企業の物流改革を担う富士物流。サステナブルな社会インフラを支える効率化+脱炭素推進の取り組みとは

社会インフラとして、人々の生活を支える物流。コロナ禍のEC需要拡大に伴う業界全体の需要の高まり、また昨今の物流ニーズの多様化やITの高度化などを背景に、物流の仕組みはこれまで以上に複雑かつ高度化している。従来の物流機能や倉庫機能で培ったノウハウを生かし、物流に関する企業の課題を解決し、物流全体の最適化をサポートする「3PL(サードパーティー・ロジスティクス)サービス」を展開しているのが、三菱倉庫グループの富士物流株式会社(以下、富士物流)だ。

富士物流は三重県四日市市にある「三重物流センターA棟」にて、CO2排出量削減を目的に、オンサイト PPA(第三者所有モデル)による太陽光発電を導入。2023年1月に発電した電力の使用を開始した。同棟における使用電力のCO2排出量を約70%削減する見込みだという。

電力使用量の大きいメーカーの工場やデベロッパーが開発する大型物流施設では、こうした太陽光発電設備の導入が加速しているが、物流企業が自社の物流施設に導入するケースは、まだ珍しい。なぜ富士物流はオンサイト PPAによる太陽光発電を活用したのか。いま物流企業に何が求められているのか。同社の取締役 常務執行役員の江藤 俊輔氏、技術・管理本部 副本部長ロジスティクス技術部 部長の佐藤 一典氏をはじめ関係者の方々に話を聞いた。

メーカー物流として培ったノウハウと幅広いネットワークが叶える最適な物流サービスを提供

三重県四日市市にある「三重物流センター」は、富士物流が全国に有する物流拠点の一つだ。

同社は、単にモノの輸送を担うだけでなく、調達、在庫管理、物流システムの改善、梱包(こんぽう)、返品応対など、物流に関するあらゆる顧客の困りごとを解決し、物流全体の最適化をサポートする「3PLサービス」提供に力を入れている。例えば、ある飲料・食品メーカーに対しては、国際物流を引き受けるほかにも、検品や日本仕様のラベルの貼り換えなどの業務も一括して請け負う。

「変化が早く競争が激しい時代にあって、どの荷主企業も『本業にリソースを集中したい』という思いを強く持たれています。メーカー企業ですと、ものづくりという専門分野に集中し、物流機能はアウトソーシングする。私どもはこの物流機能を担います。こうして物流に関するあらゆる業務を3PL業者が請け負うことにより、お客さまは競争力を高め、生産性を上げることに集中していただくことができます」

江藤氏はこのように話す。

富士物流株式会社 取締役 常務執行役員 江藤 俊輔氏

同社が物流に関するあらゆる業務を請け負い、ロジスティクスの全体最適化を図ることができる強みには、その歴史が大きく関係している。

富士物流は1975年に、大手電機メーカー「富士電機」グループの物流部門を分離・集約して誕生した。以来、半導体等の微細な精密機器から発電プラント等の超重量品まで、富士電機グループの多様な製品群、さらにはそれらの製造に必要な材料・部品の輸送を担うことで、安全かつ迅速にモノを運ぶためのノウハウを蓄積してきた。

三重物流センターA棟を案内してくれた、富士物流株式会社 西日本統括部 三重支社 支社長 米津 文二郎氏。同センターでは、飲料の自動販売機をはじめ隣接する富士電機グループの製品を中心に扱っている。

1983年には、当時ではまだ珍しい「保守部品の緊急配送サービス」を開始。365日24時間対応で、故障に対する保守部品を全国各地に届けるというサービスは、情報通信関連の顧客を中心に支持されている。

2004年から2010年にかけては、トヨタグループの豊田自動織機と資本・業務提携を実現。「トヨタ生産方式(※1)」を物流現場に取り入れ、独自の「富士物流改善方式(FKS)(※2)」へと進化させ、現在でも業務の効率化、最適化に取り組み続けている。そして2010年には、三菱倉庫グループの傘下となり、以降、国際物流ネットワークの強化も進めている。

※1 トヨタ生産方式:「ジャスト・イン・タイム(必要なものを、必要なときに必要な量だけ造る)」、「自働化(異常が発生したら生産ラインをただちに停止させ、不良品を造らない。ニンベンがつく「働」の漢字を用いる)」の2つの考え方を支柱とし、ムダを徹底排除し合理化した生産方式のこと。
※2 FKS:トヨタ生産方式の改善方式を取り入れ、情報システムや大規模な自動化設備などの導入による「大きな改善」だけではなく、「日々の弛まぬ改善」も地道に継続する改善方式。一人一人が高い意識を持ちやすく、物流の現場体質そのものを強くすることができる。

同じく三重物流センターA棟を案内してくれた、富士物流株式会社 西日本統括部 三重支社 業務課長 早川 清彦氏。2階では多くの保守部品をそろえ、顧客からの急な要望に対応できるようにしている。

「ソフト面では、富士電機の各製品や情報通信機器を扱ってきたノウハウや、メーカー母体の物流会社ならではのシステム開発力や包装仕様の提案力、独自の改善手法であるFKSの技術を有しています。一方、ハード面では、富士電機の各製品や情報通信機器などを扱うなかで拡充してきた物流インフラに加え、三菱倉庫グループの一員となったことで、同グループの国内外の物流ネットワークを活用できるようになりました。ソフト、ハードともに高いレベルで提供できることが、当社の3PLサービスの強みです」(江藤氏)

では、3PLサービスの拡大をめざす同社が、なぜこのタイミングでオンサイト PPAによる太陽光発電の導入に踏み切ったのだろうか。

「物流の結節点」である倉庫の脱炭素化を進めることで荷主・荷受け企業の環境配慮のニーズに応える

富士物流 三重物流センターA棟の屋根の上に広がるPPAモデルの太陽光発電設備。

「いまから10年前の2013年に竣工した三重物流センターA棟ですが、実は設計時から、この延べ床面積約1万6351平方メートルもある施設の広大な屋根に、太陽光発電設備を設置することを視野に入れていました」

こう話すのは、太陽光発電設備の導入を担当した佐藤氏だ。屋根の強度などの建物の構造も、それを踏まえた上で設計されていた。

富士物流株式会社 技術・管理本部 副本部長 ロジスティクス技術部 部長 佐藤 一典氏

しかし当時は環境配慮の要請が今より強くなかったこともあり「今は本業である物流サービスを優先し、時期を見るべき」という判断で、導入は一時保留にしたという。

近年、脱炭素に対する社会的要請が急激に高まるなか、三菱倉庫グループは2021年に策定した「ESG経営/SDGs対応に向けた取組みについて」の中でCO2排出量削減を重点目標の一つに設定。その折に富士物流はオリックスから提案を受け、改めてオンサイト PPAによる太陽光発電の導入を決定したという。

物流企業がCO2排出量削減に取り組む意義について、江藤氏は次のように語る。
「倉庫は『物流の結節点』と言われています。『サプライチェーン全体でCO2排出量を削減することが重要』という考えが急速に広まりつつあるなか、結節点である倉庫を持つ私たちのような物流企業が再生可能エネルギーを導入する意義は、非常に大きいと感じています。今後、物流企業には、Scope3(※3)の削減目標を達成しようとする荷主・荷受け企業の双方から、さらに脱炭素への強い期待がかかるでしょう。私たちは、サプライチェーン全体における最適な物流を提案する企業として、そうした声に応えていきたいと考えています」

今回の太陽光発電設備導入は、CO2排出量削減に向けた取り組みを実施できることはもちろん、PPA方式での導入によって初期費用とメンテナンス費用がかからないこと、余った電力を売電できることも副次的なメリットとなった。

「物流倉庫は、メーカーの工場などと比較すると電力使用量が少なく、屋根一面にパネルを設置すると余剰電力が出てしまうことが課題でした。しかし今回の導入方式は、余剰電力はすべて売電できるため、スペースを余らせることなく屋根全面のパネル設置に踏み切ることができました」(佐藤氏)

設置したパネルは約1800枚、発電容量は801kWとなる。晴れれば、日中はほぼ100%倉庫内の使用電力をまかなえ、夏場であれば朝の7時~8時ごろから余剰電力が発生する。CO2排出量に関しては、従来のおよそ70%の削減を実現できている状況だ。

「『遮熱効果』という恩恵も受けています。屋根のパネルが太陽光を吸収してくれるため、庫内の温度が以前よりも数度低下できており、冷房・空調費が削減されました。総合的なコスト削減、CO2排出量削減につながっていると感じています」(佐藤氏)

※3 Scope3 : 温室効果ガス(GHG)の排出量を算定・報告する際の手順についての国際的な基準であるGHGプロトコルに定められた3つの区分の一つ。Scope1(事業者自らによる温室効果ガスの直接排出)、 Scope2(他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出)以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)を指す。例えば、原材料の調達、製品の使用・廃棄、輸送・配送など。

『地球環境への貢献』と『企業利益の向上』の両立が求められる

発電状況は常時遠隔で監視されており、稼働は順調だ。今後は別の物流施設でも太陽光発電設備の導入検討を進めていきたいと佐藤氏は話す。

「現在、2022年4月に稼働開始した『筑波物流センター』(茨城県稲敷郡阿見町)で、オリックスと太陽光発電設備導入を進めているところです。既存の施設への太陽光発電設備の導入には建物の耐荷重の問題などもありますが、優先順位をつけて、できる限り多くの物流拠点に再生可能エネルギーを導入していきたいと考えています」(佐藤氏)

施設内の照明を低消費電力のLEDに順次切り替えるなど、使用電力自体の削減にも取り組む。こうした積み重ねで、三菱倉庫グループが掲げるCO2排出量削減目標(※4)の達成に寄与していく構えだ。

今回、富士物流 三重物流センターA棟の太陽光発電設備導入を担当した、オリックス 環境エネルギー本部 電力事業部 東日本第一チーム長 川野 貴弘は、「脱炭素への取り組みは、それぞれの企業の状況に合った選択をすることが大切だ」と語る。

※4 CO2排出量削減目標:物流施設および不動産施設におけるCO2排出量を2030年度に50%削減(2013年度比)

オリックス株式会社 環境エネルギー本部 電力事業部 東日本第一チーム長 川野 貴弘

「例えば、耐荷重の問題で屋根に太陽光発電設備を設置できない場合、施設の屋根ではなく、ほかの用地に設置された太陽光発電設備を利用する『オフサイトPPA』方式により、再生可能エネルギーを導入するという選択肢もあります。長年、電力事業者として培ってきたオリックスのノウハウにより、さまざまな選択肢を提案し、富士物流のCO2排出量削減のお手伝いをしていきたいと考えています」

こうした環境への取り組みはもちろん、オリックス・レンテックのAGV(無人搬送車)による物流倉庫内作業の効率化・省人化、またワコーパレットのパレットレンタル提供など、オリックスグループのシナジーを生かした、物流分野に関する包括的なサポートも可能であるという。

江藤氏は、オリックスへの期待について次のように語ってくれた。

「環境負荷低減のための取り組みはコストがかかるため、企業にとっては悩ましい問題です。しかし今回、オンサイト PPAによる太陽光発電設備を導入したことにより、初期費用やメンテナンス費用をかけずに、CO2排出量削減を進めることができました。

企業はこれから、『地球環境への貢献』と『利益の最大化』を同時に実現していくことが求められます。多様なアセットと知見を持つオリックスには、それらを両立できる施策を、どんどん提案いただきサポートしてもらいたいと考えています」

オリックスは、環境価値向上を支援するパートナーとして、富士物流をはじめ企業をサポートしていく構えだ。

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