事業拡大や組織改革の支援を通じて、“日本の基礎”を支える確かな技術を未来へ~事業承継とオリックス~

多くの中小企業が後継者不足に悩み、「事業承継」を課題として上げている。事業承継を目的としたM&Aが増える一方、第三者へ承継することで、社名、社員や取引先との関係、理念など、これまで築き上げてきがものが変わってしまうのではないかという懸念を示す経営者も多い。そのような中、オリックスは「投資先の企業文化を尊重しながら、事業を発展させていく」手法で事業承継を支援している。

東京都北区に本社を置く計測ネットサービス株式会社(以下、計測ネットサービス)は、2020年に全株式をオリックスに譲渡し、連結子会社となった。その決め手はなんだったのか、第三者へ事業を承継するに至った経緯や承継後の取り組み、今後の展望などについて、計測ネットサービス 代表取締役 佐藤哲郎氏と、同社の経営を支援すべくオリックスから執行役員として出向している角田恵理氏に話を伺った。

ハードとソフト、高度な技術力の組み合わせで現場に合った計測ソリューションを提供

――はじめに、計測ネットサービスについて教えてください。

佐藤 私はもともと建設現場で使用する計測器のメーカーで営業をしていました。計測器は一般的には馴染みの薄いものですが、三脚のついたカメラのようなものを道路に向けている作業員を見たことがあるかと思います。あれは道路の角度や目標地点までの距離を測っているのですが、そんなイメージを持ってもらえればと思います。

そうした仕事をする中で、当時からこの先、人口減少によって建設業界においても人手不足が課題となり、省人化のニーズが高まると考えていました。また、建設現場では事故も多い。そこで、自動化により生産性向上、品質向上に加え、安全性の確保が図れないかと、計測器のレンタルと合わせて計測器を制御するソフトウエアを開発し、ハードとソフトを組み合わせて提供する計測ネットサービスを1998年に創業しました。

――計測器を制御する、というのは具体的にはどのような状態を指すのでしょうか。

佐藤 計測器にプログラムを組み込んで、目的にあった動きをするように機能させるものです。多くの場合、計測器はその名のとおり何かしらを「計測」することに特化しています。それらを使って得られたデータを活用するには、データの記録、PCへの入力などが必要ですが、ここは基本的に人が行っていました。そうした部分を自動化したり、機器同士を連携させたりすることで効率化を図るというものです。

例えば、当社の計測統合クラウドサービス「K-Cloud」は、複数の計測器などで取得したデータを一元管理するもので、自動でグラフ化や解析などが行えます。また、3次元変位計測システム「DAMSYS」は、構造物やのり面(※1)などの挙動を24時間・無人で自動計測するシステムで、取得したデータを即時演算することにより3次元の情報として「K-Cloud」を通して遠隔でデータを確認することができます。具体的には、建設現場において最初に計測した地点からずれが生じていないか、地盤沈下していないか、構造物が動いていないかといったモニタリングに活用できます。このように、計測器とソフトウエアを組み合わせることによって、さまざまな自動化、効率化が実現します。

(※1)切土や盛土により作られる人工的な斜面

K-Cloudは計測データを一画面管理しながら、任意の書式でのドキュメント作成機能も備えている

当社は、自社でシステムエンジニア、プログラム開発者を擁しており、計測のコンサルティングから計測システムの開発、計測業務の請負、システムの保守サポートまで、一気通貫でお客さまの要望に合わせて、最適なソリューションを提案できることが強みです。業界的に、計測器とソフトウエアは別々に提供されることが多いですが、計測器の選定から設定、仕様、データの活用などが建設現場やユーザーによって異なるため、それぞれのニーズに合わせたきめ細やかな対応が求められるからこそ、ワンストップで計測に関するソリューションを提供する必要があると考えています。

その結果、今では企業規模の大きさを問わず、多くのゼネコンや建機レンタル会社と取引させていただいています。

――順調に事業を進めて来られたかと思いますが、オリックスへの事業承継を決断された背景を教えてください。

佐藤 最大の理由は、持続的な経営とさらなる事業拡大のために、早急に組織力を強化する必要があると感じていたからです。

十数年前に起きたトンネル事故や構造計算書の偽造事件などを受けて、計測管理の重要性が改めて見直される動きがあり、それに伴って、当社の業績も右肩上がりで伸び続け、2015年に40名弱だった社員が2020年には100人を超えるまでになりました。

急速に社員が増える中で、教育や評価といった人事面での制度整備が追いつかず、人材を育てて定着させるということが難しくなっていました。また私自身、ゆくゆくは次の世代に経営を任せたい、と考えていました。

企業文化はそのままに、組織力、事業力を強化

――オリックスとの出会いはどのようなものだったのでしょうか。

佐藤 オリックスといえば金融のイメージが強く、当初は事業承継のパートナーになり得る存在という印象はありませんでした。

しかし、オリックスと会話を重ねていく中で、地質調査の「東京ソイルリサーチ」など、すでに建設関連企業の事業承継の実績があり、シナジーが出せると思いました。また、多様な事業を展開していることから、私たちがこれまでアプローチできなかった分野でのビジネスの広がりに期待できると感じました。加えて、オリックスは事業運営に必要な経営ノウハウを持ち合わせており、一番の課題である経営基盤強化をサポートしてもらえると感じたことが決め手となりました。

角田 私たちとしては、計測ネットサービスに大きな将来性を感じていました。「建設業界の人材不足」という社会課題に真正面から向き合い、ハードとソフトウエアの両面でソリューションを提供できる貴重な会社です。佐藤社長が課題に感じられていた「組織体制の整備」もオリックスのノウハウで貢献できるのではないかと考えて、資本提携をご提案させていただきました。

――将来性と、課題解決の確かな可能性を感じられたわけですね。しかし、第三者へ経営権が移ることに不安はありませんでしたか。

佐藤 事業承継によって、20年以上築き上げてきたものが変わってしまうのではないかという不安はありました。しかし、角田さんから「企業文化を尊重し、社員の待遇も変えない。経営基盤を整備して、長期的に計測ネットサービスの成長を支援していく」と承継後の方針を聞き、オリックスに事業承継することを決めました。事実、計測ネットのアイデンティティーは変わることなく、さらなる成長に向けて走りだすことができています。

一部の社員からは承継後の待遇面や事業体制に不安の声も上がっていました。そのため、2020年12月の株式譲渡後、すぐにオリックスと全国に7カ所ある営業所をすべて回り、社員一人一人と面談して承継後の体制やオリックスとの提携の意義を説明したことで、社員の安心感につなげました。

人事評価制度の改革と多角的な事業のコラボレーション。内外で生きるオリックスのノウハウとアセット

――では、承継後に進められた具体的な取り組みについて教えてださい。

角田 経営基盤強化の第一歩として、人事制度の改革に着手しました。

それまでは、創業当時のまま、体系立った評価制度が確立されていませんでした。そこで、評価制度をシンプルかつ実態に即した評価がなされるように整備し、評価者との面談の回数も増やしました。また、等級に応じた目標を設定するなど、全社員が自身の評価に納得感を得られる制度にしました。

佐藤 社内においては、中小企業という企業規模もあり、最終的に社長である私の一声で評価が決まるという感覚が少なからずありましたし、社外においては、就労面で業界的に働き方が厳しそうといったイメージを持たれがちです。そこにきて、オリックスグループという巨大な組織のマネジメントノウハウを取り入れることで、実質的な組織強化に加え、社内外に安心感を与えることにもつながると考えました。

角田 現在、こうした取り組みが実を結びつつあり、徐々に組織の基盤が固まってきていると感じます。今後も人材育成、マネジメントを進め、最終的には佐藤社長の分身ともいえる複数の管理者が社員をまとめ上げ、全員が能動的に気持ち良く働ける組織体制を作りたいと思っています。

――大きな課題とされていた組織力の強化は着々と進んでいるわけですね。では、事業面でオリックスのアセットを活用した取り組みなどはあるのでしょうか。

佐藤 まだ実現はしていないのですが、東京ソイルリサーチと連携し、地質調査から計測までをワンストップで提供できないか検討しています。両社ともにゼネコンを主要取引先としています。ゼネコンは地質調査と計測という建設前の必要工程において、それぞれの会社とのやり取りが発生しますが、工程間の担当が連携することで、取引先のご担当者にとって、より効率的になるというご提案ができるのではと考えています。地質調査と計測はどちらも、建設の安全の根幹に関わります。大切な工程だからこそ、より効率的かつ確実にご確認いただけるようにしたいと考えています。

また、オリックスは都市開発から空港施設管理、太陽光などエネルギー関連まで、さまざまな領域に事業展開しているので、当社の要素技術を生かせる機会があればと考えています。

自社の技術を防災・減災の領域で最大限に生かしたい

――最後に、今後の展望について教えてください。

佐藤 防災・減災領域で事業を拡大していきたいと考えています。政府の推進する「防災・減災、国土強靭化のための5カ年加速」でも防災・減災対策は重要視されており、計測の技術で貢献していきたいです。特に、自然災害が多発する日本において、二次災害が起きる前に、計測の技術を使って備えることが大切だと考えます。

そこで当社は、3次元の計測技術を生かして「DAMSYS-Hybrid」を開発しました。これはのり面やがけ崩れの状況の把握と、施工が完了した完成物の管理まで行えるシステムです。従来の「DAMSYS」に3Dレーザースキャナーを追加したことで、従来のシステムやドローンよりも高精度かつ広範囲な計測が可能になりました。「DAMSYS-Hybrid」のようなシステムは他にはなく、私たちだからこそ開発できたと考えています。

点群データで、のり面や崩落現場等の全体の挙動を把握する「DAMSYS-Hybrid」の活用イメージ。従来のシステムと比較して、計測可能な範囲と精度が向上している

計測とは、命を守る仕事だと思っています。橋、道路、そして私たちの住む家など、すべての構造物は、それ自体の設計書があれば造れるわけではありません。計測がなければ、建設そのものの進行から、完成後の利用まで、プロジェクトすべての安全を確保することはできないのです。これまで私たちが培ってきたノウハウ、技術をさらに磨いていき、「測る技術」を通してこれかも安心・安全な暮らしに貢献していきたいです。

法人金融事業・サービス

事業承継支援

事業投資・コンセッション

ページの先頭へ

ページの先頭へ