プラスチックのリサイクルに中小企業はどう向き合うのか。事例とメリットを紹介

[監修] 一般社団法人循環型経済研究所 石丸 亜矢子
本記事は2023年10月時点の情報を基に作成しています。

カーボンニュートラル宣言を筆頭に、近年ではその規模に関わらず、企業活動におけるサステナビリティの重視・地球環境保全は必須となっています。

特にプラスチック廃棄物の増加は主要な環境問題の一つであり、この課題に対処するためには、大企業だけでなく中小企業も積極的な取り組みが求められます。

企業はプラスチック廃棄物削減とそのリサイクルにどのように効果的に取り組むことができるのか、具体的な事例からそのビジネスメリットまで解説します。

グローバルに拡大する企業の環境責任

インターネットと物流の技術の進歩により、グローバルな取引をすることが可能となった現代において、環境責任は決してドメスティックな問題ではなく、あらゆる企業が無視できないものになっています。

このセクションでは、日本の環境配慮への取り組みとそれに伴う、企業が認識すべき環境責任の一部をご紹介します。

カーボンニュートラル宣言および2030年までの中間目標

急速に進行する気候変動への対応は国際的に急務と認識されています。この問題に対する一つの解決策として、二酸化炭素を筆頭とする温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」が挙げられます。カーボンニュートラルは、実践的な環境配慮としての側面だけでなく、新しい経済効果の可能性も注目されています。

日本政府もこの方針にのっとり、2020年10月26日に菅 義偉内閣総理大臣は「2050年カーボンニュートラル宣言」をしました。その上で、環境省は2030年までの期間が、脱炭素社会実現に向けた特に重要な期間であるとしており、全国で「脱炭素先行地域」を選定し、再生可能エネルギーの導入を促進する「脱炭素ドミノ」戦略を採用。現在(2023年9月時点)、全国32都道府県、83市町村でこのような取り組みが進行中です。

さらに、従来の「冷暖房の温度設定の適正化」や「クールビズ・ウォームビズ」に加えて、最新の再生可能エネルギーの利用、高効率家電、住宅の断熱化、電気自動車への乗り換え、オンライン会議の利用など、多角的に推進されています。

カーボンニュートラルについては、以下でも解説しています。
「カーボンニュートラル」の現状を解説。2050年までに実現はできるの?

気候関連財務情報開示タスクフォース (TCFD)の提言

金融安定理事会(FSB)がG20の要請に応じて2017年6月公開した気候関連財務情報開示タスクフォース・TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)の最終報告書は、現在でも、脱炭素に向けたアクションを企業にとってもらうためのルールとして機能しています。

TCFDでは、企業に対して主に、以下の四つの主要項目に関する情報開示が推奨されています。

1. ガバナンス
企業が気候変動に対してどのような組織体制を築き、それが経営にいかに反映されているか。

2. 戦略
気候変動が短期、中期、長期にわたって企業経営に与える影響に対して、企業がどのように考え、取り組んでいるか。

3. リスクマネジメント
企業が気候変動に伴うリスクをどのように特定・評価し、緩和策をどう設計しているか。

4. 指標と目標
気候変動に関連するリスクと機会の評価に使用する指標、およびそれに基づく目標の進捗(しんちょく)をどのように測定しているか。

これらの指標は、企業が気候変動による経済的な影響を適切に管理し、ステークホルダーとの透明なコミュニケーションを促進するためにも重要であるとされています。

炭素税導入の可能性

炭素税は、温室効果ガス、特に二酸化炭素(CO2)の排出を制限することで、企業や個人による環境への負荷を減らすことにつなげる税制であるとされています。

日本でも、2012年に化石燃料のCO2排出に基づく「地球温暖化対策のための税(通称:温対税)」が導入されましたが、この税率は国際基準に比べて低く設定されていました。そこで現在注目されているのが、炭素の排出量に見合った金銭的負担を求める「カーボンプライシング(CP)」の導入です。2026年からは、CPの一種として排出量を削減した分を市場で売買する「排出量取引」を本格稼働させる方針となっています。

ただし、排出量取引制度に対するスタンスは環境省と経済産業省で異なっているのが現状です。環境省は、炭素税のさらなる導入としてCPを推進しているのに対し、経済産業省は企業への負担を考慮し、より慎重なアプローチを支持しています。

総じて、日本における炭素税やカーボンプライシングの導入は、環境保全と経済負担のバランスをどのように取るかという課題に直面しており、政府内でもこの問題に対する解決策がまだ一致していないといえます。

プラスチックリサイクルの具体的手法

そうした環境保全のための活動の中でも、プラスチックリサイクルは主要なものの一つであり、企業がすぐに取り組むことができるものでもあります。

プラスチックリサイクルにはいくつかの異なる手法が存在しますが、主なものとしてマテリアルリサイクル、ケミカルリサイクル、サーマルリサイクルの三つが挙げられます。

マテリアルリサイクル

収集されたプラスチック製品を物理的に処理して、新しいプラスチック製品に再生する方法です。このプロセスでは、まずプラスチック製品を選別し、洗浄します。その後、破砕・溶融することで、新たなプラスチック製品や部品を作るために使用します。

マテリアルリサイクルは、総じてエネルギー効率が良く、多くの場合比較的低コストで行うことができますが、プラスチックの品質が次第に劣化する場合があると言われます。

【メリット】
・エネルギー効率
物理的な処理が主であるため、エネルギー効率が比較的高い。

・低コスト
シンプルな手法なので、設備投資や運営コストを低く抑えることができる。

・品質維持
多くの場合、その品質を維持しながらリサイクルすることができる。

【デメリット】
・品質劣化の可能性
繰り返しリサイクルすると不純物の混入が避けられずプラスチックの品質が劣化する可能性がある。

・選別が必要
異なる種類のプラスチックを選別する必要があり、これが手間とコストを増加させる場合がある。

・環境負荷
洗浄過程で水や洗剤が必要であり、これが新たな環境負荷を生む場合がある。

ケミカルリサイクル

プラスチックを化学的に分解して基本の構成要素や炭化水素に戻し、それを新しいプラスチックや他の化学製品に再生する方法です。このプロセスは、特に品質が劣化したり、純度が低下したりしているプラスチックに対して有用とされています。

ケミカルリサイクルは、原料としての価値を高め、より高品質なプラスチックを生成することができます。ただし、このプロセスは技術的に複雑であり、エネルギーコストも高い場合があります。

【メリット】
・高品質
一度原料に戻すため、ケミカルリサイクルにより生成したプラスチックが高品質であることが多い。

・多様な素材に対応
品質が劣化したプラスチックや複数種類の混合プラスチックも処理できる。

・他の化学製品への活用可能性
新たに生成したプラスチックを、他の有用な化学製品に変換することができる。

【デメリット】
・高コスト
設備投資や運営コストが高い。

・エネルギー集約的な生産工程
化学反応には高いエネルギーが必要となるため、その生産工程が環境負荷となる場合もある。

・副産物
有害な化学物質が生成されるリスクがある。

サーマルリサイクル

プラスチックを高温で焼却してそのエネルギーを回収する方法です。このプロセスで生成される熱は、電力生成やヒート供給などに使用することができます。

サーマルリサイクルはプラスチック廃棄物の量を効率的に減らすことができますが、二酸化炭素や有害物質の排出が問題となる場合があります。これにより環境に優しい焼却技術と排ガス処理技術の活用が重要とされています。

【メリット】
・エネルギー回収が可能
プラスチックからエネルギーを効率的に回収できる。

・処理能力の高さ
さまざまな種類と品質のプラスチックを一度に処理できる。

・容積の削減
焼却によってプラスチックの容積を大幅に削減できる。

【デメリット】
・資源の消失
焼却することでサーマルリサイクルに用いたプラスチックが失われてしまう。

・CO2排出
焼却プロセスで二酸化炭素が排出される。

・有害物質生成の可能性
不完全燃焼や特定のプラスチックの焼却が有害なガスやダイオキシンを生成する可能性がある。

プラスチックリサイクルが企業にもたらすもの

プラスチックリサイクルは、企業にとっても事業活動やオペレーション領域においてメリットをもたらすと考えられます。

企業イメージ向上

プラスチックリサイクルを積極的に行う企業は、環境への配慮を十分に行っているというポジティブなイメージを高めることができます。

近年は消費者も、環境に優しい製品やサービスに対する関心が高まっており、これは長期的に見て、顧客ロイヤルティーやブランド価値の向上、さらには新規顧客の獲得につながる可能性があります。

有価物化に伴うコスト削減

プラスチック廃棄物をリサイクルすることで、新たな製品や材料に再生可能なリソースとして有価物化することができます。

これにより、新たな原材料を購入する必要が減少し、その結果としてコスト削減につながる場合があります。また、プラスチック廃棄物をリサイクルできる場合、廃棄処理にかかるコストの減少も期待できます。

業務内容のスリム化

プラスチックリサイクルの取り組みによって、企業は自社に関わるサプライチェーンや生産プロセスを見直す契機ともなり得ます。

例えば、リサイクル可能な素材を優先することで、製品設計から廃棄までのプロセスがシンプルになる可能性があります。このようなプロセスの見直しは、生産効率を向上させるだけでなく、コストの削減にも貢献すると考えられます。

リサイクル以外のプラスチック廃棄物削減の方法

これまで取り上げてきたプラスチックリサイクル以外にも、簡単に取り組めるプラスチック廃棄物削減の方法があります。以下の取り組みもまた、企業の社会的責任(CSR)への寄与、顧客ロイヤルティーやブランド価値の向上が期待できます。

食器や容器の代替

飲食やホテルなどのサービス業界では、食器・容器の代替が進んでいますが、ほかの業界の企業でもそうした取り組みは可能です。

例えば、社内カフェで使われるプラスチック製食器を、ステンレスやガラス、磁器などの再利用可能な素材に変更したり、社内外でのイベントで再利用可能な食器を使用したりするなどの取り組みも考えられます。

包装資材の代替

製品の包装にプラスチックを使用する代わりに、紙やバイオプラスチックなど環境に優しい材料を選択することで、プラスチック廃棄物を削減できます。

販促物の代替

企業のブランディングに使用する販促物に、環境に優しい素材を選んだり、デジタルメディアでの広告・告知を積極的に行ったりすることも、プラスチック廃棄物への対策となります。

各企業・自治体のプラスチック削減のための具体的な事例

近年、持続可能な社会を形成するために廃棄物やリサイクル素材を再利用し、新たな製品やエネルギーを生成する「静脈産業」への注目が高まっています。リサイクル産業はその代表例としてよく引用されますが、他にもさまざまなビジネスモデルがあります。

静脈産業については、以下でも解説しています。
今改めて注目される「静脈産業」とは?リサイクルだけじゃない循環経済の在り方を解説

以下に、企業・自治体ができるプラスチックリサイクル・削減の具体的な事例を簡単に紹介します。

神戸市の「神戸プラスチックネクスト~みんなでつなげよう。つめかえパックリサイクル~」

神戸市が小売業者、日用品メーカー、リサイクラー(再資源化事業者)と連携して2021年10月から実施しているプロジェクトです。

使用済みの日用品のつめかえパックを分別回収して再びつめかえパックに戻す「水平リサイクル」(フィルム to フィルム)を目指す、このプロジェクト。安定した回収量確保のために、神戸市内のあらゆる店舗に回収ボックスを設置、積極的に市民に呼びかけることで、多くの使用済み製品を回収しています。理想的な自治体のリサイクルへの取り組みとして、多くのメディアに取り上げられました。

自治体と複数の企業が競合関係にある垣根を越えて協力する「水平リサイクル」の取り組みとしては、全国初の試みとされています。

不動産会社の「廃棄物由来の養生シートの導入」

自社でリサイクルするだけでなく、廃棄物由来の素材やリサイクル可能な素材を積極的に用いることもリサイクルへの取り組みの一つです。

リフォーム工事の際にマンション共用部を保護する養生シートは、プラスチック製のブルーシートが一般的ですが、不動産流通業を営むある不動産会社では、リユース・リサイクル可能な廃棄物由来の素材でできた養生シートに切り替えています。

さらに、その養生シートは、使用後に回収・クリーニングを経て、繰り返し使用できるほか、劣化したものは、再び樹脂化することで新たなシートへ再生されます。これにより、廃棄量の削減のほか、従来のブルーシート使用時に比べ、CO2排出量の約57%削減が可能になっています。

メーカーの「紙を原料とした製品づくり」

これまでプラスチックで作っていた製品部品をほかの素材に変更するという取り組み方もあります。

ある刃物メーカーでは、ハンドルに紙、刃体に金属を用いることで、プラスチックをほぼ使用しないカミソリを開発。プラスチック製品よりかさばらない薄さという「機能」と、1本あたり1カ月間使用可能という「環境効率」を両立させた製品といえるでしょう。

「世界初の金属だけでできたヘッドと紙ハンドルからなるカミソリ」として大きな話題を呼びました。このようにプラスチック削減の取り組みは、新たなイノベーションを生み出す可能性を秘めています。

今後の展望

プラスチック廃棄物は環境問題をいっそう深刻化させる要因の一つであり、その削減とリサイクルの必要性は今後さらに増していくと予測されます。

プラスチック廃棄物削減とそのリサイクルは決して企業の経営にネガティブなものではなく、企業価値の向上やコスト削減にも寄与するものです。プラスチックリサイクルに取り組むことは、持続可能かつ新たなビジネスモデルを築くための「投資」にもなるでしょう。

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