
[取材先]株式会社サンシャ(兵庫県)
日本企業の99%を占める中小企業は、日本経済を支える重要な存在です。しかし、近年の休廃業・解散件数は増加傾向にあり、その要因の一つに後継者不足が挙げられています。2024年の全国の後継者不在率は5割以上(※1)と後継者育成や事業承継の準備は、経営者にとって喫緊(きっきん)の課題です。
オリックスは「これまでに培った企業文化を尊重しながら事業を継続・発展させていく」という方針のもと、中小企業の事業承継を支援しています。2024年7月には、兵庫県神戸市の株式会社サンシャ(以下、サンシャ)と資本業務提携。後継者育成と経営基盤強化のため、協業をスタートしています。同社が持つ高度な杭打ち技術をどのように次世代へつなぎ、さらなる成長を目指すのか。サンシャ 代表取締役の濱田 聡一郎氏と、同社に常駐し経営を支援するオリックス 国内事業推進部の松本 良太に話を聞きました。
目次
大型施設の安全を支える「杭打ち工事」のスペシャリスト

──はじめに、御社の事業内容と沿革についてお聞かせください。
濱田氏:私の父が1980年に有限会社 神戸産業車輌を創業し、当初は産業車両の中古販売事業を展開していました。取引先から1台の杭打ち機を引き取ったことが契機となり、基礎工事業に参入。当時はバブル景気で杭打ち事業が急速に拡大していたころで、その後同事業を株式会社サンシャとして分社化しました。
主な事業は、建物の基礎となる「杭」を地面に打ち込むことで構造物を支える「杭打ち工事」です。私たちは、工場であらかじめ作られた「既製杭」を現場に運び込んで打ち込む工法を得意としています。また、地下構造物を作る際に周囲の土砂が崩れるのを防ぐ「山留め工事」や、再開発に伴う「杭の引き抜き工事」も多く手がけています。基礎工事は工程が連続しているため、一社でまとめて発注したいというお客さまのニーズに応え、事業の幅を広げてきました。

──杭打ち工事の事業における御社の強みはどこにあるのでしょうか。
濱田氏:最新式の大型杭打ち機を複数所有し、それらを操作できる熟練の職人が数多く在籍していることです。近年、工場や物流倉庫、データセンターなど建物の大型化によって、より強固な基礎が求められています。地盤が緩い現場では、深さ80メートルほどの杭を打設することもありますが、これはかなり難易度の高い工事です。杭の位置が水平・垂直方向に10cmずれるだけで大きなミスになり、適切な位置へ確実に杭を打てる会社は非常に少ないため、貴重な存在です。
この精度は、機械の性能だけでは実現できません。地中の土質は場所によってまったく異なり、ボーリングデータだけでは読み取れない微妙な変化があります。それを感じ取りながら掘り進め、そのスピードを調整するのは、これまでに3,000件以上もの工事実績を誇る職人たちの経験値のたまもの。長年の経験に裏打ちされた個人の技量と、それを支えるチームワークの良さが私たちの最大の強みです。

50歳で直面した後継者不在の壁。オリックスは一蓮托生で伴走してくれるパートナー

──豊富な実績を重ねてこられた中で、2024年7月にオリックスとの資本業務提携に踏み切られました。どのような背景があったのでしょうか。
濱田氏:私には子どもが3人いますが、それぞれ独立しています。50歳になったころから「引退したら会社はどうなるのか」と真剣に考えるようになりました。社員の生活を守らなければならないし、培ってきた技術をここで絶やすわけにはいかない。それが事業承継を考えはじめたきっかけでした。当初はM&Aの仲介会社に相談していましたが、取引のあったオリックスの担当者に事情を打ち明けたところ、事業承継支援を提案してくれたのです。
──さまざまな選択肢からオリックスをパートナーに選んだ決め手は何だったのでしょうか。
濱田氏:事業承継支援の実績として、ゴルフ場の散水設備の施工・メンテナンスを行う会社にオリックスの社員が常駐し、一緒に事業承継に取り組んだと聞きました。この話から「オリックスなら、承継先を探してきて終わりではなくパートナーとして一蓮托生で課題解決に取り組んでくれる」と感じました。ファンドのように短期的な利益のために売却される心配もなく、雇用や社名を維持しながら中長期的な視点で経営をサポートしてくれる。それが最大の決め手でした。

──オリックスとしては、サンシャをどのような点から評価したのでしょうか。
松本:工場や物流施設の大型化が進む中、建物の基礎を支える杭打ち工事は今後も需要拡大が見込まれます。サンシャは、元請から最優秀協力会社として表彰されるなど施工能力が高く、また、濱田社長の社員のことを家族のように大切に思う人柄により、若く優秀な人材が集まっていることも魅力でした。
また、オリックスは全国で不動産事業を展開し、特に関西圏では空港、ホテル、水族館、劇場やドームの運営もしています。関西圏は、今後も不動産開発が進むと注目されているエリアです。オリックスの知見やネットワークを生かすことで事業成長を支援し、一緒に未来を築いていけると確信しました。
──オリックスとの資本業務提携後、社員の皆さんの反応はいかがでしたか。
濱田氏:提携決定後、全社員を集めて説明しました。伝えたのは、「プロ野球球団で言えば、オーナーが変わるだけで会社はより安定する。監督も選手もユニホームも変わらない」ということです。今では社員に「良い意味で何も変わってないですね」と言われます。
属人的な仕組みを可視化し、技術を次の世代へ

──協業後、具体的にどのような取り組みを進めていますか。
松本:まずは経営管理体制の強化に着手しました。これまで濱田社長がひとりで担っていた意思決定を、定例の取締役会で議論する体制にしました。また、単年度や月次の経営計画を立て、毎月進捗を共有することで、経営状況の可視化を進めています。
そして、もっとも大きな課題であった「人材育成」と「後継者育成」にも取り組んでいます。実際に社員全員と個別面談を行ったところ、中長期的なキャリア形成に不安を感じる声が多く寄せられました。そのため従前、役職が「班長」しかなかったところを、キャリアステップを明確にする複数の役職を新設し、段階的に成長できる体制を構築。さらに各自が目標を設定し、それに対する評価制度も新たに導入しました。
濱田氏:キャリアパスや評価制度など就業規則の見直しによって、特に班長クラスの意識が変わりました。プレーヤーとしてだけでなく、部下をどう育てるかというマネジメント意識が芽生えています。
松本:作業工程を細分化し、チェックリストで可視化する試みもはじめています。例えば、新人が最初に行うセメントプラントの洗浄作業を写真付きのマニュアルにしたところ、誰でも同品質で作業ができるようになり、指導の手間が省けました。これまでは「一人前になるのに3〜5年かかる」とされていましたが、こうした地道な取り組みを重ねることで育成期間を短縮し、より多くの人材を育てられる体制を構築したいと考えています。
ともに描く持続可能な成長への未来図

──今後の成長に向けた計画や、オリックスへの期待についてお聞かせください。
濱田氏:当面の目標は、保有する5台の杭打ち機を常にフル稼働できる体制作りです。これまでは職人が足りず4台しか動かせませんでしたが、人材育成と採用が順調に進み、実現のめどが立っています。
また、全国での仕事にも挑戦したいと考えています。この秋からは熊本での半導体工場の建設工事にも参画する予定です。火山灰層という難しい土地での経験は、職人たちの技術力をさらに高めてくれるはずです。
──最後に、今後の展望と両社でどのような関係を築いていきたいかお聞かせください。
松本:私たちは、持続可能な経営基盤を整える「守り」の部分をサポートするのが役割です。経営の土台を強化することで、濱田社長や社員の皆さまが新たな「攻め」の挑戦に踏み出せるよう、これからも伴走していきたいと考えています。
濱田氏:資本業務提携によって、後継者育成など懸案だった経営課題に着手できました。長年培ってきた企業文化や技術力を確実に継承しながら、オリックスと経営の悩みを分かち合い、さらなる成長を実現したいですね。