中小企業の平均離職率や離職理由、人材定着の秘訣を徹底解説

[監修]
株式会社クオリティ・オブ・ライフ代表取締役
特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会常務理事兼事務局長
高知大学客員教授 原 正紀
本記事は2025年3月時点の情報を基に作成しています。

深刻化する人材不足に悩む中堅・中小企業の経営者や人事担当者は多い。一般的に、大手企業と比較して中堅・中小企業の離職率は高いとされるが、実際のところはどうなのか。離職率が高い中堅・中小企業に見られる共通の特徴や、離職率を下げるための具体的な対策について、株式会社クオリティ・オブ・ライフ代表取締役であり、特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会の常務理事兼事務局長、高知大学客員教授も務める原 正紀氏に話を伺った。

株式会社クオリティ・オブ・ライフ代表取締役
特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会常務理事兼事務局長
高知大学客員教授 原 正紀氏

中堅・中小企業の平均離職率はどのくらい?大手企業よりも高い?

――原さんは人材分野のプロフェッショナルとして、長年、中堅・中小企業の支援に取り組んでおられます。「人材が定着せずすぐに辞めてしまう」と悩む中堅・中小企業経営者が多いようですが、実際のところはいかがでしょうか。

結論から言えば、やはり大手企業よりも中堅・中小企業の方が、離職率は高いと言えます。企業規模と離職率がきれいに反比例する訳ではありませんが、およそそのような傾向にあります。

厚生労働省による「令和5年雇用動向調査」の結果を見ると、2023年度の企業規模別平均離職率は「1000人以上」の企業が14.2%、「300~999人」が16.1%、「100~299人」が19.0%、「30~99人」が16.0%、「5~29人」が15.6%となっています。

とはいえ、これはあくまで平均値です。人材定着率が高い中堅・中小企業も、採用がうまくいっている中堅・中小企業も、見渡せばたくさんあります。企業規模に関わらず、工夫次第で離職率を下げることは十分可能です。

――昨今、雇用の流動化が加速しているとも言われていますが、中堅・中小企業にとってどのような影響があると考えられますか。

そうですね。日本政府は「リスキリング(学び直し)」「ジョブ型人事」「労働移動の円滑化」の三位一体の労働市場改革を進めていますし、インターネットの発達に伴い、転職サイトを利用する人も増えました。

かつてのように終身雇用で定年まで1社で勤め上げるのではなく、転職も良し、副業も良し、時にはキャリアブレイクで少し勉強するのも良しといったように、人々の意識も変わってきています。雇用流動化は、今後ますます進むでしょう。

一見、中堅・中小企業にとってはこの流れは不利に見えるかもしれません。一般的に、中堅・中小企業は、大手企業に比べると知名度や資金力という点で劣るため、優秀な人材を確保するのが難しいとされているからです。

しかし、悲観する必要はありません。むしろ雇用流動化が進む時代だからこそ、中堅・中小企業にも大手企業と渡り合うチャンスが生まれています。一昔前であれば大手企業に入社していただろう優秀な人材が、ベンチャーの中小企業に行くということも珍しくありません。企業によっては、むしろ昔よりもずっと、良い人材が採りやすくなっています。

離職率の高い中堅・中小企業の特徴と、よくある離職理由

――中堅・中小企業の中でも、人材が定着する企業とそうでない企業があります。成否を分けるのはどのような点でしょうか。

私は7つの要因で説明しています。1つ目は「企業要因」です。経営ビジョン、経営者の魅力といった企業の魅力、もしくはその企業が属する業界のポジションが定着率に影響します。

2つ目は「職場」の観点です。人間関係が良好、職場改善が進んでいるなど、居心地がよく働きやすい職場は定着率が高くなります。

3つ目は「仕事要因」です。この仕事をやることによって満足感を得られるという仕事のやりがいは、人をその会社に引きつけます。

4つ目は「成長」です。最近の若者は「成長神話」を重視します。この会社に行って3年頑張ればこれだけ伸びる、この仕事をやることは成長につながるといったビジョンを描けるよう、周囲がサポートすることが重要です。

5つ目は「キャリア」です。ここで何年頑張ればこういうポジションでこういうことができるというキャリアパスが明確になっている企業は、定着率が高い傾向にあります。大手企業だけでなく、中小・中堅企業でも、しっかりしたキャリアパスを示している企業はあります。

6つ目は「処遇」です。給与だけでなく、勤務形態の柔軟性や、休みの取りやすさ、福利厚生などを含めた処遇が社員のメンタルに影響します。

最後の7つ目は「生活要因」です。一見、企業と関係ないように思えるかもしれませんが、ライフワークバランス(仕事と生活の調和)を大切にしてくれる会社であれば、自分の生活が潤うことになります。

この7つの観点で分析し、自社の強みや弱みを確認するといいでしょう。

――最近はハラスメントなどの問題も注目されていますが、中小企業で起きやすいハラスメント関連のトラブルがあればお聞かせください。

中小企業では、良くも悪くもオーナー経営者の個性が出がちです。リーダーシップは大切ですが、「俺の言うことが聞けないのなら辞めろ」といった言動をしているようでは、人材は定着しません。社員が1人辞めると、補充採用するためには大きな労力とコストがかかることを自覚すべきです。セクハラ(セクシュアルハラスメント)やパワハラ(パワーハラスメント)も退職の要因になりますので、防止のため、管理職の教育をしっかりと行いましょう。

ひとたび「ブラック企業」という評判が立ってしまうと、会員制交流サイト(SNS)などで求職志望者の間に一気に広がり、採用が極めて難しくなりますから、注意してください。

中堅・中小企業が離職を防ぎ、人材定着させるための秘訣

――離職防止のために、中堅・中小企業が取り組むべきことは何でしょうか。

まずは先ほど述べた7つの要因について、自社の強みと弱みを分析することです。改善すべき点があれ改善し、強みはさらに磨き上げていきましょう。

その上で、自社の強みや個性をしっかりと情報発信していくことが大切です。それが、新入社員とのミスマッチを防ぎ、長期的な雇用関係を築くことにつながります。

「うちなんて、たいした企業ではないから」と謙遜なさる経営者の方もいらっしゃいますが、長く勤めている従業員がいて、お客さまに支持されているということは、必ず何らかの魅力があるはずです。経営者自身で言語化できなければ、従業員やお客さまにヒアリングしてみてはいかがでしょうか。

また、採用後の早い段階でのコミュニケーションも重要です。人事分野ではこれを「オンボーディング(組織への定着支援)」と呼びます。入社前のサポートはもちろん、入社後も継続的に本人との面談を実施し、将来的にどのようなキャリアパスを描いているのかを確認した上で、適切な配置を行うべきです。

「クオーターライフ・クライシス」という現象もあります。人生の4分の1に差しかかる20代半ばから30代前半にかけて、多くの人が「このままこの会社にいていいのだろうか」とキャリアについて悩むということです。ある日突然「退職したい」と告げられて慌てることのないよう、その兆候を早期に把握するためにも、定期的なコミュニケーションを心がけることが大切です。

――労働力が不足する中で、女性やシニア、外国人など、多様な人材を活用することも、中堅・中小企業にとっては必要だと思われますが、いかがでしょうか。

当然、積極的に多様な人材を採用すべきです。例えば、結婚や出産を機に職場を離れた優秀な人材や、定年退職後のシニア人材は、企業にとって貴重な戦力となり得ます。こうした人材を採用の選択肢に含めることが、有効な手段の一つといえるでしょう。

また、転職した社員に戻ってきてもらう「アルムナイ制度」も、中堅・中小企業にとっては効果的です。外の世界で経験を積んだ上で戻ってくるわけですから、新たな視点から会社への建設的な提言が期待できます。

――経営リソースに限りがある中堅・中小企業では、待遇改善などが容易ではないという声も少なくありません。課題解決のポイントはどのような点でしょうか。

「中小企業だから給料が安くても仕方がない」というのでは、人は来てくれません。処遇の見直しは不可欠です。大手企業並みは難しくても、業界平均は超えるようにしたいところですね。

では、そのためにどうすべきか。東京商工会議所および日本商工会議所は、「これからの労働政策に関する懇親会中間レポート」において、中小企業が深刻な人手不足社会を生き抜くためには3つのチャレンジが必要だとしています。

無駄の排除やデジタル活用などによる「徹底した省力化」、省力化によって生まれた時間を活用し、従業員一人ひとりの成長を支援する「徹底した育成」、そしてフルタイム・男性社員中心の考え方を改めた、働き手と働き方における「徹底した多様性」です。

経営者が覚悟を決めてこれに取り組み、待遇の改善を実現していただきたいものです。

――政府の後押しなどもあり原材料費の価格転嫁も徐々に進んでいますが、それでも利益が確保できず、事業の継続が容易ではない業態もあるようです。

自社内の取り組みだけでなく、サプライチェーン全体での見直しも必要でしょう。取引先に対して、「価格転嫁ができなければ人材の確保もできない」と、真剣に交渉することが必要です。

一方で、それでも生き残るのが難しいという状況であれば、大手企業の傘下に入ったり、同業の企業と合併したりといった再編の道を選ぶのも一つの方法だと思われます。

――原さんが支援をされた中堅・中小企業の中で、人材流出スパイラルを止め、人材定着企業に変革できた事例などがあれば、その取り組みについてご紹介ください。

経営者が主体となって、できることから着実に取り組んでいく企業は、状況が好転しやすい傾向にあります。

大きな費用をかけずにできることもあります。例えば「メンター制度」です。ある中小企業では、新入社員1人に対して先輩1人、メンターとして配置しています。若手社員は、仕事を続ける中で少なからず不満や悩みを抱えるものですが、その中には上司には言いづらい内容も少なくありません。しかし、上下関係のないメンターであれば、気兼ねなく本音を話すことができます。いわゆる「ガス抜き」ですが、これが重要な効果をもたらします。

実際に、「話を聞いてもらってスッキリしたので、また明日から頑張れる」という声も多く、結果として「突然の退職」を防ぐ有効な手段となっています。さらに、この制度は新入社員の支援にとどまらず、メンターを務める先輩社員にとっても、後輩指導を通じて自身の成長を促すというメリットがあります。

あるいは、社員向けに外部のキャリアコンサルティングサービスを導入するという方法もあります。例えば、厚生労働省が推進する「セルフ・キャリアドック制度」では、企業が従業員に対して定期的にキャリアコンサルティングを実施し、キャリア形成を支援する仕組みが整えられています。

誤解しないでいただきたいのですが、このキャリアコンサルティングは、単に定着を促すものではありません。社員が自社内でどのようにキャリアを築いていくかを含め、将来設計に関する適切なアドバイスを実施してくれるので、事業推進にもつながります。

中堅・中小企業は、すべてを自社で対応しようとすると、負担が大きくなりがちです。外部の専門的なサポートを活用することで、社員のキャリア形成をより効果的に支援でき、企業側の負担も軽減されることでしょう。

――食わず嫌いせず、まずは試してみると、活路が見いだせそうですね。

今はまだ、対応が追いついていない中堅・中小企業も少なくありません。だからこそ、人材定着へ向けた具体策を早期に実施することで、他社より一歩先んじることができます。ぜひとも勇気を持って、一歩を踏み出していただきたいと思います。

原 正紀

株式会社クオリティ・オブ・ライフ代表取締役
特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会常務理事兼事務局長
高知大学客員教授

早稲田大学法学部卒、株式会社リクルートを経て株式会社クオリティ・オブ・ライフを設立。企業への人財活用提案を中心に、産学公個に対して活動を展開。事業活動のほか、講演・執筆・委員などにも注力している。社外取締役、大学講師、社団法人理事なども務める。

https://qol-inc.com/
https://www.career-cc.org/

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