オリックスのホテル・旅館運営事業が見据える「ポスト2020」の宿泊

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オリックスが、実はホテルや旅館の運営を行っているのをご存知だろうか。2002年に手がけた老舗旅館「別府 杉乃井ホテル」の再生事業を皮切りに、現在では全国でさまざまなスタイルのホテルや旅館を運営している。

2017年8月には、オリックスとして初となる新築旅館「箱根・芦ノ湖 はなをり」を開業。2019年1月には、全23施設の運営施設のうち他の事業者に運営を委託している施設を除く13施設を対象に、新ブランド「ORIX HOTELS & RESORTS」を立ち上げるなど、新たなチャレンジを続けるオリックス。金融からスタートしたオリックスが、なぜ宿泊施設の運営事業で強みを発揮できるのか。オリックス不動産株式会社 取締役副社長の似内隆晃氏が語る。

地元に愛される施設になってはじめて、スタート地点に立てる

2000年代前半からホテルや旅館の再生事業に取り組み、現在は自ら運営を手掛けるオリックス。

歴史ある温泉旅館から、訪日外国人が8割以上を占めるライフスタイルホテル、エンターテインメント性を追求した温泉リゾートなど、あらゆる旅の目的に対応できる宿泊施設の幅広さが武器だ。

オリックスが宿泊施設の運営事業に本格的に参入したのは、2002年に杉乃井ホテル(現:別府 杉乃井ホテル)を取得したことが始まりだった。当時、杉乃井ホテルは、不況による観光客の減少などの要因から経営状況が悪化し、民事再生法の適用を申請していた。

では、金融からスタートしたオリックスが、なぜ宿泊施設の運営へとビジネス領域を広げたのか。オリックス不動産株式会社 取締役副社長の似内隆晃氏は、次のように語る。

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「当初は旅館の再生事業として取り組んでいました。インフラの修繕をはじめとした積極的な新規投資を行い、オペレーションを効率化することで企業価値を高め、数年後には他の運営事業者に経営を譲渡することを想定していたのです。

金融からスタートしたオリックスは、財務諸表から課題を読み取るという、いわば経営の『健康診断』が得意です。このノウハウを生かし、杉乃井ホテルを財務面や営業面から立て直すことにしました。

一方で、当時のオリックスにはホテルの運営ノウハウがそれほどありませんでしたので、運営は外部のオペレーターに委託していました」(似内氏)

しかし、初期投資から5年が経過し、順調に回復していた集客の力強さに一服感が見え始めてきた。さらに、円高ウォン安の影響もあり、韓国からの利用客が減少するなど、マーケットは低迷した。

オリックスはそれまで送客の大半をエージェントに委ねていたが、マーケティング戦略の抜本的な見直しを目的として、2008年8月に杉乃井ホテルを直営体制に切り替えるという大きな決断をする。

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「杉乃井ホテルは、従前からの低価格路線を続け、旅行代理店経由でお申し込みいただいたインバウンドのお客さまに多く利用されていました。

果たして、その販売手法でよいのか。海外からのお客さまだけでなく、日本国内、特に地元にお住まいのお客さまにご家族で何度も来ていただける宿泊施設にしたい。

そんな思いから、お客さまが直接杉乃井ホテルに予約を入れてくださるようなホテルへと、マーケティング戦略を見直すことにしました」(似内氏)

インバウンドのみに期待するのではなく、地元のお客さまに愛されるホテルへ。九州全域、中国地方を主なターゲティングエリアに定め、テレビCMの放映やDMの送付など、直接お客さまにアプローチするためのプロモーションを開始した。

事業再生成功を足がかりに、新築旅館をオープン

親子三世代など、家族全員で何度も楽しめる宿泊施設を目指し、同時にハード面の投資にも注力した。

たとえば、いまや杉乃井ホテルの代名詞ともいえる“棚湯”は、5段からなる湯船を棚田状に広げた大展望露天風呂だ。温泉を楽しむお客さま全員が別府湾を一望、独占できるような設計にこだわった。

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杉乃井ホテルの代名詞ともいえる“棚湯"。別府湾を一望できる。

ほかにも、家族そろって楽しめるビュッフェ形式のレストラン、お子様やカップルなどが一緒に楽しめる屋外型温泉「ザ アクアガーデン」や、夏季限定のプール「アクアビート」など、さまざまなアクティビティ施設をオープン。

結果、高いリピート率に支えられ、杉乃井ホテルは年間を通して日々満室に近い客室稼働率を誇る、地域を代表する温泉リゾートに生まれ変わったのだ。

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ワールドダイニング「シーダパレス」では、家族揃ってビュッフェ形式の食事が楽しめる。

「2012年には別府湾をパノラマビューで眺めることができるチャペルをつくるなど、ウエディング事業にも注力しています。

杉乃井ホテルで結婚式を挙げたカップルは、年間平均500組、6年間で約3000組にのぼります。70年以上の歴史あるホテルですので、『お母さんも杉乃井ホテルで結婚式を挙げた』という方も。

運営面でのノウハウがない状態でスタートした宿泊施設の運営事業ですが、試行錯誤しながらも、数年かけて自分たちなりの『軸』を見つけることができました」(似内氏)

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別府湾をパノラマビューで眺めることができる、杉乃井ホテルのチャペル。

「杉乃井ホテル」などのようにオリックスが運営を手掛けるホテルや旅館もあれば、「ヒルトン沖縄北谷リゾート」のように、オリックスが開発し、運営は外部に委託しているケースもある。

「外資系ホテルには、日系のホテル・旅館にはない視点が多い」と似内氏。

外資系ホテルの財務やマーケティングなどに触れ、視野が広がれば、直営する宿泊施設にもその知見が生きてくる。オリックスは、さまざまな形態で運営事業に携わってきたからこそ、幅広い知見を蓄積することができたのだ。

こうして運営事業のノウハウを蓄積してきたオリックスが2017年8月にオープンしたのが、同社として初の新築旅館「箱根・芦ノ湖 はなをり」だ。

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正面玄関の扉を開くと、視界に飛び込んでくるのは「はなをり」自慢の水盤テラス。

「再生を手がけられる物件はそう多くはありませんし、歴史のある施設は一方で維持管理のコストもかかります。チャンスがあれば、新築旅館の運営に挑戦したいと考えていた矢先に、芦ノ湖にこれ以上ない好立地が見つかったのです。

四季折々の自然の恵みを楽しめるビュッフェレストランや芦ノ湖を眺める棚湯など、これまで各地で宿泊施設の運営を手掛ける中で培ったノウハウを結集しました」(似内氏)

「ORIX HOTELS & RESORTS」が目指す2020年代の宿泊ビジネス

2019年1月には、オリックスが運営する宿泊施設の中から13施設を集約した事業ブランド「ORIX HOTELS & RESORTS」を立ち上げた。「ORIX HOTELS & RESORTS」の運営施設は、温泉旅館、ライフスタイルホテル、リゾートなど多岐にわたる。

家族旅行や一人旅、出張など、さまざまな旅の目的に対応できる個性豊かなラインアップは、日本各地の老舗旅館の再生を起点に運営事業に参入した、オリックスならではの強みだ。

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2019年3月にリニューアルオープンする、「黒部・宇奈月温泉 やまのは」。露天風呂が魅力の絶景宿だ。

「たとえば『杉乃井ホテル』は九州や中国地方では有名ですが、北海道や東京の方にはほとんど知られていません。

事業ブランドを立ち上げる前は、それぞれの宿泊施設は地域のお客様にご支持いただけているものの、『オリックスの運営施設として相乗効果を生みながら日本全国でプロモーションを行う』ことはできていませんでした。

これからは『ORIX HOTELS & RESORTS』というブランドにまとめてご紹介することで、より全国で知っていただく機会を増やせるのではないかと考えています。

そして、それぞれの宿泊施設の個性を生かしながら、さまざまな利用シーンに応じた旅のご提案ができるブランドを目指していきます」(似内氏)

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京都・河原町三条という好立地に建つ「クロスホテル京都」。

2020年の東京五輪を控え、ホテルや旅館の建設ラッシュが続く昨今。2021年以降のインバウンドや景気の落ち込みを不安視する声もあるが、五輪が日本の魅力を世界に伝える絶好のチャンスなのはたしかだ。

政府は「訪日外国人を2020年には4000万人、30年には6000万人にする」という目標を掲げているが、今後の日本の宿泊ビジネスはどのような動きをみせていくのだろうか。

「運営事業を手掛ける中で、外資系ホテルチェーンのマネジメント層と意見交換をする機会がありますが、欧米ではまだまだ日本文化の良さが知られていないという声を耳にします。

五輪を機に日本文化を世界に発信し、初めて日本を訪れた方に気持ちのいいサービスを提供できれば、より多くの方に『日本を訪れてみたい』と思っていただけるのではないでしょうか。

こうした動向を注視しながら、今後も『はなをり』のような新築旅館に力を入れていきますし、これまでオリックスが手掛けてこなかったようなハイグレードの旅館などの新たな分野にも挑戦していきたいです。

ただ数を増やすのではなく、これまでのノウハウを着実に形にするためにも、一つひとつ丁寧に作り上げていくつもりです」(似内氏)

(執筆:田中瑠子 編集:大高志帆 撮影:加藤ゆき デザイン:田中貴美恵)

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