地方創生の「成功」とは?取り組み事例を通して、今改めて考える取り組みの意義

[監修] 一般社団法人 地方創生パートナーズネットワーク 代表理事 村松 知木
本記事は2022年11月時点の情報を元に作成しています。

日本の将来を語る上で欠かせないキーワードとして知られる「地方創生」。すっかり耳なじみのある言葉となった一方で、地方創生の成功イメージはあまり共有されていないのではないでしょうか。そもそも地方創生の「成功」とはどういうことなのか。いま改めて地方創生を整理し、その取り組み事例から目指すべき方向性を考えてみましょう。

地方創生とは

地方創生を簡単に説明すると「日本の各地域を活性化させ、持続可能な社会を目指す」取り組みの総称と言えます。

2014年に国会で成立した「まち・ひと・しごと創生法」を整理すると、その取り組みは以下の目標を目指し進めるものと解釈できます。

「地方に仕事を作り出し、安心して働けるようにする」
「地方への新しい人の流れをつくる」
「若年世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる」
「時代の変化に合った地域をつくり、安心なくらしを守る」
「地域と地域の連携を促進する」

地方創生が重視されている理由

人口減少
地方創生がここまで声高にさけばれている最大の理由は、やはり少子高齢化を伴う人口減少にあります。2014年に日本創成会議の人口減少問題検討分科会が発表した資料(成長を続ける21世紀のために 「ストップ少子化・地方元気戦略」)によると、2040年までに全国約1,800市町村のうち約半数(896市町村)が消滅する恐れがあるとされています。

主要都市に人口が集中し、北海道函館市のような有名観光地ですら過疎化地域に指定されている現在、地域を活性化させて社会インフラを維持するためにも、地方創生は急務であると考えられます。

リモートワークの普及
2020年からの新型コロナウイルス感染症の拡大を契機とした社会の変化により、リモートワークが広く浸透。これにより、以前と比べ場所に限定されない働き方を選択できる働き手が増加しました。それに伴い、居住費の高い大都市から、より土地が安く物価も低い傾向にある地方都市へ移住を考えるケースも見られるようになりました。これは地方創生にとって大きな後押しと言えるでしょう。

地域独自の豊かなリソース
各地域にはその土地独自の歴史や文化があり、大都市にはない豊かな自然があります。しかし、これまでその多くが注目をされてきていません。経済成長が鈍化している今こそ、改めてそれらの地域資源に着目してアウトドアやグランピングなどの体験による付加価値を与えることで、観光・レジャー産業に活用することが期待されています。

SDGsとの密接な関係

地方創生はSDGs(持続可能な開発目標)とも密接な関係にあります。

SDGsが目指す17の目標が示されているのですが、その11番目の目標「住み続けられるまちづくりを」は、まさに地方創生が目指すものと合致しています。

「住み続けられるまちづくり」実現のためには、個人の安全保障はもちろん、単身の高齢者に対する地域コミュニティーのケア。閑散地域でも活用可能な移動手段の確保。地域のリソースを保全しながらもその活用による雇用の創出などが求められています。

地方創生の成功が難しい理由

ここまで地方創生の重要性について紹介してきましたが、地方創生の成功は現実的に難しいと言わざるを得ないのが現実です。なぜならば地方創生とは「人口の流出防止」「地域の雇用創出」「地域活性化」を目指す運動ですが、日本の総人口自体が減少の一途をたどっているからです。この状況で先述の三つの目標を実現することは根本的には不可能です。

そのため、現在「地方創生」の成功を測る基準として、東京を中心とする大都市からの人口流入あるいはインバウンドの増加などが挙げられるでしょう。

また、そうした根本的な原因以外にも、地方創生が難航する理由がいくつか存在します。その理由を以下で紹介します。

「成功事例」の安易な流用

地方創生を目指す多くの自治体は、他地域の成功例をモデルとします。模倣自体や前例主義に問題があるわけではありませんが、どの程度参考とするかのバランスには注意が必要です。地域にはその地域の特性があり、施策と背景がかみ合ったからこその成功であることを意識することが重要です。前提条件がそろっていない状態で、施策だけ参考にしたとしても、成功の見込みは低くなってしまうでしょう。

そして、そうした模倣からの失敗というケースが増えてしまうと、地方創生そのものが無理筋であるというイメージの醸成につながる恐れがあるため成功事例の本質を見極めるという注意が必要です。

一時的に人を集めるだけでは成功にならない

多くの自治体は地域に人を呼び込み、人口を増やすことを目標として掲げています。人口増は地域活性のために不可欠とも言える要素ですが、一時的な人口増では大きな効果は得られないでしょう。何らかのインセンティブを持って人を集めたとしても、そのインセンティブが仕事を継続できるか、自分の成長や目標を達成するような自己実現に資するものでなければ、すぐに離れてしまいます。集めた人たちに対して、地域のどんな魅力を見せ、それを広めてもらうのか。そうした動線までも含めたプランが必要とされているのです。

効果検証が不十分

地方創生のための施策について、効果検証が曖昧であることが少なくありません。例えば地域活性化のためのランドマークを作ったならば、来場者数や営業利益、どれくらいの雇用が創出されているのか、人口に影響はあったのかなどを長期的に検証しなければ、その取り組みが成功であったかを判断することはできません。

エキスパートの不在

地方創生の成功とされる多くの事例には、熱意と適性を持ったエキスパートの存在があります。積極的に地域の魅力と可能性を再発見するような「外部目線」からパートナーを迎え入れてプロジェクトを進めることが、成功への近道だと考えられるのではないでしょうか。

地方創生の成功事例

ここまで紹介してきたように地方創生は長期的な取り組みであり、どこかの時点で成功を定義するのはやや難しいところがあります。しかし、目指すべき参考事例が求められているのも間違いないでしょう。ここでは一定の成果を上げたことから成功事例とされている取り組みを三つ紹介します。

福岡県北九州市

北九州市は「小倉家守構想」と題したリノベーションまちづくりを平成23年度から小倉魚町地区を中心に推進しています。

家守とは江戸時代において長屋の大家の呼称ですが、借家人の生活面の面倒なども見るなど、大家の枠を越えた地区のマネージャーのような役割を担っていたそうです。この「小倉家守構想」では、その現代版を目指し、行政・地域住民等と連携して遊休不動産をスモールオフィスなどに転用。そこに起業家や個人事業者を呼び入れることで、遊休不動産を活用して地域に新たな価値を生み出しています。

結果、平成23年度に「縮退する社会の中でまちににぎわいを取り戻す」という目標を掲げた本プロジェクトは成功を収め、令和元年からは黒崎地区でのリノベーションまちづくりも始まっています。

また、この「小倉家守構想」には自治体のみならず、民間都市開発推進機構、北九州市立大学、九州工業大学、株式会社北九州家守舎などが参画。まさに民・学・公が連携したプロジェクトです。近年、こうした長屋、古民家などの遊休資産を観光素材として利活用することにより、地方創生を実現しようとしている地域も増えています。

宮崎県都城市

都城市の水と南九州のサツマイモにこだわり、都城市の工場で芋焼酎を作り続けている全国的な知名度を誇る地元酒造メーカーと自治体が協力。

ふるさと納税の返礼品としての商品提供による大都市圏での認知向上や、地元農家の加工用米の購入による農家の安定収入の実現。また、東京都内での電車広告キャンペーンの展開による同酒造メーカーの拠点都市であることのアピールなど、両者のメリットを意識した活動を行いました。

その結果、メーカーの売り上げは増大し地元の雇用創出に大きく貢献、さらに「ふるさと納税」を活用した関係人口による「モノ消費」の増加から、地域に観光で訪れる「酒蔵ツーリズム」など交流人口の増加による「コト消費」への展開が期待されています。

長野県阿智村

長野県阿智村は星空を地域資源と捉え、2012年8月1日より「天空の楽園 ナイトツアー」を開催。それが評判を呼び「日本一の星空の村」としてブランドを確立することに成功しました。運営組織であるスタービレッジ阿智誘客促進協議会には、自治体のメンバーほか旅行会社関係者や地元温泉の観光局長なども参加しています。

もともと阿智村には花桃の庭園という人気観光スポットがありましたが、その花が咲くのは1年間で2週間だけ。そんな課題を持っていた同村は、山頂にあるスキー場、ゴンドラを利用して一年を通じた集客とともに、冬のスポーツに限らない新しいレジャー市場の開拓に目をつけました。もともと星空がきれいだという定評があった上に、2006年には環境省が全国星空継続観察を通して「星の観察に適していた場所」の第1位に認定していたことから「日本一の星空」と銘打ってナイトツアープランを制作したのです。

ハコモノを建てることなく、眠っていた資産に新たな価値をつけて情報発信することで多くの集客に成功した、ある種の理想的な成功事例と言えるでしょう。

地方創生の事例から意識するべきポイント

地方創生には、建物を新設または有休不動産をワーケーションができる宿やカフェにリノベーションしてまちづくりを行う「ハード」のアプローチと、情報発信を通じて地域の価値を高める「ソフト」のアプローチがあるという考え方があります。

その点、今回紹介した成功事例が重視していたのはソフト面。都城市の事例では酒造メーカーとしての知名度を生かした情報発信、阿智村の事例では星空という地域資源を再評価してブランディングを行いました。そして、そんな発信したい情報や価値獲得の起点としてハードを活用しているのもまた特徴と言えるでしょう。

都城市の事例にように工場を地元に作ることで地域人材を活用して雇用を生み出す活動は、従来の地方創生=建物を作って観光客や住民を呼び込むという発想とは一線を画しています。そして北九州市のように、そこで活用するハードが必ずしも新設される建物とは限らず、遊休不動産の活用も積極的に行っている点も見逃せません。

ハードありきで新しい建物を作る予算がある場合はそう多くないでしょうし、もしあったとしてもその活用方法をしっかり定めることなく建ててしまっては元も子もありません。特に「口コミ」情報が強い力を持つSNS時代においては、どのような付加価値を加えた情報発信で地域の価値を高めるかという発想が大切にされるべきではないでしょうか。

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