「事業承継」を「M&A」で。市場の視点で考える”会社の存続“とは

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[監修] 一般社団法人事業承継協会 金子 一徳
本記事は2021年6月時点の情報を元に作成しています。

1999年を境に日本の中小企業の数は減少を続けており、その内訳として「休廃業・解散」の割合が増加しています。最近の調査では、約2割の中小企業経営者が自社の存続を望みながらも、事業承継する後継者を見つけられていないという状況が分かりました。(注1)

親族内や社内といった、従来の範囲での事業承継が難しいケースにおいて検討すべき手段が、「M&A」や「外部からスカウトした第三者への承継」といった「外部の市場とのマッチングを図る事業承継」です。専門的なサービスも登場し、注目を集めるこの考え方について、中小企業の現状と事業承継の基本について触れながら解説します。

(注1)日本政策金融公庫総合研究所「中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2019年調査)」https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/sme_findings200124.pdf

中小企業の現状

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日本政策金融公庫総合研究所の調査によると、全国約4700の中小企業のうち、「既に後継者が決まっている」企業は12.5%にとどまり、「自分の代で事業をたたむ」が52.6%、そして22.0%の企業が「事業承継を望みつつも後継者が決まらない」、という状況にあります。

日本は今後、さらに少子高齢化が進み、こうした問題はますます深刻になっていくと予想されます。中小企業の減少は日本経済において深刻な問題であるとして、中小企業庁が「事業承継ガイドライン」を2016年に策定するなど、国も対策を進めています。

事業承継の対策は必要?

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既に約2割の中小企業が後継者問題に悩んでいる中、少子高齢化に伴う労働人口の減少が続くことで、事業承継は今後ますます困難なものとなっていくことが予想されます。仮に、現段階では「自分の代限りでたたむつもりだから、承継は不要」と考えていても、たたむ準備の前に経営者が体調を崩すなどの不測の事態も考えられ、どのタイミングで経営困難な状況に陥るかは分かりません。いざという時のために準備、つまり『事業承継計画書』など(※1)を策定しておくと安心です。

(※1)「事業承継計画書」や「事業承継計画表」にはいくつかの様式があるため、複数の内容を確認の上、検討されることをおすすめします。以下は例となります。

事業承継の対策をとっておくことで防げる可能性のある、リスクの一部をご紹介します。

事業承継対策が防ぐ可能性のあるリスク

相続トラブル
相続に関するトラブルは増加傾向にあり、その調停・審判件数は1997年から2017年にかけて約1.5倍となっています(平成29年 最高裁判所 司法統計年報)。さらに「司法統計情報」によると、2018年の家庭裁判所で扱われた遺産分割に関する事件のうち、半分以上が未調停であることが明らかにされています。

これには高齢化に伴う相続発生の増加や、核家族化によるコミュニケーションの希薄化、権利意識の高まり、などが原因と考えられますが、親族経営の多い中小企業においても同様のリスクが考えられます。その原因の一つは、一族の生活と事業承継が密接に絡み合うからにほかなりません。例えば金融機関から借り入れをする際に社長個人は連帯保証人になるわけですが、これを遺言によって、会社に関係する相続人(=後継者)にだけ相続させるようにしたとしても、金融機関は他の相続人に対して、融資の返済が滞った時に返済するように求めることができるのです。

こうしたトラブルが企業で発生した場合、従業員はもちろん取引先からの信頼も損なわれ、事業継続そのものが困難になる危険性があります。事前に対策をしておくことで、これらのトラブルを防ぐ効果が期待できます。また、自分の代で事業をたたみ、会社を解散するつもりの場合でも、社内のメンバーには事前にその意思を明確に伝えておくことが必要でしょう。

休廃業、解散
後継者が見つからなかった場合、休廃業や解散のリスクが高まります。また経営者が急逝した場合には、これまで経営者が培ってきた知見や技術、信頼など多くの財産が失われてしまう危険性があります。これらの資産を引き継ぐには、数年単位の時間がかかる場合もあるため、やはり事前の事業承継対策は必要だと考えられます。

税金問題
多くの中小企業は現在赤字続きにも関わらず、過去に購入した不動産や保険などの含み益などがあるせいで株価が高くなっているケースが多く、そのまま相続すると税金が莫大(ばくだい)になる可能性があります。また、自社株式は換金性に乏しいため、納税資金対策という側面でも手を打つ必要があります。

そこで、国も経営承継円滑化法を2008年に施行することにしました。この中の「事業承継税制」の特例措置の適用を受けることで、自社株式を後継者に贈与または相続する際の納税が100%猶予されることになります。なお、この制度の適用を受けるためには、特例承継計画の策定や各種手続きが必要です。

事業承継のパターンは四つ

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事業承継には大きく「内部で人を選ぶ承継」「市場でのマッチングを図る承継」の2種類があり、それぞれに二つ、合計四つの承継パターンがあります。

内部で人を選ぶ承継

親族内承継
現在の経営者の子を筆頭に、その親族に事業を承継する方法です。

役員や社員への承継
「親族内承継」とは逆に、親族以外の役員・従業員に事業を承継する方法です。

市場でのマッチングを図る承継

M&A
株式譲渡や事業譲渡で外部に承継を行う方法です。

「親族内承継」や「役員や社員への承継」と比較して、広く外部に候補者を求めることができるため、後継者問題を解決できる可能性が高まります。ただし、自社に相応の価値がなければ買い手がつかないというリスクもあるため注意が必要です。

民間仲介業者のほか、国もM&Aを扱う事業承継・引継ぎ支援センターを全国に設置しており、近年M&Aによる事業承継は増加傾向にあると言われます。

外部からスカウトした第三者への承継
外部から新たな人材を経営者として迎え入れて、事業を承継する方法です。

「M&A」同様に、内部で人を選ぶ承継に対して広範囲から後継者を探すことができるのが大きなメリットです。人材紹介企業によるあっせんサービスもあるため、必ずしも自力でスカウトを行う必要がないのもポイントです。

また、既存役員や従業員への承継と違い、スカウトした第三者は初めから経営者もしくは経営者候補として着任します。経営者としての考え方や動き方を理解しているケースが多く、会社としての動きを滞らせることなく引引き継ぎ完了することが期待できます。

ただし、その一方で外部人材となるため、企業理念や文化へのフィットに関しては多少の時間を要する場合があります。

注目を集める「市場でのマッチングを図る承継」

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先述の通り、事業承継には「内部で人を選ぶ承継」「市場でのマッチングを図る承継」の2種類がありますが、近年は後者に含まれる「M&A」と「外部からスカウトした第三者への承継」が注目を集めています。

「市場でのマッチングを図る承継」の場合、自社の範囲をはるかに超えた領域から後継者を探すことができるため、内部のみを対象とする場合に比べ、事業承継の可能性が高まること、さらには外部からの発想・資本力を導入することに、事業を大きく発展出できる能性があることが大きな理由です。さらに近年では、M&Aの仲介や人材紹介などを行う業者や国のサポートも用意されており、アクセスしやすい手段になりつつあります。

とはいえ、M&Aにせよ、第三者のスカウトにせよ、外部からのマッチングを期待する場合は、自社が「市場において魅力的な価値を持つ」状態でなければなりません。その点にはじゅうぶん留意しつつ、それぞれのサポートサービスについて確認しましょう。

M&Aのサポートサービス

M&Aは事業承継にとって非常に有効な手段ですが、その実行には高度な知識・ノウハウなどの専門性が求められます。また、相手との交渉も求められ、大きな精神的負担も予想されます。こうした事情も含め、M&Aの成功率は3〜5割程度と言われており、決して簡単な道とは言えないのが実情です。

そのため、こうしたM&Aにまつわる難題を解決するため、専門家によるサポートサービスや業者が存在しています。「M&Aアドバイザー」や「M&Aコンサルタント」と呼ばれるそれらの専門家は、企業のM&Aに伴う手続きや交渉などのコミュニケーションの代行、サポートを行い、スムーズな取引を支援します。弁護士事務所や経営コンサルティング会社などがM&Aのサポートを行うケースも見られます。

また、上記のような専門家は売り手または買い手のどちらか一方に就いてサポートしますが、それとは別に、売り手と買い手の間に入ってマッチングを手助けする「M&A仲介会社」と呼ばれる業態も存在します。交渉先企業の紹介から、交渉や手続きの代行、必要な書類作成まで任せることができます。高度な専門性と多くの時間が求められるM&Aにおいて「M&A仲介業者」は、スムーズな取引を実現するための強力なサポーターになり得る存在です。

第三者スカウトのサポートサービス

親族や役員・従業員以外の第三者に後継者を求める場合、求人情報サイトなどの採用サービスや、ヘッドハンティングを行うエージェントサービスなどの活用が手段の一つとして考えられます。

後継者問題が顕在化する中、事業承継のための人材マッチングに力を入れるサービスも増えています。そうしたサービスは、既存企業の経営者となることを希望している人材が登録しているため、後継者を探す企業とのマッチング率は高くなることが予想されます。

また、求職者と企業をつなげるエージェントサービスも事業承継のための後継者探しに有用なほか、2018年に金融庁が監督指針を改正したことで銀行の人材紹介業参入が始まり、経営状況に基づく人材提案が行われるようになっています。(注2)

(注2)「主要行等向けの総合的な監督指針」および「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」の一部改正(案)の公表について https://www.fsa.go.jp/news/29/ginkou/20180123.html

自社の状況に合わせて最適なアドバイスを受け取る

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 ここまでご紹介してきたように、事業承継の中でも特に「M&A」を含む外部を対象とした承継においては、専門家のアドバイスは不可欠であると考えられます。

まずは日頃から付き合いのある商工会・商工会議所、金融機関、税理士、弁護士、公認会計士、などへの相談や、公的機関としては全国の「事業承継・引継ぎ支援センター」や「よろず支援拠点」からアドバイスを受けるのも良いでしょう。

その上で「M&Aアドバイザー」や「M&A仲介会社」、「一般社団法人事業承継協会」が認定する「事業承継士」といった、M&Aを専門的に扱っているエキスパートを頼ってみるのも、有効な選択肢です。

photo:Getty Images

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