日本経済成長のカギを握る中小・中堅企業。経済産業省とオリックスが取り組む成長支援に迫る

少子高齢化・労働人口の低下による経済・産業活動の縮小は、現代の日本が抱える大きな課題である。そのようななか、日本経済の持続的な成長を実現するカギとして注目されるのが、「地域企業の成長」だ。地域には、今後の成長の伸び代を有する中小〜中堅企業(※)が多く存在し、そうした企業が地域経済を牽引することで、国内経済全体の活性化や、良質な雇用の創出などが期待されている。

経済産業省は、その後押しとなるさまざまな施策を行っている。例えば2017年に開始した「地域未来牽引企業」制度では、地域経済の中心的な担い手になりうる企業を選定し、事業成長を支援している。制度開始より7年が経過し、どのような成果が生まれているのか。また、今、地域企業が抱える課題と解決策はどのようなものがあるのか。

経済産業省で「地域未来牽引企業」制度を担う地域経済産業グループ地域企業高度化推進課の市川 紀幸氏と長谷 駿介氏、全国の地域企業の経営パートナーとして伴走してきたオリックス 法人営業本部副本部長 岩満 孝明に話を聞いた。

(※)中小企業は、「中小企業基本法」でおおよその範囲が定められており、製造業の場合、「従業員300人以下または資本金3億円以下の会社等」を指す。日本企業の99.7%を占め、国内経済において中心的な役割を果たしている。
中堅企業は、「従業員の数が2,000人以下の会社等(中小企業を除く)」を指す。(参考:「成長力が高く地域経済を牽引する中堅企業の成長を促進する政策について(首相官邸)」)中小企業を卒業した企業として、経営の高度化や商圏の拡大・事業の多角化による国内経済への貢献が期待されている。

地域経済を牽引していく力のある企業を支え、経済効果の波及を促す

――まずは、「地域未来牽引企業」制度について、改めて概要を教えてください。

経済産業省 地域経済産業グループ地域企業高度化推進課長(2024年4月取材時点) 市川 紀幸氏。中小企業の事業承継支援、地域行政など、地域支援に関連するさまざまな業務に取り組んできた。

市川:人口減少により地域経済の成長の見通しが立たないなか、地域経済を牽引していく力のある企業を国として支援するために始めた制度です。2017年から選定を行い、現在、約4,700社が選定されています。うち約4,000社が、資本金1億円以下の中小企業です。

選定方法は大きく二つあります。一つは、定量的なデータによるものです。具体的には「従業員数」「営業利益」「利益の伸び率」に加えて、「域外販売額」「域内仕入額」といった指標を重視しています。つまり「域外から仕事を得て域内の企業に発注する、地域経済への波及効果の高い優良企業」を選定しています。

もう一つは、定性的な基準によるものです。“定量的な数値としては表れない地域貢献”をしている企業について、都道府県や市町村・商工団体・金融機関など地域のステークホルダーから推薦を受け、事業内容や経営の手法などの地域経済への貢献度を考慮しています。

――制度開始から約7年がたちました。成果をどのように感じていますか?

市川:一定の効果があったと思います。2022年に地域未来牽引企業に対して中間評価を実施しました。それによると、2017年~2021年までの「売上高」と「従業員数」の伸び率において、全企業の平均を「地域未来牽引企業」の平均がどの年においても上回っていることがわかりました。

――選定された企業には、どのようなメリットがあるのでしょう?

市川:大きく三つあります。

一つ目は、「ブランド価値の向上」です。地域未来牽引企業に選定されると、経済産業大臣名の選定証が発行されます。また、利用申請を受けて地域未来牽引企業のみが使えるロゴマークが配布されます。独自の優れた技術や商品を有している中小企業は多いものの、知名度が高くないのが実情です。そうしたなか、選定企業からは「国に優良企業と認定されたことで会社の信用力が上がった」「採用や人材確保に役立っている」「金融機関から融資を受けやすくなった」といった言葉を多数いただいています。また、従業員の方々からは「地域の中核企業で働いている誇りを持てた」という声があり、モチベーションアップにもつながっていると感じています。

二つ目は、「補助金の獲得機会の拡大」です。選定企業は、経済産業省の補助金等を中心に審査時に加点措置等が得られます。対象は、応募倍率が高めの「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」(通称「ものづくり補助金」)などを含む20ほどの補助制度です。

そして三つ目は、「課題解決のための相談や情報提供を受けられる」こと。選定企業に対しては、支援施策やイベントなどの最新情報をメルマガ等でお届けしています。また、47都道府県に、「地域未来牽引企業」のサポートを担当する経済産業省職員を「地域未来コンシェルジュ」として配置しています。地域未来コンシェルジュは、自ら企業に飛び込んで経営者とさまざまな対話をし、企業の課題の聞き取り、経済産業省の施策に関しての質問対応や情報提供を行っております。また、ビジネスやDX、会計・税務・法務等の専門的な知識が求められる課題に関しては、多彩な専門家とチーム編成を行いサポートすることで課題解決を図っています。

補助金や税制優遇、経営戦略立案など。さまざまな制度で地域企業の自律的な成長を支える

経済産業省 地域経済産業グループ地域企業高度化推進課 課長補佐(2024年4月取材時点)/税理士 長谷 駿介氏。コンサルティング企業でのM&Aや事業承継の担当経験、税理士の知見を生かし、「地域未来牽引企業」制度に関する施策立案、地域企業をサポートする職員の研修などに携わっている。

――「地域未来牽引企業」含め地域企業は、どのような課題を抱えているのでしょうか。また、それに対してどのような支援制度があるのでしょうか。

長谷:やはり「人材不足」は大きな課題です。
解決に向けた支援の一つとして、経済産業省では「中堅・中小企業の賃上げに向けた省力化等の大規模成長投資補助金」という制度を設けています。地域の雇用を支える中堅・中小企業の、10億円以上の大規模な設備投資や拠点設立を補助金で支援する制度です。省力化等による労働生産性の抜本的な向上や事業拡大を促し、持続的な賃上げの実現や優秀な人材の確保へつながる良い循環を生み出すことを目的としています。賃上げに関しては、賃上げ促進税制などでも賃上げに取り組む事業者を支援しています。

また、高い成長意欲を持っているのに、適切な相談相手がおらず、次の道筋が描きにくいという悩みを持っている経営者も多くいらっしゃいます。事業計画の作成・ジョブディスクリプション(人材育成・組織マネジメントの効率化を目的に、業務上必要なスキルや成果を明確化した文書)を描けないという企業も多く見てきました。
そうした企業に向けては、経営戦略に関するワークショップ等のイベントを実施し、次の一手に必要な情報を可視化するお手伝いをしております。
その他にも、令和6年度には「地域の中堅・中核企業の経営力向上支援事業」という取り組みを行い、地域の中堅・中核企業における新事業展開の支援を実施し、地域企業の新たな挑戦への支援を行っていく予定です。

一過性の支援ではなく、中堅・中小企業が中長期視点で自律的に成長できるよう支えていきたいと考えています。

地域の中小企業のさらなる成長には、官民連携が必要

――ここまで、国としての制度やサポートについて伺ってきましたが、民間企業であるオリックスは、地域企業の課題に対しどのような取り組みを行っているのでしょうか?

オリックス株式会社 法人営業本部副本部長 国内営業担当 岩満 孝明。入社以来、さまざまな地域で営業経験を重ね、地域企業の課題の吸い上げと解決に尽力してきた。

岩満:オリックスは今年で創業60周年を迎えましたが、創業以来、一貫して大切にしてきたのが「地域に寄りそう」ことと「全国ネットワーク」です。全国に約50カ所の営業拠点を設け、中小企業を中心に地域企業と丁寧にコミュニケーションを重ねてきました。地域ごとのお客さまの課題に寄り添い、グループの総合力を生かしたソリューション提供を続けています。制度を意識して営業活動を行ってきたわけではないのですが、実はお客さまの多くが「地域未来牽引企業」に選定されています。先ほどのお話でもありましたが、地域企業の多くが人材不足、後継者不足の課題を抱えていると感じており、当社も事業承継やM&A仲介をご提案する機会が増えています。

一般的に、M&A仲介のような企業マッチングは「地域内の企業同士」や「同業同士」、また「東京の企業と地方企業」といったケースが多いのですが、オリックスの強みは各地方都市を網羅し、生きた情報をもとにマッチングができること。全国の支店で情報を共有し、相乗効果を生むベストな引き合わせを実現しています。

他には、「脱炭素」を経営課題に挙げる経営者が増えています。近年は大企業だけではなく、地域の中小企業もGHG(温室効果ガス)のサプライチェーン排出量削減を求められています。国の補助制度などの情報が追いきれず活用できていないお客さまには、脱炭素に資する設備導入の補助金制度を活用するスキームのご提案を行っています。補助金申請の際は、お客さまとの共同申請という形をとることも多く、当社のリソースやノウハウを提供しつつ取り組んでいます。

――「地域未来牽引企業」制度など、地域企業への支援について感じていることはありますか?

岩満:さまざまな支援制度が整備されていますが、残念ながら全ての地域企業が自社に必要な制度を調べ、利用に至るのはハードルが高いと感じています。各企業に必要な情報を届けるラストワンマイルの役割を、当社のような民間企業が果たしていきたいと考えています。

市川:ぜひその役割を担っていただきたいです。金融機関・商工会議所・税理士・中小企業診断士等の支援機関に政策を説明する機会は設けているものの、これだけ状況変化が激しく情報が氾濫する時代では、補助制度だけで中長期的な成長につなげることは難しい。きめ細やかな経営支援をしてきたオリックスのような民間企業が果たす役割は、ますます大きくなると考えています。経営の現場に精通した民間企業との意見交換の機会も増やしていきたいですね。

――今後は、官民それぞれの立場でどのような取り組みをしていきたいと考えていますか。

岩満:世代交代をむかえる地域のお客さまは多いです。創業者から引き継いだ次世代社長が経営のかじとりを行う際、家業を守るという強い思いから大胆な施策が取りにくいという課題があります。企業のポテンシャルを引き出し、積極的に事業拡大や成長につながるサポートを行っていきたいです。

長谷:若い方に「この会社で働きたい」と思ってもらえる企業を増やしていきたいですね。日本経済の発展には、地域経済の活性化が欠かせません。私たちも「地域未来牽引企業」を中心に、多くの求職者が憧れる会社づくりための政策立案に注力していきたいと考えています。

市川:「地域未来牽引企業」制度を通し、多くの中小企業の経営者にお会いしましたが、成長する企業の経営者は「スケールが大きく、地域活性化を大切にしている」という共通点がありました。そういった企業を増やすことが、地域、そして日本経済の成長につながると考えています。中堅・中小企業が成長戦略を描いて、それを実現できるよう官民の連携を強化し、支援をしっかりと行っていきます。

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