「BCP(事業継続計画)」から考える、企業に必要な意識変革−平時の備えがビジネスの価値を高めるオリックスの事例

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photo:Getty Images

[Publisher] ORIX Group

近年続く甚大な自然災害、そして2020年の新型コロナウイルスの感染拡大。生活を一変させるような出来事に、私たちは対応していくことが求められている。ビジネスにおいても同様だ。しかし、企業は人々の生活を支えるために事業活動を継続しなければならない。そのためには、有事を前提とした、変化に強い柔軟な適応力が必要となる。

そこで、今改めて注目を集めているのが、「BCP(事業継続計画)」、「BCM(事業継続管理)」。これらは一体どのようなもので、どのように取り組めばよいのか。オリックスグループ全体のバックヤード業務を担う「オリックス・ビジネスセンター沖縄」(OBCO)の事例も踏まえながら、対策のポイントについて、BCP/BCM策定・構築支援アドバイザーの昆正和氏に話を聞いた。

“経営的な視点”から災害への対応を考える「BCP」

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――2020年、世界は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)に陥りました。日本でも多くの企業が影響を受け、事業転換を図るなど生き残りをかけて試行錯誤していますが、BCP/BCMの専門家としてこの状況をどう見ていますか。

:ここ10年を振り返ってみると、2009年の新型インフルエンザ、2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震など、日本は感染症の流行や大きな地震にたびたび見舞われてきました。そしてそれらの間を埋めるように、台風や豪雨といった気候変動の影響による災害も襲来しています。こうした経験から、日本企業の有事に対する危機意識は年々高まっていたと思います。

しかし、それが実際のアクションに結びついておらず、「備えの必要性は理解していても、具体策の着手を先延ばしにし、無防備なままにコロナ禍の影響を受けてしまった」というのが多くの日本企業の実情だと感じています。

――必要と分かっていながら、なぜ準備を先延ばしにしてきたのでしょうか。

:BCPを含め、ここで言う“準備”や“備え”とは平時の事業プランが災害などで機能しなくなったときに発動する「バックアップの事業プラン」だと思ってください。「そんな不確実なもののために、コストをかけられない」というのが企業の本音だと思います。

しかし、無防備では“10”の被害が出てしまうところを、日頃の備えをきちんとしておくことで“5”や“1“に抑えることができるかもしれません。長い目で見ると企業としての競争力につながる、という考え方もできると思います。

――そもそもBCPとは具体的にはどのようなものなのでしょうか。災害対策というと「防災マニュアル」や「防災計画」を準備している企業は多いと思いますが、それらとはどんな点で異なるのでしょう。

:BCPとは「Business Continuity Plan」(事業継続計画)の略で、“経営的な視点”が入っているという点で、単純な災害対応のマニュアルとは異なります。例えば大地震が起きたとき、生産ラインの停止や、社員の避難など、物理的、人的ダメージを最小限にとどめるだけであれば防災マニュアルで十分かもしれません。

しかし現実には、災害などが収まったあと、いかに速やかに企業活動を再開できるか、どれだけ以前と同じレベルで事業を継続できるかが企業の存続の明暗を分けます。有事でも企業活動を維持し、存続に必要な利益をあげられるようにするための事業計画書がBCPです。

BCPを“宝の持ち腐れ”にしない、これからのビジネスに必要な「BCM」

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――事業継続の話題のなかでは「BCM」という言葉も聞きます。BCPと比べてあまり聞きなじみのない言葉ですが、こちらはどのようなものなのでしょうか。

: BCMは「Business Continuity Management」(事業継続管理)の略で、「BCPを生かすための平時の活動」のことです。BCPを作成したことに満足し、それっきり何年も放置したままという企業も少なくなく、それではいざ災害が起きたとき、内容が古く役立たないということになりかねません。また、有事の際に、ぶっつけ本番で実行しようとしても、うまく機能しないでしょう。日頃からBCPを活用するための準備、つまりBCMが大切なのです。

――具体的にどんな準備をすればいいのでしょうか。

:大きく三つあります。一つ目は「メンテナンス」。毎年1回程度、年度始めの4~5月頃に「BCPの記載内容」「担当者の異動の有無」など内容を総ざらいし、更新してください。

二つ目は、「訓練と意識付け」。年に一度の防災訓練や避難訓練に加え、安否管理訓練などを行うと効果的です。また、「地震で工場が火事」「輸送道路が通行不能」などさまざまな状況を想定した議論も重要です。

そしてBCMのポイント三つ目は、「BCPの監査とレビュー」です。「監査」はBCPの内容を第三者にチェックしてもらうというもので、外部の専門家に依頼するのがベターです。「レビュー」はトップ自身が経営的な目線から評価することです。トップが関与しなければ、確実に形骸化していきます。

――BCPを「宝の持ち腐れ」にしないためには、BCMが大切なんですね。

:その通りです。BCMにはほかにもさまざまな手法がありますが、すべてを一気にやろうとすると手一杯になってしまうので、まずは前述の三つのポイントを継続的に行うようにしてください。それだけでも大きな効果があると思います。

 事業に優先順位をつけて効果的なBCMを実践

「平時からの意識した行動」が功を奏した例がある。「オリックス・ビジネスセンター沖縄」(以下、OBCO)の取り組みだ。オリックスグループのバックオフィス業務を一手に担う会社で、沖縄県内にある三つの事業所を合わせ、約800名の社員が勤務している。縁の下でグループ全体の業務を支える同社は、2018年からBCPの強化、改善に注力。2020年の新型コロナウイルス感染症拡大の中でも、影響を最小限に抑えることができたという。

「OBCOの取り組みのポイントは、インシデント(出来事)の発生可能性と、業務継続の優先順位の見極め」と語る、同社の第四事業部 部長 上地陽子氏。沖縄とオンラインでつなぎ、昆氏にも同席いただき話を聞いた。

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オリックス・ビジネスセンター沖縄株式会社の上地陽子氏

――なぜOBCOはBCPの強化、改善に力を入れているのでしょうか。

上地:そもそも沖縄は、土地柄台風の影響を大きく受けます。2015年に働き方を広げるために導入した在宅勤務制度によるテレワークの拡大、事業所ビル内の宿泊施設の利用など、人の移動が制限される状況下においても事業を継続するための体制を強化しています。昨今では、台風以外のインシデントも見据え、より柔軟かつ安定した対策が実行できるよう、既存のBCPの見直しを随時進めています。

――具体的にどのような手順で改善を行ってきたのでしょうか。

上地:まず、県内および自社で発生したインシデントを過去10年分洗い出し、対策を強化するポイントを明確にしました。そしてOBCOが担うすべての業務を「財務」「コンプライアンス」「顧客信頼性」「取引先」という四つの観点で事業への影響を評価し、有事の際に優先的に維持・継続すべき「重要業務」をリスト化しました。

あらゆるインシデントに対応するBCPを一気に策定するのは、膨大な労力とコストがかかってしまうため、発生する恐れの高いインシデントを見極め、業務継続の優先順位をつけて、実用的かつ効果的なBCPの策定、BCMの実践を行っています。

――現在のコロナ禍では、事業継続のためにどのような対策をとられているのでしょうか。

上地:弊社の業務は、独自のマネジメント手法(※1)がベースとなっています。「業務」と付随して行われている「作業」をすべて「可視化」し、「計測」「分析」「改善」を繰り返すことで生産性をアップさせるというものです。この仕組みが以前から確立されていたことで、全職員の業務マネジメントの一元管理が可能になりました。

また、社員ごとの業務の繁閑差をなくしながら、ジョブローテーションを実施することで、万が一社内で感染者が確認されたとしても業務に支障が出ない体制を整えています。属人化されている業務を減らし、スキル保有者を増やすことは、全体効率の改善にもつながると考えています。

(※1)ECOまるマネジメント
効率よく働くための業務の可視化計測ツール「ecoまるアーツ」によって、全職員が出社から退社までの「業務」と、付随して行われている「作業」を計測し、「可視化」「計測」「分析」「改善」を繰り返す独自のマネジメント手法のこと。

常日頃の“職場環境と経営課題の改善”と“トップの意識”がカギ

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――昆さん、OBCOの有事に対する取り組みをお聞きになっていかがでしょうか。また、これから有事に対する取り組みを始める企業へのアドバイスをお願いします。

:OBCOの事例は、過去のリスクの洗い出しをして対策のポイントを絞るなど、とても理にかなったBCPの策定方法だと思います。テレワークをはじめとした台風への対策が、今回の新型コロナウイルス感染症拡大の対策にも役立っていますね。またBCMがうまく機能しているといえます。

OBCOのように、有事の際の事業継続性を高めるヒントは、日常業務にあるといえます。先ほどお話しさせていただいたBCMの考え方、つまり「平時にどれだけ有事を意識した行動ができるか」がやはり重要になります。ですので、まずは日常業務や経営課題の改善から始めることをお勧めします。

企業価値や顧客からの信頼は一度失ってしまうと簡単には取り戻せません。先行きの不透明な、変化の早い時代だからこそ、業種、企業規模を問わず、すべての企業があらゆる状況を意識した取り組みを進めていただきたいと思います。

――本日はありがとうございました。

【このお話を聞いた人】

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相澤良晃:1983年、秋田県生まれ。大学卒業後、古本屋、出版社アルバイトなどを経て、2009年に東京・神保町にある編集プロダクション株式会社デコに所属。雑誌、書籍、企業パンフレット、ウェブサイト記事などの編集制作に携わる。2018年からフリーランスの編集者・ライターとして活動中。

サステナビリティ

事業を通じた社会課題への貢献

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