今知っておきたいFIP制度とは?FITとの違いから、注目される背景まで詳しく紹介

[監修] 一般財団法人 日本エネルギー経済研究所 再生可能エネルギーグループ 研究主幹 二宮康司
本記事は2022年8月時点の情報を元に作成しています。

近年の急激な気候変動により、世界各地で自然災害が大規模化している現在、地球温暖化に大きく関係しているとされる温室効果ガスの削減は急務となっています。そこで、主な温室効果ガスであるCO2の排出量を減らすため、太陽光や水力、風力、地熱、バイオマスといった再生可能エネルギーの導入を促進し、電源の非化石化を進めることが鍵となっています。

再生可能エネルギーの主力電源化を目的とした政策が、FIP(フィードインプレミアム)制度です。本記事ではこのFIP制度の概要や仕組みについて、前身のFIT制度との違いとなぜFIPが注目されているかその背景にも触れながら詳しく解説します。

FIP(フィードインプレミアム)制度とは

FIP制度とは、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の普及支援を目的とした政策の一つです。再エネの発電事業者に対し、発電した電力を卸電力市場において自ら販売した売電収入に加えて、一定のプレミアム(補助額)を上乗せして交付することで、発電事業者の投資インセンティブを促し、再エネの普及促進を目指しています。なお、FIPとは「Feed-in Premium(フィードインプレミアム)」の略称です。同制度は2022年4月に開始されました。

FIP制度が導入された背景には、2012年から開始されていたFIT制度があります。FIT制度とは再エネから発電された電力を一定期間にわたって固定価格で買い取ることを国が保障する制度のことです。なお、FITは「Feed-in Tariff(フィードインタリフ)」の略称です。

FIP制度導入の背景

そもそも今回新たに始まったFIP制度や、これまでのFIT制度は、どのような目的のもとに導入されたのでしょうか。一つには、2020年10月の臨時国会において菅義偉内閣総理大臣(当時)が2050年までの実現を宣言した「カーボンニュートラル」の目標があります。カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量が実質ゼロになった状態のことです。

カーボンニュートラルの実現のため、政府は2030年までに再生可能エネルギーの電源構成比率を36~38%に引き上げる目標を掲げています。FIP制度やFIT制度は、再エネの普及を目指す意図のもと、再エネ電源構成比率向上の手段として導入されました。

では、これまでのFIT制度から、新たにFIPが導入された理由はどのようなものでしょうか。ここには「再エネ電源の自立化」を目指す政策的な意図があります。

「FIT制度」から見る「FIP制度」とは

FIT制度のもとでは、再エネ発電事業者や個人が屋根置きの太陽光発電で発電した電力は、電気の送配電を担う地域の電力会社(正確には一般送配電事業者、例えば、東京電力パワーグリッド、関西電力送配電等)によって、一定期間・固定価格で買い取られることが保証されていました。したがって、FIT制度の下では、再エネ発電事業者は発電した電力を卸電力市場に売りに行く必要はありません。発電さえすれば自動的に固定価格で買い取ってもらえるのです。このため、再エネ発電事業者は卸電力市場での価格変動や価格競争から完全にリスクフリーになります。ここが後述のFIP制度と最も異なる点です。この買い取りに要する費用は電力の最終消費者から「再生可能エネルギー発電促進賦課金」(再エネ賦課金)という形で徴収されています。こうして電力の最終消費者全体の負担で、再エネ発電事業の価格変動リスクを軽減することで再エネの普及を支えていく仕組みがFIT制度です。

(出典:経済産業省資源エネルギー庁HP掲載の図版を元に作成)

ここで電力供給の仕組みを簡単に整理しておくと、電力の供給システムは、(1)「発電部門」、(2)「送配電部門」、(3)「小売部門」の三つに大きく分かれています。2016年4月以降、(3)「小売部門」は電力小売全面自由化によって市場に開かれ、(1)「発電部門」も既に参入自由となっています。再エネ電源の比率を上げていくためには、(1)「発電部門」における再エネ事業者の参入が鍵となります。そこで、FIT制度によって電力の固定買取を国が支援することで、(1)「発電部門」における再エネ事業者の市場参入メリットを与えたのです。

実際、FIT制度が開始されて以降、国内の再エネ発電量割合は、10.2%(2011年度)から19.8%(2020年度)に増加しており、約2倍の伸びとなりました。(「総合エネルギー統計令和2年度(2020年度)エネルギー需給実績(確報)」より算定)また、FITによって太陽光発電投資の人気が高まり、2021年末までの国内の累積導入量は中国、米国に続いて世界第3位にまで上昇しました。これらの数字から、FIT制度は日本における再エネの導入推進に大きな影響を及ぼしたと考えられます。

導入が進んだ次のフェーズとして、今後再エネを主力電源としていくためには、他の電源と同じように、電力系統全体の需供給バランスを踏まえた発電を行う、自立した電源にしていく必要があります。

FIT制度のもとでは、再エネは固定価格で自動的に買い取られることが前提にあったため、電力市場のニーズや価格競争の影響にさらされることなく、発電事業者にとっては収入が事前に保証されていた状態でした。

その点が考慮され、FIP制度が導入されることとなりました。FIPでは再エネ発電事業者が卸電力市場などで売電することを前提に、その売電価格にプレミアムが上乗せされます。これは、再エネを電力市場に統合していくことを狙った仕組みです。このようにFIP制度は、再エネを電力市場に統合するための段階的な措置として導入されたといえるでしょう。

FIT制度との違い

ここからは、FIP制度における具体的な再エネ発電事業者の収入の決まり方を解説します。

FIP制度のもとでの発電事業者の収入は、卸電力市場における売電価格にプレミアム単価が上乗せされた金額となります。すなわち、以下の関係式です。

・発電事業者の収入=売電価格+プレミアム単価

では、プレミアム単価はどのように算定されるのでしょうか。以下の関係式がプレミアム単価の計算方法です。

・プレミアム単価=(1)基準価格-(2)参照価格

このようにプレミアム単価は、(1)基準価格と(2)参照価格という二つの金額の差分で算定されます。それぞれどのような項目なのか、以下で解説していきます。

(1)基準価格とは?

基準価格は、発電設備の建設コストから逆算し、「このくらいの価格であれば設備費回収が見込めるだろう」という基準を想定した価格です。これはFIT制度の買取価格と同じ考え方で設定されています。FIP制度の開始当初は、基準価格をFIT制度での買取価格と同じ水準にすることとなっています。また、基準価格は原則として1年ごとに定められます。

(2)参照価格とは?

参照価格は、卸電力市場での売電によって発電事業者が期待できる収入のことです。参照価格は卸電力市場の実際の卸電力価格に連動して機械的に計算され、1カ月単位で変更されます。

シンプルに見ると、FIT制度と同様の考え方で設定される価格(基準価格)から、毎月変動する卸電力市場に連動した価格(参照価格)を引いた金額が、プレミアム単価となっています。ただし参照価格にはそのほかにいくつかの補足的な要素を加える必要があります。そのため、参照価格は下記の関係式で表されます。

(2)参照価格=A.「卸電力市場に連動して算定された価格」 + B.「非化石価値取引市場に連動して算定された価格」 - C.「バランシングコスト」

(出典:経済産業省資源エネルギー庁HP掲載の図版を元に作成)

(出典:経済産業省資源エネルギー庁HP掲載の図版を元に作成)

以下、参照価格の三つの要素を分解して説明します。

a.「卸電力市場に連動して算定された価格」
卸電力市場に連動して定められる価格で、参照価格の決定にもっとも大きく寄与するのがこの項目です。前年度の卸電力価格の市場平均価格を考慮した上で、該当月の価格変動分を考慮するという算定方法が採られています。

そのほか、発電所の種別(太陽光や風力など)によって係数がかけられており、詳細な算定方法は複雑なため、シンプルに考えたい場合は「市場価格を平均したもの」と捉えると良いでしょう。

b.「非化石価値取引市場に連動して算定された価格」
「非化石価値」とは、石油や石炭などの化石燃料を使っていない「非化石電源」で発電された電気が持つ「環境価値」の一種です。そしてこの非化石価値は、非化石価値取引市場という、卸電力市場とはまた別の市場で売ることができます。つまり、再エネ発電事業者の市場取引での収入は、Aの「卸電力市場で電気を売って得た収益」に加えて、Bの「非化石価値取引市場での収益」となります。このため、FIP制度では、プレミアム単価から「非化石価値取引市場での収益」を差し引くことによって(=参照価格に「非化石価値取引市場での収益」を加えることによって)再エネ発電事業者による環境価値の二重取りを回避するようにしています。

c.「バランシングコスト」
FIP制度のもとで再エネ発電事業者は、発電する再エネ発電量を事前に予測の上で「計画値」として提出して、実際の発電量である「実績値」と一致させることが求められます。これを「バランシング」といいます。以前までのFIT制度では、再エネ発電事業者は発電さえしていればよく、バランシングが免除されていました。一般送配電事業者が再エネ発電事業者に代わってバランシングすることになっていたのです。

バランシングにあたっては、再エネ発電量の予測が外れて計画値と実績値の差(インバランス)が出た場合、ペナルティとして再エネ発電事業者はその差を埋めるための費用(インバランス費用)を負担する必要があります。しかしこれまでバランシングを行ってこなかった発電事業者にはこうしたノウハウがなく、外部委託にもコストがかかります。そこで、再エネ発電事業者のインバランス負担軽減のための経過措置として、その分をプレミアムの一部(バランシングコスト)として手当てを支給しています。

FIPのメリットと注意点

ここであらためてFIP導入のメリットとデメリットを整理しましょう。

FIP制度のメリット

まずFIP制度の発電事業者にとってのメリットとしては、プレミアムが付与されることによって、事業者が再エネに投資するインセンティブが確保される点が挙げられます。卸電力市場や非化石価値取引市場の価格が下落しても、プレミアムが付与されますので、収益性をある程度維持できます。さらに、市場価格の変動に応じた発電(例えば、卸電力価格が高い時には発電量を増加させる、あるいは価格が低い時には発電量を低下させる等)を行うことで一層の収益拡大の可能性が高まるというメリットも考えられるでしょう。

さらに、国内の電力系統の需給バランスを維持する観点からもメリットがあります。例えば、従来のFIT制度の場合は、晴天の休日昼間など電気の需要が低いときにも、フル稼働する太陽光発電からの電力は電力会社が定額で自動的に買い取ることが定められているため供給過多となってしまい、電力系統の需給バランスを維持するためにせっかく発電した電気が余剰となる状況も出てきています。

しかし、FIP制度の下では、再エネ発電事業者も電力の需給バランスを意識するようになると考えられます。なぜなら、電気の需要が低い場合には卸電力価格が低くなり、発電しても低い収益しか得られませんのでそのようなタイミングで売電するインセンティブが低下するからです。その場合には、電気を売電しないで蓄電池に貯めておき、もっと卸電力価格が高いタイミングで売電することで収益性を高めるといった取り組みも進むと予想されます。また、インバランス費用を最小化するために高精度の再エネ発電予測技術も進展すると考えられます。こうして再エネの電力市場への統合が進むとともに、電力システム全体の運営コストが下がるというメリットも期待できるでしょう。

注意するべきポイント

第一に利益予想が困難という点が挙げられます。これまでFIT制度のもとで固定価格による長期的な買い取りが行われていたところ、FIP制度では卸電力市場での売買を余儀なくされるため、価格変動による売電収入が減少するなどのリスクが増大するでしょう。

さらに、金銭的な負担増も考えられます。FIP制度では、これまでのFIT制度のもとで免除されていたバランシングが再エネ発電事業者にも義務となります。計画値の設定や、インバランス(発電の計画値と実績値の差)にかかるコストを支払う必要が出てくるなど、金銭的な負担が増加します。

こうした状況を踏まえると、小規模な再エネ発電事業者と卸電力市場の間に入り、電気の需給バランスを調整する「アグリゲーター」の台頭が期待されます。アグリゲーターは、再エネ電源を集約し、蓄電池システムなどと組み合わせて需給管理を実施し、市場取引を代行するといった「アグリゲーション・ビジネス」を行います。FIP制度のもとでは、アグリゲーション・ビジネスの活性化のためバランシングの組成を柔軟に行うことが認められています。

まとめ

ここまで見てきたように、FIP制度は再生可能エネルギーを国の主力電源としていくために、FIT制度から一歩進み、電力市場に定着させていくという目的があります。

もともと2012年に運用開始されたFITでは、再エネの普及がまだまだ進んでいない現状を踏まえ、導入を促進する狙いがありました。固定価格での電気の買い取りを保証することによって、発電事業者を保護し、再エネを大量導入する目的です。

FIT制度がある程度成功したことにより、2020年度実績ベースでの再エネ発電量は19.8%(「総合エネルギー統計令和2年度(2020年度)エネルギー需給実績(確報)」より算定)まで増加しました。しかし前述のとおり、FIT制度は再エネ発電事業者を卸電力価格の変動リスクから保護する仕組みであり、将来的には再エネ電力も主力電源として卸電力市場のなかで自立的して売買が行われる必要があります。

再エネの卸電力市場への統合を目指し、段階的措置として設計されたFIP制度。再エネ発電事業者を中心に、蓄電池の活用やアグリゲーション・ビジネスなど、新たなビジネスの創出が期待されます。

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