Z世代の採用戦略!中堅・中小企業が優秀な人材を採用するコツ

[監修]産業能率大学経営学部教授 小々馬 敦
本記事は2024年8月時点の情報を基に作成しています。

「Z世代」と呼ばれる世代が社会人となり、採用市場に現れる時代となった。しかし、上の世代とは異なる特徴、価値観を持つZ世代をどのように採用・育成したらよいのか分からず、苦戦する企業も少なくない。

そこで本記事では、若者マーケティング研究の先駆者として、Z世代に関する調査研究を行う産業能率大学経営学部教授 小々馬 敦氏に、Z世代の特徴や、Z世代の採用戦略を立てる際のポイント、育成・マネジメントのコツと注意点について伺った。

産業能率大学経営学部教授 小々馬 敦氏

Z世代の特徴・価値観を象徴する五つのキーワード

――まずはZ世代の定義と、その特徴や価値観について教えてください。

明確な定義はありませんが、1990年代後半から2000年代、おおよそ1997〜2009年生まれの世代をZ世代と呼ぶことが多いです。

上は20代後半、下は10代半ばと年齢に幅があり、当然ながら個人差もあります。そのためZ世代というだけでひとくくりにして決めつけることはできません。とはいえ全体に共通する傾向はあります。

Z世代を象徴するキーワードを挙げるとすれば、まず一つ目は「みんな違って、みんないい」ですね。学校でも家庭でもそのように教えられてきたので、価値観やものの考え方は人それぞれであり、優劣はないとすり込まれています。

そして「みんないい」からこそ、自分だけが妙に目立つような状況には違和感を覚えるのでしょう。横並びの平等意識が強く、競争を好みません。「はみ出したくない」というのが、二つ目のキーワードです。

だからこそ人前で褒められたくない(個人的に褒めてほしい)という声もよく聞きます。恥ずかしい、ねたまれたくない、周囲に申し訳ないといった思いがあるそうです。上の世代からすると、なかなか理解しがたい感覚ではないでしょうか。

三つ目のキーワードは「失敗したくない」です。Z世代はデジタルネイティブと言われるように、幼少期からインターネットが普及している環境に育っています。日々スマートフォンに流れ込む膨大な情報を取捨選択してきた経験から、情報に惑わされて判断を誤ってはいけないという意識が自然と備わったのでしょう。

そのため気になる商品を見つけても、衝動買いをすることはあまりありません。会員制交流サイト(SNS)などを使って慎重に下調べを重ねて、本当に自分に合うものかを確かめてから、ようやく購入に至ります。

Z世代はコスパを重視するとも言われますが、これも好きなものをできるだけ長く使いたいというサステナブル意識の表れなのではと見ています。

そして四つ目のキーワードは「今、この瞬間が大切」。Z世代は、不確実性が高く変化が激しい時代、いわゆるVUCA(Volatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguityの頭文字を取った造語)の時代に生まれ育ちました。そのため「今は我慢してでも頑張ることが未来の幸せにつながる」という考えには懐疑的です。そうではなく「今、この瞬間を楽しむことを積み重ねた先に、幸せな未来があり得る」と感じています。

最後に「人や社会の役に立ちたい」というキーワードも外せません。彼らは幼少期からSDGsという言葉が身近にある世代です。そのためサステナビリティに対する意識や社会貢献意識が高く、もはや常識として身についています。会社選びの際も、当然のごとく「社会貢献できそうかどうか」という観点でふるいにかけます。

中小企業にもチャンスあり!Z世代の就活観をふまえた採用の秘訣(ひけつ)

――Z世代は「働く」ということに対して、どのような考えを持っているのでしょうか?

趣味や家族との時間など、プライベートをとても大切にするのがZ世代です。仕事はあくまでプライベートを充実させるための手段として捉えている人が圧倒的多数でしょう。

また学校のキャリアセンターや先輩からキャリア自律を説かれることも多いため、転職に対する抵抗感は上の世代ほど高くないと言っていいです。いずれ転職する前提で新卒就活に臨むということも少なくありません。

生涯一つの会社に勤め続けること自体はありだと思いつつも、転職して別の会社で働くという選択肢も持っておきたいという意向は、どんどん強くなっているように感じます。

――Z世代を採用する際には、どのような点に注意すべきでしょうか。特に中堅・中小企業は、大手と比べると知名度や社会的信用度において不利な立場にあり、採用難に陥りやすいと言われますが、それでもZ世代の採用を成功させるコツはありますか?

Z世代の多くは、会社の規模や知名度よりも「会社の理念、仕事内容と自分のやりたいことが重なっているか」「どんな人と一緒に働けるか」「社員を大切にしているか」を重視しています。

そのため、会社の公式ウェブサイトを見て、企業理念や経営者、先輩社員のメッセージをしっかりチェックし、共感できたところにエントリーシートを出すというケースが多いです。だからこそ、企業理念などが表面的なものだったりすると、すぐ見切られてしまいますね。

学生からよく聞くのは、面接時に志望理由を聞かれて「公式ウェブサイトに載っていた社長の言葉に感銘を受けました」と答えたら、「そういえばそんなことも書いていたね」というしらけた反応をされることがあるという話です。要するに、企業理念や経営者の言葉が社内に浸透していないのです。その企業はそこで終わりで、すぐに学生間で「あの会社は駄目」という評判が広がります。

ちなみに、だいたいどの企業も人事担当はしっかりしているようです。それだけに、人事ではない社員の様子がイマイチだったときに落胆する学生が多いのです。

これは本当に強調しておきたいのですが、採用の面接官はうかつに選んではいけません。彼、彼女ならばしっかりと会社の考えを伝えてくれると確信できる社員に任せることです。

昨今は、ダイレクトリクルーティング(企業の採用担当者が、自社に合う人材へ直接コンタクトをとってスカウトする採用手法)やリファラル採用(自社の社員から友人や知人などを紹介してもらう手法)といった採用方法も出てきました。そういった手法を取り入れるのも、一定の効果を期待できるでしょう。

また、企業理念のアピールがZ世代に刺さりやすいということは、中堅・中小企業が強みを発揮するチャンスが大いにあるということです。中堅・中小企業やベンチャー企業は、比較的早い段階から経営層が面接の場に現れますが、そこでの会話がZ世代の心をつかむことは珍しくありません。経営層から直接、事業にかける熱い思いを聞いて共感し、それが入社の決め手になったという話もよく聞きます。

――そのほかに、Z世代の採用で注意すべきことはありますか?

Z世代とそれより上の世代とでは、キャリアに関する考え方やイメージが異なる可能性が高いので、注意した方がよさそうです。

例えば、面接中によく出てくるキーワードとして「成長」がありますが、面接官が考える「成長」とZ世代が考える「成長」にはズレがある場合があります。

40、50代の人間にとって成長といえば、山や階段を上るように昇進・昇格をし、垂直に上り詰めていくイメージでした。

一方Z世代は、もっと水平的な変化を成長と捉えがちです。学生時代よりも広範なつながりが手に入り、知識も増え、見えることもできることも増えていく、そういった過程こそが成長だという考えです。

だからこそ、面接中に「弊社のキャリアパスはこうです」と、右肩上がりの階段を描いて説明したとしても、Z世代はピンと来ません。それどころか「その通りにしないといけないのか」と押し付けがましさを感じ、反発を覚えます。

ただ、これはマッチングの問題でもあります。Z世代であっても、出世欲が強く、垂直的なキャリア形成を好む層は必ず一定数います。もともと垂直的なキャリアパス制度を基本としている企業は下手に取り繕わず、自分たちはこういう会社だと提示していった方が、自社にフィットする人材を採用できるでしょう。

Z世代の育成・教育・マネジメントのポイント。離職を防ぐために

――Z世代の育成についても、気をつけるべきポイントを教えてください。またZ世代の離職を防ぐために気をつけるべきことはありますか?

彼らは企業の姿勢や理念に共感したからこそ、入社を選んだ訳です。だからこそ「今自分は、会社の理念に基づいた仕事をしている」と実感させてあげることが、Z世代の育成には効果的です。

小さなプロジェクトや作業の場合はなかなか難しいかもしれません。それでも、その積み重ねが会社の理念実現のために役立っているのだということを、周囲が折に触れて伝えてあげてください。そうすることで、Z世代のモチベーションは高く保たれるはずです。

そもそも、これからの時代は働き方全体がプロジェクト型になっていくと見ています。その中でプロジェクトをベースにした成長やスキルアップをデザインしてあげることが、Z世代の育成においても大切だと思います。

逆にそういった働きかけをしないと、Z世代は離職してしまうという危機感を持った方がいいでしょう。転職には抵抗がない世代ですから、SNSなどで同世代の人間が社会貢献に役立つような仕事をしていることが分かると、自分もそういった企業に移りたくなってしまいます。

Z世代は「人や社会の役に立ちたい」という特徴があるとお伝えしましたが、要は役に立つことで自己肯定感を強く味わいたいのです。それが「今の自分でOK」という自信につながるというわけです。

ポイントはこれが「未来の自分」ではなく「今の自分」であることが重要、ということです。
これも先ほどお伝えしたように、Z世代には「今の自分が幸せでないと、未来の自分が幸せであるはずがない」という意識があるからです。

――そのほかに、Z世代とのコミュニケーションにおいて気をつけた方がいいことはありますか?

Z世代は押し付けを嫌います。こちらが押し付けなどとは夢にも思わないようなことも、Z世代は押し付けと感じる可能性があります。難しいところですが、そういう可能性があると頭に入れておくだけでも、接し方が変わってくるはずです。

彼らを無理に理解しようとしないこともポイントです。Z世代と接すると、なぜそんなことを言うのかと、いら立ちを覚えることもあるでしょう。そんなときは、言動や行動を理解しようと躍起になるのではなく、彼らが育ってきた背景などに目を向けるのです。そうすると、彼らの言動や行動を肯定はできなくても、受容はできるようになります。

例えば、「Z世代はすぐ会社を辞めようとする。根性がない」と感じたとします。そんなとき、Z世代の生まれた時代について考えてみてください。Z世代は生まれてこの方、上り調子の日本を知りません。さらに、多感な時期に東日本大震災、新型コロナ禍といった厳しい体験をしています。そういった背景をふまえると、彼らがあっさりと転職を決めるのは、将来を楽観視できず、終身雇用にも期待していないからかもしれないと想像できるのではないでしょうか。

こういった視点を持つと、こちらの言い方もおのずと変わってきます。そうした姿勢がコミュニケーションを円滑にします。

とはいえ、精神的距離を縮めるのは簡単ではありません。私は2013年から大学の教員をやっていますが、10年たってようやく彼らの感覚が分かってきたように思います。そう考えると、対話の頻度と量も重要です。

また、いきなり完璧なコミュニケーションを目指すと苦しくなります。少しずつベターなコミュニケーションができたらよいという気持ちで臨んでみてください。

最後に、もう一つ。それなりに社会人経験を積むと、どうしても自分の経験則に基づく考えは正しいと考えがちです。しかしこれからの時代は、どうやら若い世代が考えていることの方が正しいのかもしれないという意識を持つことも大切です。

実際にZ世代と触れ合うと、物事を調べるスピード感や判断力、サステナブル意識の高さなどに驚かされ、これからの企業を成長へと導くキーパーソンとなるポテンシャルを感じることも多々あります。

ジェネレーションギャップを感じたとしても、お互いの価値観を否定せず尊重し合い、よりよい未来を共創する仲間として歩んでいけたら理想的ですね。

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