今改めて注目される「静脈産業」とは?リサイクルだけじゃない循環経済の在り方を解説

[監修]一般社団法人循環型経済研究所 石丸亜矢子
本記事は2022年6月時点の情報を元に作成しています

地球温暖化に伴う気候変動、資源の枯渇や食糧の不足予想など、あらゆる問題に対応すべく地球環境の「持続可能性」が世界規模での重要なテーマとして挙げられているのは広く知られるところとなっています。

そんな持続可能性の実現のため、環境への意識と経済活動を両立させる経済モデル「サーキュラーエコノミー(Circular Economy。CEと略される)」が注目を集める中、廃棄物の回収・再資源化を担う「静脈産業」の重要度が増してきています。

サーキュラーエコノミー実現の必要性と求められる背景

サーキュラーエコノミーとは、2015年に欧州委員会が「2030年に向けた成長戦略」の核として「サーキュラーエコノミーパッケージ」を発表したことで知られるようになった概念です。日本におけるサーキュラーエコノミーの定義は、経済産業省および環境省がまとめています。(「循環経済ビジョン2020」経済産業省

サーキュラーエコノミーは日本語で「循環経済」と訳され、製品と資源の価値を可能な限り長く保全・維持し、廃棄物の発生を最小化した経済を意味します。従来の経済モデル「線形経済」が「大量生産・大量消費・大量廃棄」を基本とするのに対し、従来の「3R(削減・Reduce、再利用・Reuse、再生・Recycle)」に加えて、資源投入量・消費量を抑えつつ、ストックを有効活用しながら、サービス化等を通じて新たな価値を生むことを目指します。

サーキュラーエコノミーが生む価値

1.温室効果ガス排出削減や廃棄物の削減による「環境問題の緩和」
2.希少資源の循環利用や代替による「将来予測される資源不足への対応」
3.天然資源の節約や、新たな価値創造、雇用創出による「経済効果の獲得」

サーキュラーエコノミーの実現には、大きく二つの変革が必要

イギリスに拠点を置く、サーキュラーエコノミーを推進する団体であるエレン・マッカーサー財団が定める「サーキュラーエコノミーの3原則」は以下の通りです。

1. 廃棄物と汚染を生み出さないデザイン(設計)を行う
2. 製品と原料を使い続ける
3. 自然システムを再生する

この3原則は「再生可能資源の循環」と「枯渇性資源の循環」の両者を対象としており、それらがサーキュラーエコノミー実現に不可欠な二つの要素であると考えられます。

今注目される「静脈産業」とは

サーキュラーエコノミー実現のために今改めて注目を集めているのが「静脈産業」です。

経済活動を動物の血液循環になぞらえた呼称であり、天然資源を加工して製品などを生産する産業は「動脈産業」と呼ばれます。

これに対して「静脈産業」は、動脈産業が生み出した生活財や消費財のうち、消費され廃棄物となったものを集め、それらの再販売、再加工などを通して、再び社会に流通させる産業を指します。例えばペットボトルを含むプラスチックゴミを粉砕・再加工し、ポリエステル繊維に戻してTシャツを製造し販売する、オフィス機器を回収し、中古品として安価で販売を行うといったことがこれに当たります。

日本国内では早くから廃棄物処理・リサイクルの法制度が整備され、静脈産業の技術開発も進展しています。しかし市場規模的に国内での成長には限界があるばかりか、近年は欧米を中心とした海外から「メジャー」と呼ばれる大手企業がアジア市場に参入しつつあり、国内外での協業が期待される一方で、競争の激化も予想されています。

静脈産業の事例

静脈産業における海外メジャーの代表格が、フランスのヴェオリア・エンバイロメントです。世界最大の水ビジネス企業である「ヴェオリア・ウォーター」を事業部門として持つ同社は、廃棄物処理事業を行うグループ企業「ヴェオリア・エンバイロメンタル・サービス」も設置し、上下水道や廃棄物の収集運搬〜再資源化、最終処分などをヨーロッパや東アジアで展開しています。

環境省「日系静脈産業メジャーの育成・海外展開促進事業」

環境省は平成23年度より「日系静脈産業メジャーの育成・海外展開促進事業」を実施しています。これは「世界規模で環境負荷の低減を実現するとともに、我が国経済の活性化につなげるため、我が国の静脈産業が海外において事業展開することを支援するもの」として、日本国内から海外展開を行える静脈産業の大手プレーヤーを育てることを目標に掲げた事業です。

海外メジャーがアジア市場に参入している背景には、経済成長と人口増加によってアジアでは廃棄物量が急増していることが挙げられます。アジア地域を中心とした経済成長と人口増加に伴い、世界全体の廃棄物の発生量は2050年に2000年の2倍以上になるという予測もあり、廃棄物処理・リサイクルの潜在的市場規模は莫大といえます。また、途上国では廃棄物処理やリサイクルに伴う環境汚染の発生も報告されています。

そこで、この事業を通じて日本の廃棄物処理・リサイクルシステムや技術をアジアに普及させることにより、現地の環境負荷を低減するとともに、我が国経済の活性化も図れるとして期待が寄せられています。

いわゆる「リサイクル」だけではない、静脈産業のさまざまなタイプ

動脈産業が排出した不要物を再利用する「静脈産業」。こうした「循環」について、まず思い浮かぶのは「リサイクル」ではないでしょうか。

もちろんリサイクルも重要なアクションですが、デロイトトーマツコンサルティングが「For Future Generations Vol.2」内で「CEに代表される七つのビジネスモデル」で示している通り、静脈産業にはそれ以外にも多くのビジネスモデルがあります。

「CEに代表される七つのビジネスモデル」

(1)Eco Design:環境と経済性を両立した設計
既存事業の提供価値は変えずに資源の利用を最小化する事で新たな視点で競争力を高めるビジネスモデル

(2)Industrial symbiosis:作業共生
ある事業から出た廃棄物を別の事業の資源として連携・活用する事で価値を生み出すビジネスモデル

(3)Functional economy:製品を使い切る経済モデル
共有や譲渡を通じて既存の製品・資源を無駄なく使いきる事を促進することで新たな対価を得るビジネスモデル

(4)Refurbishment:価値の回復
経年劣化した製品の付加価値を回復・改変しながら長期利用を促すことで新たな対価を得るビジネスモデル

(5)Repair:修理
故障した製品の付加価値を復元しながら長期利用を促すことで新たな対価を得るビジネスモデル

(6)Remanufacturing:廃棄品からの再製造
廃棄物の一部を新たな製品製造の資源として活用する事で競争力を高めるビジネスモデル

(7)Recycling:廃棄物の資源利用
廃棄物を新たな付加価値に変換し資源として活用する事で競争力を高めるビジネスモデル

以上、「For Future Generations Vol.2」より引用

これを見ると、おなじみのリサイクルも、選択肢のうちの一つであることが分かります。なお、近年関心の高まっているCO2排出量取引なども、「廃棄物を新たな付加価値に変換」というリサイクルの特性に当てはまるといえるでしょう。

動脈産業で発生した廃棄物を価値転換させる以外にも、そもそも廃棄とならないよう、製品そのものを「使い切る」という考え方も重要です。

その言葉通り、「Functional economy:製品を使い切る経済モデル」は、製品が使えなくなるまでシェアや譲渡を通して「使い切る」ことを促すための外部サービスで、私たちの生活に身近な各種フリマアプリやネットオークションなどもこれに当たります。

また、「Repair:修理」や「Refurbishment:価値の回復」によって製品の長期利用を促すことも重要です。メーカー整備品(リファービッシュ品)(※1)や、古くなった製品のソフトウエアをアップデートして新たに使用可能にしたものの販売なども該当します。

常に新品のモノへ次々と乗り換えていくのではなく、さまざまな形で工夫して、今あるものを使い続けるという姿勢が必要とされています。また、サーキュラーエコノミー実現の手法をビジネスモデルとして捉える視点も重要です。より多角的にモノの循環を見ることができるようになることが、今後求められていくと考えられます。

(※1)購入後、開封してから日を置かずに返品された製品、販売店到着の時点で包装や筐体(きょうたい)に破損が認められた製品、初期不良によりメーカーに戻された製品などを、新品同様に改めて整備して廉価で販売するもの。

まとめ

以上、サーキュラーエコノミーの実現のため、そして日本の国際競争力確保のため注目を集めている「静脈産業」について解説しました。静脈産業にはリサイクルだけではない多様なビジネスモデルが含まれており、今後さらなる発展が期待されます。

企業だけでなく、消費者の立場であっても、モノの循環に関して広い視点を得ることで、より多くの場面でサーキュラーエコノミーに関与していくことができるようになるはずです。

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