「現場」×「技術」でDXを推進する~社会実装とオリックス~

日々先進的な技術が生まれているが、研究開発と事業化には大きな壁がある。事業として成立させるためには、現場の課題を把握し、だれもが使いやすいものであることが求められる。そのためにはユーザーのリアルな声を集め、製品・サービスに反映させていく、すなわち、「現場」へのアクセスが不可欠だが、リソースの限られた企業では充分な機会が得られないケースが少なくない。

オリックスは幅広い事業と新しい取り組みを、おもしろがりながら応援する文化を持ち、さまざまな企業と新しい価値の創出に取り組んでいる。

株式会社インフォマティクスもそうした企業の一つ。同社は地理情報システム(GIS)の開発を行うテクノロジー企業であり、2020年にオリックスが出資し支援している。同社が2022年9月5日にローンチした不動産や金融業界向けアプリ「ShareSnap現地調査」には、オリックスの知見が生かされているという。支援することになったきっかけから、サービス開発の背景、今後の展望まで、インフォマティクス代表取締役社長 齊藤大地氏と、同社取締役も務めるオリックス谷村栄治の二人に話を伺った。

CADを入り口に地理情報システムの技術を磨き、新たな技術領域「XR」に挑む

株式会社インフォマティクス 代表取締役社長 齊藤 大地氏

――はじめに、インフォマティクスについて教えてください。

齊藤 当社は、GIS製品の販売、アプリケーション開発、サービス提供を総合的に行うソリューションプロバイダーです。GISとは、 Geographic Information System の略称で、「地理情報システム」と訳されます。簡単にいうと、「地図上にさまざまな情報を乗せて、わかりやすく見せる技術」のことです。身近なところでは、地図上でお店の情報などを参照できる「Google マップ」や、雨雲の動きがわかるウェザーマップなどもGISの一種です。

もともと当社は、1981年にCAD(設計製図支援システム)を提供する会社として創業しましたが、転機が訪れたのは、1995年の阪神淡路大震災。庁舎の倒壊や火災により、自治体が紙ベースで保管していた地図情報の一部が消失する事態が発生しました。そこで国をはじめ、地理関連情報を「紙」から「デジタル」に切り替える動きが加速し、それにともなってGISの需要も急拡大しました。

当社もその時流に乗り、GISソフトのライセンス販売とアプリケーション開発サービスの提供を始め、大きく成長しました。とくに行政機関や自治体からの引き合いが多く、ハザードマップの作成などにも当社のソリューションが使われています。

京都府警の公開型GIS「犯罪・交通事故情報マップ」では交通事故や犯罪発生の情報をインターネット上の地図で確認できる。画面は交通事故発生の分布をカーネル密度推定を使って地図上に表現したもの(協力:京都府警察本部)

そして、2010年頃からは、GIS関連サービスをさらに進化させ、クラウド環境やモバイル環境でも稼働するGISアプリケーションのほか、360°カメラを利用した撮影システム、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、MR(複合現実)(※1)といった「XR技術」をベースとしたシステムなど、地理情報に関する広範囲なアプリケーションの開発・提供を行う総合的な空間情報ソリューションカンパニーへとシフトしてきました。

(※1)現実世界と仮想世界の空間座標をぴったりと重ね合わせ、相互にリアルタイムで影響し合う空間を構築する技術。VRと同様、現段階ではゴーグルのようなデバイスを用いることが多い。

――なるほど、時代のニーズに合わせて空間設計と地理情報の技術に磨きをかけてきたわけですね。XR技術を利用したサービスにはどのようなものがありますか。

齊藤 たとえば、2017年にリリースした「GyroEye Holo(ジャイロアイ ホロ)」は、前述のMR(複合現実)の技術を実用化したものです。ゴーグル型のデバイスを装着することで、現実世界に実寸(1分の1スケール)の設計図面が投影されます。

例えば、建築現場において「設備インサート工事のための墨出し」という作業があります。必要な基準線を資材に記入していくものですが、従来は図面を見ながらメジャーで測って印を付けていました。そこに「GyroEye Holo」を使用することで、ゴーグル越しに資材にマークが映し出され、そこに合わせて印を付けていくだけで完了。従来の方法に比べ、作業時間が1/3に短縮されます。

このように、さまざまな検証を視覚的に行えるようになり、建築現場などの作業効率アップに貢献します。

「GyroEye Holo」による1分の1スケールの図面実寸投影イメージ(現場協力・画像提供:株式会社ヤマト)

こうしたXR技術を活用したソリューションは、現場作業を大幅に効率化し、昨今、建設・土木業界で課題となっている「人材の高齢化」「若手育成」などの解決につながるものだと自負しています。

受託開発から汎用製品開発へ。ビジネスモデル変革へのチャレンジ

オリックス株式会社 事業投資本部事業投資グループ シニアマネージングディレクター / 株式会社インフォマティクス 取締役 谷村 栄治

――お話を伺って、着実に成長を続けている会社という印象を受けたのですが、なぜオリックスが出資することになったのでしょうか。

谷村 出資については、オリックスからお声がけしました。近年、5Gを始め、デジタル通信や情報処理のテクノロジーは長足の進歩を遂げています。そうした中で、GISを核とした情報処理サービス事業を手がけるインフォマティクスは、今後、飛躍する会社だと直感しました。そしてオリックスの経営基盤を生かすことで、その成長に貢献できるのではと考えました。

――オリックスからの提案を受け入れるにあたって、不安などあったのでしょうか。

齊藤 オリックスを選んだ理由は、我々の事業を大きく成長させてくれると感じられたからです。前述のように、私たちは官公庁を中心にサービスを提供しており、民間企業とのつながりはそれほど強くはありません。その部分を、オリックスの営業力やネットワークで補うことができると期待しました。

また、「出資後も会社の文化やマインドを最大限尊重する」という方針もポイントでした。短期的な利益を求めて株式を保有するというファンドもある中、長期的な目線で会社を着実に成長させていく。そうしたビジョンを示してくれた谷村さんと一緒に頑張っていきたい。そう思って、今に至ります。

――これまでにオリックスとはどのような取り組みをされてきたのでしょうか。

齊藤 具体的な取り組みのひとつは、「ShareSnap鉄道危機管理」のリリースですね。

これは鉄道業界向けの情報共有アプリで、災害や事故が発生した際に現場の状況を写真や動画で簡単に共有できるというサービスです。スマートフォンで画像や映像を撮影すれば、自動的に位置情報が紐づけられ、時刻、撮影者、被害状況などの情報と一緒に保存できます。緊急時だけでなく、日々の点検業務にも活用でき、現場の業務効率化に貢献します。

谷村 実はこの製品は、ある鉄道会社さん向けに開発したシステムを汎用化したものです。インフォマティクスは、これまでさまざまなシステムやサービスの受託開発を行ってきました。お客さまの課題を解決するために、いわば“一点もの”の製品を数多く作ってきたわけですが、そうした技術や知見の結晶を、一つの案件のみに留めておくのはもったいない。もっと広く、世の中の課題解決に役立てるために、汎用化して販売してはどうかと提案しました。

齊藤 このようなアプリは他にはなく、当社としてもチャレンジすることにしました。

――第二弾として「ShareSnap現地調査」がリリースされました。ここにもオリックスの助言があったのでしょうか。

齊藤 はい。これは不動産の現地調査を効率化するサービスで、開発のきっかけを与えてくれたのは谷村さんです。

谷村 私自身、オリックスで不動産融資を担当した経験があり、「ShareSnap鉄道危機管理」を開発する中で、「これは不動産業界でも需要がある」と閃きました。たとえば、不動産事業者や金融機関は、取り扱う売買物件や担保物件の外観写真をさまざまな方向から撮影して、必要な資料を作成します。実はあの写真整理の作業は、作業者にとって大きな負担になっているんです。膨大な数の物件の画像を、いつ、どの方向から撮影をしたのかを間違いなく記録して整理していく作業になるので。

「ShareSnap現地調査」はその負担を軽減してくれます。スマホで物件を撮影すると、どの方向から撮影したのか、正確な位置情報が画像データと紐づけられます。ボタン一つで帳票作成も可能で、物件の現地調査、写真整理、資料作成といった一連の作業効率を大幅に改善してくれます。

齊藤 以前から利益率向上のためにも、汎用化したソフトウェアの販売は考えていましたが、そのためにはさまざまな状況での実証実験が必要という課題がありました。実験の場を提供してくれる企業のツテもなかったので、これまでハードルが高く後回しになっていました。今回は、不動産融資を担当するオリックスグループの社員の方々に実際に使用してもらってアドバイスをいただきました。実ユーザーからフィードバックをもらえたことで、製品の完成度を大きく高めることができました。

両社の得意の掛け合わせが新しい価値を生み出す

――最後に、今後の展望について教えてください。

齊藤 オリックスは、多種多様のビジネスの現場を持っているので、そこからの要望を直に聞くことができ、製品に反映できるというのは、テクノロジー企業としては本当にありがたいですね。

谷村 オリックスには、何か新しいことをやるとなると、おもしろがって応援するという風土があるんです。今回の「ShareSnap現地調査」の開発にも、現場の社員たちは半分楽しみながら、喜んで協力してくれました。

齊藤 人的リソースやコネクションも限定されているわれわれのような企業にとって、オリックスの存在は本当にありがたいです。経営面でも、多様な事業を展開する中で長年蓄積してきた知見で支援してもらっています。

インフォマティクスは、技術や価値を創出し、人を大切にしてきた会社です。これからもその文化を大切にしながらオリックスの伴走を得て、両社の事業発展に繋げていきたいと考えています。

谷村 それぞれの得意分野が掛け合わさることによって、新しい価値を創出できることが今回証明できました。オリックスグループのさまざまな資産、経験、ノウハウを最大限活用して、さらなる成長を共に目指していきたいと思います。

事業投資・コンセッション事業

サステナビリティ

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