震災時に底力「ドラッグ物流」スピード復旧の裏側 ドラッグ卸が3.11を教訓に出荷体制を抜本改革

石川県白山市に本社を置き、北信越に350以上の店舗を構える中堅ドラッグ、クスリのアオキホールディングス。1月9日には全店で営業を再開した(編集部撮影)

[Publisher] 東洋経済新報社

この記事は、東洋経済新報社『東洋経済オンライン/執筆:伊藤 退助』(初出日:2024年1月11日)より、アマナのパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせは、licensed_content@amana.jpにお願いいたします。

「現地では商品を求めて多くのお客様が来店している。当社も地域のインフラとして機能できるよう最大限取り組んでいる」

イオン子会社でドラッグストア首位のウエルシアホールディングス(HD)の松本忠久社長は1月9日、決算会見で能登半島地震の被害について語った。同日時点で1店舗が営業中止、2店舗で営業時間短縮をしているが「業績影響は軽微」と説明した。

石川県白山市に本社を置く中堅ドラッグ、クスリのアオキHDも、1月4日まで7店舗の営業停止を迫られた。店舗の建物が損壊したうえ「能登地域に向かう道路が通行止めになり、停電や断水も発生した」(クスリのアオキHD担当者)が、1月9日には全店で営業が再開した。

石川県地盤のドラッグストア、クスリのアオキホールディングスは、1月9日に全店舗での営業を再開したと発表した(編集部撮影)

輪島市や七尾市ではクスリのアオキHD以外にも、業界3位のマツキヨココカラ&カンパニーや、4位のコスモス薬品も被災。業績への影響は「調査中」とする企業が多いが、全店舗数に占める被災店舗の数は少ないため、さほど大きくなることはなさそうだ。

地盤の福井県に79店舗、石川県に57店舗を展開するGenky Drugstoresでは、震災翌日の1月2日から全店で営業を開始した。一部店舗が停電する中でも「お客様と従業員の安全確保を前提としながら、店を開けて買い物ができるようにするという規準と姿勢を重視している」(Genky Drugstores担当者)。

3.11を経て物流が強化された

紙おむつや生理用品、衛生用品など災害時の必需品を多数取り扱うドラッグストアは、各地域で生活インフラとしての役割が求められる。ただし店舗ごとに抱える商品在庫は限られており、卸売業者からの商品供給が生命線となる。

能登半島地震では、物流サイドも被災した。日用品や化粧品の物流を担うドラッグストア卸最大手のPALTACは、大型物流センターのRDC北陸(石川県能美市)とRDC新潟(新潟県見附市)で建屋・機器の一部損傷、商品の荷崩れなどの被害が発生した。被災エリアの物流センターが出荷不能に陥っても、ほかのセンターから代替出荷対応が可能なシステムを整えていたことでことなきを得た。

ここで生かされたのが、2011年3月11日に発生した東日本大震災での教訓だ。当時、宮城県岩沼市にあったPALTACのRDC仙台が津波に巻き込まれ、完全に出荷不能となったことを受けて全社的な見直しを行うこととなった。

2011年当時、PALTACはドラッグストアなどに対する送り先のコードをエリアごとに管理していた。そのため災害発生時にほかの物流センターから代替出荷をする際、センター間でコードが重複してしまい、商品が送れないエラーが発生してしまった。

当時の反省を踏まえて、自然災害など緊急事態時の事業継続計画(BCP)の一貫として、約5年前に各種コードを一本化することにし、2年ほどかけてコード整理を行った。全国で重複のないコード管理に移行したことで、2021年2月、2022年3月の福島県沖地震による2年連続の震災でRDC宮城が被災した際には、スムーズに代替出荷を実行することができたという。

1月5日から出荷が本格化

今回の能登半島地震でも、スピーディーに対応できた。石川と新潟の2つのセンターの被災後、宮城、埼玉、横浜、中部、近畿のRDCから荷物が届けられるよう動き、1月5日にはほかのセンターからの出荷が本格化。その中には、1月4日に発送を開始したセンターもあったという。

さらに日用品などに加え「乾電池など災害時に必要な物品のデータも管理しており、緊急時にこうした商品の確保をいち早く行い、被災地に送る体制を整えている」(PALTAC担当者)。

今回はセンターでの停電被害はなかったが、東日本大震災ではRDC東北で4日間停電したことで出荷対応が遅れてしまった。これを受けて、20億円程度を投じて全国のRDCに非常用自家発電装置を設置している。2018年に発生した北海道胆振東部地震による計画停電の際は、非常用自家発電装置を稼働させ、商品を継続的に届けることができた。

卸売業者は必需品を被災地に届ける重要な役目を担う。緊急時こそ、企業の底力が垣間見える。

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