CRE(企業不動産)が競争力のカギ!日本企業に求められる取り組みとその理由を解説

[監修] 一般財団法人日本不動産研究所 資産ソリューション部 企業資産評価室長 福田明俊
本記事は2022年6月時点の情報を元に作成しています。

ICT(情報通信技術)の活用が当たり前のものとなり、さらに2020年以降の社会変化を受けて、現在ではリモートワークを中心とすることでそもそもオフィスを持たない企業も増えています。それでもほとんどの企業が、ビジネスにおいて何かしらの不動産を取り扱っていることでしょう。

世界的に見ても日本企業は多くの不動産を有していると言われています。しかし、その一方でそれら不動産をうまく活用できていないという指摘も……。そんな企業が持つ不動産を活用するために提唱され、注目を集めている概念が「CRE戦略」です。

CREとは

CREとは「Corporate Real Estate」の略で、Corporate(企業)のReal Estate(不動産)として「企業不動産」を指します。企業が事業のために所有・賃貸借している不動産、あるいは低利用・未利用の遊休不動産など、すべてがCREとなります。そこには事務所や店舗、工場はもちろん、福利厚生施設などあらゆる不動産が含まれます。

なお、企業ではなく公共団体等が保有する不動産は「PRE(Public Real Estate)」と呼ばれます。

今注目されている「CRE戦略」

企業経営において不動産戦略を正しく捉え、活用するための考え方として国土交通省は「CRE戦略」を提唱しています。

「CRE戦略」とは

CRE(企業不動産)を経営に活用するための戦略です。経営資源としてのCREを最大限有効活用することで、各企業が競争力を高め、ひいては日本全体の競争力を高めることがその目的の一つとされています。

国土交通省によるCRE戦略を提唱した文書「CRE戦略を実践するためのガイドライン」によると、CRE戦略の特徴として「不動産を単なる財産ではなく企業価値を向上するための経営資源として捉え、所有・売却・賃貸から最適な選択を行うこと」「不動産に係る経営形態の見直しや、必要ならば組織や会社の再編も行う」「ITを最大限活用する」「不動産を局所的に見るのではなく、全社的視点でガバナンスとマネジメントを重視する」という四つが挙げられています。

従来は多くの企業がバラバラな意思決定プロセスで企業不動産に対応し、その価値を有効活用できていませんでした。それに対し「CRE戦略」は、企業の経営戦略の一環として不動産利活用に取り組み、企業価値を最大限高めることを求めます。

「CRE戦略」の必要性と効果

CRE(企業不動産)の活用戦略である「CRE戦略」が提唱され、その実行が求められている理由として「企業価値の向上」と「社会的な要請」の二つが挙げられます。時代の変化に応じて国際的な競争が激化する中、これまであまり有効活用されてこなかった不動産に目が向けられ、その改善が求められているのです。

「CRE戦略」はなぜ必要?

CRE戦略が成功すると、企業にとっては次のようなメリットが期待できます。

(1)資金面でのメリット

CRE戦略の見直しにより、例えば、営業拠点の統廃合やオフィススペースの削減等、不動産に直接かかるコストはもちろん、人件費水準や人事広告費などのコストを削減することが可能です。

また、CREの諸問題で発生するロスを削減することで、生産性の向上による事業収入の増加や、さらにCREの売却収入などによるキャッシュ・イン・フローの増加などが期待できます。また、キャッシュフローの改善や所有不動産価値の上昇から、資金調達力を向上させる可能性も高まるでしょう。

(2)ブランディング上のメリット

CREを適正配置することで、利便性・サービス・品質の向上を行えるほか、コストダウンを通して適正価格での製品やサービスの提供も可能となります。さらに、ランドマーク的な有名不動産の所有や、特定の地域に出店を続けるといったことが可能な場合、企業としてのブランディングにもつながることが期待できます。

(3) 経営プロセスにおけるメリット

CRE戦略の実践においては、企業内部の意思決定プロセスや組織体制を見直すことが求められます。この組織再編を通して、経営の意思決定がより素早く柔軟になる副次効果も期待されます。さらに、不動産はリスク資産でもあるため、CREのオフバランスや関連業務のアウトソーシングによって、リスクの分散・軽減・回避につなげることもできます。

社会的な観点から見たCRE戦略の効果

以上、CRE戦略がもたらす企業にとってのメリットを三つ紹介しましたが、CRE戦略の成功は企業だけでなく社会にもメリットをもたらすと考えられます。

国土の狭い日本において、不動産は貴重な資源です。未利用地や余剰スペースなど、適切に管理・運用されていない不動産を有効活用することは、重要な課題となります。CRE戦略によって企業が再生したり、新規事業が立ち上がったりすることにより、地域の雇用増や個人の所得増につながり、地域経済の活性化も期待できるでしょう。さらに、CRE戦略の普及によって、実需に基づく需要と適正な供給が増え、不動産市場の価格が適正なものとなるともいわれます。

そしてCRE戦略は環境問題にも有効だと期待されます。国土交通省によると、不動産分野(業務部門や住宅部門)におけるCO2排出量は、日本全体のCO2排出量の3分の1を占める(国土交通省「環境価値を重視した不動産市場形成にむけて」)とされています。これに対して求められているのは、省エネルギー対応や太陽光パネル設置、効率的な冷暖房施設導入などが進んだ「環境不動産」です。CRE戦略を通して、その環境価値を求める声が高まることで、環境不動産への長期安定的な資金供給、良質な物件の供給、それらの利用促進が行われ、結果的にCO2排出量削減につながることが期待されています。

CRE戦略は中小企業の事業承継対策となる

CRE戦略が求められるのは大企業だけではありません。中小企業の多くは事業承継を重要な課題として抱えているといわれ、その対策としてCRE戦略は密接な関係にあるともされています。

日本国内の全体企業数の9割を占める中小企業、その多くは親族が経営する同族経営です。基本的に資本と経営とが一致している中小企業において、オーナーの個人資産は企業に取り込まれており、個人と会社とでいかに資産を分割するのかが事業承継の大きな問題となります。

CRE戦略を通して企業不動産を整理することで、その資産を企業所有に移管し、個人に金融資産を残すなどの対策が講じやすくなり、資産の分割を明確化することにつながります。これによってスムーズな承継につながる可能が高まります。

また、現在、事業承継の手段の一つとしてM&Aが選択されるケースもありますが、有効活用できていないCREを多数保有し、それがリスクだとみなされた場合、企業価値を低く見積もられてしまう危険性もあります。あるいは保有CREを正しく把握できていない企業の場合、買収してCREを売却することで利益を得ようとする敵対的M&Aのターゲットとなるリスクも高まってしまうでしょう。

実践のための「CREマネジメントサイクル」

企業を取り巻く環境は日々変化をしています。CRE戦略も一度策定して半永久的にそれに則っていけば良いというものではありません。社内外の状況に合わせて都度アップデートを行っていく必要があります。

定期的な見直しの手法として、「CRE戦略を実践するためのガイドライン」には「CREマネジメントサイクル」が用意されています。プロジェクト管理における一般的な循環モデルとしては「PDCAサイクル」が広く知られていますが、同ガイドライン内「CRE最適化マネジメントの実践」においては「リサーチ」「プランニング」「プラクティス」「レビュー」「アクト」から構成される「CREマネジメントサイクル」が提案されています。以下、どのような流れになっているか概要を紹介します。

リサーチ

一般的なPDCAサイクルとの大きな違いは「リサーチ」の存在です。CREマネジメントを実践するための基盤づくりに当たる重要な要素です。この項目は「CREフレームワークの構築」と「CRE情報の棚卸し」という二つの作業で構成されます。

1.「CREフレームワークの構築」

CREフレームワークとは、CREマネジメントを正しく実践するための具体的なアクションプランと実行体制を指します。CREに係る内部統制を実施することで、人的または物的リスクを明確にして、CRE戦略を実践する上での「ガバナンス」や「マネジメント」を確立することが、フレームワーク構築の目的です。

このフレームワークは対象分野によって「CREマネジメント関連分野」「リスクマネジメント関連分野」「CREマネジメント情報関連分野」の三つに細分化されます。

2.「CRE情報の棚卸し」

CRE情報の棚卸しとは、企業不動産の全体像把握と多角的に分析するための調査を指します。その調査対象として、土地・建物の現況等の「物理的情報」、物件の現況、適用される法令・条例等の「権利的情報」、修繕費等の支出情報、賃貸料等の収入情報等を含む「経済的情報」、各種契約書、設計図、立地(地価・圏域人口動向等)等からなる「運用情報」の、四つの情報が挙げられます。

また、上記の総合的調査以外にも、各企業不動産に係る戦略的位置付けやビジネスニーズの整理・把握もCREマネジメントサイクルの次段階「プランニング」を円滑に進める上で必要となります。

プランニング

リサーチでそろえたCRE関連情報から「ポジショニング分析」「個別不動産分析」「CRE最適化シミュレーション」「CRE最適化施策後の財務影響分析」「CRE最適化施策書の作成及び報告」を行い、経営者層が意思決定を行う際に活用する「CRE最適化施策書(プログラム)」を作成するフェーズが「プランニング」です。

プラクティス

プランニングで作成した「CRE最適化施策書(プログラム)」に基づいた経営者層判断により、「CRE最適施術書(アクションプラン)」を作成し、それを実行するフェーズです。最適化には「継続所有・使用(賃貸/賃借、アウトソースを含む)」「購入」「売却(証券化、セール&リースバックを含む)」の3種類があります。

レビュー

プラクティスで作成して実行した「CRE最適施術書(アクションプラン)」と、その実行情報を以下八つの項目で比較するフェーズです。

(1)継続所有・使用物件のモニタリング
(2)購入価格の予算・実績分析
(3)売却価格の予算・実績分析
(4)ポジショニング分析(事業方針と所有目的からの分析)の結果検証
(5)ポジショニング分析(各象限の分析)の結果検証
(6)個別不動産から見た分析の結果検証
(7)財務影響の結果検証
(8)CRE情報の確認

アクト

レビューで得たモニタリング結果をリサーチにフィードバックし、改善を施しCREマネジメントサイクルを回すフェーズです。

変化への柔軟な対応で企業価値を高める、これからのCRE戦略

以上、CRE戦略の概要からそれが求められる背景、そしてその実行に必要なCREマネジメントサイクルについて解説しました。このように「CRE戦略」とは、CREの扱いについて一貫した戦略と組織体制で臨み、それらを有効活用しようという考え方です。保有したまま遊休状態となっていた不動産の売却、余剰スペースがあったオフィスの見直し、移転など、柔軟な対応を可能とすることで、CRE戦略は企業価値を高める手段の一つとなることでしょう。

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