GHG排出量が中小企業に与える影響は?削減への取り組み方から算定方法まで紹介

[監修] 一般財団法人 日本エネルギー経済研究所 再生可能エネルギーグループ 研究主幹 二宮 康司
本記事は2023年10月時点の情報を元に作成しています。

気候変動対策が急務となる中、GHG(Greenhouse Gases Emissions: 温室効果ガス)排出量の管理は大企業だけでなく中小企業にも重要な課題となっています。

本記事では、GHG排出量とCO2排出量の違い、その算定方法、そして中小企業の事業との関連性について詳細に解説します。

GHG排出量とは?

GHG排出量とは、ある期間(例えば1年間)に大気中に排出された温室効果ガス(GHG)の量を指し、多くの場合、二酸化炭素換算トン(あるいはごくまれに炭素換算トン)で表されます。本稿でも以下でGHG排出量を「○○トン(t)」と表示した場合は、特に断りがない限り二酸化炭素換算トンを指すことにします。

環境に与える影響

GHG(温室効果ガス)には、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、HFC・PFC等フロン類、六ふっ化硫黄(SF6)、三ふっ化窒素(NF3)があり、これらのガスが大気中に大量放出されると地球温暖化を促進するおそれがあるとされています。

CO2排出量との違い

CO2排出量は、温室効果ガスの中でも二酸化炭素の排出量のみを指します。CO2は世界全体の温室効果ガス排出量の約75%、日本では90%以上を占めることから最も注目されるGHGです。このため、特に日本では単に「温室効果ガス」と言った場合に便宜的にCO2を指すことも多いのですが、厳密には正しくありません。

つまり、GHG排出量とは厳密にはCO2を含む複数の温室効果ガスの排出量をすべて合計したものであり、CO2排出量はその多くの占めるものの一部に過ぎません。この違いは、環境への影響評価や排出削減の方策を考える際に重要となる可能性があります。

中小企業のGHG排出量

令和4年7月に経済産業省 環境経済室が発表した「中小企業のカーボンニュートラル施策について」によると、中小企業のGHG排出量は、日本全体のGHG排出量のうち約1割~2割弱を占めるとされています。

GHG排出量を中小企業が注視すべき理由

大企業からの要請

中小企業がGHG排出量を注視すべき理由の1つは、自らのGHG排出量を把握し削減策を講じるように取引先の大企業から要請される可能性が高くなっているからです。

多くの大企業は環境に対する影響を最小限に抑えるため、また企業の社会的責任(CSR)を果たすために、環境負荷の低減を目指しています。このような大企業は、サプライチェーン全体での環境効果を評価し、GHG排出量の削減をサプライヤーにも求める傾向があります。

例えば、大企業が持続可能な調達基準を設定すると、取引先の企業はそれに従わなければ取引が難しくなるケースも珍しくありません。大企業への販売依存度が高い中小企業の場合、GHG排出量の多さが企業経営に大きな影響を与える可能性があります。

そのため、自社のGHG排出量を把握し、削減策を講じることは、大企業との取引継続や新規取引を得て、安定した経営を続けるためにも重要となる場合が多いのです。

金融機関からの要請

近年、環境・社会・ガバナンス(ESG)投資は大きく注目を集めています。企業の環境に対する取り組みは、取引先や消費者だけでなく、金融機関にとっても評価の対象となっています。

ESG投資については、以下でも解説しています。
グローバル規模で重視される「ESG投資」。投資対象となるために企業が取り組むべき対応とは

企業が融資を受ける際や資本を調達する際に、その企業のGHG排出量や環境に対する取り組みが評価されるケースも増えており、環境への取り組みが積極的な企業に対してはより有利な融資条件を提供することもあると言われています。

また、GHG排出量の削減はしばしば企業の長期的なリスクを低減するとされ、経営の安定という点でも金融機関の好意的な評価につながるとされています。逆に、将来的にはGHG排出量が多い企業に対する融資が厳しくなる可能性もあり、早めに対策を講じておく必要がありそうです。

GHG排出量削減への取り組み方

企業がGHG排出量削減に取り組むためには、自社での排出量だけでなく、自社を含むサプライチェーン全体のGHG排出量(サプライチェーン排出量)を減らすことが重要となります。国際金融に関する規制や監督などの役割を担う組織・金融安定理事会が、2022年に公開した「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の最終報告書では、サプライチェーン排出量の報告・開示が推奨されています。このことは、先述のように大企業がサプライヤーにGHG排出量削減を求める傾向にもつながっています。

企業が自社の事業から排出されるGHG排出量を算定・報告するための国際的な基準である「GHGプロトコル」では、算定・報告の対象とするGHG排出量の範囲をスコープ1排出量、スコープ2排出量、スコープ3排出量の3種類に分けています。

スコープ1排出量は、自社およびグループ会社が所有・管理するGHG排出源からの排出量を対象とします。具体的には、製品を製造するにあたって、自社での燃料の使用や焼却設備での燃焼などによって生じたGHG排出量や、自家用車や直接燃料を燃やす暖房器具で生じたGHG排出量などがこれに該当します。

スコープ2排出量は、自社およびグループ会社で、他社から購入した電気・冷温熱・蒸気などのエネルギーを使用したことによる間接排出量を意味します。例えば、自社工場において電力を消費した場合、その電力が化石燃料を使用した火力発電由来であれば、その発電に伴って排出されたGHGがスコープ2排出量の対象となります。

スコープ3排出量は、製品の原材料から輸送、販売、消費、廃棄に至る一連のサプライチェーンで発生する他社の間接的なGHG排出量を対象とします。(スコープ1とスコープ2排出量は除く)

スコープ3排出量の算定方法

スコープ3排出量は、スコープ1排出量・スコープ2排出量とは異なり、排出される場面が多様であることからその算定は難易度が高くなります。

1.カテゴリの特定
はじめに自社の製品のサプライチェーンに関連してGHG排出の可能性がある項目(製品の製造のために購買した製品やサービス、資本財、原材料、輸送・配送、加工、販売、消費、廃棄など)を特定します。

2.データ収集
次に、各項目に関するデータを収集します。これは通常、供給者やその他の第三者から取得する数値(燃料の使用量、移動距離、生産量など)が基となります。

3.算定
収集したデータにそれぞれの排出係数を適用して、GHG排出量を算定します。排出係数とは、さまざまな企業活動における生産量や消費量あたりのGHG排出量を示す数値であり、それぞれの活動やエネルギーごとに数値が定められています。例えば、環境省のWebサイトには、企業からのGHG排出量の算定・報告を義務づけている「温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度」において適用するための排出係数の一覧表が公表されています。

スコープ3排出量の算定には、GHG排出量の算定・報告の世界的標準として広く認知されている「GHGプロトコル・企業のバリューチェーン(スコープ3)の算定・報告基準」を用いることが一般的です。

このような国際的な基準に従うことで、企業は自らの排出量を正確に把握し、他の企業やステークホルダーと比較可能なデータを提供することができます。

企業が直接管理していないスコープ3の排出量は、総じて算定が複雑となる傾向にありますが、その影響力は無視できない傾向にあり、スコープ1排出量・スコープ2排出量とあわせて、正確な算定と報告は企業にとって今後ますます重要になっていくことが予想されます。

中小企業のGHG施策の方向性

中小企業がGHG排出量の削減と企業価値の向上を同時に達成するために、以下のような方向性が考えられます。

1.GHG排出量の「見える化」の促進
大企業のみならず、中小企業においてもGHG排出量の「見える化」は、現在の状況を正確に把握し、改善策を考える第一歩となります。自らのGHG排出量を定期的に計測し、そのデータを公開することは、ステークホルダーとの信頼構築にも期待できます。

2.設備投資などの促進
古い設備や非効率なエネルギー消費がGHG排出量増加の主な原因であるケースは、珍しくありません。そのため、省エネや再生可能エネルギー設備への投資を促進することで、排出量を削減できる可能性が高まります。効率の良い機械や設備への更新は初期コストがかかるものの、長期的にはコスト削減とGHG排出量削減による環境への貢献が見込めることでしょう。

3.支援機関からの「プッシュ型」の働きかけ
さまざまな事情から中小企業が独自にGHG削減策を行うのは、困難な場合もあります。そのような場合には、利用者が能動的な操作や行動をせずとも、地域や業界の支援機関が自動的に行う「プッシュ型」の、情報や助成金、相談サービスなどが有用な手段となり得ます。こうした外部からのサポートによって、中小企業も積極的にGHG削減に取り組むことが可能になります。

4.グリーン製品市場の創出
中小企業が生産する製品の中にGHG排出の少ない製品(グリーン製品)があれば、それを他製品より積極的にマーケットに出すことで企業価値を向上させることができます。

一般消費者の環境への意識が高まる中、グリーン製品は市場価値が高まる傾向にあると見られ、その需要は今後も増していくでしょう。

GHG排出量削減取り組みの補助金制度の紹介

2023年4月、経済産業省と環境省は合同で「中小企業等のカーボンニュートラル支援策」を発表しました。ここではカーボンニュートラルの概要や、GHG排出量データ、サポート機関などが紹介されています。その中には中小企業向けの補助金制度も数多く掲載されています。

さらには環境省のサイトでは「2023年度(令和5年度)二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金等に係る補助事業者(執行団体)について」と題されたページに、二酸化炭素排出抑制を補助する事業者がまとめられています。それぞれの目的に合わせて、挙げられている事業者に問い合わせてみることも、GHG排出量削減の一つのステップとして検討できます。

GHG排出量削減に取り組むにあたり、ぜひ各種の補助金制度について確認しておきましょう。

自社のGHG排出量把握からはじめよう

これまで解説してきたとおり、脱炭素化は今やすべての企業にとって重要な問題であり、中小企業も例外ではありません。社会全体が持続可能性を高めるにあたって、企業がその一翼を担わなければならない時代が到来しています。

特に大企業はサプライチェーン全体の環境影響に対する責任を強く意識しており、その要請が中小企業にも及ぶケースが増えています。GHG排出量の把握ができている企業は、これらの要請にも迅速に対応することができ、新たなビジネスチャンスをつかむきっかけになるかもしれません。

世界が直面する喫緊の課題である脱炭素化に向き合い、具体的なGHG排出量の削減策を実施するために、まずは自社の事業に関連するGHG排出量をしっかりと正確に把握することからはじめましょう。

法人のお客さま向け事業・サービス

法人金融事業・サービス

環境エネルギー事業・サービス

PPAモデル(第三者所有モデル)

ページの先頭へ

ページの先頭へ