
近年、多くの外国人観光客が訪れる日本。その数は大阪・関西万博の開催や円安などの要因もあり、2025年9月には過去最速ペースで累計3,000万人(※1)を突破し、その後も伸び続けています。それに伴い航空需要も増加し、国際線の新規路線開設や増便が続いています。
一方、課題となるのが脱炭素化です。2020年10月、日本政府は2050年カーボンニュートラルの実現を宣言し、温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロとする目標を掲げました。空港業界や航空業界も、高まり続ける航空需要への対応と脱炭素化の両立に取り組んでいます。
そうした中、関西エアポート株式会社(以下、関西エアポート)は、独自に「環境ビジョン2050」を掲げ、先進的な環境配慮の取り組みを進めています。同社は、オリックスとフランスの空港運営会社VINCI Airports(ヴァンシ・エアポート)を中核とするコンソーシアムで、関西3空港(関西国際空港、大阪国際空港、神戸空港)を運営。空港運営における脱炭素化の「今」について、技術本部 技術統括部長 池田 憲造と、同部 環境推進グループ マネージャー 大谷 優里に話を聞きました。
目次
環境配慮・地域共生を背景に生まれた空港として、先進的な取り組みに挑む
池田:私たちは空港運営企業として、そして日本の玄関口として責任を果たす観点から積極的に脱炭素化を推進しています。
特に関西国際空港は、住宅地に近接する大阪国際空港(伊丹)で生じた騒音問題を受け、海上に建設され1994年に開港した空港です。関西圏の国際拠点空港を整備するため、環境影響評価を経て、大阪湾沖合約5kmに建設された、世界初の完全人工島による海上空港です。こうした経緯から、地域共生を重視し、環境配慮や地域連携に積極的に取り組んでいます。

池田:具体的には、滑走路、誘導路、駐機場、ターミナルビルなどの各所で、脱炭素化に資する設備の導入を進めています。例えば、ターミナルビルには高効率の空調設備やLED照明を導入。さらに、化石燃料の使用を最小限に抑えるため、空港全体のエネルギー使用量を一元的に管理・分析するBEMS(ビルエネルギー管理システム)も導入しています。

2023年4月には、関西エアポート独自の「環境ビジョン2050」を策定しました。地球規模の環境課題が深刻化する中、地域と共生し発展してきた公共インフラとして今後も責任を果たすために、2050年までの長期的な姿を明確に定めました。

大谷:私たちの最大のミッションは、24時間365日安全安心に空港運営を行うことですから、“省エネ施策により電気が止まってしまった”などの事態があってはなりません。交通インフラとして厳しい制約がある中で、いかに高い目標を実現するか、チャレンジの連続です。

大規模太陽光発電システム「Sora×Solar®」を導入し、脱炭素化へ大きく前進
大谷:大きなターミナルビルを運用する関西国際空港にとって、温室効果ガス排出の大部分は、空調や照明など電気の使用によるものです。50%削減の目標は省エネ化だけでは達成できず、再生可能エネルギーの導入が不可欠でした。

これまでも空港内では未利用地や施設の屋上に、太陽光発電システムが設置されていますが、そこで生み出される再生可能エネルギーの大部分は空港内で活用されるものではありませんでした。そこで新たに空港内での自家消費を目的とし、オンサイト型PPA方式(※2)による大規模太陽光発電システム「Sora×Solar®」を導入。太陽光発電事業者として豊富な実績をもつオリックスグループとの共同事業として、2025年2月に稼働を開始しました。
関西国際空港に設置した太陽光パネル3万9740枚の年間発電量は、合計27.8ギガワット時(GWh)と一般家庭約9000世帯分の年間消費電力に相当します。同時期に大阪国際空港にも960枚の太陽光パネルを新設しました。これにより、関西エアポートグループのCO2年間排出量の約15%に相当する約1万2000トンの削減が見込まれます。国内空港として最大、国内PPA事業としても最大級規模の発電量を有する自家消費型太陽光発電システムとなります。

大谷:空港において前例のない規模のメガソーラーを設置するには、設置場所の選定や工事の進行、オペレーションの変更など、さまざまなハードルがあり、航空機の運航に影響がないよう、関係者と綿密な調整を重ねました。また、電力の需給バランスをとるため、ターミナルビルをはじめ送電先の電力使用量を綿密に予測し、発電設備の規模を調整しました。課題に向き合う中で、オリックスグループが有する太陽光発電の知見に非常に助けられました。
その結果、「2030年までに、関西エアポートグループの温室効果ガス排出量を2016年度比50%削減する」という目標の達成に大きく近づくことができました。
- 発電事業者が需要家(電力使用者)の敷地内に太陽光発電システムを発電事業者の費用により設置し、所有・維持管理をしたうえで、発電設備から発電された電気をその需要家に供給する仕組み
さまざまな取り組みで、地域の環境配慮をけん引
池田:再生可能エネルギー導入に加えて水素エネルギーの利活用も進めています。関西国際空港と大阪国際空港では、空港内にお客さまも利用可能な水素ステーションが設置され、燃料電池車両の動力となる水素が供給されています。さらに関西国際空港では、産業車両用の水素ステーションも整備されており、燃料電池フォークリフトが稼働しています。
将来的には、空港間を燃料電池バスで結びたいと考えています。本格的な普及には時間がかかるかもしれませんが、未来に向け、空港から水素エネルギー利活用の好事例を発信していきたいです。

大谷:また、環境共生の面では、海上空港という特性を生かした関西国際空港の「藻場」の取り組みが注目されています。水深20mの場所を埋めて作られた同空港の護岸は、なだらかな傾斜状につくられており、日光が届く広い浅場となっています。そこにワカメやカジメなどたくさんの海藻が育つ藻場が形成されています。

近年、「ブルーカーボン(※3)」が、CO2の新たな吸収源として注目されています。関西国際空港の藻場によるCO2吸収量を試算したところ、5年間で約103トンに達しました。2022年に「Jブルー クレジット」(※4)の認証・発行を受け、その吸収量が公に認められています。海の豊かさを守りながら脱炭素にも貢献できる取り組みとして、これからも継続して積極的に取り組みたいと考えています。
- 海洋生物の作用によって海に貯留された炭素
- ブルーカーボンを定量化して取引可能なクレジットにしたもの
2030年の環境目標達成に向けて、挑戦は続く

池田:1970年に大阪万博(EXPO'70)が開催された当時、関西にはまだ大阪国際空港しかなく、利用者は年間1000万人ほどでした。2024年度の関西3空港の利用者は約5000万人でしたが、インバウンド需要やビジネス需要などで今後も増加が予想されます。利用者の増加に比例して空港のエネルギー消費や廃棄物も増えるため、2030年の環境目標達成に向けてさらなる挑戦が必要です。
大谷:関西エアポートグループは、設立時から環境負荷低減に向けて積極的にチャレンジしてきました。今後も空港運営の知見と、オリックスグループをはじめさまざまな関係者の知見を融合し、インフラを担う企業としてより魅力ある空港の形を提示していきたいです。