は、自社物件ではないため太陽光発電システムを設置することができません。ですから、物流施設のオーナーであるオリックスが設置することにより、その課題を解決し、価値を提供できるのではないかと検討していました。オリックスの電力事業部が太陽光発電システムを施設の屋根に設置する仕組みを作ったことにより、グループのシナジーを生かして設置を進めていく形になりました」(吉村)
CO2排出量は年間で約970.8t削減される見込みだという。
現在、松伏ロジスティクスセンターには、アパレルや食品などを扱う物流企業などがテナントとして入居している。2022年3月前からの入居だが、やはり脱炭素化に対する関心は高く、100%再生可能エネルギー由来の電力供給は前向きに受け入れられたと同部のリーシングマネジャーである杉山修一は話す。
「物流企業にとっては、環境配慮型物流施設を利用していることは荷主へのアピールとなります。荷主が物流企業を選定する際に環境対策について確認するケースが増えていますし、今後は必須条件となってくるのではないでしょうか。そこに対応できる物流施設を提供することが求められていると感じています。
そうしたニーズに応えるため、オリックス不動産は、松伏ロジスティクスセンター以降に竣工するすべての物流施設を、100%再生可能エネルギー由来の電力供給が可能な環境配慮型物流施設として開発を進めていく予定です。例えば2022年8月に着工した「厚木Ⅲロジスティクスセンター」では、荷主や物流会社から要望の強いZEB(※1)認証を初めて取得しました。テナント企業は、環境負荷を抑えた施設に入居することで、CO2排出量だけでなくエネルギーコストも抑えることができます。
そのほかCASBEE(※2)などの外部認証も得ながら、環境負荷の低減をはじめとする環境性能全般の向上に取り組むことで、テナント企業や社会の要請に応える施設開発を推進していきます」(杉山)
※1 ZEB:高効率な設備システムの導入などにより、一次エネルギー消費量を基準一次エネルギー消費量から50%以上削減し、かつ、再生可能エネルギーの創エネルギー分を含めて一次エネルギー消費量が100%以上削減された建築物
※2 CASBEE(建築環境総合性能評価システム):省エネルギーや環境負荷の少ない資機材の使用といった環境配慮はもとより、室内の快適性や景観への配慮なども含めた建物の品質を総合的に評価するシステム
また、同部でマーケティングを担当する浦恵子は、環境配慮型物流施設への反響について次のように語る。
「松伏ロジスティクスセンターの太陽光発電システムの導入が完了した際にプレスリリースを配信したところ、『どういう仕組みなのか詳しく教えてほしい』というお問い合わせを多数いただきました。物流企業だけではなく、メーカーや小売業といった荷主となる企業からのお問い合わせもあり、業種やサプライチェーンの上流下流を問わず、あらゆる企業が脱炭素化に向けたアクションに踏み出していらっしゃることを感じています」(浦)
こうした物流施設の「脱炭素化」を求める声に応えながら、「物流施設が果たす役割の変化にも対応していく」と杉山。
「かつて、物流施設は荷物を保管する『倉庫』としての役割が主でした。しかし物流の高度化・複雑化に伴い、梱包(こんぽう)作業やシールの貼り付け作業など、対応すべきことが増えています。それにより、人手が確保しやすい環境や働きやすさ、スマート化など、物流施設に求められることも増大しているのです。
こうした物流業界を取り巻く多くの課題に対し、私たちはオリックスグループの多様な事業領域のノウハウを生かして、解決策をご提案していきます」(杉山)