太陽光発電所を自社にもつくれる?PPAモデル(第三者所有型)の仕組みと事例について紹介

[監修] 一般財団法人 日本エネルギー経済研究所 再生可能エネルギーグループ 研究主幹 二宮 康司
本記事は2022年8月時点の情報を元に作成しています。

2015年に採択されたパリ協定によって脱炭素化社会への動きが加速し、同年9月にはSDGsの17の目標が採択されるなど、近年になって地球環境の保全が世界的に重要なテーマとなっています。この状況は企業にとっても無縁とはいえず、ESG投資の枠組みが生まれるなど、環境に配慮した経営がますます求められています。

こうした背景を受けて、世界各国で進んでいるのが再生可能エネルギー(以下、再エネ)の利用促進です。日本でも、特に太陽光発電においては2021年末時点で累積導入量が世界第3位(IRENA『Renewable Capacity Statistics 2022』)であるなど、存在感が高まっている再エネ。本記事では民間企業が太陽光発電等の再エネ電力を自ら発電システムを所有することなく確実に調達できるPPAモデルの仕組みやその導入のメリット・デメリットを解説。また、具体的な導入事例も分かりやすく説明します。

PPAモデルとは?

PPAモデルとは、再エネ発電事業者が発電した電力を電力購入契約(PPA:Power Purchase Agreement)に基づいて、再エネを調達したい需要家(企業・自治体等)に直接供給・販売する事業モデルです。太陽光パネルなど再エネ発電システムを自ら所有・管理することなく、企業・自治体が再エネ電力を確実に調達することができる方法のひとつとして、近年注目が高まっています。

PPAモデルには再エネ発電設備の設置場所の違いによってオンサイトPPAとオフサイトPPAの2つのモデルがあります。オンサイトPPAは、再エネを調達したい企業・自治体の敷地や屋根などを再エネ発電事業者が借り受けて太陽光発電システムを設置し、そこで発電された電力を敷地内の配線を経由して当該企業・自治体に直接供給するものです。外見上は企業・自治体が自ら再エネ発電設備を所有しているのと変わりませんが、PPAではその設備を再エネ発電事業者が所有して保守点検も行うのがポイントです。このため、オンサイトPPAモデルは「第三者所有モデル」とも呼ばれています。

他方、オフサイトPPAは、再エネを調達したい企業・自治体の敷地や屋根ではなく、まったく別の場所に設置された再エネ発電設備で発電された再エネ電力を送配電ネットワーク経由で当該企業・自治体に供給するモデルです。日本では後で説明する様々な理由によりオフサイトPPAの実施には制約が多く、今のところ、日本で実施されているPPAモデルの多くはオンサイトPPAになります。このため、日本では、単にPPAと言えばオンサイトPPAを指すことが一般的となっており、以下の説明も基本的にはオンサイトPPAを前提としたものとなっています。オンサイトPPAとオフサイトPPAの違いについては、最後の方でもう一度触れます。

PPAモデルの普及が進む背景には、気候変動対策への取り組みが近年一層求められるようになったことが挙げられるでしょう。企業は事業活動の上で大量の電力を使いますが、火力発電への依存が続けば温室効果ガスはますます増加し、気候変動が加速してしまいます。そこで、太陽光発電をはじめとした再エネ利用の促進は世界的にも重要な課題となっています。

また、経済性の問題も挙げられます。火力発電では石油や石炭・ガスといった化石燃料の価格変動の影響を受けるため、今後も企業が火力発電を主体にした電力に依存し続ければ、コストが増加する可能性が大きいと考えられます。対照的に太陽光発電や風力発電のコストは過去 10 年で大幅に低下しており、2021年には太陽光や風力は世界全体の平均で最も安い電力の供給源になっています(IRENA『Renewable Power Generation Costs in 2021』)。

こうしたことから、温室効果ガスの削減と電力調達コストの抑制を同時に実現できるPPAモデルが注目されているのです。

PPAモデルのメリットと、導入に際しての注意点

では、PPAモデルを導入する企業・自治体には具体的にどのようなメリットがあり、デメリットとしてどんな点が挙げられるのでしょうか。以下で詳しく見ていきます。

メリット1:初期費用を抑えられる

PPAモデルにおいては、再エネを調達したい企業や自治体に太陽光発電システム等を設置・管理する費用負担が生じず、設置する場所の提供だけで済むため、導入コストを抑えられるメリットがあります。これまでは、自社で太陽光発電システム等を購入・設置・管理する「自己所有型自家消費」が一般的で、初期設置費用に加え、維持費用にも決して少なくない費用がかかりました。PPAモデルはそうした課題の解消につながります。

メリット2:毎月の電気利用料を減らせる

PPAモデルでは月々の電気代の負担の削減が期待できます。まず、敷地内の屋根や遊休地に太陽光発電システムを設置する場合、電力利用時に送配電ネットワークを使用しないために託送料(高圧の契約で約4 円/kWh) が不要になります。

さらに、電気代に含まれている再エネ賦課金が免除になります。再エネ賦課金とは「再生可能エネルギー発電促進賦課金」の略称です。まだ導入コストのかかる再エネ発電を普及させるために2012年に国が導入した固定価格買取制度で、その買い取りに要する費用は毎月の電気料金に上乗せされて小売電気事業者経由で徴収されています。この再エネ賦課金は近年の太陽光発電量の増加により、2012年度には0.22円/kWだったものが2022年度では3.45円/kWまで上昇しています。

しかし、オンサイトPPAによって太陽光発電システムで発電した電気を使用する場合、この再エネ賦課金はかかりません。

メリット3:自ら保守管理をする必要がない

PPAモデルでは、太陽光発電システム等再エネ発電設備の所有者は再エネ発電事業者です。例えば、太陽光パネルの劣化や故障の対応は、すべて再エネ発電事業者が行います。これらの費用はPPAに基づく毎月の電気料金に含まれるため、別途修理費を払う必要は基本的にはありません。保守管理を再エネ発電事業者に任せられる点は安心といえます。

メリット4:CO2排出量の削減になる

これはPPAモデルのみならず再エネ導入の一般的な利点といえますが、太陽光発電等再エネの導入はCO2排出量の削減につながります。SDGsや脱炭素社会への取り組みが世界的な課題となっているなかで、企業にとっても再エネ利用の推進は不可欠になってきています。

近年では、多くの投資家が環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)といった視点から企業を判断するESG投資の動きを強めています。また、事業活動で消費する電力を100%再エネにする目標を掲げる国際的イニシアチブ「RE100(Renewable Energy 100%)」の枠組みも世界的に広がっており、加盟企業も増えています。こうした背景から、環境に配慮した経営を行うことは、企業の業績に深く関わるようになっています。

では、PPAモデルを導入する際の注意点はどのようなものでしょうか。以下で見ていきましょう。

注意点1:長期契約が必要

事業者によって異なりますが、PPAモデルでは一般的に10~15年、ときには20年にもわたる長期契約を結びます。契約期間中は太陽光発電力システム等再エネ発電設備を電気使用者自ら処分したり、解約したりすることは原則できず、事業所の移転や転売を行う場合は違約金が発生するため、注意が必要です。

また、契約期間が終了すると、太陽光発電力システムは導入した企業・自治体の所有物となるため、契約終了後は電力使用者が自らシステムメンテナンスを行う必要があります。

注意点2:設置できる地域・場所に制約がある

太陽光等の再エネは設置場所や発電設備容量などの条件によって発電量が大きく変わります。このため、設置場所の条件によっては再エネ発電事業者の利益が期待できず、契約を断られる場合があります。条件は事業者によって異なりますが、例として以下のようなケースが考えられます。

  • 設置地域が不適切(日照量が不十分、積雪や塩害、強風などへの特別な対策が必要…など)
  • 適切な設置場所を確保できない(十分なスペースがない、屋根の向きや角度が不適切…など)
  • 発電設備容量が少なすぎる(十分な発電容量を確保できない)
  • 設置場所の形状・レイアウト等によって設置工事やメンテナンスの負担が大きい

なお、上記のほかに再エネ電力を購入する側の企業の経営状態なども審査されます。再エネ発電事業者の側から見れば、相手側の再エネ電力購入企業が、PPAを通じて長期にわたって安定的に電力を購入してくれることを確認したいからです。

オンサイトPPAとオフサイトPPA

始めの方で簡単に触れた「オンサイトPPA」と「オフサイトPPA」についてもう一度掘り下げて解説します。

オンサイトPPA

オンサイトPPAでは、これまで繰り返し説明したように、企業や自治体等の電力需要家の敷地内に再エネ発電事業者が太陽光発電システム等再エネ発電設備を設置し、そこで発電された再エネ電力を敷地内の配線を通じてオンサイト(現地)で供給します。現時点の日本においては、PPAモデルといえば、このオンサイトPPAを指すのが一般的です。

オフサイトPPA

一方でオフサイトPPAでは、電力需要家の敷地外に、再エネ発電事業者が所有する再エネ発電設備があり、送配電ネットワークを経由して需要家に電力が供給されます。そのため電力需要家は、送配電ネットワークを利用するための託送料を一般送配電事業者に支払う必要が生じます。これはオンサイトPPAの場合と大きく異なる点で、相対的にコスト高になります。

また日本では、需要家の敷地外にある発電所で作った電気を販売できるのは小売電気事業者のみと法律で定められているため、発電事業者と需要家の企業がコーポレート PPA を結ぶには、小売電気事業者を介在させる必要があります。これもコスト上昇要因となり得ます。このため、オンサイトPPAと同様に、オフサイトPPAでも、再エネ発電事業者と需要家の企業・自治体とが直接供給契約を締結できるように制度的な見直しが現在検討されているところです。

PPAモデルに適した施設や業種

PPAモデルに適している施設としては、例えばテナントを多く抱える大規模な商業施設が挙げられるでしょう。そのほか、屋根・敷地に余裕のある大きな工場や物流倉庫、「建て替え予定のない」学校などの公共施設もPPAに適しているといえます。

具体的には実際の事例として、例えば、食品スーパーマーケット事業を展開する企業が、2店舗にオンサイトPPAによる太陽光発電システムを導入する事例や、環境配慮型物流施設を有する物流センターがオンサイトPPAによる太陽光発電システムを導入し、施設に入居するテナント企業に100%再エネの電力供給を行う事例が挙げられます。

一方、オフサイトPPAの事例では、コンビニエンスストア大手が2021年に大型の太陽光発電所の運営をスタートさせ、新設された発電所から40店舗のコンビニおよび大型商業施設に電力を供給しているというケースなどがあります。

まとめ

企業にとってSDGsに配慮した経営を行う必要性はますます高まっています。PPAモデルを利用することで温室効果ガスの削減につながり、毎月の電気料金をカットすることも可能です。その上、オンサイトPPA・オフサイトPPAのいずれも再エネ発電設備を設置するための初期費用はかからず、保守管理も再エネ発電事業者に任せることができます。

設置できる地域や場所には条件はありますが、PPAモデルを導入すれば上記のようなメリットを享受できます。ぜひ自社でもPPAモデルの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

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