
[取材先]シネジック株式会社(宮城県)
脱炭素やコスト削減、デザイン性の向上を背景に、非住宅建築の木造化が進んでいます。その要となるのが、木材をつなぐ「接合金物」です。
1987年、木造建築用ビスの開発・販売を開始したシネジック株式会社(以下、シネジック)は、いち早く「構造用ねじ」に注目し、独自製品を開発。2025年大阪・関西万博のシンボル「大屋根リング」にも採用されるなど、業界をリードしています。製品開発にとどまらず、JIS規格制定を主導するなど、新たな技術を社会に届けるルール作りにも注力しています。こうしたシネジックのフロンティア精神は、どこから生まれているのでしょうか。オリックス 仙台支店の山中 智仁が、苅部 泰輝社長にお話を伺いました。
目次
「これからは日本でもねじの時代が来る」。海外視察での景色が創業の発端に

──シネジックは、創業当初からねじの事業を手がけられていたのでしょうか。
苅部氏:はい。当社は私の父である会長が1987年に創業しました。父はもともと、商社の機械部門に勤務し輸入した釘打ち機を販売していました。その父はアメリカ視察時、建築現場でねじが多用されていることに注目しました。釘の5〜10倍の引き抜き強度を持つねじを見て、「日本でもねじの時代が来る」と確信したそうです。
しかし、当時父が勤めていた会社は、手堅く売れる釘の販売を重視しており、新しいねじ事業には消極的でした。そこで父は自ら日本でねじを普及させるため、独立しました。
──創業当初は、どのようなご苦労があったのでしょうか。
苅部氏:最初の10年は、日本の建築業界に「ねじ」という存在を知ってもらう期間でした。ねじは釘より扱いやすく、強度も高いと訴え、現場の職人に認知が広がりました。
一方、認知が広がるにつれ、汎用品の多くは大手企業に市場を奪われ、厳しい経営環境が続きました。そこで、ニッチではあるものの製品性能が重要となる、主に耐震性を高めるために使用される「構造用ねじ」に注力しました。

──創業時とは、建築業界のトレンドも変わっているように思います。
苅部氏:近年はSDGsなど環境負荷の低減やデザイン性の観点から、世界的に住宅以外にも木造建築が広がっています。一方で、学校や商業施設、オフィスビルといった中・大型の非住宅建築物を木造で作るには、住宅よりはるかに大きな木材が必要です。そのための特注くぎなど従来のやり方ではコストと加工時間がかかります。
ここで力を発揮するのが構造用ねじです。突き付け(※1)でビス留めするだけで強度を確保でき、コスト削減と工期短縮を実現します。また、既製品の金物を使用する場合は、その形状に合わせて木材を加工する必要がありましたが、構造用ねじは木材に直接ねじ込むだけで接合できるため、設計の自由度も高まります。高いデザイン性を持つ万博の大屋根リングで採用されたのは、こうした性能が評価された結果です。

- 2つの部材を接合する際に、加工を施さずに、ただ突き合わせて接合する方法。シネジックの製品であれば、十分な強度を担保できる。
──もともとは海外のねじを参考にして事業を始めたと伺いましたが、日本ならではの強みはあるのでしょうか。
苅部氏:日本は木造建築の歴史が長く、独自の文化や美意識が存在しているので、そこに合致するような品質が必要になります。
例えば、木の繊維の方向が違うと抵抗を受けてねじが曲がってしまうことがあります。海外では繊維の向きを揃える美意識はありません。しかも、ねじが曲がれば打ち直せばよいという発想のため、揃える必要がありません。しかし日本では、繊維の向きは必ずそろえますし、無駄なねじを打つことも良しとされません。1本1本のねじが確実に性能を発揮することが求められるのです。
日本の厳しい要求に応える技術改良が、競争力を高めています。万博に採用されたねじ「パネリードX」には、木の繊維を切り裂きながら真っすぐ進むように先端の形状を改良するなど創意工夫を凝らしています。

狭い市場で競争するのではなく、市場そのものを大きくしたい

──製品開発だけでなく、業界団体の設立や日本産業規格(JIS)の制定も主導されています。これはどのような思いからでしょうか。
苅部氏:ねじが急速に普及した結果、基準となる公的な規格がないまま多種多様な製品が市場にあふれ、設計者や施工者が「どれを選べばいいかわからない」という状況に陥っていました。その結果、ねじを使用する度に性能を確認するテストが必要となり、ねじの普及の妨げになっていました。
木造建築の普及を妨げる恐れがあると感じ、大学の先生やゼネコン各社にもご協力をいただき、業界団体を設立。2023年にJIS制定を実現しました。
──規格制定までの道のりは、やはり大変なものだったのでしょうか。
苅部氏:規格が完成するまでには8年を要しました。最初の3年は、「木質構造用ねじ」の定義についての議論です。専門家や関係者の方々と、木質構造用ねじが満たすべき性能基準についてリサーチと熟考を重ねました。次の3年は、JIS制定実現のために設定した基準の妥当性を確認するため、研究と性能テストを重ねました。最後の2年は、行政との交渉です。研究データを基にメリットを提示し、承認を得るための調整を続けました。
このJIS規格で特徴的なのは、ねじの寸法や形状を規定するのではなく、製品の性能を評価する方法を標準化した点です。これにより、メーカーは自由な発想で開発を続けられますし、ユーザーは客観的な強度に基づいて製品を選べるようになります。
──規格制定によって半ば自社のノウハウを共有することに、ためらいはなかったのでしょうか。
苅部氏:競争力の源泉である技術や知見を標準化することは、短期的にはデメリットです。しかし、狭い市場で競争するよりも、業界全体のルールを整備することで木造建築という市場そのものを大きくし、そのなかで勝ち残っていく道を選びました。これは「ねじを通じて、社会に貢献する」という、シネジックの思想にもつながりますし、われわれの技術と製品への自信の表れとも捉えてもいいかもしれません。今後も構造用ねじの普及と新商品の開発を進めます。
最前線で実感する、木造建築への興味の高まり
「開発と普及の両輪」を掲げるシネジックの思想は、最前線で働く社員にどのように受け継がれているのか。新卒で入社して8年、営業として全国を飛び回る長澤 洸希さんにお話を伺いました。

──現在の業務内容を教えてください。
長澤氏:営業として、大阪から九州・沖縄までのエリアを受け持っています。設計事務所やゼネコン、工務店などを訪問し、課題に合わせた製品のご提案や、接合部の設計に関する技術的なサポートを行っています。
当社には長年蓄積したねじの性能データや接合部のノウハウという強力なバックボーンがあります。だからこそ、設計のさまざまな課題に自信を持ってご提案ができます。私たちの製品は、完成後には見えませんが、歴史的建築物を支えている誇りがあります。

──木造建築への注目の高まりを感じることはありますか。
長澤氏:すごく感じます。これまでは鉄骨やコンクリートを中心に設計されていた方々からも「もっと木造建築の設計に取り組みたい」とご相談いただくケースが非常に増えました。
国の制度の後押しはもちろんですが、木造建築が持つ温かみや癒やしの効果、ウェルビーイングへの貢献といった価値が再認識されているのだと思います。当社の社屋も木をふんだんに使っており、全国から見学に来ていただける強力な営業ツールになっています。

──今後の目標をお聞かせください。
長澤氏:ねじ単体にとどまらず、接合部全体を提案できるソリューション企業へと進化していくことが重要だと感じています。私個人としては、建築業界での知名度はもちろんのこと、一般の方々にもシネジックという会社の面白さや価値を広めたいです。「日本の木造住宅の2棟に1棟、当社の製品が使われている」という事実を、もっと多くの方々に知っていただけたらうれしいですね。
日本の木造文化を世界に広め、木造建築が当たり前になる未来をめざして
再び、苅部社長に話を伺います。

──今後の御社のビジョンをお聞かせください。
苅部氏:これまでは木と木をつなぐ技術を磨いてきましたが、今後は木と鉄、木とコンクリートといった、異素材を組み合わせるハイブリッド構造への挑戦が不可欠です。素材ごとに熱による伸縮率などが違うため、単純なねじでは対応できません。それぞれの素材の性能をより深く理解し、柔軟に対応できる接合技術の開発に取り組んでいます。
グローバル進出も計画しています。現在、木造建築の技術は、ヨーロッパを中心に進んでおり、アジア勢がそれを追いかけるという構図です。私たちには、日本の厳しい基準と美的価値観に応える「無駄がなく、信頼性の高い」技術があります。日本の木造文化そのものを、世界に輸出する気概で挑み、実現していきたいです。
私たちの社名「シネジック」は、「シナジー」「ねじ」「マジック」を組み合わせた造語です。異業種の方々も巻き込みながらさまざまなシナジーを生み出し、マジカルな結果を創出することで、木造建築が当たり前になる未来を実現していきます。
<取材を終えて>
オリックス株式会社 仙台支店 山中 智仁

今回の取材では、シネジックのフロンティア精神の源泉に触れることができ、大変貴重な機会となりました。自社の利益だけでなく、業界ひいては社会全体への貢献を第一と考える、ねじ業界のフロントランナーとしての企業精神に深く感銘を受けた次第です。オリックスグループとしても、シネジックの今後のさらなるご活躍を後押ししたいと考えています。
企業概要※ 公開日時点
| 社名 | シネジック株式会社 |
|---|---|
| 本社所在地 | 宮城県富谷市成田1-5-9 |
| 設立 | 1987年3月 |
| 代表者名 | 代表取締役 苅部 泰輝 |
| 従業員数 | 32名 |
| 事業概要 | 建築用ファスナーの開発、販売、実験 |
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