事業承継を経て次章へ。福井の老舗缶詰メーカーが品質第一で磨き上げた“至高の鯖缶”づくりとは

[取材先]福井缶詰株式会社(福井県)
本記事は2025年12月時点の情報を基に作成しています。

若狭は古くから奈良や京都の朝廷に海の幸を届けてきた、食文化の要地です。その地に工場を構える福井缶詰株式会社は、日本海側随一の水産缶詰工場として、鯖缶詰をはじめ、カニ、タラの子、オイルサーディンなど、素材の味を生かした製品を展開しています。1943年の創業以来、「中身が見えない缶詰だからこそ正直に」という考えのもと独自の価値を磨き続け、現在は販路拡大に向けて新たなステージに踏み出しています。

代表取締役会長の重田 軍治氏と代表取締役社長の重田 洋志氏に、ものづくりに懸ける信念と歩み、そして今後の成長に向けた考えについて、オリックス 福井支店の河野 拓郎が伺いました。

鯖不漁を機に鯖缶製造を中止、主力をカニ缶へ移す決断

代表取締役会長 重田 軍治氏

──まず、御社の事業と沿革について教えてください。

軍治氏:鯖、カニ、タラの子、オイルサーディンなどの缶詰を厳選した原材料を用い、独自の技術力で丹念に仕上げ、販売しています。売上の9割はOEMで、特にカニ缶は国内のほぼ全ての大手水産会社と取引があります。日本海側で、原材料の買い付けから製造までを一貫して手掛ける数少ない水産缶詰工場です。

厳選した食材の風味を生かした製品。お中元・お歳暮など、贈り物としても人気

1943年に軍需向けの缶詰工場として県内の缶詰工場7社が合同し福井県合同缶詰株式会社を設立。戦後に解散しましたが、1951年にもう一度缶詰を作ろうと私の祖父である北原 定治が工場を稼働させました。

私が入社した1967年頃は、若狭湾の鯖が豊漁で事業は鯖缶一色でした。その後、鯖の漁獲量減少を受け、1977年に鯖缶製造を中止し、カニ缶製造に舵を切りました。

──主力事業を切り替えるというのは、かなり大きな決断だったのでは。

軍治氏:判断基準は一貫して「納得できる原材料で作れるかどうか」ですから、迷いはありませんでした。国内の冷凍鯖を使うことも検討しましたが、若狭湾の脂ののった鯖で作る鯖缶のおいしさには、どうしてもおよびませんでした。

大手水産会社のOEMとしてカニ缶製造を開始し、その後ギフト需要を取り込んだ「カニ缶+のり」のギフトセットが大ヒット。最盛期には1日48000缶のカニ缶を製造し、製造後すぐに出荷されるほどの状況でした。

原材料の高騰や不足を背景に撤退する同業者もいましたが、当社が撤退を検討したことは一度もありません。決して楽観していたわけではなく、「続けることで勝つ」という信念を持ち続けていました。

中身に正直であれ。原材料と製法に宿る、福井缶詰の「他社に負けない缶詰」

──1991年に鯖缶製造を再開されています。どのような決意があったのでしょうか。

軍治氏:いつか必ず納得できる品質で鯖缶を復活させたいという思いが消えることはなく、再開を目指し続けていました。再開する以上は、大手がやらない、あるいはできない領域まで品質を徹底的に追求し、「他社に負けない」鯖缶を作りたいと考えました。

──「他社に負けない」鯖缶を実現するために定めた軸は何だったのでしょう。

社訓に掲げられている「正直・信用・和」。缶詰は中身が見えないから製造者は正直でなければならない、という思いが込められている

原材料の質を追求することです。鯖缶の出来は原料で決まります。鮮度や品質の悪い鯖を詰めて、良い製品になるはずがありません。納得のいく原材料を求めて調査を重ねた結果、ノルウェー産の鯖に行き着きました。漁業先進国であるノルウェーでは、網目を大きくして一定の大きさ以上の鯖のみ漁獲しています。また、毎年漁業枠を設定して資源保護に努めています。そして、漁場が近く、漁獲後すぐに冷凍処理を行うため、鮮度を保ったまま脂ののった均一な品質の鯖を調達することができるのです。

ただ、当時は工場がすでにカニ缶中心の設備になっていて、鯖缶のラインはなくなっていました。道具も十分ではなく、当初は近隣の水産高校から実習用の道具をお借りするなど決してたやすい再開ではありませんでした。それでも、完成した鯖缶のおいしさは、そうした苦労を上回るものでした。

地元を中心に販路拡大を模索する中、大手コンビニチェーンの店舗スタッフの方に関心をもっていただき、本社のバイヤーをご紹介いただきました。再開から1年足らずで販売商品として採用され、1990年代前半にはギフトカタログにも掲載されました。その後も取引は継続し、販売数量は着実に増えていきました。私自身、鯖缶がギフトとして使われたことには驚きでした。

──福井缶詰の鯖缶にはどのような特徴があるのでしょうか。

軍治氏:第一に、原材料です。9月から10月にノルウェーで水揚げされる、脂ののった大ぶりの鯖、1尾500g前後のものだけを使用しています。このサイズだと大手と同じような機械詰めが難しいため、一缶一缶丁寧に手作業で詰めています。鯖が大ぶりであることから、業界に先駆けて直径が大きなサイズのツナ2号缶を採用しました。現在では、大手メーカーでも同型の缶を採用する例が増えています。

第二に、においの原因を残さないことです。臭みの原因になる血合い(鯖の腎臓にあたる部位)は機械処理に頼らず、人の手で徹底して除去します。さらに、蒸煮(じょうしゃ)工程で一度蒸してアクを取り除いてから加工する当社独自の下処理を行うことで、生臭さを感じず、きれいに仕上がります。

第三に、鮮度を落とさないための温度管理です。鯖は完全に解凍せず、芯が凍ったまま半解凍の状態で下処理することで、鮮度を保ったまま製造に投入することができます。

最後に、出荷のタイミングです。製造後すぐに出荷するのではなく、缶の中で身と煮汁をなじませるため、半年程度寝かせてから出荷します。

こうした手間を惜しまない工程を重ねることで、身がふっくらと肉厚で、生臭みがなく、最後まで食感のよい鯖缶に仕上がります。ひと口目から「素材で勝負している」ことが伝わる味わいを目指しています。

──OEMだけでなく自社ブランドの構築にも挑戦されているそうですね。

マーメイド印は若狭小浜の人魚姫をシンボルにした福井缶詰のブランド

軍治氏:より付加価値のある缶詰作りに挑戦したいと考え、自社ブランドの立ち上げに至りました。自社ブランドの製品には「マーメイド印」を付けています。現在は鯖缶中心に、カニ缶、タラの子、オイルサーディンも取りそろえています。

自社ブランドの推進は、社長の重田 洋志に任せています。ただ、どのような製品でも「良い原材料を使い、必要な手間を省かない」という姿勢だけは変えないよう、しっかりと引き継いでいます。

OEMで会社を支え、自社ブランドで未来をつくる

代表取締役社長 重田 洋志氏

──2025年10月に代表取締役社長に就任されました。就任後、取り組んでいるテーマを教えてください。

洋志氏:自社製品の比率を高めることです。現在の自社製品比率は5%ほどですが、今後5年で15%まで引き上げ、マーメイド印、そして福井缶詰の認知度を高めていきたいと考えています。当社はOEMを中心に、安定した生産量と売上を確保してきましたが、自社製品の売上を伸ばすことで、中長期的に安定した収益構造の構築を目指しています。また、私は子どもの頃から当社の缶詰を食べてきましたが、そのおいしさはどこにも負けないと自負しています。その価値を、より多くの方に届けたいという思いもあります。

現在は楽天市場ヤフーショッピングにて自社ECを運営しており、東京の有楽町や南青山のアンテナショップ、高速サービスエリア等でもお取り扱いいただいています。こうした販売網を通じて、福井缶詰のファンを着実に増やしていきたいと考えています。

──自社製品の比率を引き上げるための取り組みはありますか。

「世界一の鯖缶」を目指して仕立てた、「復刻 鯖水煮缶詰」と「復刻 鯖味付缶詰(唐辛子入り)」。高級感のあるパッケージで、贈答用に最適

洋志氏:原材料と製法にこだわった“自分たちならでは”の商品開発を進めています。例えば、大手航空会社が冷凍せずに「生」の状態で空輸した高鮮度で旬のノルウェー産鯖を使用した新商品です。

小浜ではかつて鯖が豊富に獲れ、当時を知る方々は「脂がのっていて、本当においしかった」と口をそろえ言います。その記憶にある味わいを、現在の原材料調達と加工技術で缶詰として表現したいと考え、試作と改良を重ねてきました。ついに商品化を実現し、2026年2月に「復刻 鯖水煮缶詰」と「復刻 鯖味付缶詰(唐辛子入り)」の販売を開始しました。「世界一の鯖缶」を目指して開発したこの鯖缶は、口に入れた瞬間にほろりと崩れるやわらかさで、缶詰の概念を超える自信作です。

──次の事業の柱をつくっていく構想もあるのでしょうか。

洋志氏:新規事業も検討しています。当社の強みは、「ラウンド」と呼ばれる、頭や内臓が付いた一匹丸ごとの状態の魚を調達、加工できることです。各部位を持て余すことなく、最適な方法で調理することで、多様な製品を展開することができます。まずは既存ラインナップの延長線上で商品開発を進めていきます。

また、福井県で養殖したブランド魚「ふくいサーモン」のように、地産地消の商品の開発に取り組んでいます。

加えて、レトルトパウチにも対応も進めていきます。生活様式の変化に伴い、レトルトパウチの需要は拡大しています。昨年には補助金を活用して自動充填機を導入しました。今後は、鯖やカニといった当社の強みを生かし、業務用を中心に小容量で使いやすいパウチ商品の展開も検討しています。

会社の規模をむやみに大きくしたいわけではありません。大手ではないからこそ追求でき、受け継いでいける味があります。今後も丁寧で誠実なものづくりを続け、一人ひとりのお客さまに愛される商品を展開していきます。

<取材を終えて>
オリックス株式会社 福井支店 河野 拓郎

OEMと自社ブランドの両輪で、時代の変化に柔軟に対応しながら、誠実なものづくりに取り組む姿勢が印象的でした。実は、私の息子も魚が苦手でしたが、福井缶詰の鯖缶なら食べられるようになりました。老若男女問わず、多くの方に愛される商品だと感じています。気になった方は、ぜひ一度味わってみてください。

企業概要※ 公開日時点

社名 福井缶詰株式会社
本社所在地 福井県小浜市川崎1丁目1番地3
設立 1943年5月14日
代表者名 代表取締役社長 重田 洋志
事業概要 缶壜詰食料品の製造加工販売(かに缶詰、鯖缶詰、オイルサーディン、レトルト食品、その他水産食品全般の製造及び関連する事業)
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