[監修]一般社団法人サステナビリティコミュニケーション協会代表理事 安藤 光展
本記事は2025年2月時点の情報を基に作成しています。
「アップサイクル」という言葉を聞いたことがあるだろうか。廃棄物や不要品に手を加え、より価値の高い作品・製品に生まれ変わらせるアプローチのことで、近年注目を集めている。実際、この手法に取り組む企業事例は多く、大企業と中堅・中小企業の協業事例も珍しくない。
本記事では、アップサイクルの定義や取り組むメリット・デメリット、そしてアップサイクルを通じたビジネスチャンスの見いだし方について、一般社団法人サステナビリティコミュニケーション協会の代表理事を務める安藤 光展氏に話を伺った。
アップサイクルとは?リサイクルやリメイクとの違いって?
──ビジネスの現場で「アップサイクル」という言葉を耳にする機会が増えました。アップサイクルとはどのような意味でしょうか。
通常の製品サイクルには、製造〜物流〜消費者への提供〜使用〜廃棄というプロセスがあります。この中で廃棄するはずだったものを回収し、新たなデザインなどで付加価値を持たせ、商品として販売する。これがアップサイクルの基本的なアプローチです。
日本ではSDGsが浸透し始めた2017年頃から、環境配慮の文脈でより注目されるようになりました。
──似たキーワードとしてリサイクルやリメイクが思い浮かびますが、これらとの違いについて教えてください。
まず、リサイクルとはまったくの別物です。アップサイクルは基本的に製品をそのまま使用しますが、リサイクルは製品を資源に分解し、別の製品の原料として再利用します。
例えばペットボトルのリサイクルであれば、回収して粉砕してフレーク(小片)化し、フレークを溶かしてシート状にすることで卵パックを作ったり、ポリエステル繊維にして衣類を作ったりするのがリサイクルです。
一方でリメイクは、同じ素材を使って新しい商品を作るという点では、アップサイクルと近い意味合いを持っていると言えますね。
──あえて区別するなら、アップサイクルの特徴的な点は何でしょうか。
アップサイクルの場合、単に再利用するだけでなく、新たな価値を付加することを重視します。例えば、アート作品として生まれ変わらせたり、クリエイティブな発想で別の用途の製品に作り変えたりします。この「価値を高める」という視点が特徴と言えるでしょう。
アップサイクルに取り組むメリット・デメリット
──企業がアップサイクルに取り組むメリットについて教えてください。
メリットは大きく分けて4点あります。まずは廃棄物が削減できるという環境面でのメリットです。廃棄しなければならなかったものが、何かしらのアプローチを経てもう一度使えるようになる。これは環境負荷低減の観点から重要な意味を持ちます。
次に、商品に「独自性」や「1点もの」という価値が生まれることです。アップサイクルによって生まれたものは大量生産品ではないため、独自性や希少性が高まります。特にB to C企業の場合、こうした希少性を商品の強みとして打ち出すことができるでしょう。
3つ目のメリットは、意外と見落とされがちですが、社員の環境教育につながるという点です。会社がアップサイクル製品の企画・製造・販売を手がけると、サステナビリティの考え方が企業文化として浸透し、社員が環境問題の当事者意識を持ちやすくなります。社員の環境意識が高まれば、企業の持続可能な成長や競争力の向上にもつながるでしょう。
成果が製品として目に見える形で出来上がるのもポイントで、実際の製品や製造プロセスを目にすることは、机上の環境教育では得られない実践的な学びになります。
そして最後に、アップサイクルへの取り組みは、具体的な環境配慮の証左になるという点です。
昨今、大手企業が「CSR調達アンケート」という調査を実施し、取引先のサステナビリティ対応の進捗状況を確認するケースが増えています。このアンケートでは「どのような環境配慮の取り組みをしていますか」「廃棄物の削減にどう取り組んでいますか」といった設問に回答を求められます。
特に、製造業の多くは産業廃棄物の削減を厳しく進めており、削減目標を達成できない取引先は取引が停止されてしまう可能性もあります。それだけ、最近は取引先の環境配慮を重視する企業が増えているのです。
このような状況下で、アップサイクルに取り組むことは大きなアピールとなり得ます。これは大手企業と取引がある、あるいは目指している企業にとっては重要なポイントと言えるでしょう。
──一方で、デメリットや課題を挙げるとしたら、どのようなことが考えられますか。
やはり、アップサイクルにはコスト面の問題が避けられません。アップサイクルのプロセスでは別の素材を利用したり、クリーニングで水や洗剤などを使ったりしますし、人件費もかかります。経済合理性だけで見れば、なかなか対応が難しい部分があります。
環境負荷を減らすのは簡単なことではありません。例えば、コットン製のエコバッグは、レジ袋よりも環境負荷を減らすために、物にもよりますが数百回使う必要があるとも言われています。このように、環境に良いとされる取り組みでも、視点を変えれば課題が見えてくることはままあります。
ただし、ここは強調しておきたいのですが、アップサイクルに取り組むにあたっては、ミクロな視点に固執せず、マクロな視点で価値を捉えることが重要なのです。環境への影響や経済への影響など、複数の視点から総合的かつ長期的に評価することが求められます。
実際、多くの企業が経済合理性だけでなく、さまざまな価値を見いだしてアップサイクルに取り組んでいます。
アップサイクルに取り組む企業事例
──具体的に、アップサイクルに取り組む企業の好事例を教えてください。
あるアウトドアブランドは、店舗のリサイクルボックスなどで回収した製品を生かし、バッグやエプロンなどにアップサイクルして販売しています。口コミを見ても評判は良く、顧客の満足度は高いようです。
他にも、廃木材アップサイクルしてデザイン性の高い家具や雑貨を作っている会社や、廃タイヤや壊れたビニール傘などをアップサイクルしてバッグや小物を作っている会社もあります。
参考:オリックスグループのアップサイクル事例
オリックスグループのオリックス・ホテルマネジメント株式会社は、複合プラスチックの再利用に強みを持つ企業・株式会社REMALEと協業し、廃棄プラスチックをアップサイクルして時計を制作。ホテル5館で回収した使用済みアメニティや海洋ゴミを再生素材として活用し、各ホテルの個性を反映した1点物の時計に仕上げた。これらの時計は、パブリックスペースに展示され、サステナビリティへの取り組みを象徴する存在となっている。
──中堅・中小企業と大企業のコラボレーションによるアップサイクルの取り組みもよく行われているようです。そういったコラボレーションが生まれる背景について、どのようにお考えですか。
確かに、アップサイクルの文脈では、通常のビジネスでは難しい協業が実現していますね。
通常、社員3人の中小企業とグローバル企業が協業することは考えにくいかもしれませんが、アップサイクルの事案においては、大手企業側も活動の試金石となる協業先を探しているため、中小企業とも接点が生まれやすいのでしょう。
実際に、大手飲料メーカーが地方の畳製造業者と協力したり、世界的食品メーカーが日本のバイオベンチャーと協力して製造過程で出る副産物を新たな製品に生まれ変わらせたりといった事例もあります。
このように、アップサイクルは、中堅・中小企業が新しいビジネスチャンスを獲得するチャンスになり得ます。アップサイクルをきっかけに始まった関係が、その後の本業での取引につながっていくケースも期待できます。
アップサイクルを通じたビジネスチャンスの見いだし方
──アップサイクルに取り組む際に具体的な進め方について、まず何から始めるべきでしょうか。
まずは自社の事業プロセスの中で、どのような廃棄物が出ているのかを棚卸しすることから始めてみるとよいでしょう。その上で、自社の技術やノウハウを活かして何ができるかを考えること。必ずしもすべての廃棄物を対象にする必要はありません。
また既存事業に組み込むのが難しい場合は、新規事業として立ち上げるという選択肢もあります。NPOや自治体とタッグを組んで合弁会社をつくるというアプローチもあり得ます。
──特に中堅・中小企業は、大手企業に比べると、時間にも費用にも余裕がない場合も多いかと思われます。アドバイスいただけますか。
中堅・中小企業は特に、スモールスタートで始めることが重要です。いきなり完璧を目指そうとすると無理が生じます。試行錯誤しながら、「こうやったらうまくいく」「こういう表現をしたらより多くのステークホルダーに支持される」といった経験を積み重ねていくのが現実的です。
また中堅・中小企業は、特定の分野や技術に特化した独自のノウハウを持つケースや、地域コミュニティとの強い結びつきがあるケースが多々あります。これらをアップサイクルと結びつけることで、より説得力のある取り組みとなるはずです。加えて中堅・中小企業だからこその柔軟な発想とスピーディーな実行力も、大きな強みとなり得るでしょう。
ぜひ、環境活動を単なるコストと捉えるのではなく、新たなビジネスチャンスを見いだすチャレンジとして考えてください。必ずしも大規模な設備投資は必要ありません。
自社の強みを活かし、できるところから始める。そして、その取り組みをしっかりと発信していく。そうすることで、思わぬところから協業の機会が生まれたり、新規取引につながったりする可能性が生まれるはずです。

安藤 光展
一般社団法人サステナビリティコミュニケーション協会代表理事
1981年長野県生まれ。専門はサステナビリティマネジメント、サステナビリティコミュニケーション(情報開示・社内浸透)。『未来ビジネス図解 SX&SDGs』(エムディエヌコーポレーション)など、著書多数。国内上場企業を中心に、情報開示・戦略策定・ウェブ/報告書制作支援などのアドバイザリーを行う。
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