気候テック・スタートアップ「ゼロボード」が起こす日本企業の脱炭素経営革命

いまや企業活動において、地球環境への配慮・サステナビリティ重視の観点は欠かせない。特にTCFD(※1)に基づいた情報開示の重要性は世界的に高まり、サプライチェーン全体のCO2排出量の算定と開示は、大企業だけでなく中小企業にとっても大きな課題となっている。

オリックス 法人営業本部でCVC(コーポレートベンチャーキャピタル:事業会社がベンチャー出資を行い、キャピタルゲインだけではなく事業シナジーや新規事業創出に生かす手法)を推進している国内事業推進部は2023年、国内の気候テックのけん引役ともいえる株式会社ゼロボード(以下、ゼロボード)に出資。ゼロボードは、CO2を含む温室効果ガス(GHG)の排出量算定・可視化クラウドサービス「Zeroboard(ゼロボード)」を、2021年から提供し、GHG排出量の算定・可視化のパイオニアとして注目を集めている。同社代表取締役の渡慶次 道隆氏と、オリックスから出向し、オリックスの強みである営業ネットワークを生かした協業を推進している野上 浩平に、企業が脱炭素経営を進めるうえでの課題から、GHG排出量可視化の重要性、今後のビジョンまで伺った。

(※1)TCFD:気候関連財務情報開示タスクフォースの略称。企業に対し、気候変動に関連するリスクや機会についての情報開示を推奨している

オリックスとの協業で中小企業の脱炭素経営を推進する

株式会社ゼロボード代表取締役 渡慶次 道隆氏

――はじめに、オリックスがゼロボードに出資を決定した経緯について教えてください。

野上:1964年にリース会社としてスタートしたオリックスは、当初から金融サービスを皮切りに事業の多角化を進めてきました。1995年には環境・エネルギー分野にも進出し、現在は太陽光・バイオマス・風力といった自然エネルギー関連の事業も幅広く手がけ、全国の中小企業を中心とした法人顧客の脱炭素経営を支援しています。

日本政府による「2050年カーボンニュートラル宣言」(※2)発表により企業の脱炭素化の動きが本格化していますが、日本では、地球環境や気候変動対策に焦点を当てた技術やサービスを提供する企業が少ないのが実情です。そんな中、ゼロボードは2021年の会社設立と同時にクラウドサービス「Zeroboard」の提供をいち早く開始。3年ほどで導入6000社を超えるという驚くほどの成長スピードで、いまや日本の気候テックのけん引役ともいえる存在です。スタートアップとしての成長性に加え、脱炭素社会の実現に寄与する新規事業の創出ができるのではと思い、出資を決定しました。

(※2)2050年カーボンニュートラル宣言:2050年までにCO2(二酸化炭素)排出量を実質ゼロにすることを目指す宣言

渡慶次氏:オリックスとは、とても大きなシナジーを生み出せるのではないかと感じていました。私たちが提供する「Zeroboard」は、GHG排出量に関する国際基準「GHGプロトコル」に準拠して、Scope3(※3)を含むサプライチェーン全体のGHG排出量を算定・可視化できるサービスです。「Zeroboard」によってお客さまは自社が排出するCO2などの温室効果ガスの量を把握することができますが、脱炭素経営を実現するためには排出量を可視化した後、削減する方法を検討しなければなりません。

(※3)Scope3:Scope1(事業者自らによる温室効果ガスの直接排出)、Scope2(他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出)以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)。排出される場面が多様であるため、算定の難易度が高い

当社がGHG排出量「算定・可視化」のソリューションを提供したお客さまに、オリックスが排出量「削減」のソリューションを提供する。PPAモデル(※4)省エネルギーサービス(※5)などの「削減」ソリューションをもつオリックスとの協業によって、企業の脱炭素経営により深く貢献できると思い、出資を受けました。また、営業面のリソースが不十分なスタートアップにとって、全国の営業ネットワークを生かした協業も心強く感じました。

(※4)PPAモデル:お客さまの保有する施設に太陽光発電設備や蓄電設備などを設置し、同設備から発電される電力をお客さまに供給するサービス
(※5)省エネルギーサービス:お客さまの工場や建物内の生産設備などの更新・設置に際し、生産性を向上させることで省エネルギーおよび省CO2などを実現するサービス

グローバルで企業価値を高めるために、サステナビリティ関連情報の可視化・開示は不可欠

――GHG排出量可視化の重要性は、今後も高まっていくのでしょうか?

渡慶次氏:2022年には気候変動に係るリスク・収益機会が自社事業に与える影響に関して情報開示することが、プライム市場で実質義務化され、日本でもGHG排出量の算定・開示は企業の存続に欠かせないものとなりつつあります。さらにEUにおいては、政府主導でサステナビリティ関連の情報開示の義務化が進んでおり、こうした義務化の影響は将来的に必ず日本にも波及します。

サステナビリティ関連のルールは、EUを中心にものすごいスピードで日々更新されているので、最新の動向をキャッチアップし、ソリューションを順次開発しています。例えば現在、自動車業界ならびに蓄電池関連製造に関わる企業に対し、EUで2023年8月17日に施行された「欧州バッテリー規則」への対応が求められています。それに対応するための「Zeroboard for batteries(ゼロボードフォーバッテリーズ)」というサービスの提供を始めました。

野上:ChatGPT APIを活用した機能の開発や最新ルールの反映など、市場ニーズへの対応スピードはほかの気候テックの企業にはないゼロボードの強みだと感じています。

オリックス株式会社 中央支店第三チーム 野上 浩平(2023年よりゼロボードに出向)

サステナビリティ経営の総合プラットフォーマー

――最後に、ゼロボードの今後の目標についてお聞かせください。

渡慶次氏:まずはさらなるシェアの拡大です。多くの企業がGHG排出量の削減に取り組んでいくと予想されますが、ユーザーが増えればサプライチェーン間でデータ連携でき、Scope3を含むGHG排出量の可視化が進みます。将来的に、その削減に取り組むエコシステムの構築を目指しています。

二つ目の目標は、脱炭素意識がまだ高くない企業へのアプローチを増やすことです。大手メーカーなど脱炭素意識が高い企業は、すでに脱炭素化施策をやり切っているところも少なくありません。そうした企業のサプライヤーや海外工場、中小企業を中心に、GHG排出量算定・削減の必要性とメリットを理解してもらうための取り組みを行っていきたいと思います。

また、海外にもゼロボードの脱炭素プラットフォームを提供していきたいです。現在の脱炭素の世界的な潮流は、基本的に欧米がルールを決めて主導しています。しかし、地政学的リスクも踏まえれば、日本も近隣の東南アジア諸国と連携して、国際ルールを積極的に提案していくべきだと思います。日本がアジアの脱炭素化を主導することで国際的な影響力も高まり、世界市場での日本企業の価値がより高まるはずです。

最終的には、サステナビリティ全体の情報開示のプラットフォーマーになれたらと考えています。EUでは人権やガバナンスといったところまで情報開示を求める動きが加速しています。この流れはいずれ必ず日本にも訪れるので、サステナビリティ経営全般のサポートを行う総合的なプラットフォームになることを構想しています。

野上:GHG排出量削減の必要性を認識していても、どこから始めていいかわからない、という企業は多いです。まずは「可視化」を脱炭素経営のスタートとして、「Zeroboard」をご提案していますが、今後はオリックスとしてもGHG排出量削減だけにとどまらず、サステナビリティ経営に資するソリューションを提供していきたいですね。

渡慶次氏:ありがとうございます。気候変動という課題をお客さまと一緒に解決し、社会の可能性に変えられるよう、ぜひ一緒に頑張っていきましょう。

スタートアップの成長のカギは「営業力」。オリックスの営業支援の特徴とは

オリックスのCVCでは双方のメリットを踏まえた上で出資先の営業支援を行うケースがある。ゼロボードへの出資後、全国50拠点以上の営業ネットワークで「脱炭素化」のソリューションとして法人顧客へ「Zeroboard」の提案を進めている。法人営業本部 副本部長の木村 剛と、ゼロボードに出向して営業支援を進めている野上 浩平に、オリックスの法人顧客ネットワークの幅広さ、ゼロボードをはじめとするスタートアップとのシナジーについて伺った。

――現在、ゼロボードにはどのような営業支援を行っているのでしょうか?

野上:北海道から沖縄まで各地域に根差した営業支店に所属する担当者が「Zeroboard」を提案しています。特にご興味をお持ちの企業には、後日ゼロボードの営業担当とオリックスの営業担当が一緒に訪問し、具体的に導入まで話を進めます。

木村:当社は金融サービスを中心に約60年間全国で事業展開してきた実績がありますから、深い信頼関係で結ばれているお客さまが多数いらっしゃいます。お客さまのお話を聞いていても、「脱炭素化に取り組みたいが、何から始めていいかわからない」とおっしゃる方も多いです。常日頃からお客さまのお話を伺えているからこそ、脱炭素のニーズを的確に捉えて、それに資するソリューションとして「Zeroboard」を提案できています。

――出資先のスタートアップへの営業支援には、どのような意義があるのでしょうか。

木村:一般的にスタートアップは営業人材の育成にかけられる時間やコストが限られています。一方で全国のお客さまは、業界トレンドや潮流に対応するために必要な最新のソリューションやシステムを探しており、ご相談をいただくことも多くあります。私たちがスタートアップとお客さまの架け橋となることで、双方の事業を支援することができると考えています。

また、スタートアップにとって投資家や潜在顧客からの信頼性を高めるという意味でも上場企業とのパートーナーシップは有用なのではないでしょうか。

オリックス株式会社 法人営業本部 副本部長 木村 剛

――オリックスの営業支援にはどのような特徴があるのでしょうか。

木村:あらゆる業界に精通し、全国の経営者に直接会えることが強みです。例えば、自動車メーカーであれば系列のサプライチェーンだけ、というように営業ネットワークが限定されます。しかし、金融業やリース業を主軸として成長してきた当社は、多様な業界・業種への営業展開が可能です。これほど柔軟かつ広範な営業ネットワークを提供できる企業は、唯一無二ではないかと自負しています。

――最後に今後の目標をお聞かせください。

野上:今後、「Zeroboard」でGHG排出量を可視化されたお客さまから、削減の具体的なソリューションを求められる機会も増えてくるはずです。その際、オリックスグループの強みを生かしたご提案ができる体制を整えていきたいと思います。

木村:スタートアップが株式上場を目指す上ではいかに先行優位性を高め、シェアを伸ばすかが重要です。ゼロボードの株式上場を支援すべく、引き続き営業支援を強化していきたいですね。加えて、ゼロボードとコラボし、当社としてもお客さまの脱炭素に資する新規事業を立ち上げたいと考えています。ゼロボード、オリックス、そしてお客さまの三方がいずれも成長できるよう、頑張ります。どうぞご期待ください。

法人のお客さま向け事業・サービス

法人金融事業・サービス

環境エネルギー事業・サービス

事業投資・コンセッション事業

ページの先頭へ

ページの先頭へ