事業承継の「現場」で、今なにが起きているのか。オリックス流「事業承継支援」の現場に迫る

[取材先](※ 2025年7月時点)
事業承継ソリューション部 第四チーム長 小杉 悠樹
事業承継ソリューション部 第三チーム 荒木 孝輔
中央支店 第四チーム 藤井 志帆
鹿児島支店 小寺 祥仁

近年、後継者問題に悩む企業の中で「M&Aによる第三者承継」を選択するケースが増えています。その数は現在、年間約4000件以上にのぼり、今後も増加が続くとの見込みです

オリックスでは、こうした時代のニーズに応えるべく、中小企業に向けて親族内承継、従業員承継にとどまらずM&A仲介など幅広いアプローチで解決策の提案を行っています。

前回の記事では事業承継の課題について、オリックス 事業承継ソリューション部 部⻑ ⼭本 朋広が解説しました。今回は、日本各地で実際に事業承継支援を行っているメンバーにインタビューを実施。オリックスならではの事業承継支援の進め方、支援を受けられた企業の声を紹介します。

  • 中小企業庁の資料(p12)によれば、2022年度に「民間M&A支援機関を通じて実施された中小企業のM&A件数」は4036件。これは2014年度(260件)の約16倍に相当する。

事業承継支援事例とオリックスの役割

左から、事業承継ソリューション部 第四チーム長 小杉 悠樹、中央支店 第四チーム 藤井 志帆、事業承継ソリューション部 第三チーム 荒木 孝輔、鹿児島支店 小寺 祥仁

小杉:オリックスの事業承継支援の特徴は、全国の営業担当者とわたしが所属する事業承継ソリューション部の連携です。特に企業オーナーとの信頼関係が鍵となる「M&A仲介サービス」において、この連携は非常に重要です。

こう語る小杉は、オリックスのなかでも長く事業承継支援に関わっているメンバー。その小杉に印象深い事例を聞くと、中央支店に在籍する藤井とともに、2022年8月から翌2023年9月にかけて担当したM&A仲介の案件だと答えました。

事業承継ソリューション部 第四チーム長 小杉 悠樹

小杉:売り手企業は、住宅用設備メーカー(以下、A社)です。従業員数は約30名、売上高は10億円程度。当時の代表は、還暦までまったく対象会社の経営に携わっていませんでした。しかし、創業社長であるお父さまが認知症を発症され、急きょ代表取締役に就任することになったのです。

この方は、「会社の将来を思えば、素人の自分は早く退任したほうがいい」と考えていらっしゃったものの、身近にしかるべき後継者がおらず第三者承継を模索されている最中に、藤井と出会いました。

中央支店 第四チーム 藤井 志帆

藤井:A社は生命保険の既契約先で、私が所属する中央支店とは10年以上お付き合いがありました。新担当としてご挨拶に伺った2022年の春に、窓口だった同社のご担当者から「社長が事業承継で悩んでいるようだ」と伺い、小杉とともに初めて代表に面談の機会をいただきました。ところが当初は、なかなか具体的な話はお伺いできませんでした。

やはり、初対面で事業承継といった重要な経営課題を相談してもらうのは難しいこと。藤井は、事業承継の提案は一度控え、A社の新規顧客候補を紹介するなど経営支援の提案を続けることにしたそう。そんなある日、代表は「一刻も早く会社を手放したいが、父が株を持っているので、自分ではどうにも…」と藤井に胸の内を明かしてくれたのです。

藤井:2023年の年始にご挨拶へ伺った際、代表から「父の成年後見人として認められた」と伝えられて、そこから事態が急速に動き出しました。

「成年後見制度」は、認知症などの影響で判断能力を喪失した人に代わり、家庭裁判所が選任する後見人が財産管理や契約締結などの法律行為を行える制度。その代理行為には家庭裁判所の許可が必要なものも多くあります。

藤井:そこで論点になったのが、「成年後見人によるM&Aを目的とした株式売却は、家庭裁判所の許可が必要か否か」という点です。もし家庭裁判所の判断が必要となれば、その申請手続きなどに膨大な手間と時間がかかり、M&Aの実行はさらに先の話となります。また、最終的に家庭裁判所から許可が下りない可能性もあり、代表は事業承継できないのではとお困りになっていました。

小杉:実はA社の顧問弁護士や他の仲介会社は、「家庭裁判所の許可が必要」という見解でした。しかし、オリックスの顧問弁護士の助力を得ながら精査したところ、「本ケースでは、家庭裁判所の許可なしにM&Aを進められる」という判断に。このことを代表に伝えるととても喜ばれて、オリックスと買い手を探すと決断いただけました。
営業担当者が事業承継支援以外のテーマで代表にアプローチし、代表から本音を聞き出せる関係性を築けていたことが、この案件が成約に至ったポイントであったと認識しています。事業承継支援だけでなく、さまざまな手段で企業の経営支援を行うオリックスの強みを生かすことができました。

M&A成立までの紆余曲折を、両社と伴走

A社とM&A仲介契約書を締結したのち、マッチングフェーズでは買い手候補を5社まで絞り込んだ結果、売却後の経営方針として、代表が希望した「オーナー企業からの脱却」「独立性の維持」「成長の促進」という3点を強く打ち出した1社に決定をしました。オリックスと以前から取引のある、中小企業の事業承継課題の解決に特化したファンドです。

藤井:そのファンドと基本合意契約を結び、2023年7月からデューデリジェンス(DD、買収監査)に入ったのですが、実はそこからが大変でした。

1カ月超にわたり、買い手企業から400件以上の資料提出依頼と質疑・インタビューの依頼が寄せられて。代表にとっては本当に大きなストレスだったと思います。「私では答えられない」「買い手が何を考えているのか分からない」など、次第に代表が弱音を吐くことが増え、ついには「もう、M&Aをやめたい!」とまで…。

その度に、わたしは代表が抱えているお気持ちや苦悩を受け止め、小杉と代表の間を取り持つことで代表の負担を軽減できるように動いていました。

小杉:デューデリジェンスで代表に負担が掛かる中、藤井は徹底的に代表に寄り添い、わたしは代表と買い手に対する仲介業務に徹するという役割分担ができたことが、案件の成否を分けたと言っても過言ではないと思います。デューデリジェンス後は、買い手と条件面をすり合わせ、株式譲渡契約書(SPA)の文面の解釈を代表へ丁寧に説明を行い、代表と出会ってから約1年後の2023年9月に無事、株式譲渡を実行することができました。代表が納得のいく形で事業承継できたポイントとしては、代表の思いをつぶさにヒアリングできたことではないでしょうか。

藤井:代表から「オリックスにお願いして、本当によかった!」と言っていただいたときには、感慨深いものがありました。M&A成立後、代表は経営から離れましたが、お付き合いは今も続いています。

後継者問題もそれ以外も。全国のネットワークがすくい上げるニーズ

続いてオリックスの事業承継支援ならではの特徴について、事業承継ソリューション部の荒木と鹿児島支店の小寺が語りました。

鹿児島支店 小寺 祥仁

小寺:お客さまを深く理解し、お困りごとに対して的確なソリューションを提供すること。それが支店担当者の重要な役割です。私はお客さまの課題を深く、そして広く知って、オリックスとしてできることがないかを考えたいと思っています。そのため、あえて最初に事業承継の課題について経営者の方々へお考えをお伺いするようにしています。

もちろん、初対面で決算書を共有し、株価算定を依頼していただけるなんてお客さまはほとんどいらっしゃいません。しかし、コミュニケーションを重ねさせていただくなかでご提案を依頼いただくケースも多くあります。

オリックスのネットワークは日本全国くまなく広がっていますので、ノウハウの共有も可能です。だからこそ、私のような入社して日が浅い担当でも、事業承継にとどまることなく、企業経営のあらゆる場面でのお力添えが可能だと思うのです。

事業承継ソリューション部 第三チーム 荒木 孝輔

荒木:以前に小寺と訪問した鹿児島県の建築関連の企業でのお話です。60代の会長は「自分が引退したら息子に跡を継ぎたい」というご意向をお持ちだったのですが、ご子息は新卒1年目でまだ20代前半。「さすがにトップに立つには若すぎるので、どうしたらいいか」と相談を受けました。

株式の移譲を段階的に進めていけばいいのか、組織形態を変えて持ち株会社にすべきなのか、あるいは育つまで別の経営者を立てた方がいいのか。そういったご質問に、税や経営の観点からさまざまな意見を述べさせていただきました。会長には大変参考になったといっていただいて、いまは「次代のために会社としての保障を手厚くしたい」と希望を受けて、オリックスの扱う生命保険をご提案しています。

事業承継を具体的に検討するのが5年、10年先だとしても、その間にオリックスの持つリースや生命保険など多様なソリューションで、事業成長や安定経営を長期的に支援する、それがオリックスの事業承継支援に対する考え方です。セカンドオピニオンのような位置づけでも良いので、気軽に私たちオリックスの営業に事業承継の相談をしていただきたいですね。

全国で事業承継に悩まれる経営者のすぐそばで

最後に、今回話を伺った4名に今後の目標を語っていただきました。

小寺:昨年、社内制度を活用して事業承継ソリューション部で、営業では経験できない実務の一端を学ぶことができました。今後も会計や税制の専門知識を増やし、お客さまのニーズをさらに深掘りできるようになって、M&A仲介などでもお客さまのお役に立てるようになりたいです。

藤井:いつかお客さまが会社売却を含め何らかの事業承継を決断されるとき、「そうだ、オリックスに相談しよう」と思ってもらえるよう、お客さまとの信頼関係を現場で築いて維持していきたいです。長期的で幅広い目線を持って経営のご相談をお伺いしていきます。

荒木:「中小企業の事業承継といえばオリックス」と言われるよう、支援体制の充実に努め、多くのお客さまに選ばれる存在を目指していきます。また、「事業承継のことは荒木に聞いてみよう」と社内外から名指しで言っていただけるような、頼られる存在を目指します。

小杉:将来的には私たちのような部門が「解散」することが理想だと思っています。それは、オリックスの営業担当の一人ひとりが、自ら日本各地で事業承継の悩みを抱える経営者のすぐそばで今よりもっとスピーディーに適切なご提案ができる、そんな状態を作り上げたいということです。そのためも、このビジネスをスケールさせることはもちろん、オリックス社内での知識・ノウハウの共有、人材育成を進めていきます。

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