「疲れにくい手袋」で世界をリード。技術と品質を武器にしたショーワグローブの次世代戦略

[取材先]ショーワグローブ株式会社(兵庫県)
本記事は2025年7月時点の情報を基に作成しています。

手袋製造のリーディングカンパニーとして、家庭用・産業用から医療用まで、さまざまな用途に対応する手袋の開発・製造・販売を手掛けるショーワグローブ株式会社。同社は創業以来、「世界中の人の手を守る」という情熱をもって、技術と品質の向上に取り組んできました。設立70周年を迎えた今、日本発グローバル企業として、次なる成長に向けた挑戦を進める同社の未来ビジョンについて、代表取締役社長 星野 達也氏にオリックス 姫路支店 五十嵐 稜が伺いました。

世界初・塩化ビニール製手袋で拓いた手袋市場の新境地

──まずショーワグローブの沿革についてお聞かせください。「手袋」という分野に注目された理由は。

代表取締役社長 星野 達也氏

星野氏:当社の歴史は、終戦直後に始まります。創業者の田中 明雄(あけお)は1945年、終戦を台湾で迎え、故郷の兵庫県に戻ると、自ら事業を起こすことを志しました。その頃、当時としては新素材だった「塩化ビニール」を製品化しようという誘いを、大手化学会社に勤めていた友人から受けたといいます。研究熱心だった田中は、まず万年筆のインクチューブの開発などに取り組み、その後、目を向けたのが手袋でした。

田中は戦地にいた当時、防寒用手袋が粗悪で、厳しい寒さによって凍傷で指を切断した人を見かけることがあったそうです。また戦後の復興期、女性たちが冷たい水で家事をする姿を目にし、手を守りたいという思いを強くしたのです。この思いこそが当社の原点であり、田中は良質な手袋を生み出すことで社会に貢献したいと考えたのでしょう。

手袋の製造に必要な手型は、万年筆のインクチューブに比べはるかに複雑でした。また、それまで使用していた万年筆用の焼成炉では小さく、手袋が収まるサイズの炉も必要になりました。それでも試行錯誤の末、1954年にようやく世界初の塩化ビニール製手袋(厚手)の製品化に至ります。

手袋という分野を選んだことも、着眼点が良いというか、非常に優れた判断だったといえます。戦後の日本社会が再び安定すれば、人口増加に伴い、手袋を必要とする人の数も当然増える。また、復興と共に各種産業が発展すれば、製造や建設などさまざまな用途での手袋の需要が拡大するでしょう。まさに将来性の高い分野にいち早く着目した結果だと考えています。

「疲れにくい手袋」の秘密とは?技術と品質への挑戦

ショーワグローブのものづくりの強みやこだわりについて、開発・製造・品質管理に携わっている研究開発本部 ネクストR&D部 部長の岸原 英敏氏と、研究開発本部 研究開発部 研究開発第2課の澤田 壮太氏にお話を聞きました。

──御社の手袋の特長は、長時間使っても疲れにくいという3次元構造にあるそうですね。詳しくお聞かせください。

研究開発本部 ネクストR&D部 部長 岸原 英敏氏

岸原氏:そもそも当社の強みは、メーカーとして、手型の開発・製造から手袋の製造設備まで、すべて自社で手掛けている点にあります。特に手型については、人の手が最もリラックスした自然な状態に合わせて設計していることが大きな特長です。

製造工程では、3次元データを基に高精度に作り込んだ手型を使って、炉で焼き固めて成形しています。このように手型にこだわって成形工程を行っているのは、おそらく世界でも当社だけです。

手袋を着用して握った際に指先が余ったり手のひらにシワが寄ったりすることがありますが、それを極力防ぎ、フィット感を高めています。手間をかけて作り込んだ3次元データを基にした手型で製造しているのもそのためです。

──製造工程に熟練の高度な技が必要なのはもちろん、高精度な手型づくりにも技術力が求められるのでは。

岸原氏:そうですね。かつては創業者である田中 明雄の勘と経験を頼りに、何度も試行錯誤しながら手型を作成していました。しかし現在では、膨大な手の形状データをもとに、3Dプリンターなどの先端技術も活用しながら作成しています。

当然、手の形は人によって違いますし、国によって好みの差もあります。それらのデータに基づいて生み出している手袋だからこそ、装着している間も手への負担を最小限にすることができ、疲れにくい。それこそが、世界中でご愛用いただいている理由だと自負しています。

──品質面でも、独自の厳しい基準を用いているとお聞きしました。

研究開発本部 研究開発部 研究開発第2課 澤田 壮太氏

澤田氏:はい。例えば作業用手袋の強度については、耐摩耗性や耐切創性(切れにくさ)、耐突刺性(突き刺さりにくさ)といった複数の要素があり、それらを数値的に評価する国際的な規格が設定されています。

当社では、平均値ではなく最も低い値を用い、それが基準値をクリアできなければ製品として販売しないという方針を徹底しています。つまり、たとえ強度に多少のばらつきがあったとしても、当社の製品はすべてが基準値を上回るように管理されているということです。品質に絶対の自信がある製品しか、私たちはお売りしていないのです。

また当社の製造工場は、国内は兵庫県姫路市、香川県坂出市、海外にはマレーシア、ベトナム、ミャンマー、アメリカ、グアテマラにあります。当然、工場ごとに温度や湿度などの環境条件が違います。それぞれの工場で最も安定した製造条件を見極め、テストを重ねながら最適化を図っています。

ものづくりの力を世界へ——カギはマーケティングと展開力

再び、星野社長にお話をお聞きしました。

──星野社長はもともと他の企業で経営者としてのご経験があり、経営大学院で講師も務められているそうですね。

星野氏:はい。私がこの会社の経営に携わるようになったのも、当社の創業家の一員で現在、取締役副社長を務める田中 祐一朗と、経営大学院で出会ったのがきっかけでした。ここまでお話ししてきた通り、当社は手袋の分野で優れた技術力を持っていますが、製品の魅力を広く伝え、ビジネスをスケールさせていくマーケティング力の弱さが課題となっていました。田中の「企業としてもう一段成長し、グローバルで活躍できるものづくり企業を目指したい」との思いを受けて、2023年に私が社長に就任しました。

──就任後、どのような改革に取り組まれたのでしょうか。

星野氏:まず着手したのは、マーケティングの強化です。当社にはそれまでマーケティング本部がなかったので、早速立ち上げました。通常、マーケティングは製品の弱点を補うために行うことが多いですが、当社の場合は逆に製品自体の質は非常に高いので、マーケティングがとてもやりやすいと感じています。

例えば現在、力を入れている製品に「テムレス」という手袋があります。この製品は、水は通さず、内側からの湿気を逃がす透湿防水素材で、同等の機能を持つ他社製品に比べて価格は安い。アウトドア、スポーツ分野でも高い評価を得ており、具体的には、世界的なアルピニストをはじめ、トレッキング用グローブとして多くの登山家に愛用されています。私が社長として当社に来たとき、「なぜこの商品をもっとマーケティングしないの?」と社員たちに最初に言ったほどでした。

テムレスシリーズは現在、売り上げで主力の「グリップ」シリーズを抜きつつあります。当面はこのシリーズへの投資を続け、新しい改良版も今年からどんどん投入していく予定です。

マーケティングではターゲット層の明確化や顧客ニーズの把握が重要ですが、製品自体に魅力がある場合、むしろユーザーから教えてもらうことも多いものです。

実はこのテムレスは、もともとは農業用に開発した手袋でした。それが登山家の間で「使いやすい」と広まり、特に冬山登山でも使われるようになりました。通常、冬山登山で使用される手袋は1万5000円ほどしますが、テムレスは半額以下で販売していたので、世界的な登山家で、七大陸最高峰の最年少登頂記録を更新したこともある山田淳さんからは、「この品質でこの価格は安すぎます!」と怒られました(笑)。今後はこのテムレスをさらに改良し、世界市場への本格展開に向けて取り組んでいきます。

──海外展開についてはどのようにお考えですか。

星野氏:当社はものづくりにはすでに強みがありますので、現在の中期経営計画では、マーケティングを強化するとともに、日米欧アジアでの販売拡大を明記しています。

手袋は世界中で使われる製品ですから、海外展開の推進は極めて自然な流れです。特に「グリップ」シリーズのように、コットン手袋にゴムをコーティングした製品を作る場合、天然ゴムの産地に生産拠点を設けるのが効率的です。

当社の工場はマレーシア、ベトナム、ミャンマー、そして中南米ではグアテマラと、いずれも天然ゴムの産地である北緯15度付近に位置しています。コスト面でも、日本で作るよりもこれらの工場で作る方が優位であるため、アジア等で生産し、それを欧米で販売しています。当社の売上高構成比を見ると、日本は4割程度。半分以上が海外となっています。

売り上げをさらに伸ばすために、まず米国と欧州でのシェア拡大に注力していく方針です。アジア市場も将来性が高いため、現地の日系企業への販売を起点としながら、段階的に展開していきます。

手袋事業の深化と事業多角化の両輪で、持続的成長を目指す

──最後に、今後の目標や展望についてお聞かせください。

星野氏:当面は手袋事業に注力しつつも、持続的な成長を目指す上では新規事業開発にも取り組む必要があります。いつまでも「手袋一本足打法」を続けることはリスクも伴うため、新たな柱を築くべく、新規事業部門を立ち上げました。優秀な開発メンバーと営業メンバーを組ませ、自由な発想で新規事業開発に取り組める環境を整備しています。手袋に限らず、「目」や「足」に関わる事業も含めて、カテゴリーにはこだわらず取り組んでいく方針です。

現状は、外部のセミナーやピッチコンテストに参加しながらアイデアの種を探している段階ですが、いずれ新たな事業構想が生まれると期待しています。もちろん新規事業は「1000の挑戦のうち、3つ成功すれば十分」という厳しい世界です。10年かかっても構わないので、挑戦の積み重ねの中から少しずつ成功をつかんでいってほしい。まだ始まったばかりの挑戦ですが、大いに期待しています。

<取材を終えて>
オリックス 姫路支店 五十嵐 稜

取材を通して、改めて星野社長のマーケティングをはじめとする経営手腕と、実際に開発・製造・品質管理に携わっている研究開発本部の方々の製品に対する熱意を感じることができました。

グローバルに躍進を続けるショーワグローブさまが、これからさらに成長を加速化できるように、オリックスとしてもさまざまな角度から経営をサポートさせていただきたいと思います。

企業概要※ 公開日時点

社名 ショーワグローブ株式会社
本社所在地 兵庫県姫路市砥堀565
設立 1954年10月
代表者名 星野 達也
従業員数 384名
連結従業員数:5,751名
(2024年12月31日現在)
事業概要 家庭用・作業用・産業用各種手袋の製造・販売
クリーンルーム用各種手袋の製造・販売
環境調和型手袋の製造・販売
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