あらゆる素材を計測・計算するワンストップソリューションを実現。東北大学はいかに、基礎研究力を強化しているのか

私たちの生活を支える、さまざまな製品やテクノロジー。その普及や機能強化には、素材の進化が欠かせない。例えば、モビリティの軽量化・低燃費化を実現するポリマー、スマートフォンのディスプレイなどに活用される有機ELなど、さらなる進化が期待される素材は多い。これらの開発には、最先端の基礎研究が必要とされ、世界中で国を挙げた研究開発競争が行われている。

しかし日本では、基礎研究に資金が回らず、競争力の低下を危ぶむ声が挙がっている。大学に対する助成金・交付金は減少傾向にあり、企業においても基礎研究より製品化に近い開発が優先されやすい。基礎研究に必要な先端装置は高額であり、研究基盤となる装置の更新や維持が難しい状況だ。

そんななか、大学を挙げて基礎研究の強化に取り組んでいるのが、東北大学だ。同大は、あらゆる素材をワンストップで計測・計算できる体制を構築し、企業や他大学とのオープンイノベーションを加速させようとしている。

推進する中心人物の一人、東北大学 多元物質科学研究所所長 寺内正己教授に、同大における基礎研究の強化に向けた取り組みと、その体制を実現する先端装置の導入方法について話を聞いた。

あらゆる物質を計測可能なワンストップソリューションを実現し、大学の価値を向上

東北大学 多元物質科学研究所所長 寺内正己教授

「東北大学では、“見えないものはない” ほぼ全ての材料の計測が可能なワンストップソリューションの実現を目指しています。そのために進めているのが、『次世代放射光施設』と『ソフトマテリアル研究拠点』です」と寺内教授。

次世代放射光施設は2022年11月現在、青葉山新キャンパスに建設中で、愛称を『ナノテラス』という。施設全体が『ナノまで見える巨大な顕微鏡』を成し、さまざまな物質の構造解析を可能とするもので、大きな期待を集めている。

東北大学青葉山新キャンパス内に建設中の次世代放射光施設「ナノテラス」
(2024年稼働予定)

ただ、この施設だけでは、微細なタンパク質や有機薄膜、ポリマーといった柔らかいもの=『ソフトマテリアル領域』の計測は難しい。そこで、その領域の解析技術を強化するために、最先端設備のクライオ電子顕微鏡を導入し『ソフトマテリアル研究拠点』を構えた。

多元物質科学研究所に導入された「クライオ電子顕微鏡」。
約3mの高さとなる大きな装置だ

「クライオ電子顕微鏡」は従来タンパク質や細胞の研究に採用されてきたが、東北大学では、ライフサイエンス分野での疾患発症のメカニズム解明や創薬研究などの他、グリーンイノベーション分野での省エネルギーにつながる新素材の開発などへの活用を期待している。また、世界初の試みとしてAI制御の自動データ収集システムを実装し、効率的なデータの自動測定を共用装置において可能にした。

「『クライオ電子顕微鏡』を有する『ソフトマテリアル研究拠点』をハブに、『ナノテラス』やその他学内の先端分析機器を連携することで、ワンストップでほぼすべてのサイズの材料の計測が可能となります。ここを拠点にさまざまな企業や大学と共同研究を行い、組織や研究室の枠を超えた研究開発・価値創造をしていきたいと考えています」(寺内教授)

実は東北大学は、分野や組織の垣根を超えた融合的な研究の実績を重ねてきた。寺内教授が所長を務める多元物質科学研究所も、2001年に東北大学「素材工学研究所」、「科学計測研究所」、「反応化学研究所」の3つの研究所を統合して設立され、異なる分野が積極的に連携し、新たな物質科学技術研究を展開することを目指してきた。東北大学が目指すワンストップソリューションは、こうした連携をさらに広げて共創の場を創出し、さらなる研究力強化を図るものだ。

このユニークな研究拠点の実現により、大学の価値をさらに高めていきたいと、寺内教授は話す。

オリックス・レンテックの「Lレンタル」を用い、初期費用を抑えながらクライオ電子顕微鏡を導入

ただ、その実現には費用の課題があった。東北大学では2024年のナノテラス稼働までに、ソフトマテリアル研究拠点の取り組みを軌道に乗せる必要があったが、クライオ電子顕微鏡は一台10億円近くするものもあり非常に高額。通常、大学がこのような装置を導入する場合は国の予算補助制度を利用するが、申請には時間がかかり、申請が通らない恐れもある。国の補助金に頼らず、大学が自主性を持って研究計画を立てるのは難しい現実があった。

「他にはない東北大学独自の強みを確立していくには、大学が持つ予算で実現できる設備の調達方法が求められました」(寺内教授)

そこで寺内教授たちが選んだのが『Lレンタル』だった。担当したオリックス・レンテック株式会社 分析・医療機器営業部 分析機器営業チーム チーム・リーダー 遠部貴広は、提案時をこう振り返る。

オリックス・レンテック株式会社 分析・医療機器営業部 分析機器営業チーム
チーム・リーダー 遠部貴広

「初期投資をなるべく抑えてクライオ電子顕微鏡を導入したいというご要望に対し、『Lレンタル』を提案させていただきました。これはオペレーティングリースという方法で、お客さまが希望する製品を当社が保有していない場合、メーカーや代理店から購入し、レンタルでご提供するものです。契約期間は原則として12カ月から60カ月までで、1カ月単位で自由に設定することが可能。機器の市場価値を査定し、レンタル期間終了後の将来的な残存価値を差し引くことで、レンタル料金をリーズナブルに提供できるため、コストメリットを感じていただけると思いました」(遠部)

オリックス・レンテックは1976年に日本初の電子計測器のレンタルサービス会社として誕生し、その後、各種ICT関連製品や分析装置などのラインアップを増やしてきた。いまでは3万7000種、250万台の製品を保有し(2022年3月末現在)、さまざまな企業や研究機関に貸し出しているが、ラインアップにない機器の場合は『Lレンタル』を提案している。初期投資の平準化に加え、短期導入が可能なため、試験運用や単年度予算を利用するケースで重宝されている。

今回のレンタル導入の意義について、寺内教授はこう語る。

「国の補助金に頼らず、大学が自主性を持って研究計画を立てられることを示した非常に意味のある事例になったと思います。日本の大学における研究費用は、補助金の交付決定後に必要な機器や設備を導入することが一般的です。しかし、先進的な研究には高額な設備投資が必要なケースもあり、技術革新が急速に進展するなかで、限られた予算でタイムリーに最新機器を導入できるレンタルサービスは、これから大学や研究機関の間で広まっていくのではないでしょうか」。

技術革新を生む研究には、先端装置と人材育成が不可欠

研究機関が先端装置を導入することの意義について、寺内教授はこう続ける。

「研究内容が実際の製品やサービスとなって社会に出るまでの期間を短縮できるという点で、先端装置の役割は大きいと思います。しかし、単に先端装置を導入するだけではなく、それを使いこなせる人材をきちんと育成していかなければいけません。先端装置の導入と人材育成をセットで行い、今後の研究開発力、産業競争力の向上に取り組んでいきたいと考えています」(寺内教授)

国の補助金に依存せず最新の先端装置をタイムリーに導入できるレンタルサービスは、研究開発の発展に貢献している。遠部氏は、大学や研究機関などにおけるレンタルサービス需要の高まりを感じると話す。オリックス・レンテックが有する幅広いユーザー網や、営業力を生かした利用促進も含め、研究機関を支援していきたいという。

「大学や研究機関の予算は限られていますが、技術競争は激化し、社会も急速に変化しています。そのため、“最先端装置を導入しなければ研究が成り立たない”というお声もよく聞いています。日本初の測定器レンタル会社として培ってきた知見を生かし、さまざまな形で最先端装置の導入ハードルを下げ、日本の科学技術力・産業競争力の発展をお手伝いしていきたいと考えています」(遠部氏)

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