“ハンズオン投資”で出資先のポテンシャルを最大化し、共に成長を目指す。オリックスが手がけるM&Aとは

近年、国内のM&A件数が増加傾向にある。その要因は、コロナ禍からの経済回復、産業構造の変化、低金利環境…などの外的要因もさまざま挙げられるが、最大の理由は、経営者のマインドの転換だ。企業の合併・買収につきまとっていた「身売り」「マネーゲーム」といったマイナスのイメージが薄れ、一転して“効果的な成長戦略”として前向きに検討する経営者が増加傾向にある。

そうした状況の中、中小企業の経営パートナーとして、長きにわたりさまざまなサービスを提供してきたオリックスも、「M&A」という手段を有効に活用している一社だ。「企業のカラーや風土を保ちつつ、本来のポテンシャルを引き出す」というオリックスのスタンスは、出資先の従業員からの信頼を得ながら、成長戦略を押し進めるうえでの大きな原動力となっている。オリックスのM&Aにおける基本方針とその強み、具体的な手法について、オリックス株式会社 業務執行役員 事業投資本部副本部長 事業投資第一グループ長 谷村 栄治と同社 事業投資第一グループ マネージングディレクター 長谷川 聡に話を聞いた。

企業規模問わず近年増加傾向のM&A。背景には経営者のマインドの変化

(左)オリックス株式会社 事業投資第一グループ マネージングディレクター 長谷川 聡/(右)オリックス株式会社 業務執行役員 事業投資本部副本部長 事業投資第一グループ長 谷村 栄治

――近年、国内のM&Aの件数は増加傾向にあると聞きます。その要因はどこにあるのでしょうか?

谷村:最大の理由としては、M&Aに参入するプレーヤーが増えたことが挙げられるかと思います。上場企業を中心とする大手企業は好業績で積み上げた潤沢なキャッシュをM&Aに投じています。また国内外のPEファンドは機関投資家などからの巨大な投資資金を取り込み、拡大傾向です。M&A専門の仲介会社もこの10年程で急増しました。M&Aの仲介手数料の低下や、M&Aマッチングサイトの登場など、売り手も買い手も参入障壁が低くなり、M&Aはより一般的なものとなってきました。いわば、“民主化”されたというわけですね。

長谷川:そういう状況があって、近年顕著に感じるのが、売り手側の経営者の意識変革です。一昔前までは、「上場会社が子会社を売却する」、あるいは「大手企業が業績悪化に伴い、再生を図るために身売りする」など、M&Aの大半が大型案件で、とくに中堅以下の企業にとっては縁遠い話でした。それが近年は、中小企業の経営者も前向きにM&Aを検討するようになってきています。

その背景には大きく二つのポイントがあります。一つは事業承継や第二創業といった、企業活動の継続に関することです。後継者不在に悩むご高齢の経営者が増えているのに加え、比較的若い世代の経営者も、「変化の激しいこの時代にこのまま同族で会社を承継しても、以前のような成長曲線は描けない」と判断して、会社の存続・発展のために第三者への株式譲渡を選択するケースが増えています。

もう一つは、経営者自身の価値観の多様化です。昔はオーナー企業の多くの経営者が「家業を継いで次世代へつないでいくこと」に強い使命感を持っていました。しかし今は、そうした使命感を抱きつつも「自分なりの生き方」をするために、会社を売却する経営者が少しずつ増えているように感じています。

オリックスならでは隣接分野への進出で、深い事業理解と具体的な協業を実現

長谷川 インタビューカット

――M&Aが企業成長の戦略の一つとして一般的になっているのですね。では、オリックスにおけるM&Aにはどのような特徴があるのでしょうか。

長谷川:前提としてM&Aの基本的な流れは、

(1)案件の探索(ソーシング)
(2)M&A実行(エグゼキューション)
(3)体制整備、事業成長の支援(PMI)

となっています。

この流れに関してはオリックスもほかのファンドと大きく変わりません。ただ、それぞれの工程でオリックスならではの強みがあります。

M&Aのプロセス イメージ

まず「(1)案件の探索(ソーシング)」では、M&A仲介会社やファイナンシャル・アドバイザーからだけではなく、オリックスグループが全国に展開する独自のネットワークから情報を仕入れることができるのが特徴です。そしてターゲット企業を絞り込んでいくうえで、業績や成長力はもちろんですが、「出資先単独では実現できない、オリックスグループらしい成長ストーリーを描けるか」という点を非常に重視しています。

オリックスは、リース事業を起点に隣接する事業領域への進出を続けることで、世界でも有数の多角的経営を実現しています。結果的に、いまのオリックスグループにとって全くの飛び地にある業界は少ないと感じています。現在の出資先の業種は多岐にわたっており、ヘルスケア、IT、建設、物流、機械商社などとなります。いずれもグループが手がける事業の同一もしくは隣接領域の業界です。一見遠い業界に見えても、幅広い事業との接点を見いだすことで、出資先の同業他社とは異なる成長ストーリーを描けると考えています。

例えば2020年にオリックスグループに迎え入れた建設機材レンタル大手「杉孝」は、オリックスの祖業であるリース・レンタル領域の会社であり、また主要セグメントの一つである「不動産」と密接に関係する会社です。さらに建設業界は最もデジタル化が遅れている業界と言われており、まさに変革期にあります。オリックスグループの既存事業との連携と、事業成長のノウハウで、出資先単独では実現できない成長ストーリーを描けると考えたのです。

谷村 インタビューカット

谷村:続いて「(2)M&A実行(エグゼキューション)」の交渉段階では、「オリックスグループに入った後の具体的な成長戦略・新たな価値の創造」や「長期的に業界や市場に与え得るインパクトの大きさ」などについて、出資先の担当者も交えて議論を重ねます。収益だけではなく、「自分たちが先方の会社と一緒にどういうチャレンジができるのか」を具体的に話し合います。

例えば、2020年11月に出資を発表したネットワーク機器の開発・製造を行う「エイチ・シー・ネットワークス」は、M&Aの交渉段階から、オリックス・システムの手がけるプロジェクトへの参画や、オリックス・レンテックとのネットワークインフラのレンタルサービスの共同開発などをディスカッションしていました。どちらのプロジェクトも出資後の翌年には実現しています。

――交渉の段階からM&A実施後のビジョンがかなりクリアに見えていますし、実現までのスピード感もありますね。

長谷川:そうですね。グループのシナジーを生かして、具体的な事業展開やプロダクト開発を提案できるのも、オリックスならでの強みだと思います。

ありがたいことにこれまでのM&A成立案件では、複数の譲渡先候補がある中でオリックスを選んでいただくというケースが大半です。経営者の皆さまが、多様な事業を大規模に展開しながら成功しているオリックスグループの一員となることで「これまでとは異なる成長曲線を描ける」という期待と信頼を寄せていただいている証しだと感じています。

相手の事業戦略を丁寧にヒアリングしながら、当社のアセットやネットワークとのシナジーが生み出せるか。金融投資家ではなく、事業も展開している事業投資家として誠実に伝えることが、交渉の初期段階ではとても大切だと思います。

現場で一緒に汗をかきながら成長戦略を進めるオリックス流“ハンズオン投資”

谷村 インタビューカット

――では、「(3)体制整備、事業成長の支援(PMI)」における特徴を教えてください。

谷村:やはり「常駐者の派遣」が一番の特徴になるかと思います。経営メンバーを派遣して、出資先企業の経営に深く関与するスタイルを「ハンズオン投資」といいますが、基本的にその形態をとっています。投資会社の中には、「最初の数カ月の体制整備後は週一度の報告だけ」といったようなケースもありますが、オリックスはM&Aの窓口となった担当者が常駐し、出資先の役職員の皆さんと現場で同じ空気を吸いながら成長戦略を進めていきます。

長谷川:経営に深く関与するといっても、オリックスの価値観や表面的な合理性だけで一方的に判断することはありません。一緒に汗をかきながら、成長スピードを上げるために大切なことは「まず出資先を理解すること」。

その業界で成功している会社には必ず、ビジネスモデルや組織体制、社内ルールなどに特徴があり、独特の合理性があります。まず、それを理解することが大切です。同時に、自分たちのことを相手に理解してもらいながら信頼関係を深め、着実に成長戦略を進めていく。こういった基本姿勢が当社のM&Aに携わるメンバーには染みついています。

谷村:出資先企業はオリックスとは異なる業界に属し、独自の強みや専門性を身に着けることで成長してきた会社です。そこに当社のガバナンスやルールを単純に当てはめてもうまくいかないですよね。やはり会社のカルチャーは大切にしたいと思いますし、業界の慣習なども学ぶ必要があります。違いを理解した上で出資先のポテンシャルを引き出し、一緒に成長していく。それが大事です。

――相手企業へのリスペクトを欠かさないわけですね。ほかに、オリックスのM&Aの強みがあれば教えてください。

谷村:一つは、「自己資金を用いることによる柔軟な投資スタイル」です。多くの投資ファンドは投資家の資金を預かって運用しているため、一定の期間内に売却して収益を上げることを目指しますが、自己資金での出資の場合は外部の投資家に左右されません。中長期的な視点で出資先のポテンシャルを引き出しながら成長を目指すことが可能です。

長谷川 谷村 インタビューカット

長谷川:あとは、約70名のメンバーのチームワークも強みといって良いと思います。新卒からオリックスに入社した社員と中途採用で入社した社員はおおむね半々ですが、多様なバックグラウンドや専門性をもった人材がワンチームとなって運営しています。出資先でどんな施策を行っているか、どんな問題が発生しているかなど、これまでの成功・失敗事例をすべて組織として知見を共有しながら一つひとつのM&Aと向き合っています。

谷村:オリックスには協力しながら成長し合う文化があるんですよね。メンバー同士の知見共有がそれぞれの実力向上につながり、メンバーの新たな経験がまたグループ内の知見として蓄積され投資チームとしての実力向上につながっていく―このようないい循環が生まれています。

あと、単純に気のいいメンバーが多いですよ。実はそれがオリックスをパートナーに選んでもらえる一番の理由かもしれません(笑)。

――最後に今後の目標について教えてください。

長谷川:われわれの部門は、常に「今のオリックスにはない業界」をグループに取り込んでいくことも役割の一つとして担っています。オリックスグループの事業拡大の足掛かりとして、これからも魅力的な事業を展開するさまざまな会社をグループに迎え入れ、長期的な成長を共に目指して行きたいと思います。

谷村:「オリックスグループがいなかったら、実現し得ない成長を出資先にもたらす」こと。私たちのチームはこのキャッチフレーズを以前から掲げています。オリックスというプラットフォームを使って企業の成長を支援していきたい、オリックスの持っている成長支援機能を強化していくことでもっとたくさんの企業の成長に携わっていきたい、オリックスだけでなく出資先同士で切磋琢磨(せっさたくま)していく企業集団を形成していきたい、そんなことを常々思っています。こうした関係がさまざまな事業領域で進むことで、世の中がよりよい方向に進むきっかけとなる“未来をひらくインパクト”を生み出していきたいですね。

法人のお客さま向け事業・サービス

法人金融事業・サービス

事業承継支援

事業投資・コンセッション事業

ページの先頭へ

ページの先頭へ