中小企業の一部が取り組む第二創業とは?事業承継との関係も含め解説します

[監修] 一般社団法人事業承継協会 金子 一徳
本記事は2022年8月時点の情報を元に作成しています。

少子高齢化によって事業承継が大きな社会課題として注目されています。大きくはその流れのなかにあって、既存企業をアップデートする手法とされているのが「第二創業」です。第二創業とは、大雑把に言えば、事業承継をきっかけとして、新しい取り組みを始めることですが、実は事業を引き継いだ後継者の6~7割が新しい取り組みを始め、その過半数が業績を伸ばしているという事実があります。既存企業が新規事業に挑戦する第二創業について、そのメリット/デメリット、そしてどのような理由や目的を持って行われるのかについて詳しく解説します。

第二創業とは

第二創業とは、企業が既存事業とは異なる新事業・新分野に進出することで経営刷新を図ることを指します。比較的規模の小さい中小企業が行うケースが多く、経営者が入れ替わるタイミングで行われることが多いことからも、第二創業は会社という法人格を次の後継者にバトンタッチする「事業承継」のかたちの一つと考えられています。

事業承継の代表的なパターンとしては、現経営者の親族への引き継ぎ、親族以外の役員や従業員への承継、いわゆるM&Aと言われる株式譲渡や事業譲渡による別会社への承継、外部から経営者をスカウトする方法、などがあります。

事業承継について、より詳しく知りたい方は以下を御覧ください。
社会の成熟とともに加速する「事業承継」問題。背景とこれからの取り組みを紹介
「事業承継」を「M&A」で。市場の視点で考える”会社の存続“とは

第二創業のメリットと注意するべきポイント

第二創業には、低リスクでの経営状況の改善といったメリットがあります。注意するべきポイントと合わせて、詳しく見ていきましょう。

メリット

経営状況の改善を図れる
新規事業や新たな分野に挑戦することにより、既存事業の行き詰まりを解消して経営状況の改善につながる可能性があります。社会全体の変化が加速度的に進んでいる現代においては、既存事業のニーズ減退にとどまらず、業界全体の衰退も珍しいものではありません。第二創業は、経営状況のV字回復を図る手段の一つと考えられるでしょう。

既存の経営基盤を活用できる
既存の経営基盤を引き継ぐことができるため、ゼロから組織や仕組みを作り上げる必要がありません。また、既存事業の顧客を見込み顧客として想定することもできますし、既存技術を転用することで新しい分野に進出することも可能であるため、事業の見通しも立てやすく、新規創業に比べてリスクを減らした状態からスタートができます。

資金調達を行いやすい
新規事業を興すにあたり、新たに資金が必要となる場合もあるでしょう。これまでの会社経営において返済の滞りなど大きな問題がない限り、すでに金融機関から一定の信用を得られており、新規創業に比べて資金調達が行いやすくなるはずです。

注意したいポイント

社員に第二創業について理解してもらう必要がある
既存の経営基盤を活用する第二創業において、必ずしも既存社員の全員が新規事業や新分野への挑戦に賛同しているわけではない可能性については留意しておく必要があります。

新規事業や新分野への挑戦は会社にとって大きな方針転換であり、そこに抵抗を感じる社員も少なからず存在します。第二創業への理解を得られない場合、意見の衝突や、離職につながる恐れもあるため注意しましょう。

既存事業の商習慣が新規事業の拡大を制限してしまうことがある
社員から新規事業への理解を得られたとしても、新たな事業への順応がスムーズに行くとは限りません。既存事業の慣習などに縛られてしまい、取引先などとの思わぬトラブルが発生してしまったり、柔軟な発想ができなくなったりする恐れがあります。

第二創業を行う理由・モチベーション

既存の経営基盤を活用し、新たな創業を行う第二創業。その実行にはいくつかの理由やモチベーションが考えられます。

既存事業での経営が困難

企業には「創業期」に始まり、複数のフェーズがあると言われています。売上が上昇を始める「成長期」、売上がピークに達して安定を見せる「安定期」、売上がやや下降しながらも利益率はむしろ維持またはやや向上する「成熟期」、売上が低下し始め、利益率も下落傾向に陥る「衰退期」がそれに当たります。第二創業が行われる大きな理由の一つが、この衰退期の解消にあります。

特に経営者の高齢化を理由に事業承継がなされた場合、その事業や業界が時代のニーズに合致しなくなっている可能性も十分に考えられます。衰退期に陥っている原因が既存事業や業界自体の需要落ち込みにあるならば、新規事業や新分野への挑戦は自然な選択といえるでしょう。

成熟した経営基盤を活用し、より自分のやりたいことをやる

衰退期にない企業だとしても、第二創業はありえます。例えば、経営の中で社会状況とニーズが変化するのを肌で感じ、そこに対して自社が新たに担うべき役割が見えていながらも、その実行には自社や社会状況などの条件が見合わない、そんな時期が続いた企業が、満を持して新規事業をスタートさせるケースがそれにあたります。

また、創業者が実現したいサービスや製品などのビジョンを持ちながらも、資金や人材などの理由から実現が難しく、まずは別の事業で会社を成長させてきた場合もあるでしょう。成長させた経営基盤を用いて本来やりたかったことへの挑戦や、新たに生まれたビジョンの実現へと舵を切る。そんなポジティブなモチベーションもまた、第二創業を行う理由の一つとなります。

事業承継と同様、第二創業も外部のサポートが重要

事業承継にはいくつもの方法やステップがあり、そこには専門的な知識やスキルが求められるものも少なくありません。後継者探しやその育成に始まり、株式譲渡やMBO、M&Aなど承継手法の選択とその実行などを滞りなく実行するため、事業承継のソリューション・サービスや支援制度が多数用意されています。

第二創業も事業承継の一つであることから、そうした外部サポートの活用が重要といえるでしょう。第二創業ならではのサポートが必要と思われる項目を三つ紹介します。

新規事業計画
既存の経営基盤があるとはいえ、第二創業は新規事業への挑戦でもあることから、事業計画の策定は不可欠です。その分野や業界の将来性のリサーチに始まり、ビジネスモデルの妥当性の検討、長期的な成長計画の作成など、プロフェッショナルの助けがあることでより精度が高く客観性ある事業計画を作れるようになるでしょう。

経営状態の安定化
第二創業を検討している時点で、すでに経営状態の悪化が進行している場合も考えられます。新規事業への挑戦のための地盤固めとして、まずは現在の経営状態の安定化が必要な場合もあるかもしれません。既存事業を継続させるのか終了させるのかの判断を含め、税理士、公認会計士、事業承継士、あるいはコンサルティング会社などの外部サポートが活用できるでしょう。

資金の調達
現在の経営状況や、新規事業の種類や規模感によっては、“創業資金”としての資金調達が必要になることもあるでしょう。調達先の選定やその交渉においても、専門知識を持った外部のサポートが必要となることが考えられます。

第二創業は時代に合わせて企業をアップデートする方法

事業承継の一種でありながら、新規創業に近い側面を持つ第二創業。そこには既存の経営基盤を活用することにより低リスクで新事業へ挑戦できるメリットがある一方、事業承継の手続きに加え新たな事業計画を立てる必要もあるなど、相応の準備と注意が必要です。

最後に、第二創業を行う際に意識するべきポイントをいくつか紹介します。

自社の事業領域の枠を固定化しない
例えば、元々が「傘を作る会社」であった場合、「雨の日を楽しくする会社」と視点を変えてみると、商品の提供方法や付帯サービスが生まれてくる可能性が広がります。あるいは、傘を「雨を防ぐための道具」と捉え直すと、別の道具もあっていいのでは?と別の発想が広がります。

全く新しいものを生み出すのではなく、「変えていくこと」を重視する
上記の例で考えると、「傘」という商品の色やデザインを変えてみる、形を変えてみる、濡れてもすぐに乾く機能を付加する、骨を太くする・本数を増やして壊れにくくする、高齢者向け/手の不自由な人向けに対象者を絞り込む、Etc…など発想方法・アイデアは無数にあります。

変化を起こすための「5つの視点」を意識する
新製品や新サービスの開発、生産方式や生産体制の改善、市場や販路など売り方の見直し、原材料の調達方法や仕組みの再構築、人員体制や組織力の強化、これら5つの視点を常に意識しましょう。そのためには、第三者の分析や、異業種間での意見交換が有効です。

社内でしっかりと検討を重ねつつ、外部サポートを有効活用することで、事業の本質に集中したスムーズな第二創業を進めることができるでしょう。

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