事業のタネは現場に落ちていた。落とし物の返却率3倍を実現したスタートアップfindの発想転換に迫る

[取材先]株式会社find(東京都)
本記事は2026年2月時点の情報を基に作成しています。

駅や商業施設には、財布やスマートフォン、傘など、日々多くの落とし物が届けられます。警察庁の調べによると、2024年中に全国で届出のあった落とし物は約3128万点と年々増加傾向にあります。※1
日本は落とし物が持ち主に戻りやすい国といわれていますが、その背景には、遺失物の登録、保管、問い合わせ対応といった、現場担当者の多大な尽力があります。

こうした膨大な業務をAIで効率化し、落とし物が見つかりやすい社会の実現を目指して生まれたのが「落とし物クラウド find」です。2026年2月現在、大手鉄道会社など全国40社、3500拠点以上に導入されるなど、急速にサービスネットワークを広げています。

このサービスを開発、提供する株式会社find代表取締役CEOの高島 彬氏と、同社への出資を担当したオリックスの 法人営業本部 国内事業推進部 宋 善喜、石内 涼雅が、起業と出資の経緯や今後の展望を語り合いました。

  1. 国家公安委員会/警察庁『令和7年版 警察白書』第2章第3節 地域住民の安全安心確保のための取組(93ページ)

落とし物×AIクラウドで、現場のアナログ業務が激変

株式会社find 代表取締役CEO 高島 彬氏

──はじめに、「落とし物クラウド find」はどのようなサービスなのでしょうか。

高島氏:AI技術を活用し、落とし物の検索、管理、返却までを一気通貫で実現するプラットフォームです。落とし主と、それを預かる企業・施設の双方にメリットがありますが、まずは企業・施設側の利点からご説明します。

鉄道会社や商業施設では、1日に数百件から数千件の落とし物が届けられます。これまでは担当者が一つひとつを手作業で登録し、紙やExcelで管理しながら電話で問い合わせ対応を行っていました。

findでは、登録から問い合わせ対応、照合、保管、引き渡しといった一連の業務を生成AIで抜本的に効率化します。担当者がスマートフォンで落とし物の写真を撮るだけで、特徴、カテゴリー、場所、時間などが自動で登録され、データベース上で管理されます。これにより入力の手間と時間を大幅に削減できます。1件あたり約10分かかっていた登録作業は約2分に短縮され、問い合わせ対応も当社が代行するため、現場の負担は約8割削減されています。※2

──入力の手間が大幅に削減されるのですね。では、落とし主にとってのメリットは何でしょうか。

高島氏:落とし主は、24時間対応の専用チャットから問い合わせが可能です。自社オペレーターがデータベースに搭載されたAIを活用し、画像や場所の情報を横断的に検索することで、該当候補を素早く特定します。これまでのように立ち寄った先ごとに問い合わせる必要がなくなり、効率的に落とし物を見つけることができます。

この仕組みによって、従来は返還が難しかった無記名の傘や手袋なども持ち主の元へ戻りやすくなり、返還率は約10%から、平均30〜40%へと大きく改善しました。※2

──どのような場所で導入が進んでいるのでしょうか。

高島氏:交通機関や商業施設、警察などを中心に、2026年1月末時点で全国40社、3500拠点以上に導入されています。2023年にサービスを開始して以来、累計登録件数は約390万件、返却件数は120万件にのぼります。特に鉄道での利用から始まり、バス、タクシー、空港などにも広がりを見せています。

  1. find調べ

自身が経験した社会の“不便”をビジネスのタネに

──高島さんは起業されるまで、オリックスで勤務されていましたが、どのような経緯で起業に至ったのでしょうか。

高島氏:オリックスで協業していたスタートアップの急成長を目の当たりにし、起業のダイナミズムに魅了されたことが原体験です。「志を持って行動すれば、世の中を変えられる」と気づき、いつか自分も挑戦したいと考えるようになりました。

findのサービスを着想したのは、私自身が落とし物をして困った経験からです。立ち寄った先に電話をかけ続けるのが本当に大変で、対応する方にも申し訳なく感じました。幸い、親切な方が警察に届けてくれて手元に戻ってきたのですが、この体験から「これはテクノロジーで解決すべき課題だ」と確信しました。

──サービスは、どのように具現化されたのでしょうか。

高島氏:当初は落とし主と拾い主をつなぐCtoCサービスを想定していましたが、京王電鉄やJR九州の忘れ物預かり所で実務を体験したことで、大きく方向転換しました。

現場では、落とし物として届けられたお弁当箱を洗ったり、汚れた体操服を洗濯したりと、想像以上に丁寧な対応が行われていました。その姿に感銘を受けると同時に、この業務プロセスこそテクノロジーで改善すべきだと考え、BtoBモデルへ一気にかじを切りました。

まず、現場の業務を徹底的に分析し、システム化すべき領域と人が担うべき領域を切り分けました。例えば情報管理では、従来のテキスト中心の記録では主観が入りやすく、特徴を正確に捉えきれないという課題がありました。そこで、AIによる画像検索機能を試験導入したところ、返還率が約3倍に向上しました。この成果が、正式導入の決め手となりました。

「オセロの四隅」を押さえ、導入件数が急拡大

──その後、どのように導入が広がったのでしょうか。

一つ導入事例ができると、業界内のネットワークを通じて口コミが広がり、他社にも関心を持っていただけるようになりました。導入件数が増えるほどインフラとしての価値も向上し、指数関数的に導入が増えていきました。

導入企業さまからは「findなしでは業務が回らない」「落とし主からの感謝の声が非常に増えた」といった評価をいただいています。

──鉄道会社以外への展開はいかがでしょうか。

高島氏:百貨店、空港、スタジアムなど各業界のリーディングカンパニーへの導入を起点に効率的にシェアを獲得しています。サービスの利便性と信頼性を高く評価いただければ、業界内での横展開が進みます。

実際に導入企業の約6割が紹介によるものです。この事業拡大の戦略はオリックスで学んだ「オセロの四隅」を押さえるという考え方に基づいています。オリックスの法人営業での経験が今も生きていると感じます。

──findが評価されたのはどのような点だと考えていますか。

高島氏:私たちは、落とし主はもちろん、それを預かる企業・施設の皆さま、双方の視点に深く没入し、実証実験などを通じて現場のナレッジを蓄積しながらサービスを磨き上げてきました。誰もが使いやすいサービスであることを重視し、自社システムにこだわらず、LINEで問い合わせを可能にするなど、最良の体験を追求しています。この「徹底した現場起点・ユーザビリティ」の発想こそが、findが評価されている最大の理由だと考えています。

物流や海外へ事業を拡大し、当たり前に使われる未来を見据えて

──2025年、オリックスはfindと資本業務提携を結びました。オリックスから見て、今回の出資の決め手は何だったのでしょうか。

オリックス株式会社 法人営業本部 国内事業推進部 エクイティソリューション第二チームマネジャー 宋 善喜

宋(オリックス):スタートアップへの出資では、特に2つの点を重視しています。一つは「社会に求められているか」という成長の蓋然(がいぜん)性。もう一つは「誰がその事業を率いているか」という経営者の資質です。

findは、創業から短期間で各業界の大手企業に導入され、社会インフラになり得る急成長を遂げています。また、世の中にないサービスの開発に踏み出した高島氏の挑戦に強く共感し、出資に至りました。

オリックス株式会社 法人営業本部 国内事業推進部 エクイティソリューション第三チーム 石内 涼雅

石内(オリックス):高島さんたちが現場に入り込み、顧客と共にサービスを作り上げたことで、真のニーズを反映し、高い満足度を実現している点も魅力です。今後は、廃棄される落とし物を再活用するリユース事業や、物流事業といった新たな展開にも期待しています。

宋(オリックス):こうした事業の拡張性も重要です。findは、日本とカルチャーの近い台湾や韓国など、海外にも通用するビジネスモデルになる可能性を感じています。

高島氏:落とし物管理で得たノウハウを生かした新規事業や海外への展開は、これから取り組んでいきたい領域です。2025年6月には、訪日外国人観光客の増加に伴い、専用チャットツール「find chat」の海外対応を開始し、国内ではありますが海外の方の利用も増えています。また、同年9月には保管期限を過ぎた落とし物を再販する「findリユース」を開始しました。新規事業や市場拡大に向けた挑戦において、オリックスグループが持つ国内外の広範なネットワークは非常に心強いと感じています。

──最後に、今後のfindが目指すビジョンについてお聞かせください。

高島氏:「落とし物が返ってくる」という日本が誇る文化を、テクノロジーの力で支え、進化させていきたいです。パートナー企業の皆さまと共に、findが当たり前に使われる社会を実現すること。そして、落とし主から届く「ありがとう」の声を原動力に、誰もが安心して暮らせる世界を目指していきます。

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