今後拡大の見込み?手法の解説からトレンドまで、M&Aについて知っておきたい情報を一挙解説

[監修] 一般社団法人事業承継協会 金子 一徳
本記事は2022年11月時点の情報を元に作成しています。

M&Aとは「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」を省略した言葉であり、その通り企業の合併と買収を意味します。企業の成長戦略の一環としてはもちろん、事業承継の手段としても注目されています。この記事ではそんなM&Aの手法とそのメリット/デメリット、そしてM&Aを取り巻くトレンドや今後の見込みについて解説します。

M&Aの手法(スキーム)の分類

M&Aの手法には大きく三つ「買収」「合併」「分割」があり、それぞれの中にも細かい分類があります。この項目ではそれらの手法の紹介と、それぞれのメリットとデメリットを解説します。

買収

買収とは、ある企業が他企業の発行した株式の過半数以上、あるいは事業部門を買い取ることを指します。その分類には「株式取得」「事業譲渡」「会社分割」があります。

株式取得
買い手側の企業が売り手企業の株式を取得して株主になる方法です。取得する株式の割合によって、経営権を獲得することができ、多くは100%子会社を目指します。他のM&A手法に比べ手続きが簡便であり、売り手企業は株式売却によって現金を得られることに加え、株式譲渡益課税という比較的安価な税制度が適用されるため、売り手側が中小企業のケースで選ばれることが多いと言われます。

  • メリット
    手続きがシンプルかつ短期間で行えることが株式取得の大きなメリットです。譲渡後には経営権だけが移行し、売り手の法人格は存続します。そのため、対外的にはM&Aの前後で大きく変化することなく経営を続けることができます。また取引先や債権者の同意も必要なく、原則として許認可も承継されます。そして株式の比率調整によって、完全な子会社化から資本提携まで経営への関与レベルの調整が可能な点もポイントです。
  • 買い手側の企業の方針によっては、売り手側の企業の雇用や方針はそのままに経営をサポートし、業績の伸長を図るというケースもあり得ます。事業承継を検討している経営者にとっては、従業員の雇用を維持したまま、今後の対応を検討する際の手段としての活用も可能です。
  • 注意点
    買い手は、売り手側の企業の資産だけでなく負債も引き継ぐことになります。そのため正しく財務・法務リスクを評価しなければ損失を被ってしまう恐れもあります。逆に、売り手にとっては負債や不採算事業が影響して買い手がつかない可能性も出てきます。加えて株式取得後に新オーナーと既存従業員の間で良好な関係を築くことができず、離職を招いてしまうリスクも考えられます。

事業譲渡
土地や設備などの固定資産、特許や商標権、従業員、取引先などの無形資産などを含めた事業に関連する資産、あるいはその一部を譲渡(売却)する方法です。

  • メリット
    売り手側の企業にとっては、譲渡する事業を選択できるのが大きなメリットです。経営権を維持したまま不採算事業のみを切り離し、事業の選択と集中のための方法ともなり得ます。中小企業の場合、不動産を残して事業譲渡することにより、不動産賃貸業に転業するという手法もよく見られます。
  • 買い手側の企業としては、必要な事業だけを授受できるのがメリットです。株式取得のデメリットである「簿外債務や粉飾決算によって損失を被ってしまうリスク」の低減につながります。
  • 注意点
    事業譲渡は手続きが煩雑となり、譲渡する対象に応じて権利や義務に関する手続きが個別に必要となります。そのため譲渡対象の規模が大きければ大きいほど時間と手間がかかります。加えて許認可手続きが必要な事業においては、買い手企業が許認可を取り直す必要があります。
  • また、売り手側の企業は、会社法第21条「譲渡人は事業譲渡を行ってから20年間は、同一の市町村の区域内・隣接する市町村の区域内で譲渡対象事業と同一の事業を行ってはならない」によって、同一事業を行うことが制限されます。加えて、事業譲渡は商品やサービスの売却と同じ扱いになりますので、消費税の納付義務があること、さらに譲渡益に対して税金が課せられる点にも注意が必要です。

合併

二つ以上の企業を一つの法人格に統合する手法で、その分類には「新設合併」と「吸収合併」があります。

新設合併
合併する会社がすべて消滅し、新たな会社を設立する手法です。

  • メリット
    後述の「吸収合併」と共通のメリットとして、他社と合併することでこれまで自社が持っていなかったノウハウや販路、設備などを獲得し、企業規模の拡大や成長につなげることが挙げられます。また株主への対価として株式や社債を利用できるため、M&Aに際して現金を準備する必要がありません。
  • そして新設合併ならではのメリットとして、同業の企業同士が合併する場合、顧客や生産規模を大きく増やすことができる点が挙げられます。逆に他業種の企業同士が新設合併を行えば、経営の多角化によってリスク分散を行うことができます。
  • 注意点
    新設合併は新しく会社を設立しなければならないため、吸収合併に比べて多くの手間がかかり、多くの場合で3カ月〜1年程度の期間が必要になります。さらに、消滅する会社の権利義務は承継されるのに対し、許認可などは承継できないことがあります。また吸収合併よりも会社設立費用や行政書士に支払う費用など、大きなコストが発生することにも注意が必要です。そして、これも吸収合併と共通することとして、異なる企業文化を統合してスムーズに経営を行っていくことの難しさも挙げられます。

吸収合併
合併する会社のうち1社のみが存続し、残りが消滅する手法です。存続する会社が消滅する会社のすべての権利義務を承継します。

  • メリット
    先述の「新設合併」と共通のメリットとして、他社と合併することでこれまで自社が持っていなかったノウハウや販路、設備などを獲得し、企業規模の拡大や成長につなげることが挙げられます。また、こちらも株主への対価として株式や社債を利用できるため、現金を準備する必要がありません。
  • その上で吸収合併独自のメリットとして、各社が持っている権利や債務をすべて引き継ぐことができる点が挙げられます。従業員の雇用、取引先との契約も引き継げるため、スムーズな移行が可能です。そして消滅する会社に繰越欠損金がある場合、一定の基準を満たしていれば欠損金を引き継ぐことができ、法人税の節税効果が期待できます。
  • 注意点
    新設合併と同様、異なる企業文化の統合の難しさに加え、吸収合併の場合、吸収する側とされる側という力関係が発生してしまうため、吸収される側の従業員のモチベーションの低下が懸念されます。また消滅する会社においては株主総会の決議、債権者の意義手続きなどが必要となります。

分割

会社の中から事業部門を切り離し、別会社に継承することです。別名カーブアウトとも呼ばれ、その分類には「新設分割」と「吸収分割」があります。事業譲渡との違いは、事業譲渡の場合、買い手側が取引先との契約を再度行う必要があるのに対し、会社分割は包括承継となるため、取引先との契約も引き継がれる点が挙げられます。

新設分割
ある事業に関して有する権利義務の全部もしくは一部を、新たに設立する法人に承継させる手法です。事業の一部を子会社化したり、複数企業が事業を取り出して統合する際に用いられます。

  • メリット
    株式交付のみで実行できるため現金が不要です。また、事業に対して資産や従業員、契約などがセットで引き継がれるため、煩雑な手続きが発生しません。加えて条件を満たすことで課税優遇措置を受けることも可能です。
  • 注意点
    原則として株主総会の特別決議がいるため、事務的なコストが発生します。また権利を丸ごと承継するため、株式取得のように簿外債務、あるいは不要な資産を引き継ぐ可能性もあります。

吸収分割
ある事業に関して有する権利義務の全部もしくは一部を、他社が承継する手法です。

  • メリット
    吸収分割のメリットは基本的に新設分割と同様です。吸収分割ならではのメリットとしては、新たな会社を設立する必要がないため手続きやコストが少ないこと、そして合併同様にシナジー効果やスケールメリットが見込めることが挙げられます。
  • 注意点
    デメリットに関しても新設分割とほぼ同様です。加えて合併同様に異なる企業文化を統合する手間が吸収分割のデメリットとなるでしょう。

M&Aから見た国内の状況

国内M&Aの市場動向

ある調査によると、日本企業のM&A市場は1985年の調査開始以降、増加傾向にあります。1993年〜2006年にかけての増加はバブルの崩壊が、2008年から2011年頃まではリーマンショックや東日本大震災による国内経済の縮小により落ち込んだものの、それ以降の増加は復興事業などの影響が大きいと考えられています。

そしてもう一つの傾向として、中小企業同士のM&Aが増加していることが挙げられます。これには独禁法に抵触する懸念から大企業同士のM&Aが控えられていること、そして2006年5月1日から施行された会社法により、少数株主をコントロールしやすくなったことでM&Aの反対派を抑え込みやすくなったという背景もあります。また、最近では事業承継目的でのM&A増加も要因として考えられています。

逆に大企業においては、事業の選択と集中や、事業部門の価値創出といった経営課題に対し、会社の中から事業部門を切り離し、別会社に継承する新設分割と吸収分割のことを指す「カーブアウト」が有効な手段としてニーズが高まっています。場合によっては上場企業が企業全体を非公開化して思い切った構造改革に乗り出すこともあるなど、大胆な戦略で成長を目指す時代となりつつあるのかもしれません。

国内M&A市場が拡大している理由

この項では国内M&A市場が拡大している理由について解説します。

中小企業の後継者不足
全国約4,700の中小企業のうち52.6%が「自分の代で事業をたたむ」、22.0%の企業が「事業承継を望みつつも後継者が決まらない」という状況にあることが、日本政策金融公庫総合研究所の調査によって明らかになっています。このことからもわかるように、後継者を見つけて何年もかけて育成するのに対し、よりスムーズに承継できるM&Aは、経営者の高齢化に伴う事業承継問題の解決策としての役割を担っているのです。

M&Aサポート体制の充実化
そして昨今の中小企業M&Aの案件の増加に伴い、公的機関の事業承継・引き継ぎ支援センターのサービスの拡充や、M&Aを専門とするアドバイザリー会社の増加に伴い、より充実したサポートが簡単に受けられる環境が整っています。アドバイザリー会社も手付金なしの完全報酬型を取り入れる傾向が顕著であり、より気軽な相談が可能となっています。これはM&Aを検討する経営者にとって大きな追い風と言えるでしょう。

買い手需要の拡大
現在、M&A仲介業者のみならずマッチングサイトも登場するなど、より簡単にM&Aが行えるようになりました。これによって希望する条件でのM&A案件探しが容易となり、買い手企業の需要が拡大し続けています。

M&A支援機関登録制度
『M&A支援機関に係る登録制度』が2021年9月からスタートしました。この制度は、FA事業者や仲介業者のうち「中小M&Aガイドライン」の遵守宣言を行うことが要件となっています。大手~中堅クラスから個人事業者まで登録が広がったことにより、M&A業界に秩序が生まれ、悪質な業者などが淘汰(とうた)されていき、売り手がより安心してM&A事業者を活用できるようになるのではないかと期待が高まっています。

今後のM&A市場

今後も好調の見込み

今後のM&A市場は変わらず好調の見込みとなっており、その大きな理由としてやはり根深い「後継者不在問題」があります。労働人口が減少し続ける以上この問題解決は難しいことから、今後も事業承継としてのM&A需要は高まり続けることでしょう。

またもう一つの理由として、新型コロナウイルスの感染拡大を契機とする、2020年以降の社会の変化も挙げられます。コロナ禍の影響により、業績悪化した不採算事業や非中核事業を切り離す売却が増加しており、事業の選択と集中が続くことが予想されます。そしてその影響はより広範囲な業界再編を導き、さらにM&Aが増加するのではないかとも言われています。

適切な支援を受けることが重要

以上、M&Aの手法の数々や、国内状況などをご紹介しました。

一口にM&Aと言っても、そこにはいくつものスキームが存在しており、それぞれにメリットとデメリットがあります。自社が目指すM&Aに最適な手法を判断するのはそう簡単ではないかもしれません。

M&Aは非常に大きな決断です。少しでも悩んだときは、M&Aをサポートする公的機関の支援や、アドバイザリー会社などを頼り、適切な支援を受けることをお勧めします。

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