社会の成熟とともに加速する「事業承継」問題。背景とこれからの取り組みを紹介

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[監修] 一般社団法人事業承継協会 金子 一徳
本記事は2021年3月時点の情報を元に作成しています。

「後継者不足」は、伝統芸能や手仕事をする職人だけの問題ではありません。今、数々の中小企業が、経営者の高齢化に伴い、後継者を見つけられないまま廃業の危機を迎えています。それが「事業承継」問題です。この記事では「事業承継」問題の概要からそのリスク、対策法について解説します。

なぜ「事業承継」問題が起きているのか? 日本の中小企業の現状

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中小企業の約7割が後継者を見つけられていない

全国約4700の中小企業の経営者に対して日本政策金融公庫総合研究所が行った「中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2019年調査)」 によると、「後継者が決まっている(後継者本人も承諾している)」は12.5%にとどまっています。「自分がまだ若いので今は決める必要はない」という回答が12.9%ではあるものの、「自分の代で事業をやめるつもりである」が52.6%、残りの22.0%は事業を継続しようと思っていても、後継者が決まらないという状況にあります。

喫緊の課題として、政府も注力を開始

ご存じの通り日本では少子高齢化が進み、同様に中小企業の経営者の高齢化も進行していることから、今後さらに多くの企業が後継者問題により廃業することが予想されます。こうした状況は、それまでの事業運営で培われてきた経営資源の損失であり、全企業の99.7%が中小企業である日本においては特に憂慮すべき問題と考えられ、国も対策に動き始めています。小規模事業者の経営者が後任の経営者を見つけ、円滑な事業承継を行うことが必要であるとの考えのもと、中小企業庁は「事業承継ガイドライン」を2016年に策定しました。

そもそも事業承継とは? “継承”とはどう違う?

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事業承継とは、財産面、権利と責任、目に見えない資産を、会社という法人格と社長という人格をうまく切り分けて、次の後継者にバトンタッチすることです。しかし、そこには後継者の決定だけでなく、その後の教育など、さまざまな要素が絡み合ってきます

「事業承継」と「事業継承」の違い

「承継」という言葉に耳なじみがないという方も少なくないでしょう。「事業“継承“とどのように違うのか?」という疑問を持つ方もいらっしゃるかもしれません。

あまり違いがないように感じられる「承継」と「継承」ですが、それぞれ意味のニュアンスが異なります。この二つの言葉は「承」と「継」の文字から成り立ちますが、「承」には「相手の意図を受け入れる」、「継」には「そのまま引き継ぐ」という意味があります。なので「承継」の方が「先人の理念や思想を受け継ぐ」という意味合いが強く表れる言葉となります。

また、法律用語や税制上は「承継」が使われており、中小企業庁が「事業承継ガイドライン」と命名していることから、特にビジネスにおいては「承継」を使われるケースがほとんどです。

では、事業を承継するためには、具体的に何を承継する必要があるのでしょうか?

事業承継の構成要素

  1. 財産
    土地、建物、設備、工具備品、車両、材料、商品など
  2. 権利と責任
    議決権(株式)、業務執行権(取締役の地位)、責任(連帯保証人の地位)など
  3. 知的財産
    顧客基盤、技術力、従業員スキル、信用力、もうかる仕組み、社歴、ブランドなど

事業承継の対策をしないことによる主なリスク

事業承継について正しく対策がなされていない場合、事業の継続が不安定になってしまうリスクがあります。ここでは、中小企業庁「事業承継ガイドライン20問20答」に記載されている事例をピックアップしてご紹介します。(掲載にあたり、内容に関してはまとめています)

・例.次世代の社長への経営移譲が進まないケース
中小企業経営者(現会長)が長男を社長にしたにも関わらず、なかなか経営権を譲渡しなかったことから、長男(現社長)がメインバンクを経由して株式の計画的移転を促進。しかし、経営権を持つ会長がそのことに怒り心頭してしまい、経営方針対立等を理由に、会社売却の意向を示すことに。

ポイント:後継者から経営権の譲渡について進言することは困難かつトラブルのもとになりがちであり、経営権の譲渡は現経営者が行うべきとされています。

また、本件では行動を起こしたことが問題となってはいますが、特に声を上げず、準備もないまま現会長が執務を行えなくなってしまうというケースもありえます。つまり何もしないこともリスクにつながる可能性があるのです。

このような失敗をしないために、どのように事業承継を行えばよいのでしょうか?

事業承継のパターンは四つ

事業承継と一言で言っても、その承継方法には「親族内承継」「役員や社員への承継」「M&A」「株式公開=(IPO)」と大きく四つのパターンがあります。以下ではそれぞれの概要とメリット/デメリットをご紹介します。

1. 親族内承継
その名の通り、現経営者の子をはじめとした親族に承継する方法です。

メリット
・周囲の理解や協力を得やすい
中小企業の場合、経営者と強いつながりのある親族が事業を承継することは一般的なプロセスであり、社内外の関係者から心情的に受け入れられやすい傾向にあります。

・早期対応ができる
子を中心に親族内で後継者を決めておくことで、早期から後継者育成のため社内外での教育を行えるようになります。後継者が決まらないままに経営者が高齢になってしまうと社内外の関係者から経営に対する不安が生まれてしまうため、後継者問題への早期対応は、経営者に求められる経営手腕の一つと言えるでしょう。

・相続での引き継ぎができる
事業用資産や株式の移転に相続を利用することができるため、企業経営と財産を円滑に引き継ぐことが可能となります。

デメリット
・適任者を見つけられない恐れ
近年では社会で求められる要素や価値観の変化などにより、職業選択に、個人の志向を優先する傾向が強まっています。このため家業に縛られない次世代が増加するなど、親族内承継の割合は減少傾向にあります。また、親族内に経営者としての資質を持っている人物がいないケースも考えられるでしょう。そうした状況で、親族内の事業承継を行ってしまうと、社員のモチベーション低下や、取引先企業からの不評につながってしまう恐れがあります。

・親族間トラブルの恐れ
複数の親族が社内に在籍している場合、後継者争いに発展してしまう危険性があります。また保有株式を経営に無関係の親族が相続してしまうことで、経営リスクにつながる危険性も考えられます。

2. 役員や社員への承継
「親族以外」の役員・従業員に承継する方法です。

メリット
・会社に理解ある人物に承継できる

社員として長期間働いてきた経験から、社風やその事業内容を理解できているはもちろん、他の社員などの関係者と既に関係が構築できているため、大きなミスマッチが起こりにくいと考えられます。同時に社員や取引先からの理解も得られやすいでしょう。

・早期対応ができる
親族内継承と同様、早期に社内から後継者を決めておくことで、引退時期から逆算しての早期対応が行えます。

・多くの候補者から選ぶことができる
限られた人数の中から選ばなくてはならない親族内継承に比べ、社員の数だけ候補者がいることは大きなメリットです。さらに、長期にわたり事業を共にしてきた社員ならば、より多くのデータからその手腕や企業に対する理解度・貢献度などを見極めることができるでしょう。

デメリット
・株式買い取りのハードルが高い
事業承継にあたり、現経営者が持っている株式を買い取る必要が出てきます。親族内での株式相続に対して、買い取りには大きな資金が必要となる場合が多く、どうしても承継のハードルは上がってしまいます。

・親族からの反対リスク
特にこれまで親族内で引き継ぎを行ってきた企業の場合、新たに親族ではない役員や社員に事業承継を行うことに反発が生まれる可能性があります。そのため現経営者は事前に親族に対して十分な説明を行って、理解を得ておく必要があるでしょう。

3. M&A
株式譲渡や事業譲渡で承継を行う方法です。

メリット
・候補者の選択肢が増える

広く外部に候補者を求めることができるため、親族や社内に適任者がいない場合に後継者問題を解決できる期待が高まります。M&Aを扱う民間仲介業者が存在するほか、国が全国に事業引継ぎ支援センターを設置しており、近年M&Aによる事業承継は増加傾向にあります。

・事業拡大やシナジー効果への期待
譲渡先の会社の追加投資による事業拡大や、譲渡先企業が持つ他事業とのシナジー効果により、さらなる事業の発展が行われることが期待できます。

・大きな創業者利潤が期待できる
たいていの場合において大株主である社長が、M&Aをすることにより、創業者利潤を手にできます。親族内承継では贈与などが一般的ですし、従業員などには廉価な株式買い取りで落ち着くケースが多いですが、M&Aでは、高額な創業者利潤を得らえることがメリットの一つです。なお、従業員雇用の面でも、通常はより大きく組織体制が整備されている会社に買収されるケースが多いため、給与体系が上がったり、福利厚生面でも整備されたりするなどのメリットも期待できます。

デメリット
買い手がつかない可能性
M&Aによる事業承継においては、買い手の企業が現れることが前提となります。そのため、自社の企業価値が十分になければM&Aは成立しません。

時間がかかる
一般的に、マッチングから交渉までの期間を含め、M&Aには数か月から数年の時間がかかると言われます。さらには企業文化の統合は容易ではなく、M&A後に社員の大量離職などを防ぐためにも慎重に交渉や準備を進めなくてはなりません。M&Aは後継者候補が増えるとはいえ、早期準備は不可欠です。

4. 外部からスカウトした第三者への承継
社内や親族ではなく、外部から新たな人材を経営者として向かい入れて承継を行う方法です。

メリット
・候補者の選択肢が増える
広く外部に候補者を求めることができるため、親族や社内に適任者がいない場合に後継者問題を解決できる期待が高まります。現在では、人材紹介企業による新たな経営者のあっせんなどのサービスもあり、今後採用市場においてこうしたケースは増えてくる可能性があるとされています。

・高い能力と外部からの視点
初めから企業の経営者として着任するため、高い能力が期待できます。また、企業の慣習などに捉われない新たな視点での改革などが期待できます。

デメリット
・時間とコストがかかる 全くの外部からの着任になるため、その企業について、理念や文化から経営状況までを理解するのに多少の時間を要します。また、人材紹介などを通した場合、採用のための費用がかかってくるケースもあります。

・既存社員とのギャップ
新しい経営者が、これまでの企業としての文化やスタンスと異なる考えを持った人であった場合、既存社員との摩擦が生じる可能性もあります。

事業承継において押さえておくべきポイント

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以上、事業継承の基本からその方法を紹介してきました。最後に事業承継に取り組むにあたり確認しておきたいポイントをご紹介します。

早めに取り組む

ここまで紹介してきた通り、円滑な事業承継には後継者選びはもちろん、その他の面でも、相応の準備が求められます。しかし、その準備を早めに済ませておくことで、会社の状況や市場動向などがベストのタイミングで事業承継を行うことも可能になるでしょう。

こうした準備には「事業承継計画」の策定が有効です。中小企業庁が「事業承継ガイドライン」の中で作成の手順をまとめています。とはいえ、そこで目標とされている「10年後」の承継では、これからの世の中の変化には対応しきれない可能性があるという声もあり、よりスピード感のある取り組みが求められそうです。

サポート制度を活用する

事業承継においては専門家のアドバイスは不可欠と言えます。日頃相談を行っている商工会・商工会議所、金融機関、税理士、弁護士、公認会計士、または事業承継士などに相談してみましょう。また、全国に設置されている「事業引継ぎ支援センター」や、中小企業・小規模事業者が経営相談を行える「よろず支援拠点」といった公的機関でもアドバイスを受けることができます。

事業承継への取り組みは社会問題の解決につながる

冒頭でも触れたように、日本国内の企業のほとんどが中小企業となります。その多くが事業承継に関する問題を抱えており、独自の技術、イノベーションの源泉の分断につながりかねず、日本経済全体の問題として取り組む必要があると言えます。

photo:Getty Images

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