[Publisher] ORIX Group
世界を変える革新的な技術の創出――それは大企業の特権ではない。企業規模によらず、こと日本においては中小企業やスタートアップ企業がその役割を担うケースも多く存在する。
技術とは、存在だけでは世界を変えることはできない。社会が抱える課題と結びつき、一つの解決からさらなる課題が生まれ、それをまた解決する。その積み重ねにより大きな変化へと変換されていく――つまり、ポテンシャルの発揮先とのマッチングが重要となる。
本シリーズでは、そうした“技術と課題のマッチング”を「社会実装」と称し、先進的な技術で今にも変革を起こそうという企業の取り組みを通じて、これからのビジネスのあり方を考える。第二弾は、ビジネスから環境、果ては宇宙まで、あらゆる領域の課題解決を可能にするAI(人工知能)ソリューションを提供する株式会社Ridge-i(以下、リッジアイ)を紹介する。
第一弾の株式会社Safie(セーフィー)の記事もご覧ください
現場DXに取り組みやすくする、クラウド録画サービスが生まれるまで~社会実装とオリックス~
2016年に創業したリッジアイは、ディープラーニング※1をもとにした画像認識をはじめとしたAIソリューションの提供を軸としながら、同時に高いビジネス感覚で企業の課題を根本から解決するコンサルティング面の強さも特長である。
そんなリッジアイの代表取締役社長CEOの柳原尚史氏と、2021年から資本業務提携を推進しているオリックス法人営業本部国内事業推進部 エクイティソリューション第二チーム長の髙山 匠に、リッジアイが描くビジョンや、企業のDX(デジタル・トランスフォーメーション)に必要な視点などについて話をうかがった。
※1 ディープラーニング(深層学習):人間が自然に行っている仕事や作業を、コンピューターに学習させる機械学習の手法の一つ。十分な量の参考データを読み込ませることで、AIが自動的に特徴を抽出するといったことが可能になる。
AIプロジェクト成功に必要な三つのポイント
――はじめにリッジアイがどのような会社なのか教えてください。
柳原 当社は2016年に創業したスタートアップです。企業や公共団体が抱える課題のヒアリングと整理、そしてそれを解決するAIソリューションの開発、実用化支援を事業の柱としています。
当社が提供するソリューションのうち、約7割が画像認識ディープラーニングをもとにしたものです。これまでに「白黒映像の自動カラー化」や「衛星データによる土砂崩れ検知システム」から、直近の社会状況においては、「群衆カウンティング」「人物トラッキング」といった、撮影された動画をリアルタイムで分析して、密接度合いや人流などを計測するサービスなどの開発・提供をしてきました。残りの3割は非画像系のAIです。例えば最近では、物流倉庫の建設設計を自動的に行うシステムを開発しました。
――いま多くの企業がAIに着目し、経営課題を解決するためのDXを進めています。しかし、なかなかうまくいかないという話も聞きます。AIを活用したDX成功のポイントは、どこにあるのでしょうか?
柳原 おっしゃる通り、現在、AI・DXへ注目が集まっており、データを活用したソリューションへの期待も高まっています。
しかし一方で、日本においてAIプロジェクトが導入に至るまでの成功率は3%と言われています。※2
これには、達成したい目標が曖昧、コストメリットがないなどのスコープや定義の面の問題と、データ取得や、導入・運用の技術を持った人材がいないといった技術やリソース面の問題があると言われています。特に人材の問題は大きく、AI技術そのものを扱える開発人材だけでなく、AIをツールの一つとして使いこなしながら、最適なソリューションを設計できる人材が求められるようになってきています。
そうした状況に対して、「データ化のノウハウ」「AI技術」「課題やニーズの明確化」をコアとして真のAIソリューションを提供していく、というのがリッジアイの役割だと考えています。当社はAIテクノロジー企業ではありますが、この三つのピースをしっかりと組み合わせるためには、技術だけでなく、同時に高いレベルのビジネス感覚も必要です。あらゆる領域において、企業の課題を的確に把握しなければ、効果の出るテクノロジーの導入はできません。
社名である「Ridge-i」の「RIDGE」は「山の背、山稜 (さんりょう)、尾根」といった意味で、「技術とビジネス、双方の高みを追求した、最高峰のソリューションを提供する」というコンセプトが込められています。
当社は創業から5年で30社以上のDXやAI導入をサポートしてきました。そこから言えることは、プロジェクトの成功要因のうち、AIなどの技術によるところは3割程度。残りの7割は要件定義にあります。先ほどの三つのポイントを踏まえ、課題を明確化し、きちんと要件定義さえできれば、多くのプロジェクトで成功の可能性が大きく高まると考えています。
※2 経済産業省「戦略的基盤技術高度化・連携支援事業(中小企業のAI活用促進に関する調査事業)」
AIプロジェクト成功のカギは現場との対話
――要件定義からプロジェクトが成功に至った例ではどのようなものがあるのでしょうか。
柳原 例えば、ごみ処理施設を運営するお客さまから「省人化・無人化をしたい」という相談を受け、4カ月ほどかけて要件定義を行いました。
まず、収集車による回収、ゴミピットへの投下、クレーンによる運搬、焼却炉の管理……といった作業工程のうち、自動化による省人化の効果が最も高くなるポイントの見極めを念入りに行い、最終的にクレーンでごみを焼却炉に投入する作業がカギになることが分かりました。
続いて、無人化が不可能な作業の洗い出しです。ある作業について、8割方は自動化できても残り2割の作業のために結局のところ人員を配置せざるを得なかった、というのはよくある話です。しかし、その2割を別の工程を担当する作業員が兼務できれば、省人化は達成されます。どうしても人の手が必要な作業を最少人数でこなせるよう、オペレーションやフローの改善の観点からも提案をさせていただきました。
――しかし、省人化してしまうと、現場からの反発もあったのではないでしょうか?
柳原 もちろん、現場の方々から「仕事がなくなってしまうのではないか」という声はありました。しかし、AIはこれまで面倒だと思っていた作業やリスクのある仕事を代替してくれるもの。人が人にしかできない作業に集中できるようにするサポートをするものです。こう説明すると、皆さんご納得いただけました。
先程、三つのピースの組み合わせによる要件定義の重要性について申し上げましたが、それは全ての取り組みに共通する基盤になります。それに加えて、個々のケースに最適な形の技術の導入する際に最も大切なのは、お客さまのビジネスをリスペクトして、きちんと理解することだと考えています。そのためには現場の人たちとのコミュニケーションが欠かせません。企業目線での利益や効率化だけでなく、きちんと現場の「人」の目線に立ったメリットについても社内で共有することが必須です。
- プロジェクトの詳細はこちらから
データ・AI・課題の橋渡しを実現するオリックスとの協業
――2021年2月には、オリックスとの資本業務提携が発表されています。そもそもオリックスとリッジアイのお付き合いは、いつから始まったのでしょうか?
髙山 2019年に開催されたベンチャーキャピタルの主催するイベントが最初の出会いです。柳原さんが最先端技術を分かりやすく説明されていたのが印象的でした。当時は、AIなどの先端技術が社会の中で重要性を増していく中で、その領域においてもオリックスとして役割を見出したいと考えていたタイミングでした。
――協業の体制はどのような形になるのでしょうか。
髙山 目指す形は、オリックスがさまざまな業界や企業の課題解決のプラットフォームとなり、リッジアイとともにAIを活用したソリューションを提供するという体制です。
全国のさまざまな業種、さまざまな部門のお客さまが抱える課題をお聞かせいただく機能がオリックスにはあります。お聞かせいただいた課題の共通項を分析することで、より多くの課題解決に貢献できるAI/DXソリューションの開発につながると考えています。
柳原 大企業に限らず、最近は中小企業でもAI導入のニーズは多いのですが、やはりコストがネックになるケースが多いです。しかし、例えば3000万円のシステム開発費を1社で賄うのは無理でも、同じ課題を抱える企業が30社集まれば、100万円ずつ出し合って開発できるかもしれない。
中小企業の課題を幅広くヒアリングし、共通の課題感を認識することは、当社の規模ではどうしても難しいことです。しかし、長年にわたり多様な領域で事業展開していて、さまざまな企業のビジネスへの理解をリスペクトして深めているオリックスに橋渡しをしてもらうことで、それがスムーズに進むと思っています。
髙山 実際はそう簡単なことではありませんが(笑)。ただ、もしそのような“シェアリング”のような仕組みが実現できれば、中小企業のAI導入のハードルを大きく下げられるはずです。
そのためにも、オリックスグループも最先端技術の知見を吸収していく必要があるので、リッジアイと人材交流を積極的に進めたいと考えています。グループ内にAIやDXの知見が浸透することで、より多くのお客さまに提案するということが可能になっていくと思います。
柳原 オリックスのように、中小企業のニーズをたくさん集められる会社は貴重ですから、ぜひお力を借りながら、中小企業へのテクノロジーの普及を進めていきたいです。
髙山 一社一社ときちんと向き合って、課題解決に取り組むリッジアイはオリックスの企業文化とフィットすると感じています。世の中には、「課題が明確化できていないが、テクノロジーによる経営改革を行いたい、DXを実現したい」と考えている中小企業は多いはずです。そうした企業のお力になるためにも、データ・AI・課題の橋渡しになれるようリッジアイとの協業を進めていきます。
- リッジアイのウェブサイトはこちら
リッジアイのソリューションについて、詳しく知りたい方はこちらもご覧ください。
ごみ種別認識AI自動運転クレーン開発|ごみ焼却施設利用
ロボットアームの遠隔操作
GraspEarth