二度の事業承継を通し、ゴルフ場散水設備ニッチトップ企業はいかに成長を遂げたのか~事業承継とオリックス~

中小企業の課題の一つとして「後継者不足」が挙がるようになって久しい。こうした状況が加速した先のインパクトとして、中小企業および小規模事業者の廃業の急増することで、2025年までに累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われるという試算もある。(経済産業省「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」
そんな中、ここ数年、事業承継の手段の一つとしてM&Aを選択する企業も増えている。一方で、「会社名や組織体制を大きく変えられてしまうのではないか?」と危惧し、なかなか本格的な検討に踏み切れないオーナーも少なくない。

オリックスは「これまでに培った企業文化を尊重しながら事業を継続・発展させていく」という方針のもと中小企業の事業承継をサポートしている。ゴルフ場散水設備の施工・メンテナンスを行う老舗企業のトンプソントーワ株式会社(以下、トンプソントーワ)も、そうしたオリックスの事業承継支援を受けた会社のひとつだ。

トンプソントーワは2019年に株主がオリックスになり、オリックスとともに組織体制の再構築および強化を実施。そして2021年にさらなる事業成長を目指し、ゴルフコースの総合管理を行うグリーンシステム株式会社(以下、グリーンシステム)のグループに入った。2度の事業承継を経て、同社がどのように発展してきたのか。中小企業の存続の意義と、それをサポートするオリックスの存在について、関係者4人に話を聞いた。

「社名を残し、従業員の雇用体制を維持したい」オリックスに託した事業承継

オリックスが株主になった2019年当時、トンプソントーワで代表取締役を務めていた長谷川氏に話を聞いた。

長谷川氏 インタビューカット

トンプソントーワ株式会社 取締役部長 長谷川 淳氏

――まず、トンプソントーワの事業内容について教えてください。

長谷川氏:当社は、1964年創業、従業員10名ほどのゴルフ場の散水設備工事会社です。日本で初めて本格的なゴルフ場の散水機器の輸入および設置工事を行い、高度経済成長期のゴルフ場建設ブームに乗って事業を拡大。安倍晋三元首相とドナルド・トランプ前米国大統領が一緒にプレーしたことでも知られる「茂原カントリー倶楽部」をはじめ、関東を中心に多くの名門ゴルフ場での施工実績があります。また、ゴルフ黎明(れいめい)期よりコンピューター制御による全ホールの散水を遠隔一元管理できるシステムも提供しており、芝管理の効率化、省人化についてもご提案しています。

トンプソントーワ 施工事例

――業界で存在感のあるニッチトップな企業ということで、経営自体は安定していたかと思いますが、事業承継で課題を抱えていたと伺いました。具体的にどのような状況だったのでしょうか。

長谷川氏:当時、オーナーは70歳を超える経理部長で、創業メンバーのうちのひとりでした。ほかの創業メンバーが高齢などの理由で退職していくうちに、自然とオーナーに株式が集約されていきましたが、健康不安などを理由に引退を考えるようになりました。あとを任せられる従業員や親族もおらず、廃業も検討。しかし、「家族のような存在である従業員たちのことを思えば、できるなら事業を継続させたい」と考えて、M&Aによる第三者譲渡を模索していました。

山本 インタビューカット

オリックス株式会社 法人営業本部 国内事業推進部 エクイティソリューション第一チーム長 山本 弘樹

山本:もともとオリックスとトンプソントーワは営業車のリース等でお付き合いがありました。当時、オリックスの営業担当者がオーナーから事業承継を検討しているという話を聞いて、中小企業の事業承継を担当している私につないでくれたのです。

その後、オーナーから詳しい話をお聞きし、「第三者に会社を譲渡するのであれば、従業員や取引先のためにも会社名を残したい、また、従業員を大切にしてほしい」という強い思いを持たれていることがわかりました。そういった思いに寄り添い、常駐者を派遣し成長支援を行うこと、これまでに培われた企業文化を尊重しながら事業を継続・発展させていく事業承継方針を説明し、ご納得いただきました。

長谷川氏:実は当時、同業他社から打診がありましたが、同業他社だと完全に吸収され、当該企業のひとつの部署になってしまい、創業から守ってきたトンプソントーワという名前もなくなってしまうのではないかと考えてお断りしました。以前から取引のあるオリックスなら信頼できるし、多角的に事業を手掛けていることもあり、業界の商習慣も理解してくれるに違いない。一緒に頑張れば、会社としてさらに成長できる。このように考えて、事業承継を決断したと聞いております。

「ハンズオン」で管理体制の構築および強化。カギは社内での信頼関係の醸成

長谷川氏 山本 インタビューカット

――強い思いをくむ形でパートナーシップがスタートしたんですね。承継後には具体的にどのような取り組みが進んだのでしょうか。

山本取締役などの経営メンバーを派遣して、出資先企業の経営に深く関与するスタイルを「ハンズオン」といいます。その中でもオリックスは事業承継の相談窓口となった者が責任をもって常駐するスタイルが特徴の一つです。本件も相談窓口となった私自身が株式譲り受け後にトンプソントーワに常駐する形で進めました。

トンプソントーワはニッチトップ企業だけあって、売り上げや収益性には目を見張るものがありました。一方で、コンプライアンスやガバナンスといった管理体制には弱点があると感じて、その補完が主な私の仕事だと感じました。

長谷川氏:中小企業ではよくあることだと思いますが、一人が何役もこなし、日々の仕事に追われ、管理体制のほころびに対応する時間もノウハウもありませんでした。第三者の合理的な目線でオリックスにその役を担っていただいて助かりました。

山本:属人化していたリスク管理や業務のマニュアル化をはじめ、案件の受注に際しても、過去のデータを参考にしながら合理的に判断し、受注するように改善しました。

とはいえ、外部から来た私が社内制度や業務オペレーションをいきなり変えようとしても、従業員の賛同は得られないと思ったので、まずは一人ひとりとコミュニケーションをとって信頼してもらうことから始めました。株式を譲り受けてから1年半後には、「もっと現場の業務に専念したい」という長谷川さんの意向もあって、私が代表取締役を務めることになりました。それが実現したのも、従業員の方々との信頼関係をしっかり築けていたからだと思います。

足固めが完了し、さらなる事業成長を見込んでバトンタッチを実現

――2021年には、オリックスからグリーンシステムへトンプソントーワの株式が譲渡されました。このバトンタッチには、どのような背景があったのでしょうか。

長谷川氏 北野氏 入江氏 山本 インタビューカット

山本:株式を譲り受けてから2年半ほどで会社のコンプライアンス・ガバナンスといった組織体制の基盤整備が一段落しました。今後、さらなる売り上げ拡大を目指すためには、オリックスよりも事業シナジーの大きな会社と組んだほうがトンプソントーワにとっていいのではないかと考え、バトンタッチを検討し始めました。譲渡を進めるに当たっても、会社名を残すこと、急激な組織変革は行わないこと等、オリックスが株式を譲り受けた際の元オーナーの「思い」も守りつつ、候補先を探す中で、当社の取引先であるグリーンシステムが候補にあがったのです。

長谷川氏:次のバトンタッチの候補先として、業界では名の知れたグリーンシステムの名前を聞いて、たしかにここと組むことができれば、さらに事業拡大が望めるのではないかと思いました。

北野氏 インタビューカット

グリーンシステム株式会社 代表取締役 北野 泰弘氏

北野氏:当社は、ゴルフ場コースの一括管理を請け負う会社で、現在、西日本を中心に52のゴルフ場と取引があります。1989年の創業以来、長年培ってきた「芝」や「土」の管理技術を生かして、近年は野球場やサッカー場などのスポーツ関連施設のグラウンド維持・管理も行っています。さらに都市開発事業にも進出しており、最近はJR大阪駅前の再開発計画「グラングリーン大阪」のプロジェクトにも携わっております。

グリーンシステム ゴルフコース管理事例

――グリーンシステムは、なぜトンプソントーワのM&Aに手を挙げたのでしょうか?

北野氏:理由は大きく二つあります。一つは、ゴルフ場のコース管理で最も重要な「水」を合理的に供給できるトンプソントーワの技術力です。当社は、ゴルフ場のコース管理事業者として芝生を守る「水」の重要性を深く理解しています。散水設備工事においてトップクラスのトンプソントーワはとても魅力的で、しかも関東の名門ゴルフ場との関係性もあります。西日本に基盤を置く当社の東日本進出の足掛かりにもなりますし、M&Aがかなえば大きなシナジーを発揮できると考えていました。

もう一つは、事業持続性の強化です。現在、日本には約2200のゴルフ場がありますが、大半はバブル以前につくられており、散水設備の入れ替えや大規模な補修が必要になってきています。そのため散水設備工事のニーズが高まっています。

今後人口減少にともない、ゴルフ場の減少が予想されますが、トンプソントーワの高品質な散水システムを導入している名門ゴルフ場は残り続けると思います。人気のゴルフ場は芝の品質を重視していて散水システムの設備投資も惜しみません。ニッチトップであるトンプソントーワのビジネスモデルは持続性が高く、グリーンシステムグループ全体の事業持続性の強化につながると考えたのです。

企業価値を高め、よりシナジーを生み出せる形に整える。オリックスによる橋渡し

長谷川氏 北野氏 山本 インタビューカット

――直接ではなく、オリックスを介して事業承継したメリットは何か感じていますか。

北野氏:M&Aで注意したいのが、譲渡側企業の会計、法務などの問題がクリアになっていない状態でM&Aが完了してしまうことです。しかし、オリックスを介したことでそういった問題は整備されていると想像できましたし、以前からお付き合いのあったオリックスに対して信頼があるので、安心してバトンを引き受けることができました。

長谷川氏:私たちとしても、オリックスに入ってもらったことで経営基盤を整えることができ、本当に良かったと思っています。前オーナーとの調整も行っていただき、会社名を残して成長する最善の方法を一緒に模索してくれました。

――最後に、今後の展望や中小企業にとってのM&Aの意義についてお聞かせください。

入江氏:2023年4月から私がグリーンシステムから転籍し取締役社長を務め、従業員の皆さんとコミュニケーションをとりながら、少しずつ両社の連携などを進めています。

入江氏 インタビューカット

トンプソントーワ株式会社 取締役社長 入江 弘毅氏

今後は、トンプソントーワの優れた技術を次世代に継承していくために、人材の獲得と育成にもさらに力を入れていきたいと思っています。今回のM&Aによって、コース管理事業の核となる散水設備工事事業をグループに有し、東日本に商圏を拡大することができました。連携によって、自社単独では成しえない成長ビジョンを描けていると実感しています。

長谷川氏:今後さらに連携して両社のシェアの拡大を実現できたらいいですね。理解し合える承継先に出会い、会社名、従業員、取引先との関係、築き上げた技術を次世代に継承することができています。オリックスがつないでくれたこの機会を生かして、日本のゴルフ文化を支えていきたいと思います。

山本:中小企業の経営者にとって、日々の経営に奔走しながらご自身が保有する株式承継や後継者の育成まで手を付けるのは非常に難しいと自分自身、トンプソントーワで経営に携わったことで感じました。しかしながら、後継者不足によって中小企業の雇用、技術などが失われることは日本経済にとっても大きな損失です。中小企業のお客さまと伴走してきたパートナーとして、経営者のリアルなお悩みを預かり、企業に寄り添った事業承継支援にこれからも取り組んでいきたいですね。

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