建設用「足場」の老舗が挑む第二創業。建設現場の次世代化をオリックスとともに進める。

1953年創業の株式会社杉孝(SUGIKO)は、建設作業現場で使用される仮設機材レンタルの業界大手である。近年は、主力の「足場」レンタル事業に加え、大手足場メーカーとの機材共同開発にも乗り出し、仮設機材のWebオンライン受注システム導入やBIM(Building Information Modeling)を活用した図面のデジタル化、建造物をVRで再現し現場の安全対策や業務効率化に応用するなど、先進的な技術も次々に導入している。

現在800人以上の従業員を抱え、新規事業を始めとした新たな取り組みへ挑戦し続ける同社は、2020年12月にオリックスへの株式譲渡を発表。そこには、今後のさらなる飛躍に向けて、「オリックスとともに歩む」という経営陣の決断があった。

業界の老舗であるSUGIKOは、なぜ事業拡大に向けたパートナーとしてオリックスを選んだのか。そして、その決断は社内にどのような変化をもたらしたのか。同社代表取締役の杉山信夫社長と取締役の杉山亮副社長、またオリックスの同社担当として取締役を務める長谷川聡に話を聞いた。

足場用丸太の小売から時代に合わせて業容を変化

株式会社杉孝 代表取締役 杉山信夫社長

――まず、SUGIKOの成り立ちについて教えてください。

杉山社長:当社は元々、足場用丸太の小売業として創業しました。石油コンビナートや発電所などプラントのメンテナンス会社向けに足場用の丸太を販売していたのですが、当時は購入するのが当たり前で、足場のレンタルというビジネスモデルもなかったと思います。あるときお客さまから足場の資材を貸し出してもらえないか?というお話をいただきました。当社には「貸す」という概念はそれまで全くありませんでしたが、レンタルのニーズが高いことが分かり、1972年からレンタル事業を開始しました。
最初は、レンタルそのものが分からないお客さまが多く、レンタルとは何かから説明して回る日々でしたが、必要な時に必要な分だけ調達できる方法は、お客さまのニーズに合致していました。

その後レンタル業を主軸としてきましたが、近年は、製品開発にも携わっています。アルインコ株式会社が開発した「アルバトロス」は、強度・安全性を確保し、軽量でコンパクトかつ、広い作業空間が確保でき、多様な工事・工法に対応できる効率性も重視した次世代型の足場です。当社は開発にあたり、足場の機能や工法に関する技術面においてアドバイスさせていただきました。

――先鋭的な動きも取られているそうですね。

杉山社長:そうですね。建築物をコンピューター上に3Dで再現し、設計や施工、維持管理に必要な情報を一元管理する「BIM」も業界で先駆けて取り入れ、建設現場の業務効率化に貢献できるよう、積極的なデジタル化を推進してきました。また、現場の安全教育のために、VR(仮想現実)技術を用いた危険体感の教育サービスも提供しています。

厚生労働省の調査によれば、年間で1万5000人近い方が労働災害によって死傷されており、うち建設業は、最も亡くなられる方が多く(厚生労働省「令和3年 労働災害状況」)、その最多の原因は「墜落・転落」です。建設現場での事故削減には、我々の提供する「足場」の果たす役割が非常に大きいわけです。ですから、我々もただ製品を提供するだけではなく、広範な視野を持って事業の多角化やサービス品質の向上に取り組む必要があると考えています。

(左)アルバトロスを使用したBIMモデル(右)SUGIKOが開発した『危険体感VR』

足場を通して安全性と効率性を提供する。経営理念「上質即利」の実践

――SUGIKOの経営理念「上質即利」とはどういった考え方なのでしょうか。

杉山社長:「上質」は、昨日までの私たちとの比較を意味します。「昨日よりも良い質を提供する」ことを指しています。「利」は自社の利益ではなく、お客さまの利益のことです。「昨日よりも上質なものを提供すれば、お客さまの利益につながる」という意味です。「質」とは、自社で判断するものではなく、お客さまに判断いただくものです。お客さまに判断いただき、お客さまの利益が上がれば、信頼を得られ、それが巡り巡って、自社の利益にもつながる。お客さまとwin-winの関係を築くことが、会社として成長する正しい道だということを「上質即利」の4文字に込めています。

では、「上質」とは何か?それは「安全性」と「効率性」の二つに集約されると思います。先ほども申し上げた通り、建設業は労働災害の多い職場です。人命第一、安全性が最優先なのは言うまでもありません。一方で、いくら安全だからといって「重た過ぎる」「スペースを取る」「組み立てが面倒」といった製品では、現場の業務効率を大きく下げてしまう。「安全性」と「効率性」のベストバランスを追求して、足場そのものやサービスを進化させ続ける役割が、SUGIKOには求められています。

社長室には「上質即利」の書が。若手からベテランまで、品質を追求する同社の姿勢が浸透している。

――他に、同業他社にはないSUGIKOならではの“強み”と言えるものはあるでしょうか?

杉山社長:創業時から石油コンビナートや発電所などのプラントを中心に足場を提供してきたことです。そうした施設の現場は、高い安全基準が求められます。構内ルールも厳格で、足場そのものだけでなく、デリバリー・図面・施工計画など、付帯業務の品質まで厳しい基準が設けられています。そういった、当たり前のように高品質が求められる現場で鍛えられ、その経験に基づくサービスが評価されて、現在はゼネコンを中心に全国のさまざまな建設現場からご要望をいただくまでになりました。

足場は、あらゆる建設現場に必要なもので「現場の安全は足場にあり」と言っても過言ではありません。いわば「インフラを作るために必要なインフラ」です。影ながら社会を支えているものですが、工事が終わったら即時にすべて取り払われ、跡形もなくなる。必要とされたらどんな現場にも駆けつけ、終わったらサッと引き上げる、そんな姿が私はなんだか格好良いと思っています(笑)。

さらなる事業の進化に向けて、オリックスと資本提携

――お話を伺っていると、これまで順調に成長を続けられていると思います。なぜ、オリックスからの出資が必要だったのでしょうか。

杉山社長:順調な成長を続けてきた一方で、ここからさらに事業を拡大していくためには資本と人材の確保が急務でした。当社が提供する資材は他社に比べても高品質ですから、それらの買い替えや補充にも投資が必要です。

また、これらの投資を続けていくためには、同業他社と差別化を図る動きも不可欠です。品質に自信ありとはいえ、レンタル業だけでは進化は止まる。その分野に長けた人材を採用することによるデジタル化推進や新規事業開発は避けて通れない命題と考えていました。

資本については、「株式上場」という選択肢も考えましたが、株式の買い占めや敵対的買収のリスクが常に存在します。「上質即利」という理念を維持するには、そういったリスクはできる限り避けたいと考え、上場は見直すことにしたのです。

――なるほど。オリックスとの出会いや、資本提携を受け入れる決め手はなんだったのでしょうか。

杉山社長:一緒に事業を拡大していくパートナーはいないか。そう模索していたところ、オリックスからお声がけをいただき、詳しくお話を伺ううちに、一緒にやっていけると確信しました。具体的な判断材料として大きかったのは、まずオリックスが独立系の事業会社であるため、当社のこれまでの取引先にも影響がありません。また、企業として非常にクリーンなイメージもありました。

何より、オリックスの祖業が「リース業」であることも大きなポイントでした。「貸す」というビジネスモデルに対する深い理解があるということは、当社の業界での立ち位置や現状の課題などについても相互理解がしやすく、課題の解決方法などについても有益な提言が得られるのではないか、と考えたのです。

また、出資後も会社の文化やマインドは変えるつもりはないという方針にも共感できました。50年以上培ってきたものはそのままに、さらなる成長が図れる。ベストなパートナーだと思いました。

オリックス株式会社 事業投資本部事業投資グループ ディレクター/株式会社杉孝 取締役 長谷川聡

――オリックスとしては、SUGIKOのどんなところに魅力を感じたのでしょうか。

長谷川:まず前提として、建設業界は高度経済成長期以降に建てられた社会インフラやプラントの修繕の需要などが今後も続き、2050年頃までは安定して業界の成長が推移していく見通しの良い業界です。ただ一方で、職人の高齢化にともなう深刻な人手不足という課題もある。デジタル化による省人化や効率化のニーズが、今後高まっていくのは確実です。
また、足場業界の現状について言えば、安全性の高い次世代型足場が登場し、従来型の足場との置き換えが急ピッチで進められているところです。さらに、BIMを始め建設図面のデジタル化も進められており、目下、各社が対応を迫られています。

つまり、ちょうど足場業界は「次世代足場」と「デジタル化」という転換期にあり、この二つのトレンドにいち早く向き合い、真剣に取り組んでいたのがSUGIKOでした。そして、次世代足場の入れ替えはもちろん、デジタル化のためのシステム構築や専門性の高い人材の確保には、資金が必要になります。そこにオリックスの資金を充てることができれば、先を見据えたSUGIKOの事業成長を止めることなく、むしろ加速させることができるのではないかと考えました。

このように、これまでSUGIKOが築き上げてきたものを軸に、さらなる成長を図ることを考えていましたので、オリックスとしては、SUGIKOの企業文化や事業モデルを変えるつもりはありませんでした。

オリックスとともに、建設現場の変化に適応する

――提携後にオリックスのアセットを活用して進められている実際の取り組みにはどんなものがあるのでしょう?

杉山副社長:いくつかあります。まず事業面では、BIMを活用した一気通貫のシステムづくりです。ここ数年、業界全体が確実にBIM化に向かっているので、弊社も早期に取り組む認識を持ってはいましたが思うように進行しておらず、会社として十分に注力できていませんでした。しかし、BIM時代の到来により、ビジネスモデルの変革が求められる世界が確実に来るという予見と、BIMに関わる投資は目先の採算に囚われずに実施すべき、というオリックスからの強い後押しを受けて、私が管轄する新しいプロジェクトチームが発足しました。プロジェクトの推進に当たっては、オリックスのベンダーの選定方法やプロジェクトマネジメントの手法などについて具体的なアドバイスをいただけたことで、BIMを軸とした業務フローを構築するためのプロジェクトをスタートできました。現在は、人材面などにも投資を進めています。

※建築物を3Dモデルで再現し、設計・施工・維持管理に必要な情報を一元管理するシステム

また、3Dスキャンサービスの実用化に向けても動き出せています。3Dスキャンは、特殊な測量機器を用いて建物をスキャニングすることで、立体的なデジタルデータが取得できる技術です。たとえば「増改築を繰り返したことで建設時の図面が役に立たなくなってしまった」というような場合に効果を発揮します。スキャンしたデジタルデータをBIMに取り込むことで、3Dでの足場計画が可能になり、見える化が進みます。業務の効率化が図れるのはもちろんのこと、経験の浅い職人でも正確に足場を組むことができるようになります。

ただ、当社が得意とするプラント施設などの現場は、秘匿性が高く、スキャニングの実験などはそう簡単にはさせてもらえません。そこで、オリックスが有する「吾妻木質バイオマス発電所」を実証実験の場として提供いただけたのです。現在、販促ツールが完成間近なので、この技術を活用した足場の図面設計サービスをこれから拡大していこうと考えています。

株式会社杉孝 取締役 杉山亮副社長

長谷川:経営面では、評価制度や給与制度も見直しました。これまで独立系のオーナー企業として、SUGIKOは独自の人事制度を採用していました。しかし、今後さらに事業を拡大し、人材を増やしていくことを考えると、より分かりやすく、社員の納得感を得やすい評価・人事制度を導入した方が良いと判断したのです。

また、教育制度の改革にも着手していて、オリックスのファイナンスの知識や業界の分析手法などを社員の方々に伝え、一人一人のビジネスパーソンとしての地力を育成し、組織全体のレベルを底上げすることを目指しています。

また、SUGIKOの仮設機材を保管する機材センターが全国に20カ所ほどありますが、そこにオリックス・レンテックが扱うロボットを導入して、自動の運搬・洗浄プロセスの構築も検討しています。品質管理など重要な業務は人間が担当し、単純作業はロボットに任せる。より効率的でスマートな機材管理を実現したいと考えています。

――最後に今後の展望についてお聞かせください。

長谷川:SUGIKOのこれからについて、社長と副社長とはよく「足場を含む仮設に関わる業務遂行を全部任せてもらえるアウトソーサーになりたい」と話しています。建設業界の人材不足が進む中で、ゼネコンはこれまで自社でやっていた業務をどんどん外に任せたいというのが本音ではないでしょうか。そうした要望に応えるためにデジタル化をさらに進め、ハードとソフトの両輪で事業を拡大していきたいですね。業界内で頭一つ抜けた存在になりたいと考えています。

杉山副社長:これまで積み重ねてきた安全性と効率性への想いはそのままに、業界の変化に適応し続けられる会社にしていきたい。変化のスピードが速く、先行き不透明な時代でもありますが、その分、ビジネスチャンスも多くあると感じています。それをオリックスと一緒に形にしていきたいと考えています。

杉山社長:現状もすでにそうなのですが、オリックスには経営企画にどんどん入ってきてもらいたい。自分たちだけでずっとやってきたので、さまざまな経営リソースを持っているオリックスのアドバイスには、ハッとさせられることが多くあります。足場のレンタルも今検討している事業もすべてはお客さまにとっての利益の追求が原点であり、これからはオリックスと建設業の課題解決を進めていきたいと思っています。創業から70年余り。まさに今が、当社の第二創業期ですね。

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