[Publisher] ORIX Group
本コンテンツは日経BP社の許可により「日経ビジネスオンラインスペシャル」(2018年8月掲載)から一部抜粋して掲載しています。禁無断転載
「もはや廃業するしかないのか――」。こうした悩みを抱える中小企業オーナーは少なくない。地域で長く経営を続け、事業そのものは安定している。しかし、後継者がいない。オーナー自らが限界まで経営を粘り続けて廃業という幕引きを図らざるを得ないのか?
解決策として考えられるのがM&Aによる株式売却や事業譲渡だ。信頼できる買い手に会社や事業を譲り、これまで築き上げてきたものを残したいという中小企業オーナーのニーズは高いが、“競合先に吸収される”という意識から同業者への売却をためらうオーナーも多い。一方、M&Aの主要な買い手側からは、M&Aを行うにあたり相応の事業規模や短期的な利益成長が求められがちで、そもそも中小企業の受け皿がないという現実もある。
後継者を見出し育てるまで「もう少しの時間的猶予」があれば、その企業の価値を未来につなぐことができる。そうしたビジョンのもと、中小企業向けの本格的な事業承継支援に乗り出したのがオリックスだ。全国に広がる拠点網をフル活用して、全く新しい形のパートナーシップをオーナーに提案する。最大のポイントは、買い手を探すのではなく、オリックス自らがオーナーから株式を譲り受け、自らの事業として行いつつ、中長期的な視野で企業価値の持続的向上を図ることができる体制づくりを目指すことだ。
一般的なM&A仲介業者やファンドとの違いはどこにあるのか? またオリックスだからこそ、中小企業の事業承継を実現できる理由とは? オリックス株式会社 常務執行役 国内営業統括本部長 松﨑 悟氏が語る。
業績は安定しているのに廃業に追い込まれる中小企業に打開策を
経営者の高齢化が進む中で、後継者がいないことに悩む中小企業は多い。そもそも、多くの中小企業は、オーナーの属人的な手腕が企業価値の源泉となっていることも多く、それらを含め、後継者へのバトンタッチが難しい。そのため、特徴ある独自技術やサービスを有しており、業績は決して悪くないにも関わらず廃業を余儀なくされる、というケースも少なくない。
「長年にわたって地域に根ざし、雇用の創出とともに、地元の発展に貢献してこられた企業がなくなってしまう。その社会的損失は、図り知れません」
オリックス株式会社 常務執行役 国内営業統括本部長 松﨑 悟氏はそう切り出し、以下のように続けた。
「いま『地方創生』や『地方経済の活性化』が、焦眉の課題となっています。その意味で健全な中小企業の存続は、大きな社会的課題なのです。もちろん、先代社長が積み上げてきた経営基盤やノウハウを受け継ぐべき後継者の育成には、相応の時間を要します。また『親族外承継』を図る場合には、株式の譲渡や、経営資産および借入金の引き継ぎなどクリアすべき問題も山積みです。簿外債務や不払いの税金などの会計・税務上のリスク、コンプライアンス体制の構築なども、企業規模に関わらず、大企業と同様に解決すべき課題がたくさんあります」
さらに、企業が今日まで築いてきた技術や人脈など、複雑化した無形の資産を引き継ぐ必要もある。だからこそ、計画的かつ戦略的な事業承継プランが必要だ。オリックスならそれを具現化できる――。同社が中小企業の本格的な事業承継支援に乗り出した理由がここにある。
企業に寄り添う姿勢で事業承継を
オリックスが取り組む事業承継支援は、“事業承継したいが、人材がいない、または、育っていない”、“納得のいく買い手が見つからない”、“タイミングを見定めたい”など、閉塞した状況を打破するために必要な時間的猶予を創出するプラットフォームを全国の中小企業に提供するものだ。オーナーはオリックスに株式を譲渡しつつ、これまでの良き企業文化はそのままに、事業を続けながら後継者を育てる、あるいは適切な事業承継のタイミングを見定めることができる。
「私たちの基本姿勢は、近視眼的な収益や成長を期待するのではなく、むしろこれまで続けてこられた事業の継続に注力する、ということです。当社の自己資本を投下するのは、当社自身もリスクを取って、その会社の側に立つということにほかなりません。当社が自らの資本と人材、ノウハウをもって事業承継に共に取り組む点が最大の特長で、単に仲介やビジネスマッチングを行うものとは全く異なります。対象企業の事業規模ですが、少なくとも年間数千万円レベルの利益がある企業であれば、業種を問わず、その事業承継をお手伝いしていきたいと考えています」
また、経営をサポートする上で、必要に応じて人材の駐在も行うが、ここでも外部からあれこれと注文を出すのではなく、「“いつもそばにいる存在”として、寄り添う姿勢を大切にしたい」としている。特に、オーナーの個人的資質への依存度が高い中小企業において、次の経営者がスムーズにバトンを受け継ぐためには、経営と事業の透明性を確保することも重要だ。組織には、内部にいると逆に見えないこともある。ここでも、さまざまな企業と関係性を深めてきたオリックスの客観的な視点が生きてくる。
・オリックスの「事業承継支援」と一般的なM&Aの比較
・販売・マーケティング支援
全国に広がるオリックスの営業拠点と人材をフル活用
後継者問題に悩む中小企業に対して、このような形で一定期間、資本参加しながら事業を継続する取り組みは、これまで存在しなかった。それをオリックスが実現できるのは何故か?
オリックスには半世紀以上にわたり、リースをはじめとした金融サービスを通じて、中小を含めた顧客企業の財務戦略を深く支えてきた歴史とノウハウがある。今回の取り組みが実現した背景には、その中で培われた顧客企業に寄り添うマインドと圧倒的な人的パワーがあった。
「当社がこの取り組みを実現できる背景には、全国に80拠点以上の法人営業拠点を有し、そこに約1,500名の営業担当者が存在していることがあります。すなわち、この取り組みのために新たな組織を築いたり、専門人員を拡大したりすることなく、1,500人のスタッフがすぐに実動部隊として行動できる体制があるからにほかなりません」
さらにこの人的パワーは、経営戦略や財務面のサポートだけでなく、より直接的な営業支援にも生かすことができる。企業経営者の一番の悩みは、なんといっても売上と利益を伸ばすこと。顧客企業の製品やサービスの販路を、オリックスの全国の営業網を通じて拡大することも可能だ。これは、オリックスと組むことならではのメリットだろう。
さらに、新規事業を展開する場合にも、オリックスグループのさまざまな知見・リソースと連携しやすく、中小企業単独では難しかったプロジェクトの実現なども視野に入ってくる。例えばオリックスは、その営業網に立脚したきめ細かな不動産情報を基盤に、企業や自治体の遊休地を賃借し、いち早く大規模な太陽光発電所(メガソーラー)を建設・運営してきた。このような時代を先見した視点と実績は、中小企業が新規事業を展開する上でも大きな戦力となるはずだ。またオリックスは、海外にも38の国・地域に拠点を展開(2018年3月31日現在)し、現地企業とのパートナーシップの下に、強固なネットワークを構築している。これも、海外企業とのアライアンスや海外市場の開拓を図る上で、大きなメリットとなるだろう。ちなみに海外のグループ会社には約8,000人が所属しているが、ほぼ全てが現地従業員であり、日本人駐在員は50名程度しかいない。だからこそ各国事情に密着したビジネスサポートができる。
「当社は、時代背景を反映したこの新たな取り組みを通じて、優れた技術や独自の商品・サービスをもちながら、事業承継に悩んでおられる企業を支援していきます。中小企業の存続は、自らのミッションでもあると認識しています」と松﨑氏は力説し、次のように続けた。
「当社がこの取り組みから求めているリターンは、短期的な収益ではありません。地域で長く経営してこられた企業の事業承継をお手伝いすることで、その企業が将来にわたり存続できれば、当社との関係性も深まり、地域により密着したビジネスパートナーとしての当社の価値を高めることができます。さらに当社の営業担当者も、各企業の経営にしっかりとコミットし、自ら責任を持って力を発揮することで、大きく成長していけるはずです。それも当社にとって大きな学びの資産となります」
日本社会の健全な未来のために企業の存続を
一般的に投資ファンドによるM&Aでは、ファンドの運用期間に応じて保有株式を売却することとなる。だがオリックスの事業承継においては、自己資金による投資のため保有期間を定めていない。後継者育成のための適正な猶予期間を経たのちに、オリックスと対象企業の双方が話し合いのもと、さまざまな選択肢が考えられるという。
「今日まで地域に根ざした活動を続けてこられた企業は、『決して廃業して欲しくない企業』なのです。私たちは、そのような企業文化を尊重する姿勢を大切にしていきたい、と思っています。そこで、企業の明日を託すべき後継者が育つまでの数年間、手厚いサポートをさせていただきたいと考えています。当然、オーナーや従業員の方々との話し合いの結果、私たちがお預かりする株式を、企業をさらに成長させてくれる新たな株主に売却するという選択肢を選ぶケースもあるでしょう。また、これまでその企業と共に歩み、企業文化や強みを熟知している役員・従業員が、MBO(Management Buy-Out)やEBO(Employee Buy-Out)などを通じて株式を継承し、次の経営者や株主になることも望ましいと思います」
確かに“競合の軍門に下りたくない”という意識から、同業者への企業売却を嫌うオーナーも多い。その中で、長年苦楽を共にし、気心の知れた社員へのバトンタッチは、望ましい形態のひとつと言えそうだ。
目下、ニッチな分野に特化し、企業規模は小さいながらも、市場シェアを獲得してきたユニークな企業への事業承継案件が進行中で、この秋には、実を結ぶ予定だという。オリックスでは、これを機に年内に複数件の実績を積み上げ、2019年度内にはさらに10件程度の事業承継案件を実現したいとしている。
「企業経営を通じて社会に貢献してきたオーナーの方には、ぜひともその企業活動を継続していただきたいと願っています。それは、日本の健全な未来形成に直結する課題だからです。事業承継は、これまで企業をけん引してこられたオーナーにとって集大成となる仕事です。その時、後継者不在の問題などから廃業を考えざるを得ないなら、ぜひとも一度ご相談いただければと思います。もちろん、すべてを解決できると断言はできませんが、これまで申し上げたような多角的なご支援ができます。オーナーの皆さまと一緒にやってこられた従業員の雇用の確保を大前提に、中小企業の事業承継に貢献していきたいと考えています」
※本記事の中で使用されている数字等は、別途記載がない限り取材当時(2018年)のものです。