「ESG投資」対象となるために企業が取り組むべき対応とは?

ESG投資のイメージ

[監修] ニューラルCEO/信州大学特任教授 夫馬賢治
本記事は2023年9月時点の情報を基に作成しています。

公開日:2021-12-03
更新日:2024-04-30

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地球環境への取り組みが、グローバル視点で喫緊の課題として捉えられている中、SDGs等の言葉は一般の生活者の間にも浸透しつつあり、普段の暮らしの中に環境配慮の意識が醸成され始めています。

モノやサービスの購入に際しても、単に「安くて良いもの」ではなく、地球環境を意識して作られているかや、倫理的に正しい製品を求める等、意識だけでなく実際のアクションにも変化が見られるようになっています。

それに伴い、企業や事業への投資の領域でも、「ESG投資」という考え方は大きなトレンドとして、その規模が拡大しています。上記のような変化から、ビジネスにおいて今後ますます重要となることが期待されていますが、投資対象となるためにはどのような考え方が必要なのでしょうか。

ここではそんなESG投資の基本から、企業がどのようにESG投資を捉えるべきか、そしてESG投資の対象となる企業の取り組み事例までをご紹介します。

ESG投資とは

ESGを図解するイラスト

従来の投資が企業の財務指標を重視してきたのに対し、「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」の3要素を考慮した投資活動がESG投資です。それぞれ具体的には以下のようなものを指します。

環境(Environment):
気候変動をはじめとする環境問題が現実のものとなっている今、そこへ意識を向けた取り組みは企業としても欠くことのできない要素の一つとなっています。

社会(Social):
企業の社会的責任に対する意識は高まり続けています。働き方の改善、多様性の実現等、社会に対する影響を考慮した経済活動が求められています。

ガバナンス(Governance):
企業統治を意味する「ガバナンス」。透明・公正な企業運営を実現することを指します。業績に直結するリスクの回避のためのオープンな情報発信や、社外取締役の活用等が該当します。

このような指標は、特に超長期運用する機関投資家を中心に、投資判断の一つとして考慮されるようになってきており、企業経営のサステナビリティがより評価されていくことが予想されます。

欧米等の動きが活発なイメージがあるESGの概念ですが、日本でも浸透し始めています。これは、2015年に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、投資にESGの視点を組み入れること等を原則として掲げる国連責任投資原則(PRI)に署名したことがきっかけと言われています。

また、2020年のコロナ禍以降、株式投資を含む資産運用が注目を集めたことなどもあり、その全世界投資額は拡大傾向にあり、その市場価値はさらに高まっています。

加えて、リモートワークを含む働き方改革や、従業員の健康管理の重要性が高まったことにより、ESG投資のS(社会)がより関心を集めているのではないかと指摘する声もあります。さらに、将来働くためのスキルが大きく変化するということも理解されるようになり、日本でもついに「人的資本」としてのSにもスポットライトが当たるようになりました。

東京証券取引所の持株会社である日本取引所グループも、こうしたESG投資の重要性の高まりに対し、「ESG関連指数・上場商品」としてESG投信を一覧掲載しています。この情報は、ESG投資を行う際や、ESG投資対象企業になるための一定の基準として、日本国内における一つの指針となるでしょう。

さらに金融庁は「社会的課題の解決に資する資金やアドバイスを提供する金融(サステナブルファイナンス)の重要性が高まっている」として、企業のサステナビリティ開示の充実を図っており(参照:サステナブルファイナンス推進の取り組み|経済産業省)、この動きは日本でもますます大きくなっていきそうです。

ESG投資はなぜ重要?投資家と企業の目線で考える

グリーンと小さな地球を大切そうに持つ2組の両手

ここまでの内容で、余裕のある企業が取り組むブランディング活動のようなイメージを持たれるケースも少なくないかもしれません。

しかし、先述の生活者の意識とアクションの変化はビジネスにおいて対応が不可欠な動きですし、そもそもわれわれが生活する地球環境の健全性なくして、企業の持続的な成長も望めません。投資家、企業、いずれの立場においても必須の取り組みと言えるでしょう。

投資家目線でのESG投資

投資家の視点からは、ESG投資も通常の投資もほぼ違いはありません。いずれの投資においても、投資家が目指すのは、投資の結果として最大のリターンを得ることです。

ただ、環境問題や社会問題が大きく取り沙汰されるようになってきた現代においては、それらESG関連の課題に取り組んでいる企業ほど長期的に優れた業績を発揮する傾向にあると言えます。そのため投資家にとってESGの観点は今後欠かせない基準の一つとなっていくでしょう。

ESG投資のデメリットとして「ESG評価の基準が統一されていないため、投資判断が難しい」「データ不足によりパフォーマンスの不確実性が高い」等の点も挙げられていましたが、2021年に国際会計基準を策定するIFRS財団が国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の設立を公表し、同ISSBは2023年にESG情報の国際的開示基準を最終発表したことで、ESG評価基準の統一が実現してきています。

また、ESG投資のパフォーマンスに関しても研究や実績が積み重ねられ、ESG投資が長期的なリスクの軽減や企業の持続的な成長に寄与するとの認識も広がり始めています。

このようにESG投資のデメリットは徐々に解消されており、ますますその重要性が高まっていく可能性があります。

企業目線でのESG投資

今後ますますの成長を考える企業にとってESG投資に対する意識は必須となるでしょう。 また、単純に投資対象となる、という目的の他、副次的なメリットもあります。ESGの視点を意識した取り組みは、製品・サービスの付加価値の他、企業ブランディングとしても機能するため、人材採用活動にも良い影響を与えます。また透明・公正なガバナンスは企業イメージの向上に加え、何より自社の経営の安定性に大きく関わります。実際に「ESGへの取り組みが中長期的に企業価値を上げる」という見方も広がりつつあり、企業の成長にとってやはりESGは無視できないものとなりそうです。(参照:https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_kkr/proceedings/material/kyosai20221125-3-2.pdf

ESG投資の種類

「ESG投資」と一言で言っても、その手法にはいくつもの種類があります。投資を受ける企業側も、投資家目線での手法について知っておくことで、対策を立てやすくなるはずです。それぞれの手法について、大まかにですが紹介します。

  1. ネガティブ・スクリーニング
    倫理・宗教的な観点や、将来の投資リスクの観点から、特定の業界を投資対象から一律に外してしまうのが「ネガティブ・スクリーニング」です。石炭関連の企業、ギャンブルやポルノ、たばこに関連している企業などが実際に除外されています。
  2. ポジティブ・スクリーニング/ベスト・イン・クラス
    その名の通り「ネガティブ・スクリーニング」の反対の考え方です。ESGへのコミットメントが、同業他社と比べ、相対的に高い企業のみを選び、投資対象とする手法です。
  3. 国際規範スクリーニング
    ネガティブ・スクリーニングとは異なり、経営や事業運営に関し、国際連合の「国連グローバル・コンパクトの10原則」などの国際的な規範に抵触している企業を投資対象から除外するのが「国際規範スクリーニング」です。
  4. ESGインテグレーション
    従来の投資でも活用されてきた「財務情報」だけでなく、環境データや社会データなどの「ESG情報」の双方を考慮し、ESG情報の状況が良い企業への投資配分比率を増やすのが「ESGインテグレーション」です。
  5. サステナビリティ・テーマ投資 ESGの分野で特定のテーマに特化し、そのテーマに関連する投資対象にのみ集中投資するのが「サステナビリティ・テーマ投資」です。テーマには、再生可能エネルギー、持続可能な農業、水資源、サイバーセキュリティ、ヘルスケアなどがあります。
  6. インパクト/コミュニティ投資
    投資からの財務リターンだけでなく、同時に環境や社会面での具体的なインパクトを狙いに行く投資が「インパクト投資」です。そのため投資を通じてもたらされたインパクト測定も同時に行うことが多いです。その中で、金融機関からの融資を受けにくい低所得者層、社会的弱者、中小企業などに投資を行い、地域社会の活性化とその開発を目指すのが「コミュニティ投資」です。
  7. インパクト投資では、通常、NGO、協同組合、慈善団体、財団や公的資金提供機関などを介し、ローンや助成金、または株式などの形式で行われることが多くなっています。近年ではクラウドファンディングの普及に伴い、個人投資家でも少額から始められるものもあります。また、銀行や保険会社が自主的に実践する事例も増えてきています。
  8. エンゲージメント/議決権行使
    投資家が投資先の企業に対し、対話を行って特定の目的に向けた取り組みを促すのが「エンゲージメント」です。本稿の内容に沿うと、環境課題や社会課題が投資先企業の事業に将来悪影響を及ぼすことを対話を通じて伝えたり、将来有望な事業への進出を促したりしています。最近では、取締役の人選や報酬でもエンゲージメントが行われてきています。
    「議決権行使」は株主総会での議決権行使をすることで、より強くアプローチする「エンゲージメント」の一種と考えられます。

ESG投資の対象とされる事業の例

ここまで、投資家と企業のそれぞれの目線でESG投資の考え方について解説してきました。では実際にESGを意識した取り組みとはどのようなものなのでしょうか具体的な事業会社の事例を紹介します。

現在、ESG投資において中心にもなっている、気候変動対策に寄与する取り組みとしては、例えばエネルギー業界においては、化石燃料関連事業の売上比率を中長期的に大幅に減らし、代替エネルギーや、省資源・資源循環を新たな事業の柱にすることで、事業ポートフォリオを大幅に転換することを表明した企業もあります。

ある金融機関では、「多文化共生実現への環境整備」の一つとして、日本に居住している外国人に向けたサービスを展開しています。9の言語に対応した「海外送金アプリ」をはじめとする海外送金サービスは、簡単に母国へ送金ができるサービスとして高い評価を獲得している他、外国人が多く暮らす地方公共団体と協定を締結することで、同アプリを通じて地域情報や災害時の緊急情報の取得が可能としています。これらは、人口減少が予想される日本社会で新たな顧客層を開拓することで、企業にとって新たな成長分野を創出していくことにもなります。

デパート・小売業界では、ガバナンスに注力するある企業が注目を集めています。取締役会の委員会として「指名・報酬委員会」の他に、社外取締役を議長とする「サステナビリティ委員会」「戦略検討委員会」を設置するとともに、取締役の業績連動報酬の目標指標として、ESG評価指標を盛り込んでいます。持続可能な長期的成長を目指すガバナンス基盤を確立する企業は、日本でも増えてきています。

このように、ビジネスにおけるさまざまな領域で取り組みが進んでいます。とはいえ、ESG投資の対象になる、といって全く知見のない分野の事業を展開することは大きなリスクを抱えることとなります。自社の長期的なゴールをイメージしつつ、社会の変化を見極めながら、「長期戦」と覚悟して取り組みを進めていくことが重要になるでしょう。

事業を通じた社会課題への貢献

サステナビリティ

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