グリーントランスフォーメーション(GX)って?グローバル規模で進む新たな変革とは

[監修] 一般社団法人循環型経済研究所 石丸亜矢子

本記事は2022年6月時点の情報を元に作成しています

各業界でデジタルトランスフォーメーション(DX)が声高に叫ばれているのはご存じのところだと思います。近年、環境においても新たな変革を示す概念として「グリーントランスフォーメーション(GX)」が注目を集めています。

既存の業務やシステムをデジタル変容するDXに対し、それら既存ビジネスやシステムを環境問題対応のかたちでアップデートする考え方といえるグリーントランスフォーメーションについて、経済産業省が発表した「GXリーグ基本構想」を軸に解説します。

グリーントランスフォーメーション(GX)とは

グリーントランスフォーメーション(GX)について、経済産業省は「GXリーグ基本構想」の中で「2050年カーボンニュートラルや、2030年の国としての温室効果ガス排出削減目標の達成に向けた取り組みを経済の成長の機会と捉え、排出削減と産業競争力の向上の実現に向けて、経済社会システム全体の変革」と説明しています。

つまり、グリーントランスフォーメーション(GX)とは、環境問題への取り組みと経済成長を両立させようという考え方とそれに基づく運動を示しているといえるでしょう。

なお「GXリーグ」は同構想において、「2050年カーボンニュートラル実現と社会変革を見据えて、GXへの挑戦を行い、現在および未来社会における持続的な成長実現を目指す企業が同様の取組を行う企業群や官・学と共に協働する場」として定義されています。

グリーントランスフォーメーション(GX)に関心が集まる背景

世界各地で気候変動に伴う自然災害が多発するなどして、気候変動対策が国際的な急務となっています。そんな状況下において世界共通の目標となりつつあるのが、温室効果ガスであるCO2(二酸化炭素)の排出量を実質的にゼロの状態にする「カーボンニュートラル」です。

グリーントランスフォーメーション(GX)に注目が集まる背景には「カーボンニュートラル」(※1)に向けた運動の高まりがあると考えられています。

(※1)カーボンニュートラルについてのより詳しい解説は、以下をご覧ください。
2050年までに実現? 世界を席巻する「カーボンニュートラル」とは

海外の取り組み事例

ヨーロッパはカーボンニュートラルに向けた先進的な取り組みを行っている地域の一つです。その運動の中心となるのが、2019年に欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会が発表した「欧州グリーンディール」です。その中でEUは「2030年までに温室効果ガスを1990年比で55%削減し、2050年までに気候中立を達成する」「経済成長と資源利用の切り離しを行う」「自然資本を保護、保全、強化し、環境関連のリスクと影響から市民の健康と福祉を保護する」「公正かつ包摂的(just and inclusive)な移行」の四つを主要目標として、今後10年で1兆ユーロ(2022年6月6日現在、1ユーロ=約140円換算で約140兆円)をEU予算と関連機関の予算から捻出して再生可能エネルギーへの投資などを行う予定となっています。

同時にアメリカもカーボンニュートラルへの取り組みを掲げています。トランプ前大統領の時代においては、地球温暖化対策の国際的枠組である「パリ協定」から離脱するなど経済重視の姿勢が続いていましたが、現在のバイデン大統領は選挙戦の時点でクリーンエネルギー経済を実現するための投資計画を政策テーマの一つとして挙げていました。そして実際、大統領就任後の2021年11月には環境問題対策を含むインフラ投資法案(HR 3684)に署名しました。選挙戦時点で掲げていた目標「2035年までにCO2を排出しない電力業界の実現」への期待も高まっています。

日本でも取り組みを推進

日本においては2020年10月の臨時国会で、菅義偉内閣総理大臣(当時)がカーボンニュートラルの2050年までの実現を目指すことを宣言。それに伴い、経済産業省はカーボンニュートラル実現への挑戦を「経済と環境の好循環」につなげるための産業政策「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定しました。この中では、14の重要分野を選出し、それぞれに高い目標が掲げられています。また、予算、税、金融、規制改革・標準化、国際連携などを含む、あらゆる政策を盛り込んだ実行計画として策定されているのがその特徴です。

グリーントランスフォーメーション(GX)は世界的な潮流

以上のように、カーボンニュートラル実現に向けた運動と経済成長を両立させようとする取り組みは、日本国内のみならず世界各国で実行され始めています。また、多国籍企業が活躍し、そのサプライチェーンも国家間をまたぐ現代において、その影響は地球規模のものとなりつつあり、グリーントランスフォーメーション(GX)は幅広い産業に変革を求めています。

グリーントランスフォーメーション(GX)が期待される領域

日本政府が発表した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」においては、グリーントランスフォーメーション(GX)の重要分野として以下14分野が挙げられています。

洋上風力・太陽光・地熱産業

海上で行う風車による発電が「洋上風力発電」です。欧州を中心に導入が拡大している発電方式です。日本は欧州と比べ、気象・海象条件が異なるため、これまで普及していませんでした。しかし、日本は四方を海に囲まれた国であることから、その活用への高い期待があります。

これに対し、政府はインフラの計画的整備、産業界として目標設定したうえでの競争力を備えたサプライチェーン形成、導入目標を明示しての国内外の投資呼び込み、規制改革、要素技術開発などを進め、洋上風力発電の導入を促進する目標を立てています。

屋根へのソーラーパネル設置など、すでに私たちの生活にもなじみある「太陽光発電」においても新しい動きが始まっています。政府は2030年の普及段階移行をめどに、次世代型太陽光電池の研究開発を重点化しています。

そして地下のマグマの熱エネルギーを活用した発電方法が「地熱発電」です。日本は世界有数の地熱資源国でありながら、これまで原子力などと比較した場合の経済効率性や、国立公園内の発電所建設が困難であるなどの理由でその利用が進んでいませんでした。しかし、政府はグリーントランスフォーメーション(GX)に際して、次世代型地熱発電技術の開発推進や、これまで法的な問題で活用できていなかった国立公園や国定公園を利用するための「自然公園法」や「温泉法」の運用見直しを進めることを発表しています。

水素・燃料アンモニア産業

次世代エネルギーの代表格ともいえるのが「水素」です。さまざまな資源からつくることができ、エネルギーとして利用してもCO2を排出しない性質から注目を集め、燃料電池自動車がすでに商用化されています。

また「アンモニア」はこれまで広く肥料として使われてきましたが、近年では燃料としての利用に注目が集まっています。水素分子を含む物質として、大量輸送が難しい水素の輸送媒体として期待されているほか、水素と同様、燃焼してもCO2を排出しない物質でもあるため、直接エネルギー源とするための技術開発も進められています。さらに既存の石炭火力発電に混ぜて燃やす(混焼)ことでも、CO2の排出量を抑えることが可能です。

これら水素とアンモニアについて、政府は輸送・貯蔵技術の早期商用化などを目標として掲げています。

次世代熱エネルギー産業

政府はグリーン成長戦略の中で「2050年に都市ガスをカーボンニュートラル化する」ことを次世代熱エネルギー産業における主な取り組みとして掲げています。これを実現するための方法が、都市ガスの原料を現在の天然ガスからCO2と水素から合成したメタンに置き換える「メタネーション」です。2050年には都市ガスの90%を合成メタンに置き換える目標となっており、日本ガス協会はこれについて年間約8000万トンのCO2削減効果があると試算しています。これは、日本全体のCO2排出量の1割弱に相当します。

原子力産業

福島原発の事故以来、日本の原子力発電所は、新しく策定された厳しい規制基準に基づいて運用されています。「安定供給を確保できる」「低廉な電源である」「温室効果ガスの排出を抑制できる」という三つの特徴から、カーボンニュートラル実現に向けては、原子力を含めたあらゆる選択肢を追求することが重要とされており、今後は高速炉開発の着実な推進、小型モジュール炉技術を2030年までに国際連携によって実証すること、2030年までの高温ガス炉における水素製造に係る要素技術の確立が目標として掲げられています。

自動車・蓄電池産業

電気モーターを動力源とする電気自動車(EV)は、化石燃料を使わないため温暖化対策のほかエネルギー問題の解決法の一つとして期待されています。また、EVは大容量の蓄電池を搭載しているため、移動手段のみならず家庭用、業務・産業用蓄電池として、次世代電力網の構成要素としても注目を集めています。

政府は2035年までに乗用車の新車販売における電動車100%実現を目指しているほか、蓄電池についてもその製造能力や累積導入量に目標を設定しています。

半導体・情報通信産業

カーボンニュートラルは、製造・サービス・輸送・インフラなどあらゆる分野で電化・デジタル化が進んだ社会によって実現されるため、半導体・情報通信産業はカギとなる産業と位置付けられています。デジタル化によるエネルギー需要の効率化・省CO2化の促進(「グリーン by デジタル」)と、デジタル機器・情報通信産業自身の省エネ・グリーン化(「グリーン of デジタル」)の二つのアプローチで取り組みが進められています。

「グリーン by デジタル」の分野では、都市部・地方を問わないDXの推進や、グリーンなデータセンターの国内立地推進、次世代情報通信インフラ整備を進めることが掲げられています。

「グリーン of デジタル」の分野では、情報処理に不可欠なメモリなどの半導体、データセンター、情報通信インフラの省エネ化・省CO2化・高性能化が掲げられています。

また今後さらに増加が予想されるデータセンターにおいても、電気配線を光配線に置き換える光電融合技術によって省エネ化・大容量化・低遅延化が進むことで、ネットワークシステム全体で電力消費が 1/100 になるともいわれています。

船舶産業

造船業および舶用工業を含む船舶産業においては、水素燃料電池システムやバッテリー推進システム、水素・アンモニア燃料エンジンなどを活用したCO2を排出しないゼロエミッション船の実用化に向けた技術開発が推進されています。目標としては、2025年までにゼロエミッション船の実証事業を開始し、 従来目標である2028年よりも前倒しで商業運航を実現することが設定されています。

物流・人流・土木インフラ産業

これらの産業でもカーボンニュートラルに向けたさまざまな施策が推進されています。具体的にはドローン物流の本格的な実用化・商用化、高速道路利用時のインセンティブ付与による電動車の普及促進、空港の脱炭素化や航空交通システムの高度化などがあり、「カーボンニュートラルポート形成計画 (仮称)」を策定した港湾が2025年には全国で20港以上となることも目標とされています。

食料・農林水産業

食料・農林水産業もCO2を排出するため、グリーントランスフォーメーション(GX)の対象となります。食料においては2040年までに次世代有機農業に関する技術を確立し、2050年までに耕地面積に占める有機農業の取組面積の割合を25%(100万ha)に拡大すること、また、2050年までに化石燃料を使用しない園芸施設への完全移行が目標とされています。農林水産業においても、2040年までに農林業機械・漁船の電化・水素化等の技術確立を、2050年までに農林水産業のCO2ゼロエミッション化の実現を目標としています。

航空機産業

移動手段の中でも特にCO2排出量が大きいと言われる航空機。ここにもグリーントランスフォーメーション(GX)の可能性があります。航空機の電動化技術確立に向けたコア技術の研究開発を推進するほか、水素燃料を活用した水素航空機の実現に向けても取り組むことが宣言されています。

カーボンリサイクル産業

CO2を炭素資源と捉え、多様な炭素化合物として再利用するのが「カーボンリサイクル」です。このリサイクルが実現することで、大気中に放出されるCO2が削減され、さらに新たな資源の安定供給にもつながると期待されています。

2050年に向けて化石燃料の利用に伴うCO2の排出を大幅に削減していくためには、あらゆる技術的な選択肢を追求していく必要があります。CO2の分離・回収や利用に係る技術は、将来、有望な選択肢の一つであり、そのイノベーションが重要です。その一環として、光触媒を用いて太陽光で水から水素を分離し、水素とCO2を組み合わせてプラスチック原料を製造する「人工光合成」についての研究も進められています。

住宅・建築物・次世代電力マネジメント産業

政府は住宅・建築物についても「省エネ基準適合率の向上に向けてさらなる規制的措置の導入を検討する」と宣言しています。住宅を含む省エネ基準の適合義務付けを強化するほか、既存の住宅・建築物についても省エネリフォームの拡大を推進。さらに非住宅・中高層建築物の木造化を促進するとされています。

また、電力マネジメントに関してもデジタルを活用したグリーントランスフォーメーション(GX)が進められています。EVや蓄電池と太陽光などの再生可能エネルギーを組み合わせ、IoTとデジタル技術で管理・運用する分散型エネルギーを活用した電力マネジメントも、グリーントランスフォーメーション(GX)への貢献が期待されている取り組みの一つです。

資源循環関連産業

廃棄物を回収し再資源化などを通じて資源を循環させることから「静脈産業」とも呼ばれる資源循環関連産業においては、従来の技術の高度化、新技術の開発、設備の整備、低コスト化、需要創出等の工夫の実現を目標とするほか、2030年までに、温室効果ガス排出抑制や枯渇性資源の使用削減に貢献するバイオプラスチックを約200万トン導入することを目指しています。

ライフスタイル関連産業

2050年までに、カーボンニュートラルでありながら、レジリエントで快適なくらしを実現するためには、国民一人一人がエコで快適なライフスタイル実現に向けて取り組む必要があります。地球規模から市町村単位まで温室効果ガスを高精度で推定するシステムの構築や、省エネ機器の導入や再エネの活用に応じて付与される「Jークレジット」の整備、大学間および産学官の連携強化などの取り組みがこれに含まれます。

グリーントランスフォーメーション(GX)はなぜ必要か

カーボンニュートラル実現に向けた取り組みを経済成長のチャンスと捉えるグリーントランスフォーメーション(GX)は、それ自体が技術革新を伴う経済成長であり、企業としては自然な経済活動になると考えられます。一方で、これからの世界において、そうした取り組みを推進しないことは、企業にとって競争力の低下につながるばかりか、株主や顧客、従業員、地域などから選ばれなくなることで、将来的には企業の持続性を損なう直接的なリスクとなる可能性もあります。

温暖化による経済損失

環境問題は経済にとって大きな損害を与えるリスクです。世界気象機関(WMO)によると、1970年から2019年までの50年間で気象災害の数は5倍に増加し、その経済的損失は3兆6400億ドル((2022年6月6日現在、1ドル=約130円換算で約473兆円)にのぼるとされています。

温暖化は、異常気象による激しい降雨や洪水、サイクロン、ハリケーン、台風などによる家屋やコミュニティの破壊、森林火災の増加などにより、莫大な経済損失をもたらします。さらに気候変動は、自然災害を増加させるのみならず、生態系にも影響を与えて食料危機を引き起こすともいわれています。これにより、気候変動への対策を講じなければ、今後さらに大きな経済損失を世界中にもたらすことが予想されます。

企業の資金調達への影響

カーボンニュートラルおよびグリーントランスフォーメーション(GX)は、各国政府が主導する強大な運動となりつつあります。こうした状況を踏まえ、投資の世界においても「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」の3要素を考慮したESG投資が盛んになっています。

ESG投資の広がりは、環境問題や社会問題に積極的に取り組む企業への投資が促進されるのみならず、ESGに取り組まない企業は投資家から忌避されることをも意味しています。また、こうした流れを受け、金融機関も取引先企業への融資判断において、非財務情報を含むESG評価を取り入れるようになっています。

さらに金融機関を監視する環境保護グループである「ポートフォリオ・アース」は、環境問題に配慮せずプラスチック汚染に加担しているとする企業への融資を行う金融機関を批判しています。このような批判を避けるために、金融機関がESGに反する企業への融資を控えようとする可能性も考えられます。

このように、グリーントランスフォーメーション(GX)やESGに取り組まない企業は今後、投資や融資を受けにくくなっていくことも予想され、長期的に資金調達が困難になる可能性も想定されます。

グローバル・サプライチェーンから外されるリスク

EUは2021年7月、気候・エネルギー関連法を改正する、温室効果ガス55%削減目標達成のための政策パッケージ「Fit for 55」を公表。その中には、カーボンリーケージ(排出制限が緩やかな国への産業の流出)を防止するため、鉄鋼、セメント、アルミニウム、肥料、電力の5分野において、EU外で製造した製品輸入に対し「同等品をEU域内で製造した際にEUが求める炭素価格」に応じた支払いを義務付ける「炭素国境調整メカニズム」が含まれていました。

これは今のところ日本の産業にとって大きなインパクトを与えるものではないと目されていますが、EUをはじめとする諸外国において、今後カーボンニュートラルに向けたさらなる規制がかけられることも予想されています。その中にはサプライチェーンに対しても求められる規制が出てくるものと見られ、一定の環境基準に満たない企業はその取引から外されてしまうリスクもあると考えられます。

グリーントランスフォーメーション(GX)、今後の展望

気象災害増加を含む環境問題の逼迫(ひっぱく)に応じてカーボンニュートラル実現は世界的な急務となっており、各国が高い目標を掲げています。カーボンニュートラル実現に向けてはさまざまな課題があり、困難な道のりとなりますが、これを実現すれば人類はより安定した持続可能性の下で経済活動に取り組むことができると予想されています。

本記事で紹介した取り組みのほかにも、国内外ではさまざまな取り組みがなされています。そうした動きに目を向けながら、政府、企業、個人、それぞれのレベルで、これからの世界を改めて考えることが重要です。

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