医療に専念する体制をサポートし、医療を未来につなぐ〜事業承継とオリックス〜

労働人口の減少が進む日本では、多くの中小企業が後継者不足に悩み、「事業承継」を課題としている。それは、医療の現場でも同様である。近年は、後継者不在の病院やクリニックの事業承継の手段としてM&Aが選択されるケースも見られるが、一方で「自院への想いはしっかりと引き継げるのか」と不安を抱く経営者も少なくない。

1993年に新宿で開業し、内科・循環器内科を中心とした外来診療から、企業健診などの予防医療にも注力をしているヒロオカクリニック(医療法人社団 順正会)。オリックスは、2019年よりオリックスの連結子会社で医療機関向け経営支援サービスを手掛ける株式会社CMCを通じて、事業承継のサポートを行っている。

当時ヒロオカクリニックが抱えていた課題から、ヒロオカクリニックが考える地域医療、予防医療への想いについて、同院の田原稔院長と、オリックス 国内事業推進部ヘルスケアソリューション第一チームおよび株式会社CMC所属で現在ヒロオカクリニックの副事務長を務めている西澤博之に話を伺った。

クリニックが担う役割と築いてきた文化を維持しながら、次のステージへ

医療法人社団 順正会 ヒロオカクリニック 理事長/院長 田原稔氏

――はじめに、ヒロオカクリニックの概要について教えてください。

田原 新宿御苑に臨む新宿二丁目で、1993年に開業したクリニックです。内科、循環器内科、糖尿病内科、消化器内科、外科、皮膚科、整形外科などの幅広い外来診療を行うとともに、併設する健診センターで企業健診や人間ドックを積極的に受け入れるなど予防医療にも注力しています。

この地域でいわゆる“かかりつけ医”の役割を担っていた病院の閉院を受け、当時その病院に勤務されていた外科医の弘岡泰正先生が、その奥様で内科医の弘岡順子先生と一緒に立ち上げたのが当院です。

当初は、小さな雑居ビルの2階で診療していましたが、患者さんの増加に伴い、健康診断の要望も増えてきたことから、フロアを増やして健診事業も手掛けるようになりました。そしてそれも手狭になり、2010年に現在の場所に移転。幅広い診療科目で地域医療を担う外来部門に人間ドックも受けられる健診センターを併設したクリニックとして生まれ変わりました。以来、外来と健康診断という2軸で地域の健康をサポートしています。

私は以前、弘岡先生と同じ大学病院に勤めていたご縁から、2006年から院長として診療にあたっています。

現在のクリニック内観。待合スペースは明るく、ゆったりとしている

CMCのサポート開始後入替を行った健診用の医療機器の一部。写真左の超音波検査診断装置(エコー)は最新型のもの

――地域の頼れるクリニックとして、順調な運営が続いているように感じましたが、どういった経緯から事業承継を課題として意識するようになったのでしょうか。

田原 開院以来、弘岡先生ご夫妻が「昼は診療、夜は経営管理」と経営の舵取りもされていました。お二人ともフル回転されていたのですが、70歳を超えた頃から体力的なことをはじめ、さまざまな面で無理が生じるようになっていたのではと思います。

それで2018年、「引退するので理事長を継いでもらいたい」と弘岡先生からお話があったのですが、「これまでお二人でやられていたことを、私ひとりでこなすことは到底できない」と最初はお断りさせていただきました。それを機に、経営をサポートしてくれる医療機関や企業を幅広く探し始めました。

――数ある候補の中から、オリックスとCMCを選ばれたのはなぜでしょうか。

田原 まず、会話を重ねていく中で、オリックスの「予防医療」への思いに共感できたからです。

西澤 日本は罹患(りかん)すると誰でも平等に保険診療を受けることができます。今でこそ健康管理への意識は浸透してきていますが、予防医療はあまり注視されていませんでした。特に若い方は必要性を理解はされても、自分ごととして捉える方は多くはないと感じています。

今後も高齢社会の進行が見込まれ、予防医療の必要性はますます高まると考えています。オリックス自身が医療行為を行うことはありませんが、事業運営ノウハウを生かし医療機関の経営をサポートしていくことで、予防医療に貢献したい。さらにはオリックスのお客さまである中小企業の経営者・従業員の健康管理もサポートしていきたい。そう考え、2017年に最新機器を用いたがんの診断で実績のある宇都宮セントラルクリニックの運営サポートをCMCが開始するなど、近年予防医療分野に注力しています。

オリックス株式会社 国内事業推進部ヘルスケアソリューション第一チーム 西澤博之

田原 このようなオリックスの考えを聞いて、一緒に頑張っていけると思いました。そしてもうひとつ、「現在の体制を変えずに、次のステージに発展させていく」という方針が、決め手になりました。

弘岡ご夫妻は「現状のままクリニックを残したい」という希望を強くお持ちでした。特にこれまで運営を支えてくれた従業員全員を継続雇用することを条件とされていて、それを承諾してくれたことが大きかったと思います。

西澤 オリックスとしても、田原先生をはじめ、従業員の方々全員に残っていただくことが理想的だと考えていました。クリニックが続いていくためには、やはり患者さんとの信頼関係が何よりも重要です。

これまで培ってきた地域との関係、弘岡先生たちが築かれてきた文化を大切にしながら、予防医療事業を発展させていく。今後も地域に根差した医療を提供していく。そうした方針を十分に理解いただきました。

コロナ禍をバネに、これまで以上に医療に専念できる体制を構築

――オリックスとCMCのサポートを受けて、実現した取り組みについて教えてください。

田原 一緒にやっていきましょうとなったのが2019年の末だったので、その直後から、新型コロナウイルス感染症の流行が始まった形になります。当院も大きな影響を受け、最初の緊急事態宣言が出された2020年の4月、5月は外来部門の患者さんが激減し、健診部門は各健康保険組合が感染を懸念して健診を停止したことから、前年度の半分以下にまで売上が落ち込みました。

苦しい状況にあって、サポートいただけるのはありがたかったですね。具体的には、事業計画の策定、規程整備、資金調達、採用活動、医療機器の仕入れ先との交渉など、多面的に経営を支援いただいています。

――なるほど。田原先生やスタッフが医療に集中できる体制を整えているわけですね。

田原 はい。大きな社会の変化の中にあっても、これまで以上に医療に専念できる体制になったと感じています。

たとえば、これまでは来院順に診察をしていたため、20人以上の患者さんが待合室でお待ちいただくようなことも珍しくありませんでした。今ではオンラインでの診療予約システムの導入や院内改装により、外来と健診の導線を改善することで、なるべく患者さん同士の接触を減らせる仕組みにしました。結果として、待ち時間も削減されるようになりました。

さらにオンラインでの診療も始めました。来院時のコロナ感染リスクを考慮してのものでしたが、通院に係る移動負荷と時間のハードルを下げることで、こちらも日常的により良い医療を届ける、ということにつながっていると感じています。西澤さんと今後の経営方針について相談する中で、新しいクリニック経営というものについて私自身、多くのことを考えさせられました。

西澤 オリックスには、多様な業界のさまざまな企業の支援をしてきた実績があります。さらにグループのネットワークを活用して、お付き合いのある企業さまの従業員の健康診断をCMCを通じて紹介するなど営業面のサポートもしています。こうした取り組みが実を結び、現在では健診事業はCMCのサポート前の1.7倍まで成長しました。

テレワークが浸透したこともあって、外来の患者さんはコロナ以前の水準までには戻っていませんが、自由診療も含めた多様なニーズに応えられる体制を整え、クリニックとして新たなステップに進んでいければと思います。

予防医療の普及を目指し、診療体制のアップデートとこれまで以上の信頼関係を

診察室での田原院長

――最後に、今後の展望について教えてください。

田原 日々、患者さんと接する中で、「もっと早く健診を受けてくれていれば……」と感じることも少なくありません。「予防」は「治療」とは違って、目に見える、身体で感じられる変化があるわけではありません。そこを自分ごと化して意識していただくためには、医療と患者さんの間の信頼関係が重要です。健診を受けることの重要性をより広く、多くの方に伝えていきたいですね。

途切れることなく、社会の変化に合わせてアップデートした医療を提供し続けることで、信頼を築いていく。今回のオリックスとCMCのサポートで、それが実現できていると感じています。

西澤 オリックスとしては、ヒロオカクリニックのように、予防から治療まで一貫した医療を提供する地域に根差した医療機関が増えていくことで、予防医療の推進につながると考えます。宇都宮セントラルクリニックとも連携して、とくにがん領域において、健診から診断、治療までをシームレスにつないだ医療を提供していきたいと考えています。オリックスの事業運営ノウハウを生かし、これからも予防医療に貢献していきたいと思います。

田原 本音をいえば、「本当にいまの体制を維持できるのか、クリニックとして成長できるのか」と多少の不安もありましたが、杞憂でした。この数年、西澤さんと一緒にやってきてよかったと思っています。やはり経営や営業はプロに任せて、医者は医療に専念する。それが質の高い医療を提供することにつながり、患者さんのためにもなります。予防から治療まで一貫して責任をもつ地域密着の医療機関として、これからも西澤さんと二人三脚で頑張っていきたいと思います。

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