人生100年時代の具体策「予防医療」と「顧問医」が求められるワケ

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[Publisher] ORIX Group

超高齢社会である日本。「人生100年時代」とも言われ平均寿命が延びるなか、いかに長く健康を維持し、自立した生活を送るかということが、生活者一人一人の大きな課題となっている。「平均寿命」と「健康寿命」のギャップをなくすには、従来のような“病後にかかる医療”ではなく、「未病のうちに防ぐ」「早期発見する」などの新たな考え方による医療の仕組みが不可欠だ。

そうしたなか、現代の日本社会における死因の約3割を占めるがんの早期発見・治療に尽力し、最新設備の導入など時代の変化に対応した医療提供に取り組んでいるのが、がん治療専門クリニック・宇都宮セントラルクリニックの創設者、佐藤俊彦医師だ。「未病・予防」をベースとしたこれからの医療の形、人と医療の新たな関係についてどう考えるのか、そして私たちが意識しておくべきことは何か、佐藤氏に話を伺った。さらに、佐藤氏の考えに賛同し、宇都宮セントラルクリニックの運営をサポートしている、オリックス 国内事業推進部長の関根貴紀に、医師が医療に専念できる体制づくりについて語ってもらった。

「早期発見・早期治療」を多くの方に届けたい

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――4人に1人が65歳以上という「超高齢社会」を迎えた日本では、社会保険費の増大、医療従事者不足など、多くの課題を抱えています。この状況をどのように見ていますか。

佐藤:次世代に向けた「ヘルスケア改革」が必要になるでしょう。そしてその変革の議論の中心は「健康寿命」をいかにして延ばしていくか、ということになるだろうと考えています。これからの医療は「未病」「予防」の観点が一層重要になってくるでしょう。医療を提供する側として、そもそも病院にかかる必要のない、不安のない生活を送れるような健康管理システムを構築する義務があると感じています。

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宇都宮セントラルクリニックの外観

――宇都宮セントラルクリニックは「がん検査・がん治療専門クリニック」として高い信頼を集めています。どのようなことに取り組んでいらっしゃるのでしょうか。

佐藤:正式には「医療法人DIC宇都宮セントラルクリニック」と言います。DICは「画像診断センター」(Diagnostic Imaging Center)の略称です。画像診断によるがんの早期発見を目指すクリニックとして1997年に開業しました。

実は私自身が過去にがんを患い、それを克服したという経験があります。その際に、早期発見と早期治療の大切さを、身をもって知りました。がんは発見が遅くなるほど治療が困難になっていきます。有効な治療を行うためには早期発見が必須となりますが、ステージⅠの段階で見付けるためには無症状のうちに検査をする必要があります。とはいえまったく自覚が無いうちから検診を行うというのは、やはりまだまだ浸透していません。

なので、そうしたことの啓蒙も目的としつつ、がんの早期発見と最新の技術による適切な医療の提供を実現するために、開院当初から最新鋭の画像診断装置を導入し、がん検査とがん治療のアップデートを繰り返してきました。

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がんの早期発見の重要性:がんは発生後1cmになるまでに約10~20年かかるといわれ(個体差あり)、一般的に組織が2~3cm以上に増大すると根治が困難になるとされる。PET/CT検査を用いれば、1cm程度からの発見が可能だが、集団健康診断などの従来型検診に頼るものでは、その発見率は低いのが現状だ。(出典:セントラルメディカルクラブホームページ)

2003年には、全身のがんを一度に発見できる「PET※」を導入し、栃木県内では初となる「PETセンター」を設立しました。さらに2013年には、「乳がん」や「子宮頸がん」など女性特有のがんを検査するための専用施設「ブレストセンター」を開設しています。乳がんは女性がかかる可能性のあるがんの第1位で、11人に1人がかかるとされていますが、早期発見で約90%は完治します。そうした事実をより多くの方に知っていただきたいという想いから、女性が来院しやすい環境として、女性専用の健診センターと乳腺外来を整えています。

※PET:Positron Emission Tomography (陽電子放出断層撮影) の略で、放射性薬剤を体内に投与し、その分析を特殊なカメラでとらえて画像化する検査

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【写真左】ブレストセンター【写真右】放射線治療棟

がん治療の最前線で起こるイノベーション

――常にアップデートをされてこられたということで、がんの治療と言えば手術をイメージしてしまうのですが、注力されている放射線治療など、現在の最新の治療法にはどのようなものがあるのでしょうか。

佐藤:現在、当クリニックに導入している機器のうち最新のものは「サイバーナイフ」と「トモセラピー」の二つです。放射線治療とは、体外からの放射線照射で、がん細胞を死滅させる治療法ですが、放射線が正常な細胞にもダメージを与えてしまうという問題がありました。それを解決したのがこの二つの装置です。「サイバーナイフ」は主に患部が限定された早期がんに、「トモセラピー」は転移が見られる進行がんに効果を発揮します。この二つの装置を使い分けることで、ほとんどのがんに対応しようとしています。

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【写真左】サイバーナイフ【写真右】トモセラピー

また最近注目されつつある考え方として、人に元来備わっている免疫機能と放射線治療を組み合わせるというものがあります。放射線腫瘍学会のリーフレットには、「放射線はがんの遺伝子を切断します。免疫細胞も、がんを攻撃しやすくなります」とあります。

つまり、放射線の照射でがん細胞のDNAが切断されることで、免疫細胞ががんを攻撃しやすくなり、人が元々持っている免疫機能による治療効果がより発揮されやすくなる、ということです。これは目からウロコで、この考え方を元により一層、放射線治療の専門性を磨いて効果的な治療を行えるようにしようというモチベーションが高まりました。

先ほど申し上げたように最新の放射線治療は、身体への負担を従来よりも軽減しながら、高い治療効果が望めます。患者さんの年齢を問わず治療ができるというのも大きなメリットです。今後一層の高齢化が予測される日本では非常に有効な手段と言えます。患者さんには、自身の状態に合った最適な治療法を選択してもらいたいです。

「自分にとって最適な治療法」には何が必要か

――一言で「がん治療」と言っても、さまざまな選択肢があるのですね。医療を受ける側も最新の正しい知識を知っておく必要がありますね。

佐藤:医療技術は日進月歩で進化していますので、がんはもはや恐れる病気ではないと私は考えます。日々アップデートされる医療の知識を正しく知ることが非常に大切です。

ただ、自身の罹患(りかん)経験を通して、「早期発見・早期治療」の大切さのほかに、もう一つ気づいたことがありました。それは、「どの治療法をどの病院で受診するのが自分にとってベストなのかが分からない」ということです。自身の状態を正確に把握し、最適な治療を選択するには、医療を受ける側にも相当な知識が必要です。医師側はそれぞれの専門分野に特化していますが、患者さんをトータルで判断できる存在がいないのではないでしょうか。これでは、患者さんが最適な治療を受けることは非常に難しい。

そこで患者さんの状態を常に正確に把握しながら、医師だからこそ分かる正しい情報を伝える「顧問医」のような存在が必要だと思いました。そこから、患者さん一人一人の健康状態を記録・管理し、医師が総合的に状態を判断した上でアドバイスを行える仕組みがつくれないかと考え始めたのです。

――なるほど。患者さんの病が顕在化する前から、医療との関係性を構築するのですね。

佐藤:そうした経緯で「セントラルメディカルクラブ」という会員制のメディカルクラブを立ち上げました。「健康に100歳まで生きる」をコンセプトに、患者さんに常に「安心」を届けることを目的としています。現在、会員は全国に800人ほど。当院で三大成人病を含む精密検査を受けられるほか、日常的な健康相談にも専門医がカルテを見ながらオンラインで対応しています。

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「セントラルメディカルクラブ」の応接室。落ち着きのある雰囲気となっている

――いつでも自分の健康状態を把握してくれている「顧問医」がいるというのは、人生100年時代に心強いですね。今後の展望を伺えますか。

佐藤:まずはオンラインをベースとした仕組みの整備が重要になってくると考えています。はじめにオンラインで画像診断し、検査が必要であれば、インターネットで予約してから病院に行く。そして検査結果を踏まえ、再度オンラインで主治医と治療方針を検討していく。検査や手術など、どうしても通院が必要な場合以外は、すべてオンラインで対応するといったものですね。こうした仕組みに合わせて、それぞれのパートで「画像診断センター」や「メディカルクラブ」がネットワークとして機能していく、という形を目指しています。

そのネットワークを、オリックスにサポートいただきながら、東京をはじめとした主要都市にも広げていきたい。最先端の技術を駆使して、早期発見・早期治療を全国の患者さんに提供できるようにすることが目標です。

医師が医療に専念できる環境を

オリックスは、これまで医療法人向けのリース・ファイナンス、CT・MRI搭載車両のレンタルサービスなど、医療分野において多様な事業を展開してきた。

そうしたなか、最先端機器を駆使してがんの早期発見に取り組む佐藤氏の考えに共感し、宇都宮セントラルクリニックへ業務支援サービスを提供する株式会社CMCと2017年に資本提携を結んだ。

オリックス 国内事業推進部長の関根は、クリニックのサポートという形で医療領域に関わることについて、「地域医療の発展を通じて、社会課題の解決に貢献したい」と語る。

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オリックスと株式会社CMCは宇都宮セントラルクリニックにどのようなサポートを行っているのでしょうか。

関根:佐藤先生をはじめ、宇都宮セントラルクリニックの方々が医療に専念できる体制づくりです。具体的にはオリックスから株式会社CMCにスタッフを派遣し、事業計画の策定、各種報告書の作成、院内規定の整備、病診連携のための仕組みづくり、メディカルクラブの会員募集や運営管理などの領域でサポートをさせていただいています。

――地域医療の発展について今後の展望を教えてください。

関根:佐藤先生がおっしゃるように、医療ネットワークの充実が大きな目標です。それにより「予防医療」が人々にとって身近なものになれば、検査の受診率も自然と上昇するはずです。病気の早期発見につながり、健康寿命の伸長にも貢献できる。結果的に医療費も削減にもつながっていくでしょう。まだまだプロジェクトははじまったばかりですが、社会保障の維持と地域医療の発展に貢献できるよう頑張ります。

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―お二方とも、今日はありがとうございました。

この話を聞いた人】

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相澤 良晃:1983年、秋田県生まれ。大学卒業後、古本屋、出版社アルバイトなどを経て、2009年に東京・神保町にある編集プロダクション株式会社デコに所属。雑誌、書籍、企業パンフレット、ウェブサイト記事などの編集制作に携わる。2018年からフリーランスの編集者・ライターとして活動中。

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