
[監修]
株式会社マネネ CEO/経済アナリスト 森永 康平氏
本記事は2026年7月時点の情報を基に作成しています。
株価の上昇や相次ぐ賃上げがニュースをにぎわせ、日本経済は緩やかな回復基調にあるといわれる昨今。こうした明るい兆しが見られる一方、多くの中小企業は物価高によるコスト増に直面しており、人手不足も深刻な経営課題となっています。こうした環境のなか、収益の安定化と事業継続に寄与する「本業補完(本業を補う収益源づくり)」を模索する中小企業も増えています。これから企業が選ぶべき生存戦略とは、どのようなものなのでしょうか。日本経済の現状と今後の見通し、コスト増や人手不足に対応していくための戦略、そして本業を補完する収益源の可能性について、経済アナリストの森永 康平氏に聞きます。
目次
デフレ経済脱却の重大局面を迎えた日本。目指すべきは「ディマンドプル型インフレ」
――ここ数年、日本では物価や賃金が上昇し、長く続いたデフレ経済にも変化がみられています。一方で、物価高や円安の進行など、企業や家計を取り巻く環境も大きく変化しています。現在の日本経済の状況をどのように見ていますか。
森永氏:現在は、日本が本当にデフレ経済を脱却できるかどうか、重要な局面を迎えています。そもそも日本は1990年代後半から、物価が継続的に下落するデフレーション(デフレ)に陥り、経済が停滞していました。物価が上がらないため企業は利益を確保しにくく、賃金も伸びない。その結果、家計が消費を控え、物価がさらに上がりにくくなるという悪循環に陥っていました。しかし、この数年で物価が継続的に上がるインフレーション(インフレ)に転じ、デフレ脱却の兆しが見えてきました。「物価上昇で生活が苦しくなった」という声もありますが、日本経済全体で見れば、この変化自体は歓迎すべきです。ただ、現在のインフレは、いわば「悪いインフレ」と言うべき状態です。
森永氏:インフレには、2種類あります。ひとつは、需要の拡大が物価を押し上げる「需要牽引型(ディマンドプル型)インフレ」です。オークションで人気の商品であればあるほど値上がりするように、景気の拡大によって需要が増え、物価が上昇していく。いわば「良いインフレ」です。
もうひとつは、コストの上昇が物価を押し上げる「コストプッシュ型インフレ」です。現在の日本では、エネルギー価格の高騰や円安による輸入物価の上昇が、インフレの主な要因となっています。製造コストの上昇分が最終製品に価格転嫁され、物価が上昇しているのですが、販売価格が上がっても企業の収益率は改善しにくいため、「悪いインフレ」と呼ばれるわけです。今後、いかにディマンドプル型インフレの状態に持っていくのかが課題になっています。
――当面のインフレ抑制を目的に、日本銀行は2026年6月に政策金利を0.25%引き上げて1.0%としました。1995年以来、約31年ぶりの高水準です。物価への影響はあるでしょうか。
森永氏:経済学の教科書には「物価を抑制するためには金利を上げなさい」と書かれています。金利が上がると借入負担が増え、個人は住宅購入を、企業は設備投資を控えるため、需要が冷え込みます。ただし、これはディマンドプル型インフレの場合です。前述の通り、現在はコストプッシュ型インフレであり、需要と物価高の相関関係が弱いため、金利上昇によるインフレ抑制効果は限定的だと考えられます。
――金利の上昇には、円安の抑止効果も期待されています。
森永氏:これも教科書的には正しく、「金利が上昇することで円資産の利回りが魅力的になり、為替で円を買う動きにつながりやすい」とされています。しかし実際には、ここ2年ほど日銀が段階的に利上げしてきたにも関わらず、円安は止まっていません。
為替は、各国の金利差などを反映して動きます。米国の政策金利は3.50~3.75%で、日本の1.0%を依然として上回っています(2026年7月時点)。しかも、インフレ動向によっては、今後の利上げの可能性も意識されています。すると投資家たちは、「円売り・ドル買い」に動きやすくなります。高金利通貨のほうが、預金や債券からより多くの利息収入を見込めるからです。日本がいくら利上げしても、日米の金利差が大きい状態が続く限り、円安圧力は残りやすいでしょう。
中小企業は「人に依存しない」経営を志向すべき

――インフレと円安が続くなか、個人だけでなく中小企業の経営も苦しい状況が続きそうですね。
森永氏:私は講演などで全国を回る機会が多く、各地の中小企業経営者と意見交換をしていますが、どの業種の経営者も、異口同音に「厳しい状況です」とおっしゃいます。
中小企業、特に下請けの立場にある企業は価格交渉力が弱く、原材料費や人件費の上昇分を販売価格に転嫁しにくいのが実情です。一方、大企業は価格転嫁力が強く、利益を確保できている企業も少なくありません。賃上げによって人材を確保しやすくなり、中小企業との格差が広がっている印象です。この数年で、大企業と中小企業の格差はさらに拡大しているといえますね。
――中小企業は景気回復の波及効果を受けるまで、耐えるしかないのでしょうか。
森永氏:人手を確保するために無理に賃上げしても、その負担を価格に転嫁できず、2~3年で経営が行き詰まるケースも見られます。そのため、講演では「人に依存しない経営を目指そう」と話しています。いわゆるデジタル化やAI活用ができる業種であれば、その方面に先行投資したほうが良いでしょう。
フィジカルAIについては、すでに建設分野などで導入に向けた検討や実証が進んでいます。将来的には、建設、飲食、介護など、人手不足が深刻な現場で、人の作業を補完する可能性がありますが、現実的に中小企業がこうしたテクノロジーを導入できるようになるのは、まだ先の話です。それまで経営を維持するためにも、やはり積極的に対策を講じていく必要があると思います。
中小企業の生存戦略としての本業補完

――では、中小企業の生き残りに有効な手だてとは、どのようなものでしょうか。
森永氏:変化の早い時代ですから、主力事業だけに頼った「一本足打法の経営」はリスクが大きいと考えています。経営環境が急変するなか、主力事業だけに依存すると、需要の変化によって業績が急速に悪化する恐れがあります。安定した経営を実現するためには、収入源の多様化が重要です。
ただし、新規事業には人材や資金が必要で、成功も保証されません。過度な投資は本業を圧迫する恐れもあります。そこで考えられるのが、本業とは異なる収益源を持つことです。人手を大きく割かず、既存の経営資源を過度に圧迫せずに取り組める選択肢もあります。その一つが、不動産投資です。実際、本業の収益が低迷するなか、不動産収入が業績を支えている大手メディア企業もあります。
――現在は不動産投資を始めるには良いタイミングでしょうか?
森永氏:今後、インフレが長期的に続くとしたら、選択肢の一つとして検討してもよいと思います。まず押さえておきたいのは、インフレが続くと現金の購買力が低下することです。ここ3年ほどの国の統計を見ると、毎年3%前後、物価が上昇しています。物価が毎年3%上昇すると、現金の購買力は前年の約97.1%に低下します。もし、いま現金1000万円を持っているなら、購買力は10年後に約744万円分、30年後には約412万円分まで低下します。つまり、「いまの感覚では約400万円強の買い物しかできない」ということになります。
――言い方を変えると、税金や手数料などを考慮しなければ、年3%程度で運用して、ようやく現在の購買力を維持できるということですね。
森永氏:その通りです。また、資産運用であれば、株式投資も考えられます。例えばS&P 500は、配当再投資を含むドル建てで、長期的に年率10%前後のリターンを記録した期間があります。ただし、これは過去の実績であり、将来の運用成果を保証するものではありません。もしリーマン・ショック級の局面が再び訪れたら、株価が半値近くまで下落することも考えられます。
株式などとの分散を目的に、金へ投資する方法もありますが、金には配当や利息がなく、収益は主に売却益に限られます。
最小限のリソースで始められる「不動産投資」の可能性

――本業補完として不動産投資を行う場合、どのようなメリットが考えられますか。
森永氏:不動産には、入居者から支払われる賃料などの定期収入(インカムゲイン)と、買値よりも高く売ったときの売却益(キャピタルゲイン)の2つの収益機会があります。本業とは異なる収益源を持つことで、事業環境の変化に対する耐性を高めることも期待できます。
また、インフレ局面では、物価や賃料の上昇に伴って不動産価格が上昇する可能性もあり、インフレによる資産価値の目減りへの備えとなることも期待できます。
インフレに移行した今、本業を補完する“第二の矢”の一つとして、不動産投資は検討する価値のある選択肢でしょう。
――不動産投資における成功のポイントがあれば教えてください。
森永氏:最も重要なのは、物件の質です。賃貸であれば、空室リスクの少ない優良物件を手に入れることです。物件の選定や情報収集には、専門家の力を借りることが重要です。
今は多くの企業が不動産投資サービスを提供しています。まずは、信頼できるパートナーを見つけることです。もちろんパートナーに対するコストは発生しますし、たとえプロに任せたとしても、リスクをゼロにすることは不可能です。物件や資金計画を慎重に選ぶ必要がありますが、長期的な賃料収入を期待できる点は、不動産投資のメリットと言えるのではないでしょうか。
――最後に、中小企業の経営者の皆さんへメッセージをお願いします。
森永氏:「日本は中小企業が多すぎる。市場競争に任せて淘汰(とうた)されるべきだ」という議論もあります。一理ありますが、わずかな支援で立ち直れる企業も少なくありません。なかには、世界に通用する独自技術を持つ企業もあります。こうした価値ある企業が存続できる社会であってほしいと思います。
変化が早く、企業経営が難しい時代ですが、本業だけに頼るのではなく、本業を支える強い「添え木」を作ることも重要です。それが、優良な事業を次世代につないでいくための第一歩になるかもしれません。私も経済アナリストとして、全国の中小企業経営者を支えていきたいと思います。
- 本記事は投資を勧誘・推奨するものではありません。投資には元本割れを含むリスクがあり、最終的な判断はご自身の責任で行ってください。

森永 康平(もりなが・こうへい)
証券会社、運用会社にてアナリストとして株式市場や経済のリサーチ業務に従事。その後、業務範囲は海外に広がり、インドネシア、台湾などアジア各国にて新規事業の立ち上げや法人設立を経験し、事業責任者やCEOを歴任。2018年6月、金融教育ベンチャーのマネネを創業。経済アナリストとして講演やメディア出演も行っている。著書は『スタグフレーションの時代』(宝島社新書)や父・森永 卓郎との共著『親子ゼニ問答』(角川新書)など多数。
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