
[取材先]株式会社カクダイ(大阪府)
本記事は2026年2月時点の情報を基に作成しています。
株式会社カクダイは、1879年の創業以来、水回りの製品・部材を手掛けてきた水道用品メーカーです。「笑える蛇口」に象徴される発想力と技術力を強みに、単水栓の分野では国内トップシェアを確立しています。
リーマンショック前後に市場競争が激化し、苦境に陥った時期もありましたが、大手と競わず、「他社がやらない」領域へ経営資源を集中させる道を選択。結果として売り上げ規模は約1.5倍に伸長しました。
そんな唯一無二の成長戦略と今後の展望について、代表取締役の多田 修三氏に、オリックス 大阪事業法人営業第二部の樋上 義洋がお話を伺いました。
大手と同じ土俵では勝てない。巨額投資の失敗で得た教訓

──最初に御社の創業についてお聞かせください。
多田氏:1879年に創業者の多田 卯平が大阪でノコギリなどの大工道具を扱う問屋を開業したのが始まりです。創業者の生家である呉服屋の屋号「大和屋」の「大」を四角で囲んだマークを使い、「カクダイ」と称するようになりました。

戦後は、水道やトイレなど衛生インフラの普及に伴い、水道の配管部材の卸売りを始めました。当時は配管をノコギリで切っていたため、大工道具の商いと相性が良かったのです。
現在は、配管部材をはじめ水回り関連の器具・部材の製造・販売を展開し、近年は洗面空間のトータルプロデュース事業にも注力しています。
──現在の事業の転機となった出来事についてお聞かせください。
多田氏:水栓(蛇口)には、水だけを出す「単水栓」と、お湯と水を混ぜて温度調整しながら出す「混合栓」があります。水栓市場では、キッチンや浴室、洗面所などの住宅内部で使用される混合栓のニーズが圧倒的に大きく、単水栓は屋外の手洗い場や一部の業務用など用途が限られています。混合栓は住宅設備の標準仕様として大量生産がしやすく、機能を追加して付加価値をつけやすいことから、海外・国内メーカーは混合栓に資源を集中しています。しかし、当社はあえて単水栓に特化し、国内トップシェアを獲得しています。
この戦略へ転換したきっかけは、リーマンショック前後に起きた水栓の規格の規制緩和でした。
海外製品の流入や大手企業の参入が進み、競争が激化。大手メーカー製品の代替水栓や周辺部品の製造と販売を手掛けていた当社は、シェアの4割を失いました。
生き残りをかけて巨額の投資を行い、業界トップクラスの機能性を備えた混合栓を開発して勝負に挑みましたが、結果は厳しいものでした。このときに「大手と同じ土俵で勝負しない」と決め、海外メーカーや大手が積極的に参入しない単水栓の領域で、デザインや品ぞろえといった独自性を磨く戦略へかじを切りました。この経験と教訓が、現在の戦略の原点になっています。

「困ったときのカクダイ」へ。他社がやらないことから生まれる価値
──大手との競争を避け、単水栓に特化するという戦略に至ったのですね。そこからどのように独自のポジションを築いていったのでしょうか。

多田氏:当初は、海外の水栓メーカーのようにオシャレなデザインの開発を試みました。しかし、他社と競争せず独自性を出すことが生き残る最善の道だと考え、2011年に大阪ならではの「お笑い」をテーマにユニークな単水栓の開発に着手し、2012年に販売を開始しました。
代表例が、思わず「誰や!こんな蛇口つくったん!?」と言いたくなる水栓を集めた「Da Reya(ダ レヤ)」シリーズです。中でも注目を集めたのが、本体がぷっくりとふくらんだ蛇口「誰や!メタボにしたん?」です。ほかにも、おでんの具材をモチーフにした「O・DE・N」や、まぐろの握りをモチーフにした「まぐろ蛇口って言うてるヤツ、誰や?」など、遊び心のある製品を展開してきました。
ユニークなデザインがメディアにとりあげられたことで、会社の知名度や社員のモチベーションが向上しました。さらに、従来の鋳造技術だけでは製造できない製品を試行錯誤しながら開発したことで技術力が向上し、当社の強みとして蓄積されています。

── 一点ものの製品ですが、量産しにくいことはメーカーにとって痛手なのではないでしょうか。
当社は金型ではなく砂型で製造しています。金型製造は、金属型を繰り返し使用するため、量産には適していますが、少量生産では採算が合いにくい工法です。一方で砂型製造は、木型などの模型を砂に押し付けて成形する工法で、複雑な形状や大型品の鋳造にも対応できます。砂型は大量生産には不向きですが、小ロット多品種生産が可能で、意匠や細かな仕様の違いにも柔軟に応えられます。
この独自路線に進んだ結果、業績はリーマンショック後の2010年度に約180億円だった売り上げが右肩上がりに成長し、2024年度12月期には約270億円まで拡大しました。

──大手と戦わず独自性を打ち出す戦略は、他の事業ではどのように実践されているのでしょうか。
多田氏:実は、水栓は当社の売り上げの4分の1程度で、残りの4分の3は配管資材が占めています。
配管資材とは、排水管やシャワーホース、トイレの部品など、住宅や建物の水回りに使われるあらゆる部材を指します。大手メーカーのトイレや洗面台の修理、交換、部品供給などを中心としたストック型ビジネスを展開しています。

──事業の柱である配管資材の分野では、どのような戦略をとっていらっしゃるのでしょうか。
多田氏:水回りの工事では、現場ごとにメーカーも製造年も異なる多種多様な製品をつなぎ合わせる必要があります。そのため、求められる部材の種類は膨大です。
当社のカタログは900ページ以上あり、約1万点の商品ラインアップをそろえています。他社であれば在庫として抱えたくないような、数年に一度しか注文がない商品もありますが、だからこそ当社が作る。規格違い、サイズ違い、旧仕様対応などどんなに小さなニーズも徹底的にカバーすることで、配管資材の発注者である施工業者や設計者が困ったときに「カクダイならあるかもしれない」と頼りにしていただけるようになりました。
配管資材においても、大手と競わない当社にしかできない領域を見つけ、価値を最大化しています。

驚きと共感をもたらし、「いいね」が集まる会社にする

──独自性を支える人材育成やマネジメントは、どんな考え方で臨まれていますか。
多田氏:時代に逆行しますが、あえて「効率化」「標準化」をしないことです。効率を上げるためにシステム等への投資をすると、結果的に関連業務が増えるケースもあります。
仕事はおのずと属人化していきましたが、社員が「自分にしかできない」と感じる仕事が増えたことで定着率が向上しました。人が育ち、知見やノウハウが蓄積されたことで、水栓事業ではアイデアが生まれやすくなり、配管資材事業では需要がある部材をそろえられるようになりました。結果的に「他社がやらないこと」を続けられる力になっています。
──今後の事業展開はどのように考えていらっしゃいますか。
多田氏:水回りに限らず、住環境のあらゆるニーズを拾い上げ、形にしていきたいと考えています。
特に洗面空間のトータルプロデュースに注力していきます。単品の水栓やパーツにとどまらず、空間としての世界観まで含めて、デザインで多様化するニーズに応えていきたいですね。生活様式や個人の嗜好が多様化し、より細かく分かれていくニーズにデザインの力で応え、次の成長の柱につなげていきます。
──最後に、経営者としての目標を教えてください。
多田氏:当社は、売り上げや利益率で競争するつもりはありません。目指すのは、あくまで「唯一無二」の存在としてファンを作ることです。
事業である以上、価値に見合う対価はいただきますが、経営指標は取引先やユーザーの信頼や共感です。
そのために、これからもニッチな分野をとことん掘り下げ、当社にしかできない製品ラインアップを展開したいと考えています。「こんな製品もそろっているのか」と驚かれ、共感され、気づけば「いいね」が集まっている。数字だけでは測れない価値を積み上げていく会社にしていきたいですね。
<取材を終えて>
オリックス株式会社 大阪事業法人営業第二部 樋上 義洋

競うのではなく、自社が価値を発揮できる領域を見極め、そこに注力する。カクダイさまの強みは、ユニークな製品だけでなく、こうした一貫した経営判断にあると感じました。
独自性・面白さを追求する社内文化は、ステークホルダーの認知度や満足度を引き上げ、社員の皆さまのモチベーションや創造性につながっています。その空気感は、お会いした社員の皆さまの表情や雰囲気からも伝わってきました。
唯一無二の存在として支持され続ける同社のさらなる発展を、当社としてもよき伴走者として引き続きサポートしていきたいと考えています。

プロフィール(カクダイ提供)
多田 修三
株式会社カクダイ 代表取締役
1963年生まれ、山口大学経済学部卒業。株式会社カクダイに入社後、営業や商品開発などの業務経験を経て、2007年に代表取締役副社長に就任。オタク趣味を公言しており、マニアックな話に社員が置いていかれることもしばしば。しかし、オタ活で得た知識をマーケティングから商品開発まで多岐にわたり応用しており、趣味を仕事につなげるプロ。
企業概要※ 公開日時点
| 社名 | 株式会社カクダイ |
|---|---|
| 本社所在地 | 大阪府大阪市西区立売堀1丁目4番4号 |
| 創業 | 1879年1月 |
| 代表者名 | 代表取締役 多田 修三 |
| 従業員数 | 415名(2026年4月1日時点) |
| 事業概要 | 水道用品の製造・販売・輸出入 |
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