現在、世界では約2.7万機の旅客機が運航しており、その約半数は「リース機」とされる。オリックスは1978年に航空機ファイナンス・リース事業に参入し、1991年にはアイルランドに航空機リース会社ORIX Aviation Systems Limited(以下ORIX Aviation)を設立。航空機を購入し、航空会社にリースする航空機のオペレーティング・リース事業を行っている。
また、投資家が貸し手、航空会社が借り手となる航空機リース投資も大きく展開しており、自社保有機とあわせて今やその事業規模は、世界30カ国、50社以上の航空会社に220機をリースするまで拡大している(2025年現在)。
2040年代半ばには航空機市場全体で4.4万機が必要になるという予測もあるなど、今後ますます需要が高まる中で、オリックスが見据える事業戦略とはどのようなものか、航空事業グループの小野 陽一郎、村山 裕紀、水元 頌子に話を聞いた。また、40年以上にわたり投資家として航空機リースを手がける、千島土地株式会社 代表取締役名誉会長 芝川 能一氏に、航空機リース事業の魅力について話を伺った。
[取材先]
オリックス株式会社 輸送機器事業本部
航空事業グループ長 小野 陽一郎
航空事業グループ第一チーム長 村山 裕紀
航空事業グループ第四チーム長 水元 頌子
目次
220機以上の「保有機」と「管理機」を扱うオリックスの航空機リース事業
「航空機リース」とは、購入した航空機を航空会社に貸し出し、毎月一定のリース料を受け取るというビジネスである。航空会社は、高額な機体を自前で資金調達する必要がなく、むしろ旅客需要の増減に合わせ機体数を調整できるため、近年は多くの航空会社が「リース」を主要な機体調達手段として位置付けている。
事実、1970年にはリース機の割合は3%程度だったが、1990年には19%前後、2000年には27%前後となり、2020年には45%前後まで増加。現在、全世界で運航している約2.7万機のうち、約半数の機体がリース会社や投資家の保有と言われる。
オリックスが取引する投資家は、国内に150社以上。投資家には、航空機リース事業は「安定収入が得られる」「資産価値が安定的」「機体を売却してキャピタルゲインを得られる」と非常に人気が高い。
現在の航空リース事業の概要について、航空事業グループ長の小野 陽一郎は次のように語る。
小野:現在、オリックスは約70機の航空機を自社で保有し、国内外の航空会社にリースしています。その一方で、投資家が保有し、航空会社にリースしている約150機の管理も行っています。
しかし、航空機の「管理」と言うと、機体のメンテナンスも含まれるのだろうか?
小野:いえ、リース契約の取り決めでは、機体のメンテナンスなどは借り手の航空会社が行います。ただし、航空会社が国際的な安全基準に基づいて機体のメンテナンスをきちんと行っているかどうか、機体の価値が毀損していることがないか管理するのは貸し手の重要な業務になります。
そのほか、航空機リースには、技術的なことをはじめ、法律や会計などの深い専門知識が必要で、航空会社などの関係当事者とさまざまな交渉や調整を行う、私たちのようなプレイヤーが必要であり、投資家のお役に立てる立場にあるのです。
たとえば、リース期間の終了によって貸し手は機体の返還を受けることになりますが、その機体を売るのであれば売り先を探して売買条件の交渉を行う、機体を売却せずに他の航空会社に貸し出すのであれば、あらたな航空会社を探し、リース条件の交渉を行う、そして最終的に機体をデリバリーするといった業務も私たちが引き受けます。これらはオリックスが自社保有機で行っている内容と同一です。
航空機は、投資対象として魅力が大きい一方で、航空産業は、戦争・テロ・自然災害・パンデミックなどの影響を受けやすい。
コロナ禍では、感染拡大防止のために世界中の空港が閉鎖され、航空会社は一斉に運航停止を余儀なくされた。収入を絶たれ、廃業に追い込まれた航空会社も少なくない。しかし、そんな時でも豊富な経験を積んでいるオリックスは頼れる存在。小野は当時をこう振り返る。
小野:今思い返しても大変でした。日中は、リース料が入ってこないといった事情を投資家の皆さまに説明するだけで手一杯。そして夕方からは、朝を迎えた欧州各国の航空会社に連絡をして状況を確認。さらに深夜になるとアメリカ大陸の航空会社から苦境の連絡が来る……といった状況でした。
航空会社の倒産ともなると新聞やニュースでも報道されますから、それよりも先に、われわれの口から投資家の皆さまに状況説明し、各航空会社とどのように交渉をするべきかご提案をしていました。
信頼を得るには時間がかかるが、失うのは一瞬。特に緊急時の対応で、その人、その会社の評価が決まる。小野たちは、そのことをよく理解していた。
小野:いまだに投資家の皆さまから“あの時の対応が一番良かったのはオリックスだった”と言ってもらえることがうれしいですね。私たちは“知っている情報はすべて開示する”と言う従来からの方針を貫き、投資家の皆さまからの信頼を勝ち得ることができました。
40年以上の蓄積を武器にマーケットで強みを発揮
投資家から大きな信頼を集めているオリックスの航空機リース。その強みや特徴にフォーカスするため、まずはその歴史を振り返ってみよう。
オリックスが航空機リース事業に参入したのは1978年。その後の転機は1991年、航空機リースの発祥の地であるアイルランドの首都・ダブリンにORIX Aviationを設立した。
さらに2018年には、世界第3位の航空機リース会社であるアイルランドのAvolon Holdings Limited(以下Avolon)に出資した。Avolonは、航空機メーカーに直接発注し、発注から数年後に完成する新造機のリースを行うビジネスモデルを有しており、Avolonへの経営参画は、オリックスの航空機リース事業におけるバリューチェーンの拡大を実現したものだった。
現在、コロナ禍を経て世界的に旅客需要の回復を果たしたが、サプライチェーンの混乱・人手不足などが影響し、ボーイングやエアバスなどの航空機メーカーの生産は遅れている。こうした状況からも、機体は不足しており、中古市場の重要性は、今後ますます高まると予想される。
このような事業環境の中、オリックスならではの強みとは何なのか。日々、投資家と向き合う水元は、こう話す。
水元:オリックスは国内約60拠点(2025年現在)に支店を有しています。この営業ネットワークを生かして全国の投資家の方々のニーズをすい上げて、具体的な商品を提案する。それをできるのが、オリックスの強みだと言っていただく投資家の方もいらっしゃいます。
また、人材面の多様性も特徴です。航空事業グループの約30名のうち、半数は女性です。平均年齢は30歳ほどで語学に長けた人が多く、外国籍のスタッフも6名います。私自身は2009年にオリックスに入社し、オリックスグループの幅広いサービスを取り扱う法人営業部門を経て、2018年に航空事業グループに配属となりました。優秀な人材が揃っていますので、今後さらに事業拡大をしていくために、より強い組織にしたいですね。中堅社員として、若手の育成にも力を入れていきます。
これに同じくチームを束ねる立場の村山も同調する。
村山:日々、ORIX Avationのスタッフたちと密な連携が取れているのもオリックスの強みだと思います。
歴史を振り返ると、湾岸戦争や同時多発テロ、リーマンショック、コロナ禍といった危機的状況も幾度も経験しましたが、それでも、新規案件の発掘やリース契約の獲得、機体の売却などに奔走したことでノウハウを蓄積してきました。
やはり信頼できるのは有事に強いオリックス
では投資家の目に、オリックスの航空機リースはどう映っているのか。1985年から航空機投資を行っている千島土地株式会社 代表取締役名誉会長 芝川 能一氏に、話を伺った。
――航空機リースへの投資を始められた経緯を教えてください
芝川氏:当社は、大阪市内を中心に土地・建物を所有する不動産会社です。主な収入は地代・家賃で、収支は非常に安定しているものの事業の発展性に乏しいため、新たな資産を持ってキャッシュフローを増やすことを検討していたところ、オリックスの営業担当者から航空機リースへの投資を勧められたのです。
詳しく検討したところ、貸しビルや賃貸マンションなどの建物経営よりも資金の回収期間が圧倒的に短いことがわかりました。地代、家賃以外の新たな収入源に適していると考え、1985年に初めて航空機リース案件に投資することを決定したのです。
以来、千島土地では40年以上にわたり、オリックス以外の案件も含めて延べ64機の航空機リースに投資してきた。その所感について、芝川名誉会長は次のように語る。
芝川氏:まず車でいえば車検のような、国際的な検査基準やルールに基づいて航空会社が機体を管理・運用してくれるので、不動産と比べてとても安心して貸すことができます。運用成績は、コロナ禍で落ち込んだものの、今ではすっかり回復して、航空機リース事業は当社の経営に欠かせないものになっています。
コロナ禍といえば、当時のオリックスの対応には感心しました。パンデミックにより世界中の航空会社が運航停止を余儀なくされた中、当社も各国の航空会社からリース料の支払い延期や値下げをお願いされました。そんな中、オリックスはその情報をいち早く持ってきてくれて、各航空会社との交渉のシナリオを用意してくれたのです。その対応は、明らかにほかの管理会社とは違っていました。有事でも逃げない、信頼できる会社だと感じました。
変わり続けることがオリックスの強さ
航空機リース事業の最前線に立つ3人。世界的な旅客需要を追い風に、新規参入の競合が増加する中であっても目指す目標は高い。最後に、今後の目標や意気込みについて小野に話を聞いた。
小野:新興のリース会社が増えるなど、競争が激しくなってきているのは事実ですが、他社に負けないよう、今後も積極的に機体の新規購入を行って、投資家の皆さまにも数多くの投資機会をご提供していきたい。具体的な目標としては、保有と管理を合わせた機体数を、現在の220機から、2030年度までに500機まで増やすことを掲げています。
多くの航空会社や投資家の皆さまに信頼をいただき、オリックスに依頼いただける体制づくりのためにも、現状のビジネスモデルに甘んじるのではなくて、常に進化を求めていく。変わり続けることがオリックスの強さですから、社会情勢の変化とそれに伴うお客さまのニーズをしっかり捉えて、新たな挑戦を続けていきたいと思います。