「カーボンニュートラル」の現状を解説。2050年までに実現はできるの?

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[監修] 一般社団法人地球温暖化防止全国ネット
本記事は2021年6月時点の情報を元に作成しています。

公開日:2021-8-25
更新日:2023-7-21

2020年10月の臨時国会において、日本政府が2050年までの実現を目指すことを宣言した「カーボンニュートラル」。世界でも、各地で気候変動による気温上昇の影響が起因すると思われる異常気象や、それによる自然災害が多発するなど気候変動対策が急務となる中、世界的な潮流となりつつあるこのカーボンニュートラルについて、その概要と現状、なぜ注目されているのか、そして企業がどのように捉えるべきかを以下で紹介します。

「カーボンニュートラル」とは?

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日本では、主に石炭や石油、天然ガスなどの炭素(C=カーボン)を含む化石燃料の燃焼による発電やガス生成等を通してエネルギーを得ているのが現状です。そのエネルギー生成過程において、炭素(C)が大気中の酸素(O2)と結合し、二酸化炭素(CO2)となって大気中に放出されていきます。このCO2をはじめとした温室効果ガスの増加が気温上昇をもたらし、気候変動の大きな要因となっています。

エネルギー生成等で排出されるCO2をできる限り削減した上で、排出されたCO2を地上の森林や海の植物が吸収することによる炭素固定や、排出されたCO2を回収して地中に埋めたり再利用するといった新技術、排出権取引等で相殺し、実質的に排出量をゼロの状態にすることを「カーボンニュートラル」と言います。

カーボンニュートラルは、CO2の「排出量」から「吸収量」と除去量を差し引き、バランスをとって中立の状態(ニュートラル)にするというところから付けられた名称です。このような状態は、「脱炭素」とも呼ばれ、それを実現した社会を「脱炭素社会」と呼びます。

なお「カーボンオフセット」とは、ある活動によるCO2排出を、別の場所での再エネ活用や森林保全によるCO2排出削減・吸収によって相殺する考え方です。CO2の排出量と吸収量が等しい状態を指す「カーボンニュートラル」のための手段の一つが「カーボンオフセット」であると考えられます。

カーボンニュートラルが注目される背景

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現状、気候変動に伴う災害の大規模化や激甚化がかつてないスピードで進んでおり、対応は国際的な急務となっています。2015年に採択され、翌年に発効したパリ協定や2019年開催の国連気候行動サミットなど、国単位での取り決めが行われる一方、民間セクターでも多くの企業がパリ協定にもとづく独自の基準を設定して事業活動を行う動きも見られます。加えて、気候行動サミットに先駆けて行われたグローバル気候マーチ(Global Climate Strikes)は世界185カ国以上で若者を中心に400万人以上が参加。きっかけは2018年、スウェーデンの女子高生グレタ・トゥーンベリさんが、気候変動への対応を訴えるために学校への登校をストライキしたことでした。

このように世界的規模で拡大の流れを見せる気候変動への対応ですが、「カーボンニュートラル」は単純な気候変動対策ではなく、新たな経済成長と捉える考え方もあります。温室効果ガス排出を実質ゼロにするための技術開発や、産業構造と経済社会を含む社会システムの変革が、企業だけでなく国家全体の成長につながると期待されているからです。

わが国における「カーボンニュートラル」を取り巻く状況としては、2020年10月26日の第203回臨時国会の所信表明演説において、菅義偉内閣総理大臣が「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロ(※)にする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」とその達成目標を宣言。この宣言が日本における「カーボンニュートラル」最大の指針となっています。

※「排出を全体としてゼロ」とは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量から、海や森林などによる吸収量を差し引いた「実質ゼロ」を意味しており、排出そのものをゼロにする訳ではありません。

なお、2021年のCOP26終了時点で、日本を含む150カ国以上が2050年までのカーボンニュートラル実現を表明しており、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)によると2060年までのカーボンニュートラル実現を表明している中国も含めると、全世界のCO2排出量の約3分の2を削減できる計算となります。

カーボンニュートラルを取り巻く現状と動き

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日本は、2050年までのカーボンニュートラル実現を目指していますが、環境省によると、脱炭素社会実現に向けては2030年までが重要であるとされています。環境省は、2030年までに地域ごとに再生可能エネルギーの導入などで脱炭素先行地域(2023年6月現在で全国32都道府県、83市町村の62提案が選定)づくりを進め、それぞれの地域で次々と脱炭素が実現していく「脱炭素ドミノ」を生み出していく、と今後の方向性を示しています。(注1)

そのための具体的な取り組みは、「冷暖房の温度設定の適正化」「クールビズ・ウォームビズ」といった以前からある手段のほか、「再生可能エネルギー由来の電力」への切り替えや「高効率の家電・給湯器」「太陽光パネル」「住宅の断熱化をはじめとした健康省エネ住宅」の導入、「電気自動車(EV)」への乗り換え、「ウェブ会議等、各種オンラインサービス」の活用による移動機会の低減といった、最新技術やIT技術の活用も挙げられています。

また、前項において、カーボンニュートラルは新たな経済成長の機会とも目されていることを紹介しましたが、昨今注目を集めている、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)を考慮した投資「ESG投資」もその表れと言えます。こうした流れからも、国家のみならず企業も、技術や生活スタイルなどのイノベーションを通してカーボンニュートラルに取り組むことが求められ始めています。それらの要求は社会的影響力の強い大企業から求められますが、そうした大企業が取引しているのは数多くの中小企業です。そのため、カーボンニュートラルを取り巻く潮流は中小企業も決して無縁ではありません。

中でも、鉄鋼業、化学工業、窯業・土石製品業、パルプ・紙・紙加工品製造業等の基礎素材産業は、大量の燃料燃焼を伴うため、特にCO2排出量の多い産業分野とされ、製造工程の見直しやエネルギー削減の技術開発が進められています。また、自動車業界や航空業界も先述の電動化ほか、水素エンジン開発、藻類など生物由来の合成燃料開発に乗り出しています。

ただし、化石燃料をカーボンフリーな水素等に転換したりするなどの施策には莫大な費用と時間を要するため、不断の努力が求められることが予想されています。そのため、自社工場の利用エネルギーを再生可能エネルギーにするなど着実な見直しも進められています。

(注1)環境省「脱炭素ポータル」https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/about/#to-approach

企業による事業を通じた取り組み

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日本では、経済産業省が2021年2月に発表した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」に、「経済と環境の好循環をつくっていく産業政策 = グリーン成長戦略」と記載しており、さらに「カーボンニュートラルに向けた投資促進税制・研究開発税制の拡充、事業再構築・再編などに取り組む企業に対する繰越欠損金の控除上限を引き上げる特例の創設を講じ、民間投資を喚起していく」としています。よって税制面での優遇が今後一層図られていくことが予想されます。国内でも現段階では大企業を中心に、独自の基準を設けて取り組みを推進するなど、さまざまな動きが見られ始めています。

取り組みの例としては、先述のEVを含むエコカーへの乗り換えや、スマートモビリティの利用が挙げられます。消費者による乗り換えのみならず、各国の自動車メーカーがガソリン車の製造を縮小する傾向にあったり、配送業者が使用する車両をEVへ切り替えたりなど、大きな流れの一つとなっています。具体的な事例としては、ある鉄道会社が特定の駅において太陽光発電の導入やLED照明採用を通し、年間約36トンのCO2削減を実施。さらには直接的に削減困難な年間約34トンを、CO2排出枠購入で相殺することにより、日本初の「カーボン・ニュートラル・ステーション」を実現しています。

企業としては、環境保全と経済成長の両立によって脱炭素社会を目指す動きの中で、イノベーションの創出が今後ますます加速していくことが期待されます。そうした変化に注目をしつつも、われわれ一人ひとりが製品やサービスを選択する消費者の立場からも、地球環境のためにできることを実践していくことが重要です。社会・技術のイノベーションと個人の意識の変革・行動変容・実践で、脱炭素社会の実現に向けて取り組んでいきましょう。

photo:Getty Images

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